次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社レアジョブ代表取締役社長の中村岳氏。オンライン英会話の市場を切り拓いた同社は、今後どこを目指すのか。EdTech分野の潮流と展望を含めて、成長戦略を伺った。

(取材・執筆・構成=落合真彩)

株式会社レアジョブ
(画像=株式会社レアジョブ)
中村 岳(なかむら・がく)
株式会社レアジョブ代表取締役社長
1980年生まれ、東京都出身。東京大学・大学院を卒業後、NTTドコモに入社。次世代通信の研究を行う。
エンジニアとして働くなか、個人と個人ををつなぐ新しいビジネスの立ち上げを考案。中高の同級生とともに、2007年にレアジョブを共同創業し、オンライン英会話事業を立ち上げる。2015年、代表取締役社長に就任。2014年東証マザーズ上場、2020年に東証一部上場。
「グローバルに人々が活躍する基盤を作る」ビジョンに向け、国内英語関連事業以外にも幅を広げる。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

オンライン英会話業界をけん引してきた「レアジョブ」の変遷

株式会社レアジョブ

冨田:レアジョブと言えば、我々の世代では知らない人がいないくらい、ITサービスの先端を走っていった企業だと思っているので、今回対談させていただけることをうれしく思います。創業から注目され、上場されたり三井物産さんとの提携をされたり、いろいろな変遷を経ていると思いますが、まずそこの部分からお伺いできると幸いです。

中村:ありがとうございます。当社は2007年創業で、BtoC向けのサービスでスタートしました。解決したい課題として考えていたのは、「英語を気軽に話せる場が少ないこと」。当時、ちょうどスカイプができたころでしたので、インターネットの力で海外講師の英会話レッスンを行うことができるのではないか。中でも、フィリピン人には英語を話せて教えられる人たちが多かったので、安価で英語を話したり聞いたりする機会を多くつくれるのではないかと考えてスタートしました。

最初は受講者と講師をマッチングさせていくイメージで、弊社が間に入って講師をトレーニングしたり、パッケージで毎日使えるようにしたりして、教材も徐々に追加しながら拡大させてきました。

BtoCが広がってくると、企業の人事の方から、研修や福利厚生のメニューとして使えないかという声が上がってくるようになりました。そこで2010年頃から法人事業を本格的にスタートしました。14年に上場し、15年には法人向けを伸ばしていくにあたって三井物産さんと資本業務提携をしました。

次に、学校の中でオンライン英会話を導入してほしいという声も上がってきました。そこで小中高向けのサービスを立ち上げ、さらには子ども向けサービスもM&Aを活用してスタートしました。その後、通信教育や塾・学校向け教材に強みを持つZ会さんとも業務提携を行っています。

また、オンライン英会話のみならず、「PROGOS」というスピーキングテストも開発してきました。もともと法人向けに提供していたテストを、より精度を高め、さらにAIを活用したものとなります。これまでは大人向けの英語テストといえばTOEICだったと思いますが、「スピーキングテストといえばPROGOS」といわれるようにしていきたいと考え、全力で広めているところです。

冨田:中期の成長戦略として、「アセスメントデータプラットフォームの構築」を挙げられています。これはPROGOSがデータのメイン収集元になるということでしょうか。

中村:はい。これまで手作業で採点していたものを機械学習にかけ、PROGOSでは採点を自動化することができました。これからさらに精度の高いデータをたくさん集められると思います。点数によって海外赴任するのに十分なレベルかどうかがわかるため、企業の中で利用していただけることは増えてくると思います。

これまでTOEICの点数を要件として取り入れていた企業が多かったと思いますが、人事の方からは「TOEICが800点あっても実際は全然話せない」という声も挙がっていました。今後PROGOSをスピーキング力測定のスタンダードにしていきたいと考えています。

冨田:私は前職時代、TOEIC375点から「海外留学するんだ」と言いながら英語の勉強をしだしたのですが、やはり海外で働くという観点では、スピーキングができないと何もならないことを痛感しました。当時からスピーキングテストはありましたが、本当のスピーキングレベルを測るには足りないというのが現場の声であり、そこにアプローチしていることがレアジョブさんの価値だなと思いました。

テストを制する者は教育を制す

株式会社レアジョブ

冨田:アセスメントデータが個人、学校、法人とPROGOSによって収集できると、スピーキング以外にも拡張性がありそうだと感じます。例えばセールススキルやプレゼンテーションスキルといった、スピーキングの先の発展などについてお考えがあればお聞かせください。

中村:今おっしゃったようにその先にある、さまざまなビジネススキルの測定データも埋めていきたいと思っています。リーダーシップや異文化理解から、ファシリテーション、プレゼンテーション、ネゴシエーションまで、さまざまなスキルについても測定や研修を通してスキルアップする。それによって個々人のあらゆるチャンスが増えていくだろうと考えています。

冨田:中村社長が考える自社の競争優位性はどこにあるとお考えでしょうか。

中村:基本的には、「テストを制する者が教育を制す」と考えています。例えば小中高生の英語であれば英検がダントツでテストとして強く、その周りにさまざまな講習や書籍という産業が成り立っています。大人の場合だとTOEICです。英語に限らず、高校受験や大学受験もそうですよね。

テストを中心に産業が回っているので、まずはこのアセスメント領域をしっかり押さえることを重視しています。PROGOSを広めて、スタンダードになることができれば、その周辺のビジネスが成り立つ。中長期目線で見て、アセスメントを制することが最も強い優位性になっていくと考えています。

株式会社レアジョブ

冨田:ありがとうございます。よく「バランスシートに見えない無形資産やコアコンピタンス」と言ったりしますが、他に他社がまねできない仕組みとして感じているところはありますか。

中村:オンライン英会話やいわゆるEdTech分野にはいろいろな企業が参入してきています。その中で、ITが強い企業さんはWebマーケティングやアプリのつくり方がうまいので集客やマッチングはできるんですね。ただ、肝心のコンテンツ部分がおざなりになってしまって、教材や教え方に関して、本当に成果が出るものになるかと言うと少し弱い。そのため学習の継続性を高めるのが難しいところがあります。

一方で、もともと通学型の英会話教室を運営してきた事業者さんがオンライン英会話をやろうとすると、コンテンツはしっかりしているものの、逆にWebマーケティングやWeb開発が弱く、スケールさせることが難しい。

開発を含めたITの力と、営業・マーケティング力、そして教育コンテンツ。この3点をバランスよく持っている企業は、実はあまりありません。弊社は3点に関して、採用を強化してプロフェッショナルを集めてきたので、バランスよく強くなっています。ここが、バランスシートに表れない強みになっていると考えます。おそらく競合他社とは、各部門の人数バランスや比重のかけ方が違うのではないかと思っています。

冨田:経営として違う筋肉を使う領域を組み合わせること自体が競争優位になっているということですね。確かに、今からぱっと始めてできることではないと感じます。

自動翻訳技術の発達はオンライン英会話にとって脅威となるか?

株式会社レアジョブ

冨田:昨今、海外との行き来がしにくくなる一方で、オンラインでのコミュニケーション回数が増えています。逆にオンライン化された今のほうがグローバルとのコミュニケーションが増えていくというトレンドが1つあると思います。ただもう一方で、リアルタイム翻訳の技術が発達していく時代は、「オンライン英会話」にとってチャンスであると同時にピンチでもあると考えられます。この辺りの社長のお考えを伺えますでしょうか。

中村:まず1点目ですが、もともと英語がある程度できた人については、確かにコロナによってオンライン会議は増えています。そのため、リアルで会うよりも一段高度な英語力が求められるようになってきていると感じています。一方で、これまであまり英語を使って仕事をしていなかった人は、海外に行く機会が減った分、英語に触れる機会は減っています。このような二極化が進んでいる感覚があります。

2点目の翻訳技術の発達に関しては、それがあったとしても、まだまだ英語で直接コミュニケーションをする機会は求められると考えています。むしろ必要なのは、そういったツールをうまく使っていくこと。オンライン会議をするときに、聞き取れない発音のところを音声解析で出してくれるようにするとすごくわかりやすくなって、スムーズなコミュニケーションが可能になります。

もう1つは、実際に通訳をつけてミーティングをしていると、やはり心と心の距離が遠いんですよね。そうなると、その先の仕事につながりにくい感覚はどうしてもあります。正確なことがなかなか言えなかったとしても、お互い共通の言葉で会話することによって、距離は縮まり、ビジネスとしてうまくいく可能性は高くなると思っています。ですからやはりしっかり会話できるようにしていくことは有効な手段であると考えています。

冨田:自動翻訳などを補助ツールとして使うことで、グローバルコミュニケーションの垣根が低くなって機会が増える。そのことによってもっと直接会話してみたいという興味につながっていきそうですね。海外旅行に行ったときに、単語を言っただけでも伝わるとうれしいと思う感覚と同じで。

中村:間違いなくそれはあると思います。補助ツールを使っていても、自分の言葉で伝わったという喜びは大きいですので。

強いアセスメントプラットフォームによって、人々の活躍の基盤をつくる

株式会社レアジョブ

冨田:ありがとうございます。最後にここから描いている未来構想をお話しいただけますか。

中村:我々のビジョンは「Chances for everyone, everywhere.」そして「グローバルに人々が活躍する基盤を作る」です。その実現にあたって、英語のスピーキングからスタートしたわけですが、ここから先は英語のみならず必要な各種スキルも提供していきたいと考えております。

そこでまず、先ほどお話したようにPROGOSでアセスメントデータのプラットフォームをつくりつつ、他のさまざまなアセスメントも乗せていきます。そして、それらのデータをコンテンツにフィードバックし、よりよいものを提供していきたいと思います。

また小中高向けには、将来グローバルに活躍できるようなマインドセットを養うために、ALTの派遣に加えて自宅でのレッスンを提供するなど、学校の内側と外側の両方で英語に触れていく機会をどんどんつくっていきたいです。幼少期から学校期、そして大人まで幅広くスキルを伸ばし、成果が出るようなサービスを伸ばしていきたいと考えています。

冨田:ありがとうございます。考えてみると、社員に対して語学スキルをアップする機会を提供したいというスタンスの会社さんは、語学以外のスキルアップに関しても積極的だと思います。個人でも同様で、語学スキルの習得に積極的な人は、総じて学ぶ意欲が高く、学びへの投資に積極的です。そう考えていくと、今後の横展開はしやすい可能性があるなと、今のお話を聞いて思いました。

中村:そうですね。実際に学びへの意欲がある人は他のスキルも学んでいこうという人が非常に多いと感じていますので、そういった方向性を我々としても模索していきたいなと思っております。

冨田:非常にワクワクするお話をありがとうございました。

プロフィール

氏名
中村 岳(なかむら・がく)
会社名
株式会社レアジョブ
役職
代表取締役社長
ブランド名
レアジョブ英会話、PROGOS
出身校
東京大学、東京大学院 情報理工学系研究科