本記事は、高橋浩一氏の著書『気持ちよく人を動かす』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。
見える化のインパクト
「もう少しよく考えたい」にはビジュアルの情報整理が効果的
前の章では相手との関係を築く「理解を深める力」について解説しました。相手から聞いた情報は、わかりやすくビジュアルで整理していきましょう。
「見える化する力」とは、その場に出ている情報をビジュアルで整理して相手と確認することで、場を前進させるスキルです。
相手にとって状況がまだクリアになっていないとき、動いてもらえない原因として「情報整理の壁」が出てきます。
「もう少し自分なりに考えたい」という保留に対して、相手が持ち帰って検討するのを待っていては、動きが止まってしまいます。そこで、2章の会話例でメモを提示していたように、まさに相手と一緒にいるそのタイミングで、「ここまでを整理すると……」のようにビジュアルでまとめられると、場が進みます。
以前、営業が強くて有名な某社で研修を実施したとき、「クロージングの場面で頼りになる武器はなんですか?」と質問したところ、多くの参加者が「ホワイトボードです」と回答されました。お客様と一緒に同じものを見ながら整理していくプロセスは、最後に相手の決断を後押しするうえで、とても重要だということです。
相手から聞いた情報について、単に「おっしゃることはわかります」と言うより、ビジュアルで表現したものを見せるのは非常に効果的です。有名な「メラビアンの法則」によれば、人が影響を受けるのは、視覚情報が55%、聴覚情報が38%、言語情報が7%で、最もインパクトが大きいのは視覚情報です。
「ここまで伺った内容を簡単に整理してみたのですが……」とメモを見せるのは、相手に「なるほど、こういうことなのか!」という新しい発見をもたらすこともありますし、「こんなにしっかり聞いてくれていたんだ!」という喜びの感情を生むこともあります。
ラフでもいいから早めに見せる
「書いたメモを相手に見せましょう」とお伝えすると、「きれいに整理できていないメモを見せるのは抵抗がある」と言われることがあります。たしかに、人の話をリアルタイムで整理することは難しいですし、その整理が的を射たものであるかどうかは、慣れないとなかなか自信が持てないものです。
私も、新卒で入ったコンサルティング会社では、ホワイトボードで参加者の発言をきれいにまとめる先輩たちを見て、「とてもこんなふうにはできない」と思いました。お客様の前でホワイトボードの前に立つのは、けっこう勇気がいることだと感じていたのを覚えています。
そんな私の認識が変わったきっかけは、商談中に私が書き留めた、決してきれいではない文字の這うノートに、お客様が「それを写真に撮らせてもらえませんか」と声をかけてくれたことです。もともと私は写真に撮られることを想定していませんでしたので、紙面はきれいにまとまっていませんでした。ただ箇条書きでいくつかキーワードを並べ、大事な言葉に星印をつけて、赤いサインペンで囲っていました。
それを写真に撮るって? 私はとても意外でした。こんなノートで価値があるのなら、むしろ自分から積極的に見せてみようと思い、次の商談からは意図的に大きな文字でキーワードを並べて、お客様へ「どれが大事ですか」と尋ねてみることにしました。その結果、打ち合わせの途中で認識のすり合わせができるようになり、お客様からも喜ばれるようになりました。
この方法を始めて気づいたことがありました
こういった確認作業は、打ち合わせの最後にやると理解のずれが怖いものです。もし深刻なずれが終了間際に発覚すると、その後の挽回が難しいからです。したがって、途中の段階でノートを見せて、「ずれているところがあれば早めに教えてもらえませんか」というスタンスのほうがうまくいきます。むしろ、自信がないときほど早めに見せて確認したほうが、よいことが起こりました。
私はいまではオンライン会議のときも、手元で打っているメモを途中で画面共有し、相手に見せて確認しています。会話のスピードが速いときは、自分の手元でメモのウィンドウを2つ立ち上げておいて、片方は「人に見せず、ただひたすら書くメモ」、もう片方は「相手に確認を求める要点だけ貼りつけたメモ」のように分けています。