kifutown

ZOZO創業者の前澤友作氏が熱心にお金贈り(お金配り)の活動をしているのは、多くの人が知るところだろう。その期間は約2年半、総額は約32億円、延べ人数は25,164名におよぶという(2021年7月24日 株式会社ARIGATOBANK発表より)。

そのお金贈りプロジェクトに端を発して生まれたサービスが株式会社ARIGATOBANKの『kifutown』だ。同社代表取締役の白石陽介氏にその詳細を聞いた。(聞き手:菅野陽平)

個人間で簡単に寄付し合えるプラットフォーム『kifutown』

――株式会社ARIGATOBANKとはどのような会社なのでしょうか? また、今年7月には最初のプロダクトである『kifutown』をローンチされたとのことですが、どのようなサービスなのでしょうか?

当社は「お金に困っている人をゼロにする」をビジョンとしており、そのためのミッションとして「新しいお金の流れを作る」を掲げて、様々なプロダクトを作っている会社です。 ZOZO創業者である前澤友作が常々考えてきたお金に関する課題を解決するために集まった集団と言えます。その第一歩として、個人間で簡単に寄付し合えるプラットフォーム『kifutown』を2021年7月にローンチ(当時はiOS版のみ)しました。具体的には、前澤から寄付を受けたい人が寄付プロジェクトへ応募できる機能を提供していました。 Android版も9月15日にリリースしています。

もともとは『kifutown』で寄付プロジェクトを作成できるのは前澤のみでしたが、9月30日からは、iOS版で「寄付を行いたい人が誰でも寄付プロジェクトを作成できる機能(寄付機能)」をスタートしました。アプリをご覧いただくとわかると思いますが、開始1週間(編集部注:インタビューは10月6日に実施)でかなり多くの人にプロジェクトを作成していただいています。想定していた数より多く、我々としても驚いています。

これまで寄付をターゲットにしたサービスはいくつかありましたが、そこまで大きな市場にはなっておらず、当社は既存のFinTech企業に比べると比較的特殊な立ち位置の会社だと思います。前述のようにビジョンとミッションが明確で、そこに共感したメンバーが集まって運営しています。前職が金融機関、FinTech業界、ペイメントサービスという者も多いですね。

『kifutown』のようなお金のやり取りをするサービスをスクラッチで作るとなると、一般的にリーガルリスクやレピュテーションリスクが高くなりやすいです。特に当社の場合は、前澤という比較的知名度がある者が関係者におりますので、なおさらレピュテーションリスクが高くなりますが、そのようなリスクに対応できるメンバーが集まって運営できていると感じています。

kifutown
『kifutown』は3ステップで簡単に寄付ができる

寄付する側のメリットは?

――寄付する側(以降、寄付者)にはどのようなメリットがあると想定してサービス設計されているのでしょうか?

それはサービスを作るときにかなり議論となったポイントです。ビジネスサイドからもプロダクトサイドからも同様の投げかけはありました。しかし、どのようなメリットがあるのかは、実際のところ、寄付した人にしかわかりません。そこで実際に寄付したことがある多数の人にヒアリングしてみました。前澤は以前、コラボお金配りをしていましたので、そこでコラボしてくれた人、さらに、コラボを受諾してくれたけど予定などが合わずに実現しなかった人にも話を聞きました。

その結果、全員ではありませんが、必ずしも対価を求めているわけではないということがわかったのです。「完全に匿名でいいから寄付したい」という人も一定数いました。現時点では、Twitterでフォロワーを増やすためのマーケティング手法として『kifutown』を活用している人もゼロではないですが、そうでない人もいらっしゃいます。寄付者は寄付する人に必ず自分のアカウントをフォローしてもらう設定もできるのですが、そうしていない寄付者も見受けられます。

ヒアリングや様々な調査の結果、「なぜ寄付に積極的になれないのか」ということに対する仮説として、寄付者から見たときに寄付を受ける人とのつながりが少ない、どう使われているのかわからない、寄付後のフィードバックが少ない、といったことが浮かびあがってきました。こうした問題を解決するために『kifutown』を作ったというわけです。寄付する相手の声を直接聞けることは、非常に大きいことだと思います。

寄付機能の開放後、私と取締役の山口公大も実際にプロジェクトを立ちあげてみると、寄付を受けたい人のコメントが数千件来ました。コメントを見てみると、その人なりの応募の経緯を真摯に書いてくださっており、そうした声を見ると、また寄付したくなります。実際、この短期間で2回目の寄付をしている人もいらっしゃいます。

kifutown
ZOZO創業者の前澤友作氏と株式会社ARIGATOBANKの白石陽介代表取締役

――つながりや心の充足感といった精神的なメリットも寄付の原動力になっているのですね。ただ寄付をするとなると、富裕層や高所得者など、それなりに資産や収入がないと難しいのではないかと感じます。寄付者はどれくらいの経済的階層をイメージしていたのでしょうか?

世界の個人寄付マーケットを分析すると、米国の寄付市場は日本の約100倍あります。なぜこんなに違うのかと言うと、「超富裕層の数が違う」ということもありますが、「収入の多寡にかかわらず寄付の文化がある」ということが言えると思います。日米では寄付に対する税制が違うという指摘もあるとは思いますが、米国の場合、寄付は必ずしもお金がある人がやることではないのです。我々が目指すのもそちらです。

前澤が協力者を募集して実施した「#毎週お金贈り」は最低500万円でしたので、確かに富裕層でないと難しかったと思います。ただ、『kifutown』で作成可能な寄付プロジェクトは寄付総額10万円以上ですので、10万円が低い金額とは全く思っていませんが、富裕層でなくても寄付できる金額だと思います。どんどんマス化させていきたいですね。

将来的には、この最低ハードルをもっと下げたいと思っています。ニーズがあるかどうかはさておき、1円からでも寄付ができるようにしたいですね。ただ、現在は銀行振込で対応しているので、1円の寄付で220円の振込手数料がかかってしまうと、サービスの広がりは望めません。そこで、ゆくゆくは電子マネーでやり取りができるようにしたいと思っています。

重要なポイントは、「1万円を1人に配ること」と「総額10万円を10人に配る(1人あたりの金額は1万円)こと」は、1人あたりの金額を見れば同じということです。1人に対しては、同じ深さの意味を持たせることができます。そして、寄付金額の多寡によって、精神的なメリットが変化するわけではないと思っています。子どもが1,000円のお小遣いの中から100円を寄付して、誰かから「ありがとう」と言ってもらう経験には、大きな価値があると思っています。

kifutown
『「自分たちのビジョンやミッションに沿っているか」を大切な判断軸として持ち続けたい』と語る

チャレンジを後押しできるサービス、会社でありたい

――今後、『kifutown』をどのように大きくしていきたいでしょうか?

安心安全に使ってもらうことが重要だと思っていますので、審査体制やモニタリング強化は日々進めています。それを前提として、まずやるべきことは、先ほど申しあげたように電子マネーサービスをローンチして、お金の送受のフリクションをなくすことだと考えています。そうすれば、新しいお金の流れを作る土台はある程度できてくると思いますので、その上でお金の悩みを解決するサービスをどんどん作っていきたいですね。

お金のやり取りをリアルタイム化、シームレス化することも目指したいと思います。現在は寄付者から入金してもらって、当社で入金を確認し、プロジェクト内容も確認し、それから寄付を受ける人に送金するという流れを取っており、時間と人手がかかっています。

――株式会社ARIGATOBANKとしては、どのような会社にしていきたいとお考えでしょうか?

定性的な観点で言うと、私は今まで決済サービスを中心にキャリアを歩んできましたが、ほとんどの決済サービスは、企業のエコシステムとしてのサービスという意味合いが強かったと思います。ある意味当然のことなのですが、当社は寄付者、寄付を受ける人の相互ほう助のプラットフォームでありたいと思います。大手の傘下に入ると中立的なプラットフォームを提供することが難しくなると思いますので、独立して事業を進めていきたいですね。

ビジョンドリブンで集まったメンバーなので、「自分たちのプロダクトは本当に課題解決に向かっているのか」ということを自問自答し続けることも重要です。短期的な収益化を目的としたサービスではなく、「自分たちのビジョンやミッションに沿っているか」を大切な判断軸として持ち続けたいと思います。

定量的な観点で言うと、具体的なKPIは申しあげていないのですが、現在の『kifutown』ダウンロード数が約85万です。ローンチが7月で、iOS版とAndroid版の両方がそろったのが9月15日ですので、初速としては悪くない数字だと思います。FinTech系サービスだと分類されるのであればなおさらです。

ただ、前澤のTwitterフォロワー数が1,000万人以上ですので、新しい世界観を作ろうとしている会社である以上、このような数字を目指していきたいと思っています。「こういうチャレンジがしたいのだけれど先立つものがない」というシチュエーションは、多くの人が経験されたことがあるのではないでしょうか。親や友達にお金を借りることができれば良いのですが、昔よりはそのようなリレーションも薄くなっていると思いますので、そうしたときに、チャレンジを後押しできるサービス、会社でありたいと思っています。