次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回のゲストは、株式会社SERIOホールディングス代表取締役の若濵久氏。同氏にSERIOホールディングスの事業内容、競争優位性、未来構想などを聞いた。
(取材・執筆・構成=菅野陽平)
人材派遣会社にて13年間勤務後、2005年に㈱セリオ設立。女性の仕事と家庭の両立を目指し、パートタイム型人材派遣事業を開始。その後さらなる環境構築のため子育て支援事業として、放課後事業・保育事業(2021年4月現在、183施設を運営)を展開。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
3つの事業をバランスよくやっていることが競争優位性になっている
冨田:まず御社のことや事業について教えてください。
若濵:当社は「家族の笑顔があふれる幸せ創造カンパニー」をビジョンに、「仕事と家庭の両立応援」と「未来を担う子どもたちの成長応援」をミッションに事業展開しています。具体的には、働く機会の創出として「就労支援事業(派遣・請負・紹介)」、働く環境の創出として「保育事業(保育園運営)」と「放課後事業(学童クラブ運営)」の3事業を展開しています。
この3つの事業がそろったのが10年くらい前で、そこからはそれぞれの事業のボリュームアップを進めています。
冨田:ありがとうございます。若濵社長としては、それぞれの事業ごとなのか、全体としてなのかあるかと想いますが、どこに競争優位性があるとお考えでしょうか?
若濵:よく頂く質問なのですが、ご回答するのが難しい質問でもあります。3つの事業は別々のものですが、売上に対する比率は保育事業が少し多めですがおおよそ1/3ずつです。もちろん、各事業単体で見れば競合他社はあります。人材派遣は大手が多いですし、保育事業で上場されているところもあります。
しかし、3つの異なる事業をバランスよく展開している企業はなかなかないと思います。3つの事業をバランスよくやっていることが特徴であり、競争優位性になっているのではないかと考えています。
冨田:確かに3つの事業をやっているとしても、「メイン事業の売上比率が6〜7割で、2つ目は2割くらいで、3つ目が残りの1割くらい」という企業はよくあるイメージですが、バランスよくやっているのは珍しいですね。
2021年5月期決算説明資料の「2022年5月期の売上高見込み」を見ても、どれも大体30億円前後です。成長率もそこまで大きな差があるわけではありません。
「ポートフォリオ経営」という言葉もありますが、経済変動に強いなど、何か相互補完関係があるのですか。また、これまでの成長過程においては、各事業の成長スピードに差はあったのでしょうか?
若濵:2005年の創業時は、主婦の方が働きやすいように、パートタイム型の人材派遣をやっていました。今は就労支援事業という呼び名になっていますが、おかげさまで毎年着実に業績が上がっています。一方、小学生の学童クラブ施設の運営を開始したのが2010年、保育園の運営を開始したのが2012年です。その時間差があったため、今日においてはバランスが良くなっているというのが実情です。
新型コロナウイルスは当社にもさまざまな影響を与えましたが、3つの事業があるおかげで、比較的影響は軽微で済んだと思っています。1本足や2本足だと、コロナのように大きな経済変動があった際に崩れやすいでしょう。結果論ではありますが、3本足でバランス良く立っていることは強みであると思います。
どの事業に力を入れているかというと、全部という答えになってしまいます。ただ、事業によって多少アクセルの踏み具合が違うことは事実です。例えば、近年は保育事業のアクセルを踏んでいます。成長率が高いことに加えて、段々と待機児童が解消されてくるはずですので、長いタームで勝負ができないためです。ここからの数年が勝負だと思っています。
教育施設に特化した園庭緑化事業「セリオガーデン」を開始
冨田:2021年1月1日には、株式会社セリオ100%出資子会社として株式会社セリオガーデンを設立して、芝生に関する事業も始めていらっしゃいますね。累積施工数100件や業界第一人者の地位確立を目指されるとのことですが、これまでと経路が違う流れに見えました。具体的にはどういう事業なのでしょうか。
若濵:振っていただいてありがとうございます。本日はセリオガーデンを一番話したいと思っていました(笑)。子育てや人材とは全く違う仕事ですが、子どもたちの笑顔を作っていく環境整備をしたいということで、事業展開を決めました。具体的には、芝生の販売、設置、管理業務などを行います。
世の中を見渡せば造園業の会社はたくさんありますし、競技場の芝生を管理する会社もたくさんあります。ただ、セリオガーデンは保育園、幼稚園、小学校といった教育施設のグラウンドに特化しています。教育施設に特化している会社はないので、ニッチな分野ですが、トップランナーになりたいと思っています。
裸足で緑の芝生を走り回れる、転げ回れることは、子どもたちには大きな喜びだと思います。乳幼児は園庭が砂だと遊ばせづらいですが、芝生だと遊ばせることができます。また、今日は地球温暖化の問題が意識されておりますので、緑地化を進めることは、温暖化(ヒートアイランド対策)に対する一定の貢献になるのではないかと考えています。
冨田:私もずっとサッカーしていたのですが、土のグラウンドではなく、芝のグラウンドだと、気持ちが盛り上がったことを思い出しました。また、緑と人間のストレス低下の関係も指摘されていますし、ESG観点にも合致した事業ですね。
私の勝手な想像なのですが、これは他の保育園や幼稚園とのビジネスの入口になり得るのでしょうか?それが成り立つのであれば、例えば芝生以外にも、自社の保育園で成功した生産性の高い取り組みや運営の仕組みなどを外部へ提供する考えはあるのでしょうか?飲食業界などはフランチャイズ化が一般化していますが、教育業界ではあまり聞かない印象ですが、そういったところまで可能になる取り組みだと勝手に妄想を膨らませてしまいました(笑)。
若濵:そうですね、そこまで考えてはおらず、とにかく良いものを広げていきたいという気持ちが強いですね。当社が運営している保育園でもできる限り芝生にするようにしているのですが、やっぱり子どもたちは喜んでくれますし、いろいろな方の評判も良いです。入園希望者が増えている事例もあります。
それであれば、どんどん広げていって、子どもたちの保育環境を整えてあげたいという気持ちが強いです。保育園の商圏は実は狭くて、他の保育園はライバルのようでライバルではありません。わざわざ遠方の保育園に預ける人は滅多にいませんので、BtoCでライバルがいる事業とはちょっと違います。
同業者の方から保育園運営に関する相談はよく受けます。人材の採用に悩んでいれば、当社の就労支援事業を提案することもあります。
家族というコミュニティに笑顔があふれるために
冨田:なるほど、よくわかりました。結果として、他の事業とのシナジー効果が発揮されることはあるわけですね。最後に、未来についてお伺いできればと思います。2024年までの中期経営計画は発表されていますが、もう少し長い期間で考えると、どのような未来を構想されていらっしゃいますか。
若濵:冒頭で「家族の笑顔があふれる幸せ創造カンパニー」をビジョンにしていると申し上げたました。家族の笑顔の実現には強い想いがあります。このビジョンにこだわって事業を進めていきたいですね。
社会にはいろいろなコミュニティがありますが、多くの人にとっては「家族」が一番身近かつ最小単位のコミュニティなのではないでしょうか。このコミュニティが笑顔にあふれていることが、生きていくうえでとても大切なことなのではないかと思います。3つの既存事業に加えて、園庭緑化事業を新しく始めましたが、今後も家族の笑顔につながる事業を進めていくことで、当社の社会的意義や存在意義が生まれてくると考えています。
保育園を運営していると、いろいろな家庭があることを知ります。地域差もありますし、経済的格差もあります。誰でも平等に子育てができる環境、良い教育を受けることができる環境を作っていきたいですね。さらに言えば、日本に留まらず、世界中でそうなると良いと思います。そのような世界を実現するための事業にかかわっていきたいですね。
冨田:「いかに家族の笑顔を作るか」を中心にお考えになっていて、各事業がそこにつながっていることを本日よく理解ができたと感じています。中期経営計画には、御社にかかわる15万人の笑顔を作ると記載されていますが、これが20万人、30万人、40万人とどんどん増えていかれるのだろうと思います。
親御さんが子どもを安心して預けることができる場所(保育園・学童クラブ施設)を提供するとともに、就労支援もしていて、いわば親御さんと子どもの両方がお客さまですよね。接点が多く、かつ密接なので、その家族が成長して保育園を卒園したとしても、何か新しい事業の可能性があるようにも感じました。
若濵:子どもが学校から泣いて帰ってくると、家族の一大事になってしまうでしょう。笑顔で帰ってくることが家族にとって何より大切だと思いますし、それがご両親の働く原動力になるはずだと思います。
冨田:本日はありがとうございました。
プロフィール
- 氏名
- 若濵 久(とみた・かずまさ)
- 会社名
- 株式会社SERIOホールディングス
- 役職
- 代表取締役
- 受賞歴
- グレートカンパニーアワード2020 社会貢献賞
- 出身校
- 島根県立松江東高校