次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回のゲストは、株式会社平山ホールディングス代表取締役社長の平山善一氏。同氏に平山グループの事業の変遷、競争優位性、未来構想などを聞いた。
(取材・執筆・構成=菅野陽平)
1962年11月26日生
1986年7月 有限会社平山(現平山ホールディングス)入社
1989年11月 専務取締役
1993年7月 代表取締役社長(現任)
2009年3月 株式会社トップエンジニアリング 代表取締役会長
2016年12月 平山分割準備株式会社(現株式会社平山) 代表取締役社長(現任)
2017年1月 株式会社平山LACC 代表取締役社長(現任)
2017年2月 株式会社平山グローバルサポーター代表取締役社長
HIRAYAMA PHILIPPINES CORP. 代表取締役社長(現任)
2019年9月 株式会社トップエンジニアリング 代表取締役社長(現任)
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
足元は非常に忙しい状況で、コロナ前の水準を超えている
冨田:まずはこれまでの事業の変遷について教えてもらえますでしょうか。
平山:平山グループは「設備と敷地を持たない製造業」をコンセプトに、「インソーシング・派遣事業」と「技術者派遣・受託開発事業」を主たる事業としています。この人材に関するビジネスはもう30年以上の歴史があります。
30年前の派遣業界はホワイトカラー中心で、製造業向けの派遣はありませんでした。しかし、バブル崩壊後に事業構造が変わり、製造業でも外部社員を使う機運が高まっていきました。最初は全社員の15%が派遣の上限だと言われていましたが、バブル崩壊後は経済が右肩上がりにならないことを受け、メーカーさんの姿勢が変わってきて、年々その比率が上がってきました。
派遣業界全体で言うと、実はこの30年間市場は伸び続けています。それに伴い、業界のレベルも上がっていき、お客さまから求められる人材の質も上がっていきました。以前は渡り職人と言いますか、有期雇用が中心でしたが、今は常用雇用も増えてきています。
当社に関して言えば、リーマンショック前の2007年に一度ピークがありまして、コロナ前もその水準に達していました。コロナで一時的に落ち込みましたが、足元は非常に忙しい状況で、コロナ前の水準を超えています。
ひとつの理由として、コロナの影響で実習生、特定技能生を含めて、外国人労働者が全く入国できなくなってしまい、日本人で対応するしか選択肢がなくなってしまったためです。引き合いが多いため、受注残という形でオファーを貯めている状況です。
冨田:そのような追い風になっているなかで、2021年8月26日に発表した2021年6月期決算説明資料を見ると、今後の成長戦略にも言及されています。平均年率約20%成長、営業利益率4%といった定量的な数字目標に加えて、SaaSによるアプリ提供やDXに対応したシステム開発といった新規事業の記載もありますが、IR資料だけだと深く理解できない投資家もいると思います。今後の成長戦略について、少しお話頂くことは可能でしょうか。
平山:中期目標として、2024年までに売上高400億円を目指します。また営業利益率は4%を目指します。そのために、エンジニア領域の投資を加速したいと思っています。AI、RPA、クラウドエンジニア、データサイエンスは、あまり大学(教育機関)が排出できてない領域ですので、当社でそういった技術を持った人を育成して輩出していきたいですね。人材の付加価値が高い領域なので、そうすれば利益率も上がっていくはずです。
また、当社は人手不足問題を解決したいと思っていますが、外食業界や旅行業界の需要が落ち込むなか、製造業には人材がシフトしていない現状があります。製造業はいまだに人手不足でして、産業を維持するためにも、そのような業界で有期雇用になっている人に接触し、教育して、安定雇用と所得向上への道を提供したいと思っています。
順番としては国内が先だと思いますが、製造業が一部の敷地内に専用の5Gネットワークを構築する「ローカル5G」の普及加速などによって、今後は国内外で、デジタル技術を活用した効率的な工場「スマートファクトリー」がますます広がっていくと思います。
当社はメーカーさんの工場まるごとの請負もやっているのですが、IoTやDX、ICTなどを活用したスマートファクトリー化が進んでいない業界もあります。そこで、スマートファクトリー化に関する知見をそのような業界へ横展開したいと考えています。その次は、アジアなどの海外工場のスマートファクトリー化を支援する予定です。
国内外において人材派遣の枠を超えて、モノを組み立てて検査するだけではなく、工場全体の稼動管理とマネジメントまでやっていきます。フィールドワーク用のシステムはどんどん新しいものが生まれていますが、残念ながらそれらを上手に活用できる人材はまだ多くありません。お客さまの社員だけでは対応できない場合も多いです。そこで、我々がお客さまのできない部分をカバーし、工場全体の経営や稼働管理などを行うことで、さらにサービスの付加価値を高めていきます。
人を減らして利益をあげるモデル
冨田:ありがとうございます。なるほどですね、徐々につながってきました。DX化の波、フィールドワーク用システムの増加、ローカル5Gの普及、このような背景があって「スマートファクトリー」がより重要なキーワードになるのですね。そして、それを横展開していく。「人材も提供するけど、省人化も提供していく」ということですね。
平山:当社の強みはトヨタ生産方式を全社員が現場で学んでいるところです。コンサルタントもトヨタさんのOBが多いですね。業界が変わっても、根底にある工場管理の本質は変わりませんので、さまざまな業界に対応することができます。
当社の売上のメインはインソーシングでして、トヨタ生産方式を背景にした日々の改善が大きなポイントとなります。例えば、100人の人員で現場を請け負ったとしたら、1年後は95人、2年後は90人と毎年人を減らしています。通常の派遣は人を増やさないと売上が伸びていかないのですが、うちは人を減らして利益をあげるモデルなのです。これはお客さまと利害が一致するので、当社を選んでもらう大きな要因になっています。
改善を積み上げるために、毎月コンサルタントが現場を訪れて、自分たちで改善を進めています。いわば「自分たちの工場」という気持ちでやっており、お客さまから見たら管理監督せずとも自動的に改善がなされるので、見えない管理コストも減ります。請負現場で自発的な改善を行っているのは珍しいと思います。競争力の源泉になっていると思いますね。
冨田:実は私も「改善」という点に着目した拙書『鬼速PDCA』を2016年に出していまして、シリーズで20万部を突破しています。「PDCA系の書籍では世の中で一番広がっている」と言ってもらえておりまして、図解版や手帳版も販売されています。企業文化としてもPDCAはすごく大切にしており、鬼速PDCAを体系化した企業向けのコンサルを行うと、どの会社さんも面白いくらい生産性が上がるのですよね。今のお話は自分たちとして肌感覚がある分野だったので、より「なるほど」と思いました。
平山:「アナログで改善して、システムで定着させる」ということが重要だと思っています。まだAIでは「どこを改善すれば良いか」ということを判断するのは難しく、まずは現場をよく知っている人がアナログでコツコツ改善して、全体に定着するようにシステムを活用するという流れです。なお、日本の製造業の現場は総じて「改善力」が高いですが、製造業でも間接部門は比較的うまくいっていない印象があります。
冨田:同じ製造業のなかでも、部門によってちょっとずつ違うのですね。
平山:トヨタさんグループはトヨタ生産方式を間接部門にも入れるので違うのですが、トヨタさん以外では間接への導入は多くありません。
顧客の本質的なニーズを理解し、win- winの関係を築いていく
冨田:「スマートファクトリー」や「省人化」をキーワードに未来のことや競争優位のことを伺えてきていると思います。今後、人手不足はさらに大きな問題になり、企業としてもなかなか育成にリソースを割けないなかで、御社のサービスが広がる素地は大きそうですね。未来の話にもつながってきますが、経営としての意思決定の基準や特徴についてのお考えもお聞きできますでしょうか?
平山:以前の人材ビジネスは人の物流でした。人材を右から左に流していたわけです。そのような背景もあって、リーマンショックのときは「派遣切り」という言葉がフォーカスされ、私達の業界が大きくなることが悪のような雰囲気もありました。
しかし当社は毎年新卒を数百人採用していますし、基本的に全員が常用雇用です。つまり、我々が大きくなることで安定雇用を拡大できるということです。当社の場合はさまざまな職場を経験できますので、雇用の安定とともに、スキルアップも期待できます。
基本的な判断基準はこのような「win- winの関係になれるかどうか」ですね。我々が大きくなることで経済が活性化するか、そこが新しいビジネスを始める判断基準になっています。
冨田:上場されたときの有価証券報告書を見ると、少しアナログな内容が多かったように見えますが、今はスマートファクトリーやDX、IoT、ICT、SaaSといった時代にあったサービスを提供している、もしくは提供しようとしていらっしゃいます。お客さまの本質的な「win」を追求されてきたからこそ、時代に合わせて変化してきたのだろうと感じました。
お客さまの本質的なニーズは「人が足りないから人を送ってくれ」ではなく、「工場全体の生産性が上がって、お客さまのお客さまにサービスを提供できること」だと思います。「もっと速い馬が欲しいことが目的ではなく、できるだけ早く目的地に辿り着くのが目的なのだ」という例えがありますが、本質的な価値を想像し、提供されているのだと感じました。
AIの技術も導入し、請負の付加価値を上げていく
平山:最後にひとつ特徴的なサービスを紹介させてください。当社は請負をやっているので安全性委員会を自前で立ち上げており、不祥事や労災が起こる予兆や原因について日々議論しています。いろいろな業界や業種で開催しており、だいぶノウハウが貯まってきたので、このアナログなノウハウをAIで分析し、「労災リスクが高い人を予見するアプリケーション」をAI会社と共同開発しました。
利用者には毎日携帯で10秒ほど、いろいろと入力してもらって、リスクが高いと見なされた場合は、管理者にアラートが届きます。管理者がその人にフォローの声掛けをすることで、事前にリスクを軽減できるというわけです。データが集まれば、さらに精度が上がっていくはずです。
今までは経験値が高い管理者が経験を頼りにフォローしていましたが、ベテラン社員がいつまでも活躍してくれるわけではありません。データ化することで、初めて安全性管理を担当する人でも遜色なく業務を行うことができるはずです。このようなこともセットにして、請負現場を管理していき、付加価値を上げていきたいと思います。
冨田:大変ワクワクするお話を聞かせていただきました。「設備と敷地を持たない製造業」をコンセプトにしていて、今後はスマートファクトリー化支援ができる会社、スマートファクトリーになるためのさまざまなソリューションを持つプラットフォームになっていかれるのだと思います。今後の展開が楽しみです。本日はありがとうございました。
プロフィール
- 氏名
- 平山 善一(ひらやま・よしかず)
- 会社名
- 株式会社平山ホールディングス
- 役職
- 代表取締役社長