本記事は、高橋浩一氏の著書『気持ちよく人を動かす』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。
「4つの壁」と「対応策」
想定する「壁」は4種類
ここでは「壁」と「対応策」について、しっかりとおさえておきましょう。
疑問・反論などの「壁」に対して、無理に説得や論破をしようとしても相手はスムーズに動いてくれません。
1章でもお伝えしましたが、こういう壁の存在を、「結論を進化させてくれる材料」として前向きに捉えることで、相手と「共に創る」感覚が磨かれていきます。そのためには、壁につまずかず、乗り越える引き出しを武器として身につけていくことが重要です。
「想定する力」の中で最も難しいのは、事前に壁をもれなく洗い出しておくことです。多くの方は、ここで、壁を洗い出しきれずに「想定外」の事態に直面します。
もれなく洗い出すためのコツは、「壁にもパターンがある」と考えることです。
「関係性」「情報整理」「思い込み」「損得勘定」という観点が頭の中に入っていれば、まずは最低4通りの壁について素早くチェックすることができます(上図参照)。
これから、それぞれの壁について解説しますので、4つがパッと浮かんでくるように頭の中に入れてしまいましょう(5章から8章にかけて1つずつ、4つの壁を乗り越えるための具体的なスキルを扱います)。
気を許していないので動きたくない「関係性の壁」壁の1つ目が「関係性の壁」です。
- 「よくわからない相手に対して警戒している」
- 「なんとなく、そのまま説得されたくない」
- 「気を許していないので、行動するのを控えている」
このような原因で、相手から保留されることがあります。これは、提示している内容への賛否とは関係なく、相手と自分との関係性が原因となって起こっている抵抗です。
特に「関係性の壁」は、社内においてよりも社外の相手とのあいだで発生しやすくなります。相手のことがまだよくわからず、警戒心が拭いきれない状態ということです。
しかし、相手から「まだあなたのことがよくわからないので、動きたくありません」とストレートに言われることは多くないでしょう。あたりさわりのない言葉ではぐらかされるほうが一般的な反応です。
注意すべきは、相手からこういった反応が出てきたときに、情報を追加して強引に説得しようとしないことです。関係が築けておらず、相手の心の中がわからないままにプッシュしても、頑なに抵抗されるだけです。
「関係性の壁」を乗り越えるには、相手の心の中にあることをすっきりと吐き出してもらうことに加えて、こちらからも率直な自己開示が必要です。
相手の発言に耳を傾けること(傾聴)は、相手の存在を大切にするというメッセージです。また、相互理解が進むことによって、相手のほうから「受け入れよう」というモードになってくれます。傾聴を通して相手と関係を築くスキルについては、5章の「理解を深める力」で詳しくご説明します。
状況がクリアになっていないので動きたくない「情報整理の壁」
壁の2つ目が「情報整理の壁」です。
- 「まだ、頭の中が整理できていない」
- 「慌てて判断したくない」
- 「もう少し考えてみたい」
こちらとしては熟考を重ねた末のベストな提案であるほど、えてして相手からはすぐに返事をいただけないものです。
社内で上司に対して提案したことがなかなか決裁されずにやきもきするというのは、よくあることです。また、営業であれば、お客様へ提案をしたあとにその場でお返事をいただけず「もう少し考えたいです」と言われ、商談が停滞してしまった経験をお持ちの方も多いでしょう。
このような保留は、相手にとって状況がクリアになっていないことから起こるものです。とはいえ、ビジネスにおいては、意思決定できる十分な情報が揃うまで時間がかかりすぎると、機を逃してしまいます。また、「どこまで情報を集めたら判断できるのか」というラインは、人によって異なるので、ただ待っていても解決しないことは多々あります。
「考える時間がほしい」と言う相手に対して、さらに追加で情報提供をしてしまいがちですが、相手からすると、いたずらに情報を足されてもわからないことが増えるだけです。それより、検討に必要な情報を整理して「見える」ようにすることで、物事が前進します。
どうやって情報を整理するかについては、6章の「見える化する力」で詳しくご説明します。
これまでの経験や直感から動きたくない「思い込みの壁」
3つ目は「思い込みの壁」です。
- 「なんとなく、よくないイメージを持っている」
- 「過去のマイナス体験があるので、抵抗を感じる」
- 「特定の情報に引っ張られ、気にしている」
このような、固定観念や先入観によるネックは手ごわいものです。
たとえばあなたが、社内への依頼が多い業務に就いているとして、他部署に協力依頼をしたとき、その場で渋々と「……またですか。わかりました。対応します」という返事をもらったら、「また」という台詞から相手の後ろ向きな気配を感じるのではないでしょうか。今回の依頼は「過去のお願い」とは事情が異なっていたとしても、ひとくくりにしたネガティブな反応があるとやりづらいですね。
また、社外でも「思い込みの壁」はあります。お客様に営業の提案をしたときに出てくる「以前同じようなことを試みたがうまくいかなかった」などは比較的、登場頻度が多い断り文句です。
「思い込みの壁」が出てきた場合は、具体的に影響を与えている情報を深く掘り下げていく必要があります。その際には、相手の思考や認識に対する「リフレーミング」が効果的です。リフレーミングとは、ある枠組み(フレーム)で捉えられている物事について、違う枠組みで見ることです。
どうやってリフレーミングするかについては、7章「思い込みを外す力」で詳しくご説明します。
割に合わないので動きたくない「損得感情の壁」
さて、4つ目の壁は「損得勘定の壁」です。
- 「損をするのは避けたい」
- 「いまの選択肢が気に入っているので手放したくない」
- 「ほかの選択肢のほうが魅力的」
このような損得勘定に対しては、場当たり的に強引な説得をしても、なかなか前に進みません。動かない理由が、一見すると論理的なものだからです。
特に、社内外との交渉やお客様への提案においては、条件のやり取りをする中で、結論次第によって双方の損得が大きく動きます。気持ちよく動いてもらうために、損得勘定の壁を乗り越える「落としどころ」が切実な問題として迫ってきます。
メリットやデメリットについては、相手が具体的にどう認識しているのかを引き出し切る必要があります。こちらから一方的なメリットのプレゼンをするだけでなく、相手が感じているメリット・デメリットをしっかりとヒアリングしましょう。そのうえで、選択肢や判断基準に影響を与えるディスカッションができるかどうかが重要です。どうやって意思決定の軸に影響を与えるかについては、8章「軸を動かす力」で詳しくご説明します。
さて、ここまで4つの壁について説明してきました。それぞれの壁を乗り越えるスキルを学ぶ前に、おさえておくべき1つの前提があります。
それは、一方的にこちらが伝える時間が長いと、どうしても「競い争う」展開になってしまいやすいということです。相手と「双方向のやり取り」が成り立って初めて、共に創るディスカッションができます。
そこで、「4つの壁の乗り越え方」をお伝えする前に、次章で「双方向のコミュニケーションをどう段取りするか」を学んでいきましょう。