次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社ソフト99コーポレーション代表取締役社長の田中秀明氏。カーワックスから始まった事業の広がりと展望、同社のスタンスについて伺った。

(取材・執筆・構成=落合真彩)

株式会社ソフト99コーポレーション
(画像=株式会社ソフト99コーポレーション)
田中 秀明(たなか・ひであき)
株式会社ソフト99コーポレーション代表取締役社長
大学卒業後、外資系のトイレタリー企業を経て、1996年ソフト99コーポレーションへ入社。 営業サポート部門、商品開発部門を経て2008年に取締役経営企画室長、2013年に代表取締役となり、現在に至る。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

カー用品で足元を固め、潮流の変化に備える

株式会社ソフト99コーポレーション

冨田:御社は創業から、商品ラインナップがどんどん拡大している印象を受けます。どのような軸で広げられてきたのでしょうか。

田中:当社はもともとカー用品、特にカーワックスの事業で創業した会社です。ただ、カー用品自体は30~35年ほど前には、市場が頭打ちになっていたので、2000年以降はM&Aを多用しながら事業を拡大してきました。それもあって「事業が多岐にわたっている」と言われることは多いのですが、我々としては「多岐にわたる」という感覚で広げているわけではありません。

冨田:というと、どういうことでしょうか。

田中:例えば、一般消費財としてのカー用品から業務用のカー用品に展開したり、カー用品の技術やノウハウを他の家庭用製品に応用したり、つながりのある拡張をしています。その考え方を軸として、車以外の領域で何ができるのかを常に考えていますし、車自体も今、EV車や自動運転などで大きく変わろうとしている中で、どういったビジネスチャンスがあるかを見い出していこうと考えています。

冨田:車に対する考え方が一家に1台、地方ですと1人1台の保有だったところから、他の交通網が発達している都市部ではだんだんと保有からシェアへと変わっていく中で、車の使われ方や役割が変わってきています。このような世の中の変遷と連動して事業展開をされてきたような形ですか。

田中:もしコロナがなければという前提で考えると、車は個人の所有物から社会のインフラに変わっていく流れにあったと思います。EV車や自動運転技術の発達もそれを後押しして、自分が乗りたいときにスマートフォンで空の車を呼んで、自動で目的地に行ってくれて、その後はまた他のお客さんを拾いに行くというような時代が来ると。我々がこれまで売ってきたのは、車を保有して自分の車として大切にするためのツールが多いですから、事業環境の変化にどう対応していくか、シビアに考えていました。

ただコロナによって、公共物としての車は衛生上の問題から敬遠されがちになっています。また、都市部から郊外に人が居住地を変えていく傾向も出てきた。その中で車の保有というものが改めて捉え直されていると思います。それであれば、我々の強みである従来の事業を通してしっかりと足元を固めるということがまず1つあります。ただそれでも将来的に潮流は変わっていくと思いますので、そこへの対応を考えている段階です。

冨田:ありがとうございます。車の変化に合わせて事業領域や製品を変えていった具体例を示していただけると、わかりやすいと思うのですがいかがでしょうか。

田中:車を保有しない時代になれば、自分で自分の車を洗うという習慣はなくなりますが、業務用などで車を綺麗にするサービスは残っていくと思います。そこに貢献できる製品や、綺麗にする技術を、車以外のものを綺麗にすることに応用していく。こういったことを大切にできればと考えています。

技術・チャネル・新カテゴリーの創出。総合力がコアコンピタンスとなる

株式会社ソフト99コーポレーション

冨田:田中社長の目から見て、御社のコアコンピタンスはどのようなところにありますか。

田中:一般的にメーカーにおけるコアコンピタンスは「技術」であることが多いと思います。弊社はカーワックスからスタートした会社ですので、油と水を混ぜてワックスをつくる技術は保持しています。一方で当社には、ガソリンスタンドのセールスルームから始まった販売チャネルを量販店に拡大していった歴史もあります。また、その後我々は、ワックスにとどまらず、カー用品を横に広げて、カー用品の新たなカテゴリーを生み出してきました。

その意味では、技術がコアコンピタンスなのか、チャネルがコアコンピタンスなのか、世の中に新しい商品を提案していく力がコアコンピタンスなのか。これについては、我々の中では特に定義はしておりません。

冨田:なるほど。世の中の変化を捉え、実際に適したものをつくれる技術があり、つくり出したものを世の中に流通できるチャネルを持っていて、さらにマーケティングやブランディング活動によって広げていく力がある。何か1つだけが圧倒的に秀でているというよりも、これらをすべて持っているというのは、今後もヒット商品を生み出せる再現性を担保するように思います。

田中:我々はよくお客さんの生活に“へばり付く”」という言い方をしますが、それくらいしっかりと寄り添いながら、変化の機微を捉え、お客さまに資する価値を提供することに重きを置いて活動してします。

冨田:“へばり付く”っていいですね。尋常じゃないぐらい徹底して寄り添うというか。もっと生活をよくできるという提案をしていく。それをいろいろな商品で繰り返し体現されてきたのだと思います。IRを見ると、M&Aも戦略上、押し出されている印象ですが、についてはどのように進められていますか。

田中:我々としてはそれぞれシナリオを持ってM&Aをしてきています。例えば昨年8月に、アズテックという医療関係のファブレスメーカーがグループ入りしています。これは我々の事業の柱の1つであるポーラスマテリアル事業において、医療分野への用途開拓を考えていたため、そのチャネルを持っている会社をM&Aをすることによってより現場に“へばり付けるんじゃないか”というところから実現しました。

その前にはハネロンというIoTの受託開発企業がグループに入りました。我々の価値提供のためにデジタルやIoT のノウハウの必要性を感じていましたが、ただそれを外注するとなるとお金も時間もかかるしスピード感がない。そこで開発できる会社にグループ入りしてもらって、我々のやりたいことかつ彼らの事業に資することができる関係が築けないかということでM&Aの運びとなりました。

はたから見ると、バラバラの業種をパクパクとM&Aをしているように見えるかもしれません。ですが決してそうではなく、自社で足りない部分を補完する形でグループ入りしていただくことが多いです。

M&Aを生かして領域を拡大するとともにノウハウも蓄積

株式会社ソフト99コーポレーション

冨田: 軸としてカーワックス、カー用品からスタートして、そこから関連する領域へと広げる際にうまく時間を買われているという印象を受けました。

田中:M&Aはそもそも「縁のもの」という捉え方も一部あります。ポーラスマテリアルの事業も、もともとは川上の事業をやりたいと考えていた折、ご縁があってグループ入りしてもらったのですが、今では事業の柱となっています。

冨田:ポーラスマテリアルがグループ会社になってから業務用製品が一気に進んでいったのですか。

田中:業務用については、その後に取得した鈑金塗装の事業会社の影響です。実際に現場で働いている方々の商品選択の勘所を彼らから学ぶことで、業務用への進出が可能になりました。我々はBtoCの商品しか扱ってこなかったので、店頭でのお客さまへのわかりやすさにこだわってしまうところがありました。ですが、現場の方々からするとハンドリングのしやすさや彼らのビジネスに合ったコスト構造になっていることなど、微妙な感覚の違いをうまく取り入れながら進められるようになりました。

冨田:第6次中期経営計画に「“他にない”新しい価値と事業の創出」「横展開の更なる推進」と記載があります。実際に、領域的に少し飛び地に見えるところもM&Aを進めていらっしゃるようですが、今後はその間を埋めていくことでエリア全体がつながっていくという構想なのでしょうか?

田中:まさしくそうですね。領域同士が有機的に絡み合いながら、新しい価値を生み出すという方向を目指しています。

製品やサービスを通して価値観を世に問う

冨田:先ほどM&Aを「縁のもの」とおっしゃったように、新しい領域に広げたいと思っても縁がないとなかなかできませんよね。領域の拡大について、今後はどのようなつながりを見据えているのでしょうか。

田中:今回の中期経営計画ではそこはあまり明確にしていません。ファインケミカル、ポーラスマテリアルという2つの事業があり、そこに付帯する形でさまざまなサービスがあります。これらが有機的に結合することで新しい価値をバブルのようにたくさん生み出していくイメージです。

冨田:ベースの基礎技術があって、自動車分野・産業分野・生活分野とそれぞれ走っている中で、自動車分野を応用して産業分野へ、産業分野をコンシューマ向けにカスタマイズして生活分野へとつながっていく。そのいくつかが相乗効果を生んで爆発的なインパクトになって、そこがまた新たな柱になる可能性もありますよね。有機的に組み合わさることによって、クモの巣状の広がりが見られると。

田中:おっしゃるとおりです。例えば、先ほども触れたIoT事業のノウハウはどの領域にも必要になってきていて、シナジーにつながる可能性は大いにあります。逆にデジタルとは直接関係のない事業が、IoTビジネスに活用できることもあります。お互いがノウハウを提供し合うことで、足りないピースを埋めていくような動きができるといいなと考えています。

冨田:ありがとうございます。未来に向けて、思い描いている世界観についてもう少し伺えますか。

田中:VUCAの時代で、未来予測をして立てた仮説に向かって走っていく時代ではなくなりました。この時代にできることは、小さな失敗をたくさんして、正解を探すよりも正解をつくる意識が必要だと思います。

現代は、何でもお金さえ出せば買える世の中になってきて、消費に対して無責任で無頓着な価値観が広がっています。個人としては、「本当にこれでいいのかな?」という思いを抱えています。そこは今後の経営にも反映されていくかもしれません。

我々はカー用品を通して、物を大切にするという価値観を、消費の現場に伝えてきました。これからも製品やサービスを通して世の中に問いかけ、気づきを与えるようなビジネスをやっていきたいと思います。

冨田:時代の変化に応じて、生活者に “へばり付く”ことによって必要なものを感じとり、どんな時代でも必要とされるものを生み出し続ける。そのためにM&Aでいろいろな領域に広げていく、そういう好循環が生まれるのですね。一貫したストーリー、全体としての思想をお伺いできました。ありがとうございました。

プロフィール

氏名
田中 秀明(たなか・ひであき)
会社名
株式会社ソフト99コーポレーション
役職
代表取締役社長
出身校
同志社大学 経済学部