事業者ならもれなく遵守
副業・起業などの働き方の多様化に伴い誰でも事業をはじめやすくなっている。ただしフリーランスで働く個人事業主でも、商法や民法に関する知識が必要となることには注意したい。このような時代だからこそ、商法は事業を行う者全体が遵守しなければならない法律であることを再認識し理解を深めておきたい。
近年商法のみならず民法や会社法、労働関連法などさまざまな法律が改正され事業そのもののあり方が大きく変化している。企業の経営者や法務担当者は、常日ごろから法改正にアンテナを張りめぐらし、適正に対応していくことが必要だろう。民法や商法、会社法のほか税法や労働法などカバーしなければならない法律の範囲は広い。
時には、専門家に相談し情報収集を怠らないようにすることが大切だ。
商法に関するQ&A
Q.商法とはなにか?
A. 商法とは、商人の営業や商行為、その他商事について定めた法律である。「商行為」とは、利益を得ることを目的に反復継続的に取引する行為であり企業(法人)であるか個人であるかは問わない。商法は、以下の3編で構成されている。
- 商法に関する一般規定についての「総則」
- 商業に関する行為についての規則を定めた「商行為」
- 海上船舶を使用する商業に関する規則および海商にまつわる特別の諸規則を盛り込んだ「海商」
なお取引および契約について定める法律には、民法もある。しかし民法が念頭に置いている取引は、広範囲かつ一般的な売買や貸借などの取引であり、必ずしも利潤追求のための取引だけではない。つまり利潤を追求する取引である商人の営業、商行為その他商事は、他の法律に特別の定めがあるものを除き商法の規定を受けることになる。
商法に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは民法の定めを受けるようになる。
Q.商法と会社法の違いは?
A.商法は、1899年(明治32年)に制定された法律である。当時は、現在の「総則」「商行為」「海商」の3編のほかに会社に関する規定も盛り込まれていた。この会社に関する規定部分を切り離して独立させ「有限会社法」「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」と統合再編成し、2005年に制定されたのが「会社法」である。
会社法は、商法にあった会社に関する規定がもとになっており、商行為についてのルールを定めた法律だ。商法が企業(法人)であるか個人であるかを問わず商行為を行うものすべてに適用されるのに対し、会社法では会社のみに適用されるのが大きな違いである。なお会社法では、以下のような会社の実務的なルールが定められている。
- 会社の設立
- 組織と運営・管理
- 株主と株式の関係
- 組織再編
- 会社の解散・清算 など
Q.商法はなんのためにある?
A. 商法は、民法と並んで重要な私法の一つであるが、民法が社会生活および経済生活一般を広く規律する法律であるのに対し、商法は商人の営業や商行為、その他商事について定めた法律である。社会生活および経済生活、そして商事においても取引や契約が行われるが、当事者の利益保護のためにも権利・義務や責任などを調整することが必要だ。
それらの調整を図る目的でルールを定めたのが民法および商法である。ただ商行為は、利益を得ることを目的に取引を職業的に繰り返すことであり、必ずしも利益を得ることを目的とした取引だけではない民法の規定だけでは不十分なことも少なくない。そのため通常の取引活動に営利性、反復継続性、画一性などの特徴を加えた商取引をカバーする商法が必要である。
Q.商法廃止はいつ?
A. 商法は、1899年(明治32年)に制定されて以来、120年以上経った現在も適用されている法律である。しかし何度か改正されており、なかでも大きく改正されたのが2005年に行われた商法第二編「会社」の削除だ。現行の商法は「商法総則」「商行為」「海商」の3編で構成されているが、設立当時は第二編として「会社」に関する規定が含まれていた。
削除の理由は「会社法」の制定だ。それまであった商法の「会社」に関する規定は商法から切り離され、「有限会社法」「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」と統合されて「会社法」という法律として独立。なお直近の改正としては2019年に商法のなかの「運送」「海商」に関する規定の一部が見直しされた。
これら「運送」「海商」に関する部分は商法制定以来、実質的な見直しがほとんどされていなかったが、社会経済情勢の変化に応じて約120年ぶりに改正された。当時は、運送といえば陸上・海上運送のみで航空運送、複合運送(陸上・海上・航空を組み合わせた運送)は存在していなかったが、現在の状況に合わせて法の規定の範囲が広げられた。