ビジネス界をリードする経営者は、今の時代をどんな視点で見ているのか、どこにビジネスチャンスを見出し、アプローチしようとしているのか。特集「次代を見とおす先覚者の視点」では、現在の事業や未来構想について上場企業経営者にインタビュー。読者にビジネストレンドと現代を生き抜いていくためのヒントを提供する。
今回は、協立電機株式会社代表取締役社長の西信之氏に話を伺った。
(取材・執筆・構成=菅野陽平)
三菱銀行を経て、1985年に協立電機株式会社入社。入社来、長らく東京支社長を務め、2代目社長の急逝後、2016年1月に社長へ就任。コロナ禍、DXと後の時代から見ると「……の時代」という名がつくほどの大きな変革期に立ち会えていることの幸運を感じながら経営を続けている。静岡県藤枝市にて、2021年の東京オリンピックの聖火リレーも担当。利き酒師の資格も持つ。
ほぼ100%のお客さまが製造業
――まずは自己紹介をお願いできますでしょうか。
生まれは東京なのですが、3歳のときに父が静岡で協立電機の前身となる会社を始めたため、私も静岡に引っ越しました。東北大学工学部の大学院を卒業後、経済を学びたいと思い、三菱銀行さんに入行しました。後から知ったことなのですが、私が「純粋な工学部出身の新卒採用の第1号」だったそうです。大変僭越ですが、メーカーさんに行くと研究所に回されるのではないかと危惧していたことも三菱銀行さんを選んだ理由のひとつです。
そのあと協立電機に戻ってきて、東京支社長を長く務めました。父が亡くなった後は兄が社長を継いだのですが、兄が6年前に亡くなってしまい、3代目の社長として経営を行っています。よく「3代目が会社をつぶす」と言われているので、頑張らねばと思っているところです(笑)。
――御社の事業内容について教えてください。
お客さまの93%がメーカーさんです。残りの 7%も官公庁あるいは電力、ガスといった会社さんですので、ほぼ 100%のお客さまが製造業と言って良いかと思います。それらのお客さまに対して、大きく3つの事業を展開しています。生産ラインの自動化、新製品の研究開発のお手伝い、試験装置の製作です。
そのなかでも本業のひとつと言えるのが、IoTとファクトリーオートメーションが融合した「インテリジェントFA」です。FAとはFactory Automationの略で、工場における生産ラインの自動化を意味します。生産ラインを自動化するためには、さまざまな計測データを瞬時に分析し、生産ラインを常に最適な状態に保つ必要があります。これを最新のIT技術と結合させて管理するシステムをインテリジェントFAと呼んでいます。
――FAと聞くと、ロボットが自動で自動車を作っている様子が思い浮かびます。
FAには大きく分けて、自動車産業に代表する組立加工業、製紙産業や化学などの装置産業があります。おっしゃっている様子は前者ですね。当社が位置する静岡県は製紙産業が盛んで、ロボットが動くというよりも、コンピュータが流れている液体の量や温度を制御するといったものです。
――ほぼ 100%のお客さまが製造業とのことですが、さらに細かく業界(業種)を分けると、比率はどうなっているのでしょうか?
当社は決まったモノを大量に作っているわけではないので、毎年「売上比率ベスト10」のお客さまは変わります。もちろん、これまでベスト10に入っていたお客さまが一気にベスト50以下になることはありませんが、大きなお話があると金額が一気に上がり、順位が変動するのです。
前期で1番お取引させていただいたのはヤマハ発動機さんで、2番目がスズキさんですね。ヤマハ発動機は電動アシスト自転車「PAS」を作っていらっしゃるのですが、前期はそれに関する試験装置を国内外でご発注いただいたため、1番となりました。反対にスズキさんはコロナ禍ということもあり、前期は国内の大きな投資はありませんでしたが、その前の期はタイとインドにおいて大きなお話を頂きました。
――「国内売上・海外売上」で切ると比率はどうなるのでしょうか?
アナリストさんからもよくご指摘いただくのですが、ご回答するのが少し難しい質問です。例えば三菱自動車さんからタイ工場のお話をいただいたとしても、発注自体は田町の本社から頂戴します。取引は円なので為替リスクがありませんが、製品の最終目的地はタイですので、私たちはそれを海外売上としてカウントしています。ここからは直感的な話で恐縮ですが、最終目的地が海外である売上は、売上全体の半分を超えていると思います。
「ワンストップショッピング」が強み
――ここからは業績についてお伺いしたいと思います。前期(2021年6月期)は減収減益の着地となりました。
コロナの影響が強く出てしまいました。私たちの主要なお客さまのひとつである自動車業界を例に挙げますと、売上のルートとして「生産ラインの増強(効率化)に関する投資」と「EVのような研究開発に関する投資」の2つがあるのですが、コロナによって、前者はほとんど止まってしまいました。後者は今年から再び増えてきていますが、半導体が足りないこと、米国の工場が寒波でやられてケーブル用のコネクタが入ってこないことなどが心配事ですね。
――それらを踏まえて、今期(2022年6月期)はどのように捉えていらっしゃいますか?
業界関係者と「半導体不足はいつまで続くのか」という議論をすると、「8月頃がピークで年末に向けて解消されるのではないか」と考えている人が多かったですが、果たしてそんなにうまくいくのかとやや懐疑的に感じていました。それもあって、今期計画は保守的な数字にしています。足元で受注残は増えていますので、これがいかに売り上がってくるかだと思います。
――西社長が思う御社の強みについて教えてください。
「ワンストップショッピング」がビジネスモデルであり、強みだと思います。モノの売り買いをする商社機能、モノを作る製造機能、現場の作業をやる機能、全部をグループ内で持っています。また、当グループは24社ありますが、「どこが受注するか」については全く気にしていません。グループのどこか1社がご予算をお持ちのお客さまと接点をいただけたら、24社で力を合わせて解決策を出していきます。
当社はキーエンスさんと比較してもらうこともありますが、モデルは全く違います。キーエンスさんは、自分たちで工事をやったり、ソフトウェアを作ったりはしていません。
例えば、私の母の時代は、夕食の準備をするときに八百屋さん、魚屋さん、肉屋さんなどを回ったと思います。しかし、スーパーマーケットができたら、そこですべてを安く済ませることができます。私たちはお客さまに対して、そのようなワンストップショッピングができる存在であり続けたいと考えています。
実は、リーマンショック前までは比較的「この部分はあなた、こっちの部分はあなた」とお客さまが分離発注されていました。しかし、リーマンショック後は人が減ってノウハウが薄れてきたこともあり、僭越ながら、当社のように丸投げできる会社は魅力が向上していると思います。ワンストップができると、価格競争にも巻き込まれにくくなります。製造業のワンストップショッピングは、国内では、私たちが初めて作ったサービスではないかと自負しています。
そのうえで営業力を大切にしています。ここでいう営業力とは「お客様さまのニーズを知り、根本的な原因に対して解決策を提示できること」という意味です。比較的コンパクトなサイズの会社の社長さんはよく「ウチは技術力はあるけど営業力がなくてね……」とおっしゃいますが、厳しい言い方をすれば、これでは単なる下請けです。
私たちは、下請けにはなりません。お客さまは「いま困っていること」には詳しいですが、根本的な原因が分かっていないことは多々あります。グループ全体で、お客さまの根本的な課題を解決していきたいと思います。
そのためには、高い技術力を保ち続けなければいけません。当社は自己資本比率が5割を超えていて、アナリストの方からよく「資本効率が良くない。使わない資金があるのなら、もっと配当や自社株買いに回したらどうか」とお叱りの声を頂きます。しかし、当社のような研究開発型の企業の場合、10の研究テーマがあったら、2つほど成功すれば良いほうです。これを3や4にしていく努力は継続しますが、8は無理なのですね。そのため、自己資本比率を高めて、研究がうまくいかなったときに備えています。
少子高齢化で広がるFA 時代の追い風を受けている
――日々の学びの方法や意識していることがあれば教えてください。
ノウハウものはあまり読みませんが、昔から読書は好きですね。セミナーや勉強会にもできるだけ積極的に参加しています。
ただ、日銀さんのある支店長も同じことを言っていのですが、多くの会合がオンライン開催になってしまったので、懇親会もなくなってしまい、社会的に大きな損失だと思います。懇親会はお酒も入って皆さん饒舌になるので、いろいろな情報がインプットできて、大変有意義な場であったためです。
このように当社はいわゆる理系の分野が軸になっていますが、文系の方は、技術に対して変に「分からないもの」とコンプレックスを持ってしまっているように感じています。大変僭越ながら、もし若い方にお読みいただいているのであれば、あまり文系や理系の垣根は気にせずに、技術に向き合っていただきたいですね。
――経営判断の基準や経営哲学について教えてください。
そんな大げさなものではありませんが、我々は比較的地味な商売でして、お付き合いが始まると、相当な過失がない限り、継続してお取引していただけるようになります。そのため、新規と既存のお客さまを大事にしようということがひとつですね。
「迷うことは一瞬で決断してはいけない」と肝に銘じています。重要な決断であれば、時間が許せば2〜3日、時間がないときも数時間は「本当にこの判断で良いのだろうか」と反復して考えます。これでも社長ですから、私が間違えた決断すると、みんなが一斉に動き始めてしまうためです。
また、現場を大切にしています。コロナ前までは1年で最低3カ国はグループ現地法人を回っていました。今は難しいですが、早く現場を回りたいですね。
――最後に、未来構想について教えていただけますでしょうか。
足元ではコロナでやや労働力が余っていますが、中長期的に見ると、日本をはじめとして世界的に少子高齢化が進みます。人手不足のなかで経済成長を続けていくひとつの答えが「自動化」や「ロボット化」です。まさに我々が本業としていることです。時代の追い風を受けていると考えています。
今日においては、製造の現場そのものだけではなく、研究開発といった付加価値が高い部署も海外に出ていっています。現地にあったものを作らないと売れない時代だからです。例えば冷蔵庫だと、インドはあまり生野菜を食べない文化なので野菜室は大きくなくていいですが、米国は巨大な冷蔵庫でないと売れません。中国ではラーメンどんぶりのような色ではないと人気が出ません。
そういった部分も日々キャッチアップする必要があると思っています。研究開発型の企業であり続けたいですね。特定の大ヒット商品に依存してもいけません。開発部隊には「ホームランはいらない、二塁打や三塁打を定期的に打ってくれ」と伝えています。
FAは比較的、新規参入が少ない業界です。製造業にとって、製造ラインはお客さまの命ですから、知らないところや実績がないところに任せるわけにはいきません。その点、私たちは60年以上の歴史と実績がありますので、その信頼性やネットワークを生かして、新しいお客さまとの接点をどんどん増やしていきたいですね。
プロフィール
- 氏名
- 西 信之(にし・のぶゆき)
- 会社名
- 協立電機株式会社
- 役職
- 代表取締役社長
- 受賞歴
- 2008年 日本内部統制大賞
- 出身校
- 東北大学工学部機械工学第2学科
- 学位
- 修士
- 資格
- 利き酒師