本記事は、高橋浩一氏の著書『気持ちよく人を動かす』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。

ビジネスマン
(画像=PIXTA)

なぜ、正論だけでは人が動かないのか

「絶対にこれをやるべきだ」は相手に響かない

たとえばこんなケースについて考えてみましょう。

「運動不足で体重が増えてしまった」と悩んでいる友人がいます。あなたは、自分が実際に試してうまくいった画期的なダイエット法を知っているとします。好きな食べ物や飲み物を我慢するつらさもなく、忙しい中でも実行でき、お金もそれほどかかりません。インターネットでいろいろと調べてみると、同様にうまくいった人も多く、怪しい方法というわけではありません。この方法は、科学的にも効果が証明されており、医師のうち多くの割合は、このダイエット法をやっているそうです。

あなたは、友人に喜んでもらいたいと思い、そのダイエット法の素晴らしさを伝えました。こんなによい方法があるなら、絶対にやるべきだと思ったのです。しかし、友人は「教えてくれてありがとう。ちょっと考えてみるよ」と言ったものの、そこまでよい反応ではありませんでした。結局、その方法については気が乗らなかったようです。

このダイエット法なら必ず友人の悩みを救える。こういう確信があったら、あなたはよかれという思いから、友人に対しておすすめするでしょう。しかし、この類いの提案に対して、必ずしもよいリアクションが返ってくるとは限りません。「よい方法を教えてくれてありがとう。ちょっと考えてみるよ」くらいの反応であれば、おそらくこの提案は実行されないだろうなと、あなたは感じるでしょう。相手のためを思って提案したにもかかわらず、想定したように響かないと、伝えた側としてはモヤモヤします。

「よい解決策を提案しても、なかなか動いてくれない」は、この例に限らず、ビジネスシーンでもよくあることです。これは、いったいどういうことなのでしょうか。

「よい解決策」を一方的にプッシュしていないか

人が行動を変えたがらないことについては、心理学用語の「現状維持バイアス」という言葉でよく説明されます。

行動を変えることに対する心の抵抗はとても強力です。一見してよさそうな解決策でも、実行するにはそれなりの(金銭的、精神的、時間的な)コストがかかります。現状維持バイアスを突破できるだけの費用対効果を訴求するのは、そう簡単なことではありません

現状維持にこだわる人へ働きかけるとき、多くの人が選びがちなアプローチは、「よい解決策をプッシュする」というものです。本章冒頭のダイエット法の例で言えば、次のようなやり方です。

  • 権威を持ち出す:「有名な医師が太鼓判を押しているよ」
  • 同調する材料を出す:「みんなこのやり方で成功しているよ」
  • 利点を強調する:「お金もかからないし、忙しくてもできるよ」
  • にんじんをぶら下げる:「いま申し込むとキャンペーンでお得だよ」
  • 不安を煽る:「大人気だから、申し込める人数が限られているらしいよ」
  • 強制する:「とりあえず、だまされたと思ってやろうよ」

あなたの周りを見てみると、ビジネスシーンでもこのように「よい解決策」を一方的に押しつけるアプローチは多くあふれているのではないでしょうか。

企業が行うマーケティング活動、営業担当のセールストーク、メンバーに対するマネジャーの指導、社内に対する協力の依頼、会社と会社の交渉……。人を動かす場面において、「これをやるべきだ」「これをやってほしい」というメッセージは一日中飛び交っています。しかし、強引に押し切ってその場は動いてもらえたとしても、それが「気持ちのよい合意」でなければ、なんらかの反作用が返ってきます。人間関係がぎくしゃくしてしまったり、相手の不満につながったりするのは避けたいところです。

『気持ちよく人を動かす』より引用
高橋浩一
TORiX株式会社 代表取締役。東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業から6年で社員数70名までの成長を牽引。同社の上場に向けた事業基盤と組織体制を作る。2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。これまで3万人以上の営業強化支援に携わる。コンペ8年間無敗の経験を基に、2019年『無敗営業「3つの質問」と「4つの力」』、2020年に続編となる『無敗営業 チーム戦略 オンラインとリアル ハイブリッドで勝つ』(ともに日経BP)を出版、シリーズ累計6万部突破。2021年『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)を出版。年間200回以上の講演や研修に登壇する傍ら、「無敗営業オンラインサロン」を主宰し、運営している。

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