次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回のゲストは、株式会社交換できるくん代表取締役社長の栗原将氏。巨大な市場の中で新たな領域を開拓し、他社がやらないような形でお客さまの困りごとを解決していくという、強固なビジネスモデルとその可能性について聞いた。
(取材・執筆・構成=落合真彩)
給湯器やガスコンロ、トイレなどの住宅設備の交換をネット完結で提供する、インバウンドマーケティング型サービス「交換できるくん」を運営。
現地調査を行わず、お客様からお送りいただいた写真をもとに正確でスピーディな見積回答を行う仕組みを構築。
業界の常識をうち破る販売方法により、現在は年間3万件以上の工事に対応。2020年12月東証マザーズ上場。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
従来の商慣習を覆すビジネスモデルを構築
冨田:2020年の12月23日に上場されてまだ1年足らずというタイミングですが、まずは創業からこれまでの事業の広がりや変遷、上場されてからの変化などについて伺いたいと思います。
栗原:20代の頃、アウトバウンドの営業をしていた私は、「お客さまに寄り添って感謝してもらえるような仕事をしたい」とぼんやり考えていました。たまたま弟がやっていた水道修理の仕事を見せてもらったときに、困っているところに訪問して直して、感謝されるこの仕事は非常に面白いなと感じて、水道修理の事業で1998年に創業。ただ、当時23歳。若さと勢いで動いていたので、あまり計画性があったとは言えず、業界のことも知らないままでした。
実際に事業を始めてみて、なかなか収益が上がらないという課題に直面しました。同時に、全ての業者ではないと信じたいですが、お客さまの足元を見て、高額請求をすることが当たり前のように行われている業界であることにも気づきました。チラシには「修理3000円」と書いてあるのに、何万、何十万円の請求をされたというような話を見聞きされたことのある方も多いのではないでしょうか。私は、そういうことをせずとも収益が上がっていく仕組みをつくりたいと思いました。
ただ、やはり集客のためのチラシやマグネットをつくり、24時間体制のコールセンターを整備していくと採算が合わないのが実情です。そこで私は営業経験を生かして、提案型のスタイルに変えることにしました。
冨田:修理において提案型とはどんな形になるのでしょうか。
栗原:チラシに3000円や5000円と書いたものはその金額で修理します。そのうえで、トイレであれば、当時はまだウォシュレットがついているご家庭が半数くらいだったので、「ウォシュレットをつけるとこうなります、見積もりだけでも見てください」といったことを丁寧に提案する。そういった中からご注文いただいて何とかやりくりしてきました。それが発展し、総合リフォーム会社へ成長していきます。
同時に、インターネットの光回線が出始めた頃、ホームページで住宅設備器機の販売を始めました。最初は商品だけを販売するシンプルなスタイルでしたが、物珍しさがあって順調に売上を伸ばしました。ただ、インターネットが普及すればするほど価格競争になることは見えていたので、住宅設備機器を工事付きのセットで販売することにしました。これは、以前から感じていた水道修理をはじめとするリペア領域の課題と、リフォーム領域の課題を解決するような仕組みになっています。
水道修理は先ほども言ったように見積や請求に関する不誠実さがあり、リフォーム業界では、トイレだけ、ガスコンロだけといった1部分の交換では採算が合わないために、なるべく大きな工事の注文を取ろうとしていました。ですがそれは住宅設備の交換だけをされたいお客さまの立場から見れば迷惑な話ですよね。
そこで、訪問見積もりを一切せずにインターネットで注文を完結させ、工事は自社の従業員が行うというモデルにしました。これは従来の商慣習とは逆のやり方でした。
冨田:従来はどのようなやり方をされてきたのでしょうか。
栗原:従来は、見込みのお客さまに対して営業が訪問して商品説明し、工事が決まったら工務店に丸投げしていくようなやり方が主流でした。これだと非常に手間とコストがかかるので、採算が合わないのです。しかも住宅設備は毎日使うものですので、クレームも多い領域です。少しも手を抜けません。
この2つの課題に対して、インターネットでの見積もりで手間やコストを削減し、工事の品質を最大限担保するために、自社の従業員がしっかりと工事を行うようにしました。ここから、今の事業に発展しています。
訪問時の営業活動なしでもリピートされる仕組み
冨田:ありがとうございます。ひと手間かけることでお客さまとのリレーションが強くなり、結果として他の注文につながり、LTVが上がっていく。さらにAIの活用も進めて生産性を上げていくことで利益率を高めていると決算説明資料でも打ち出されています。
特に住宅周りのものは、多少不具合を感じていても修理は面倒なので、顕在化するまで放置するお客さまも多いですよね。そんなお客さまの潜在課題を一緒に見つけていくことで、「ついでにこれもお願いしたい」と言っていただく、ということですね。そのうえで、集客・営業・施工コストを削減し、価格競争力を得ていくところが競争優位になられていると理解しました。このあたり、補足はございますか?
栗原:ありがとうございます。先ほども申しましたが、従来から住宅設備機器業界は洗練されているとは言えない状況で、値段があってないようなものでした。そのため、業者に対してお客さまの不信感が募っているのです。それと同時に、若い世代の方々をはじめとして、インターネットで手間なくモノを買いたいというニーズも高まっています。
そういった傾向から、インターネットでのシンプルで分かりやすい見積もりと高品質の工事に注力しました。私たちは、自社スタッフが訪問して工事する際、あえて追加の提案といったような営業活動をしていません。
冨田:訪問時の営業活動をしないというのは業界の慣習からすると確かに逆行しているように思います。
栗原:そうですね。ここで営業をかけるとどうしても「売り込まれた」というような印象になってしまいます。訪問の際に重視しているのは、「スマートでさわやかだったね」という印象を持っていただくことです。
冨田社長がおっしゃったように、住宅設備機器は循環するものです。例えば最初にトイレを交換させていただいた方が、次に食洗機だったり、ガスコンロだったりに発展していく。たとえその時に顕在化されたニーズがなくても、1年に1回くらいは、家の中の何かが寿命になるので、「あの時、余計な営業をされなかった」という記憶を残せれば、必ず他の次もリピートしていただける。
そうやって、こちらから営業かけずにお客さまのほうから来てもらえるように、サービスを磨き込んでいます。この体制ができてくると広告コストも下がります。結果としてそれが競争優位性になってくるという構造です。
冨田:よくわかりました。集客・営業・施工など、コスト構造を変化させることができたプレーヤーは、それが大きな競争優位になるというお話をよく我々はさせていただくのですが、まさにそれを実現されていて、美しいモデルですね。
栗原:おそらく他社さんが、従来モデルのまま我々と同じ価格で販売しようと思うと、売れば売るほど赤字になってしまうと思います。
優良顧客を抱える他業界企業との提携を加速
冨田:競争優位をしっかり持っていく中で、例えば今後同業他社をM&Aをしていくといった構想もあるのでしょうか。
栗原:M&Aをするのであれば、私どものビジネスモデルをご理解いただける他業種の会社さんだと面白いのではないかと考えています。ただ、住宅設備機器は6兆円規模のリフォーム市場の中でも2兆8000億円と非常に大きい産業ですので、M&Aというよりは、まずここのシェアを獲得していきます。今後の展開としては、ブランド力があり、優良顧客を多数抱えている大企業さんとの提携を加速させていこうと考えています。
冨田:業界内でM&Aをするより、ユーザー基盤を持っていらっしゃる会社さんに御社の仕組みを提供して、共同でマネタイズしていくほうが最短距離であるという理解でよろしいですか。
栗原:はい。我々は中途半端に大きなリフォームはしておらず、他社がやりたくない部分を効率よく行って、しかも品質は担保しています。お客さまからピカイチの評価もいただいていますので、大企業さんにとっても入れやすいのではないかと思います。
冨田:今のお話に、経営者としての意思決定基準や軸が表れていると思いました。他に経営の意思決定の中で重視されていることはありますでしょうか。
栗原:労働環境もまだまだ洗練されていない業界ですが、まずユーザーファーストを考え、それと同時に、働く社員や実際に訪問する職人もハッピーになるかどうかを考えます。ただ、それだけだと能書きになってしまいますので、その上で、会社としてハッピーであるか、つまり業績を上げられるのかというところ、この3点のバランスだと思っています。一見矛盾するような3点ですが、それを解決するのはアイデアだと思うので、その発想力を大事にしています。
一連のサービス品質に絶対の自信。まずはマーケットを開拓する
冨田:ありがとうございます。「お客さんがハッピーになっているか」という視点は、先ほどお話しいただいた創業の経緯にも出てきたので、今のお話ですごくつながりました。最後に、思い描いている未来構想をお伺いします。
栗原:住宅設備機器だけでも3兆円近い市場がある中でも、当社が行うチェンジ(住宅設備機器の交換)領域は市場が未開拓だった領域です。だからこそ、これからニーズが高まる領域だと考えています。
上場してから特に気づくのですが、業界内にも当社の考え方ややり方に共感してくれる方はいらっしゃいます。どちらかというと私どもはルールブレイカーだったものですから、ずっと風当りは強かったのですが、そういう中にもご理解いただき、応援していただける方が株主さまやお客さまも含めて多数いらっしゃることを感じています。その分、責任を感じながら、期待に応えられるような成長をしていくことが当面の視線です。
冨田:まずはこの大きな市場で戦って、その中でお客さまとの接点を強く持てると、住宅設備以外の領域へと拡大していく未来も見えてきそうですね。ありがとうございました。
プロフィール
- 氏名
- 栗原 将(くりはら・まさる)
- 会社名
- 株式会社 交換できるくん
- 役職
- 代表取締役社長
- 受賞歴
- 08年9月 ベストECショップ大賞2008審査員特別賞受賞
11年11月 日本オンラインショッピング大賞 11月 最優秀賞受賞