次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、全研本社株式会社代表取締役社長の林順之亮氏。教育事業からIT事業へシフトし、IT事業の中でも景気動向を見ながら領域をシフトしていく柔軟な姿勢で事業を拡大してきた、同社の強みや経営者としての考えを聞いた。(取材・執筆・構成=落合真彩)

全研本社株式会社
(画像=全研本社株式会社)
林 順之亮(はやし・じゅんのすけ)
全研本社株式会社代表取締役社長
福岡県出身。19歳の時に起業を決意し、20代で独立。
教育×ITのビジネスモデルを構築し、同社へジョイン。IT事業をけん引し、教育事業からIT事業主軸へと業態転換に成功。同社社長就任時より上場準備を開始し、2021年6月マザーズ上場を果たす。
今日ではIT・語学・不動産の3事業を展開。主軸とするIT事業では、独自のWEBマーケティング戦略による集客支援サービス、海外IT人材と企業のマッチング、AI開発運用など、多様な事業を展開する。
生産年齢人口の減少およびグローバル・インバウンド(日本国内における国際化)が進む日本の市場環境を背景に「IT」そして創業より培った「語学」という2つの事業の強みを活かし社会課題解決にも取り組む。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

教育事業のケイパビリティを生かしてIT事業を伸長

冨田:全研さんは昔から知名度のある会社ですが、大きく変化した会社だと理解しています。事業の変遷を中心に、まずお伺いできると幸いです。

:弊社は元々、教育事業で創業した会社で、今年で46年目になります。私は32歳のとき、全研とは別の教育企業の販売代理店として起業しました。同時に、世の中ではITバブルが起こり、これからは教育業もITを活用した形態に変化していく必要があると考えていました。

そこで私はパソコン教室のフランチャイズ事業を思いつき、全研の創業者である吉澤(吉澤信男氏)のところに「出資をしてくれないか」とアプローチしました。吉澤から言われたのは「お金を出すから、会社ごと全研に来てくれないか」ということ。それをきっかけに私は全研にジョインし、同時に全研にIT事業が誕生したという経緯です。

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冨田:林社長のアプローチがきっかけで、全研という会社にIT事業が生まれたわけですね。

:はい。当時、今でいうZoomのようなオンライン画面共有システムを開発しました。沖縄の先生が北海道の生徒に対して、「ここをクリックしてドラッグ&ドロップしてください」と先生のカーソルを表示して指導できるシステムです。「自宅で、パソコン1台でパソコン教室のオーナーになれる」という仕組みは当時非常に画期的で、フランチャイジーを順調に獲得できましたが、回線の問題が立ちはだかりました。

今の時代ですらたまにZoomが落ちたりしますよね。20数年前は比べものにならないくらい回線が不安定だったので、その事業は時期尚早ということで一旦断念することになりました。ただ、そのときに集客用のWebページをつくったことが、その後の事業のヒントになりました。

冨田:なるほど、そのヒントをもとにどのように発展していったのでしょうか。

:20数年前にZoomの仕組みを理解してもらうのは非常に難しかったんですね。理解を進めるために今でいうオウンドメディアをつくって、Webページ上でサービスの仕組みを解説するようにしました。それを例えば「フランチャイズ パソコン教室」「パソコン教室 起業」などのキーワードで表示させるわけです。

ランディングページだけでは流入の割にコンバージョンしなかったのですが、丁寧に仕組みを説明したページからの流入になると非常に高いコンバージョンが得られて、これはすごいと思った私は、全研グループ内のあらゆる事業でWebページの戦略を実行しました。すると、どの事業でもリスティング広告やバナー広告、アフィリエイト、リターゲティングなどを遥かに上回るコンバージョンを得ることができました。

コンバージョンが上がる理由はといいますと、「売らんかな」とした広告と、それから記事広告とを比較していただくと、分かりやすいかと思います。記事広告をWebで展開し始めたモデルと言えます。

これを本格的に事業にしようと10年ぐらい前からコツコツと拡大してきたのがコンテンツマーケティング事業です。現在は1000数百サイトを構築し、安定的に成長することができています。

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私たちは元々教育業をしてきましたから、教材をつくる中で出版社としての機能も持っていた。その利点を生かし、現在は大量の外部ライターを1000人以上、内部でSEOのわかる編集者を130人ほど抱えています。

自社で「ライターステーション」という求人サイトも運営しているので、無料で何千人ものライターを集めるような仕組みもあります。その結果、現在上場企業で競合と言える会社はゼロと言えるくらい、唯一無二の会社となりました。

上場を目指し、徹底的に会社の体質を変えた4年間

冨田:ありがとうございます。競合がいないのはどのような理由からでしょうか。

:単純に面倒くさいからでしょうね。私たちは他社が面倒くさいと思うことをやってきましたし、品質にこだわり、安価では受けないようにしてきました。ランディングページが乱立して、なかなかそれだけではコンバージョンしない時代に入ってきた中で、高いコンバージョン率を誇っており、「さまざまな広告の中で一番コンバージョンが高いのが全研さんのメディアです」とよく言われます。

冨田:お客さまのコンバージョンという成果を出し、口コミなどでも評判が広がることで、安価ではない形で受注でき、その結果利益率も上がっていくというような構造ですね。ありがとうございます。次に、上場にいたるまでの経緯をお聞かせいただけますか。

:創業者の吉澤から社長を継いだのが2014年です。「社長を継いでくれないか」と言われたときに私は、「上場を目指していいですか」と聞きました。「上場させるということは、オーナーが育ててきたプロパーの事業などを、整理することになるかもしれないということです。それでもいいですか」と。一瞬、間が空いたのですが、「わかった」と承諾を得て、上場を目指したという経緯です。

当社は、傍目にはジャスダックにいるような会社に映るかもしれません。ですが私としては断然マザーズを目指す会社であると思ってきましたし、上場後もプライム市場まで目指すと公言しています。この4年間で、次々と事業売却や整理をしてきました。就任当時1000数百人いた従業員も今は450人程度です。そういう形で、上場に値するだけでなく、プライムに向かえるだけの利益率を持つ会社に変貌させてきました。

冨田:非常に筋肉質な会社に変わられてきたのですね。2020年6月で連結売上が58億円に対して営業利益が7億5000万円でしたが、2021年6月の連結売上が62億円に対して営業利益が12億円となっています。1年で営業利益率が13%から20%へと一気に引きあがった、というのがそれを示していると思います。この業界業種で営業利益率20%は驚異の数字だなと、いろいろな会社さんを横比較していくと思います。

:はい。直近の上場準備よりも、その手前の諸先輩方や創業者がつくってきた事業を次々と解体、売却していく4年間が一番きつかったですね。心情的にもさまざまな思いが巡りました。社内からは「非情な人」という印象を大いに持たれたと思います。

景気や情勢に応じて注力領域をシフトできる柔軟なビジネスモデル

冨田:ありがとうございます。先ほどご説明の中で出版社の機能もあったからこそ、自社でコンテンツをつくれたというお話もありました。1000数百のサイトがあるということですが、その中でも強い領域や、全研さんならではの特徴があるのでしょうか。

: IT事業は30%前後の利益率を誇っています。その一番の理由が、製作費と運用費の両方をいただくモデルです。つまり、クライアント様の商品や競合環境をヒアリングさせていただき、コンサルティングをして、サイト制作から公開後の運用までをワンストップで行っています。

日本には9,000以上の駅があり、周りには美容室やクリニックなど、10以上のいろいろな業種があります。我々は1エリアに対して1社を勝たせていくビジネスモデルですから、まだまだ全体の10%も取れていないという状況。ですので主力事業は安定的に成長させられるだろうと思います。

また、時期に応じてそのとき強い業種にいくらでも対応可能であるところが弊社の強さだと自負しています。昨年、緊急事態宣言が発令され、まず縮小を余儀なくされたのが三密系の事業。結婚式場やフィットネスクラブ、英会話スクールなどが一気に打撃を受けました。その一方で、住宅系は当初、非常に増えていました。自宅にいる時間が長くなったことで、家族で話し合う時間が増え、住宅ニーズが急騰したのです。これに合わせて住宅業界を攻めました。

すると今度は、海外から木材が手に入りづらくなってきました。木材が高騰して住宅業界が厳しくなってきたところで、電気・機械・土木・建築などのBtoB業界にシフトし、今はここが急激に伸びています。来年以降は三密系も徐々に戻ってくる感覚があるので、また伸びていくのではないかと予測しています。

私たちは大きなメディアを1つ2つつくるのではなく、小さなメディアを何百何千とつくってきたので、景気不景気に合わせていくらでもシフトすることができるのです。

座右の銘は「上りのエスカレーターに乗る」こと

冨田:1人1人のニーズがより細分化され、マスメディアよりも、ソーシャルメディアやニッチなミニメディアの時代になってくるという流れがあると考えていますが、このトレンドにとっても非常に強いモデルですね。ありがとうございます。最後に、未来構想についてお話しいただきたいと思います。

:まずコンテンツマーケティングは、先ほど申したように全国の駅やキーワードごとに面を埋める戦略を実行します。それから従来のアウトバウンド営業に加え、「キャククル」というインバウンドマーケティングメディアを立ち上げ、リード獲得につなげ始めました。現在はアウトバウンドが9割、インバウンドが1割という状況ですが、将来的にはインバウンドの割合を3割、4割と高めていこうと考えています。

また、日本の就労人口が減っていくに伴い、海外人材やIT人材のニーズが高まっています。弊社では、留学事業で培ったノウハウを生かして、インド・ベンガルールの29大学と提携し、人材の供給をサポートしています。当社の日本語学校で教育することで言葉の壁を乗り越え、全国の中小企業、大企業に安定供給をしていく。

全研本社株式会社

そのために新たなプラットフォーム開発に着手しています。日本企業が英語で自社PR動画をつくり、海外人材が英語エントリーできて、ITテストや面接もプラットフォーム上で進められるようなダイレクトリクルーティング事業となります。これを成長させていきます。

私たちは「グローバル・インバウンド」という言葉をキャッチフレーズとしています。これからの国際化は日本国内で起こるという意味合いです。外国人に日本語教育を施して、日本で働けるルートを提供する。これはSDGsにも貢献できるものだと考えています。

私の座右の銘は「上りのエスカレーターに乗る」。つまり、成長市場に必ず参入し続けることを経営判断上、一番大事にしています。企業の最大の資産は人ですから、働く人が期待を描けるような未来を提供し続け、人生をかけて働ける会社にしていきたいと思います。

プロフィール

氏名
林 順之亮
会社名
全研本社株式会社
役職
代表取締役社長