次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回のゲストは、デジタル・インフォメーション・テクノロジー株式会社代表取締役社長の市川聡氏。ソフトやハードという枠組みを外し包括的なサービスを提供する同社の強さの根源や思い描く未来について伺った。
(取材・執筆・構成=丸山夏名美)
神奈川県出身。大学卒業後、鍼灸師として院長業務を務める。創業者の市川憲和の誘いにより、2004年3月入社。経営企画部長時に上場準備を推進、商品開発部長時に自社商品WebARGUSを立ち上げ、エンべデッドソリューションカンパニー社長時に戦略的に車載関連業務をメインにし、業績を伸ばす。その後、事業本部長として事業全体を統括、18年7月代表取締役社長に就任し、現在に至る。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
時代の流れを先取りし、お客さまのニーズに寄り添うことで事業が拡大
冨田:非常に広い事業領域を展開されていますが、ここ3~5年の事業の展開について教えてください。
市川: 弊社は創業期から、1つの会社として規模を大きくするのではなく、ITの分野ごとに法人を立ち上げ、それぞれが得意領域を伸ばす戦略をとってまいりました。
一つの会社になった今でも、それぞれが得意領域をもつカンパニー制として受け継がれております。
その中で、大きくエンベデッドソリューション事業、自社商品事業、ビジネスソリューション事業という3つの事業を展開しております。
市川: 1つ目のエンベデッドソリューション事業については、車とインターネットがつながる「CASE(※1)」と呼ばれる領域で組込み系の開発にしっかり取り込んできたことで、業績が大きく伸びています。
2つ目の自社商品事業については、主にお客さまの業務効率化およびセキュリティ事業を展開していますが、近年これらは社会的に需要が伸びている分野です。取り組んできた事業領域がちょうど時代の流れに合い、さらに上場したことで認知度も上がりましたので、多くのお客さまに受け入れられるようになった……。うまく時代の流れを先取りできた形です。
この分野の事業については、上場前は売上構成比の1%もなく「その他事業」としていたのですが、今では5%程度に成長しました。基本はサブスクリプション型の売り上げとなるので、ダムに水が溜まるがごとく売上に貢献しています。
3つ目のビジネスソリューション事業については、近年では運用サポートが伸びています。時代とともにお客さまのニーズも大きく変化する中、しっかり個々のお客さまの業務内容を理解した上で、お客さまと一緒になって業務を改善することを通じて、信頼いただける存在になったことが、業績の拡大につながったと考えています。
これら3つの事業の他にシステム販売事業がありますが、ここは子会社が行っており、中小企業向けのサービスを担っています。
※1:CASE:「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリングとサービス)」「Electric(電動化)」を合わせた概念
自社に蓄積された技術・ノウハウを生かし、さらなる新規事業の展開へ
冨田:決算資料を見ると、「各事業の位置づけ」のページの一番上に「さらなる新規事業分野を開拓」と書かれていますが、どのような分野に向かう可能性があるのでしょうか。
市川:まずは、私たちが力を入れてきたサーバーサイドのセキュリティの分野のノウハウを活かし、「IoT分野でのセキュリティ」をキーワードにしっかりと伸ばしていきたいと考えています。
次に、CMS(Contents Management System)のセキュリティに関連するサービスの展開です。世の中には多くのCMSがあるのですが、オープンソースのものが多く、誰でも自由に手軽に使えて便利な一方で、サイバー攻撃で狙われやすいというリスクがあります。そこで、弊社は、CMSとセキュリティを融合させたshield cmsをリリースしました。
さらに、他社のサービスと連携した事業展開を考えています。
例えば、コロナ禍でお客さまの仕事がリモートに切り替わる中で、出社しなくても業務を滞らせないようにしたいという要望がありました。弊社ではこうした要望に対し、日鉄ソリューションズ株式会社(NSSOL)様の電子契約サービス「CONTRACTHUB(コントラクトハブ)@absonne(アブソンヌ)」に、付加価値として導入から運用・運営を弊社で行うサービスをつけ、電子契約のアウトソーシングサービス「DD-CONNECT」というサービスを展開しました。
他にもお客さまのニーズに素早く対応できるよう、他社のサービスを含めてご提案できる事業展開を考えています。
冨田:幅広い領域で事業展開をしておられますが、貴社の事業における軸やコアコンピタンスについてお聞かせください。
市川:弊社のコアコンピタンスは大きく3つあります。1つ目は、金融系を中心としたお客さまが使うシステムのアプリ開発です。お客さまへの実績がある中で、業務についての知見があり、開発技術も兼ね備えていることは弊社の強みです。
次に、組込み系サービスの技術と知見です。マイクロコンピュータの制御技術、通信の制御技術に強みをもっています。また、車業界でのセキュリティを意識した仕組みの提供など、ここでも組込み系の技術だけでなく長らく蓄えた知見があることも強みです。
最後に、自社商品についてです。お客さまに提供するセキュリティ、業務効率化などオリジナルの技術があり、ノウハウが蓄積されていますから、それらを生かして商品化できる点も強みでしょう。
エンジニアの挑戦を後押しすることで生まれた主力事業
冨田:貴社はこれら社会にマッチしたサービスを展開するうえでどのようなアプローチをされているのでしょうか。
市川:エンジニアたちの「自分たちの技術やノウハウを使ってサービスを作りたい」という思いからサービスが生まれています。会社は彼らの思いを大切に後押しします。実は、弊社はたくさんのサービスを生み出していますが、多くは失敗してきました。そんななかでも、社会にちょうどマッチしたサービスが残り、成長しています。
冨田:中期経営計画の中で「商品力強化」について触れられています。既存商品の顧客拡大に加えて、得意分野の商品化、時代のニーズに適合する商品開発などについて書かれていますが、今までの経験・ノウハウ、さらに開発体制や業界ノウハウもあるから、このように幅広い方針が立てられるのですね。どこの事業部という切り分けでなく、横断してこのような方向性という理解で問題ないでしょうか。
市川:はい。事業部という単位でなく全社として展開していく方針です。
カンパニー制に横串を刺すことで、組織が効果的に機能する
冨田:2代目の代表としての経営スタイルについてお伺いさせてください。経営判断をするうえで重視していることは何でしょうか。
市川:創業社長、つまり今の名誉会長は、何がなんでも自分で情報をつかんで経営判断をして指示命令を出すタイプでした。現在では会社が1,000人の規模になり、1人で全ての情報を知ることは難しくなりました。
今は、事業のカテゴリーごとにキーマンを配置し、しっかりとコミュニケーションを取りながら情報収集をし、彼ら1人ひとりがどう進めたいかヒヤリングして方針を決めています。メインの3つの事業には本部を作り、本部長を立てています。
基本的には事業ごとに権限委譲をしています。また、今まで社内カンパニー制で縦割りが強かったのですが、横串もさせるようキーマンや役員が連携してコミュニケーションを取るような体制作りをしています。
上場してから、この体制がうまくいき始め、会社全体としても動き始めたという実感があります。
ソフト・ハードの枠を超え、すべてをお任せできる企業へ
冨田:これほどの規模で組織がうまくワークするのは一般的には難しいですが、貴社のコアコンピタンスや独自の開発体制があるから組織としてうまく働くのですね。最後に、思い描く未来構想を教えてください。
市川:時代が大きく変革している今、包括的に社会のニーズに応えて開発ができる強者はまだいません。そんな中「デジタル・インフォメーション・テクノロジーにお願いすればなんとかなる」とお客さまから頼りにされる。そんな企業にしていきます。
冨田:ソフトウェア、ハードウェアと別々になりがちですが、ともに実績を出しているからこそ他社では難しいユニークな未来が描けますね。貴重なお話、どうもありがとうございました。
プロフィール
- 氏名
- 市川 聡(いちかわ・さとし)
- 会社名
- デジタル・インフォメーション・テクノロジー株式会社
- 役職
- 代表取締役社長
- ブランド名
- DIT
- 出身校
- 明治鍼灸大学(現明治国際医療大学)卒業
- 資格
- 鍼師、灸師免許