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SDGsに世界的な注目が集まる中、投資の分野においても「SDGs投資」というキーワードが話題になっている。SDGs投資とは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」に積極的に取り組む企業銘柄やプロジェクトへの投資のことを意味する。果たして「SDGs投資」は一過性のトレンドなのか。それとも、世界中の企業に地球環境保護対策を根付かせる契機となるのだろうか。本記事では、主にビジネスへの影響を軸に「SDGs投資」の動向を解説する。
SDGs投資とESG投資の違いとは?
「SDGs投資」というキーワードがメディアで盛んに取り上げられている。まずは、SDGs投資という言葉が生まれる元になったSDGsの意味を解説する。
SDGsとは? 持続可能な開発の三側面(経済/社会/環境)の調和を目指す世界の潮流
SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字をとった言葉で、「エスディージーズ」と読む。2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際目標だ。
「Sustainable Development Report 2021」では、各国のSDGs達成度がスコアリングされ、ランキングが公表されている。1位から3位まではフィンランド、スウェーデン、デンマークなどの北欧諸国が占める。日本は18位だ。
参考:SUSTAINABLE DEVELOPMETNT REPORT > Rankings
SDGs投資とは? ESG投資との違い
SDGs投資とは投資を通じて、SDGsの達成に貢献することだ。たとえば、SDGs達成に向けて個人でできる行動として、SDGsに積極的に取り組む企業の商品を買うという行動が挙げられる。しかし、消費者としてだけでなく、投資家としてSDGs達成に貢献することも可能だ。
なお、SDGs投資と似た投資概念であるESG(イーエスジー)投資も注目を集めている。ESG投資とは、環境(Environment)/社会(Society)/ガバナンス(Governance)という3つの要素を考慮して投資先を選ぶことを指す。
SDGs投資市場の伸びしろ
SDGs投資の市場の伸びしろを知る上では似た投資概念であるESG投資の市場規模が参考になるだろう。近年、ESG投資市場は目覚ましい速度でその規模を拡大しつつある。2016年と2018年のESG投資の市場規模の動向を下記に記す。
2016年 | 2018年 | 増加額 | |
世界のESG市場 | 22.9兆米ドル | 30.7兆米ドル | 約858兆円増 |
日本のESG市場 | 0.5兆米ドル | 2.1兆米ドル | 約176兆円増 |
わずか2年で世界のESG投資の市場規模は1.3倍、日本のESG投資市場は4.2倍に成長した。なお、2019年の日本のESG投資残高は約3兆ドルで、2016年からの3年間で約6倍に拡大している。
SDGsは、ESG投資を評価する1つの視点とも考えられていることから、ESG投資の加熱によってSDGs関連銘柄はますます注目を集めると考えられる。
世界がSDGs投資に注目する理由
国際連合(国連)は2005年に、金融分野における地球環境保護への社会的責任に言及した。SDGsとも関連の深いPRI(国連責任投資原則)と、ビジネスにおけるSDGsシフトの動きを紹介する。
PRI(国連責任投資原則)とは?
PRIは「Principles for Responsible Investment」の頭文字をとった言葉。世界経済に大きな影響力を持つ機関投資家の投資原則が定められている。2005年に国連が公表し、2018年時点で60ヵ国あまり2,000以上の機関が署名している。日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も2015年に署名した。
PRIの目的は、環境や社会全体に利益をもたらす国際金融システムの構築だ。投資先選定にあたり、環境(Environment)/社会(Society)/ガバナンス(Governance)の視点を組み込むことを定めている。これにより、ESG投資とあわせて注目を浴びるSDGs関連銘柄がより強く意識され、投資が加速する状況が生まれた。
ビジネスもSDGsシフトが求められる
ビジネスにおいてもSDGsを意識した経営や商品開発へのシフトが求められている。
財務省の広報誌「ファイナンス」(令和2年(2020年)1月号)によると、2018年の「日本企業のESG(SDGs)に対する認識」は次の通りである。
- 持続可能性に関わる価値の向上:82%
- 企業の存在価値向上:80%
- 将来のビジネスチャンス:69%
- ステークホルダーとの関係強化:59%
- 投資家対応:27%
- 重要と認識しているが明確な目的は模索中:9%
- 特に重要であるとの認識はない:0%
ESG、SDGsに世の中の関心が集まることを前向きにとらえる企業は多い。これらのムーブメントをどのように経営に活かしていくか、それが企業の今後の存続を決める重要な要素の1つとなりつつある。
経営戦略のSDGsシフトによる新たなビジネスの創出
経営戦略を「SDGsシフト」することで、新たなビジネスを生む企業が出てきた。
特に市場が大きく成長しつつあるのがEV(電気自動車)だ。CO2排出量の少ないEVは、環境にやさしい自動車として急速にその市場を拡大しつつある。テスラはEVメーカーとして飛躍的な成長を実現した。
SDGs投資と社会課題解決の関係とは?
SDGs投資銘柄を選ぶ前に企業がSDGs達成に向けてどのような取り組みをしているかを確認しておきたい。SDGsの17の目標を取り上げながら、それらの目標に関連する企業の取り組み事例を紹介する。
SDGsの17の目標を紹介
SDGsには2030年を期限とした17の目標があり、各国は官民一体となって目標達成に向けて邁進している。デロイトトーマツが2017年時点で試算した「SDGsの各目標における世界市場の試算規模」の結果が以下である。
- 貧困をなくそう:183兆円
- 飢餓をゼロに:175兆円
- すべての人に健康と福祉を:123兆円
- 質の高い教育をみんなに:71兆円
- ジェンダー平等を実現しよう:237兆円
- 安全な水とトイレを世界中に:76兆円
- エネルギーをみんなに そしてクリーンに:803兆円
- 働きがいも経済成長も:119兆円
- 産業と技術革新の基盤をつくろう:426兆円
- 人や国の不平等をなくそう:210兆円
- 住み続けられるまちづくりを:338兆円
- つくる責任つかう責任:218兆円
- 気候変動に具体的な対策を:334兆円
- 海の豊かさを守ろう:119兆円
- 陸の豊かさも守ろう:130兆円
- 平和と公正をすべての人に:87兆円
- パートナーシップで目標を達成しよう:市場規模に関しては対象外
エネルギー領域の市場規模が大きいこと、比較的市場規模が小さいものでも70兆円を超えていることがわかる。デロイトトーマツは、「SDGsの市場規模を意識する必要がある」とし、事業のビジネスチャンスとしてSDGsをとらえると、市場の見え方が大きく変わると結論づけている。
日本国内でも、SDGsをビジネスチャンスと捉え、さまざまな取り組みを実施している企業が多数存在する。外務省が取り上げる日本企業のSDGsに向けた取り組み事例を3つ、ピックアップして紹介する。
花王:ユニバーサルデザインの商品開発
花王は車椅子でも掃除しやすい掃除用ワイパー、触るだけで区別できるシャンプーボトル、片手で開閉できるキャップなど、ユニバーサルデザインに基づいた商品開発に取り組んでいる。また、軽量化等の工夫で、女性や高齢者が快適に使えるよう商品の改善を行っている。
旭化成酸素:社内環境を整備してCO2排出量を削減
旭化成酸素は太陽光発電による電気使用の省エネ化、照明のLED化、井戸水の局所散布や打ち水による外気温度の緩和措置を行い、CO2排出量の削減に取り組んでいる。また、社用車にドライブレコーダーを搭載し、社員にエコ運転の啓発を行っている。旭化成酸素の取り組みは、SDGsの目標である「7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「13.気候変動に具体的な対策を」と関連している。
パナソニック:再生可能エネルギーを利用した電気の提供
パナソニックは無電化地域の生活照明や電源として使えるエネループソーラーストレージを開発し、海外に展開している。同社が開発したソーラーランタンは、女性や幼児の自立支援に取り組むカンボジアの織物研修センターでも使用されている。同社の取り組みは、SDGsの目標である「1. 貧困をなくそう」「5. ジェンダー平等を実現しよう」「7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「10. 人や国の不平等をなくそう」「13.気候変動に具体的な対策を」と関連している。
参考:外務省 Japan SDGs Action Platform
SDGs投資とビジネスの関係とは?
昨今、企業経営においてSDGsを無視することは、事業上のさまざまなリスクを顕在化させることになりかねない。SDGs投資と経営リスクの関連について見ていく。
経営リスクへの対応という側面
消費者庁はSDGsの目標の1つである「つくる責任 つかう責任」に基づき、2015年から「エシカル消費(倫理的消費)」の啓発活動を行っている。エシカル消費とは、社会的課題の解決に向けて取り組んでいる企業の商品やサービスを積極的に購買することをいう。
今後、SDGsを軽視した姿勢を示すことは、ボイコット(消費者が結束して不買を貫くことで、企業に圧力をかけること)や株価下落など、さまざまなリスクを呼び寄せる可能性がある。
SDGs投資を「将来への投資」と位置づける
SDGsを軽視することが企業のリスクにつながる一方で、SDGsをうまく取り入れれば、企業のブランドイメージ向上が期待できる。ブランドイメージの向上や優秀な人材の確保など、SDGsを将来のリターンにつながる投資と位置付ける視点を持つようにしたい。
収益を上げている企業だけが評価される時代ではない
経済産業省の「SDGs経営/ESG投資研究会報告書(2019年)」によると、2000年代初頭に社会人になったいわゆるミレニアル世代は、「企業が達成すべき課題」と「自組織の優先事項」にギャップを感じている。ミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」などを重視している一方で、経営層(雇用主)は依然として「収益の創出」を重視している。
SDGs投資の種類
企業にとっては、商品開発や社内整備を通じてSDGsに取り組むケースや、投資活動を通じてSDGs達成に貢献する選択肢がある。企業がSDGs投資に取り組む方法を3つ紹介する。
グリーンボンドへの投資(債券投資)
グリーンボンドとは、環境改善事業の資金調達のために発行される債券のことだ。発行者は企業や自治体で、事業内容は再生可能エネルギー、省エネルギー、脱炭素、グリーンビルディングなどさまざまな種類がある。グリーンボンド投資はSDGs投資やESG投資の手法の1つであり、投資によって環境問題の解決を間接的に支援できる。
SDGsのテーマに関連した企業の株式、投資信託への投資
SDGsに積極的に取り組む企業の株式や、SDGsをテーマとした投資信託に投資するという選択肢もある。個別銘柄に投資する場合、企業のSDGsに関する取り組みを自分で調べなければならない。投資信託では、投資先選定は専門家に一任できる。どちらにせよ、銘柄の値動きには気を配っておく必要がある。
「◯◯支援等」ができる定期預金等への預け入れ
金融機関にお金を預け入れることで、SDGs達成に向けて取り組む団体を支援できるタイプの定期預金も登場している。これまで積極的に投資をしていなかったとしても、定期預金ならばハードルは低いといえるだろう。ただし、外貨定期預金の場合は、為替レートをよく確認して、為替変動リスクに注意しておきたい。
SDGs:短期的、長期的展望
最後に、企業経営者がSDGsの潮流をどのように捉えるべきかを解説する。
短期的な動きではなく長期的な動きに気を配る
SDGsは2030年を期限として定められた広い意味での地球環境保護のための目標だが、仮にSDGsというムーブメントが存在しなかったとしても、各国の政府、企業、投資家が自らの活動に社会的な責任を負わないという流れは想定しづらい。脱炭素、脱プラスチックをはじめ、環境保護の動きは今後も活発になっていくであろうし、その思想は企業の経営方針にもより広く浸透していくと考えられる。
企業の経営者にとっては、SDGs投資やESG投資を単なる流行と見るのではなく、長期的な環境保護の潮流として受け止め、ビジネスの舵取りをすることが大切だ。
時代の変化に対応できる企業だけが生き残れる
企業活動を継続する上では、消費者や投資家の意向を完全に無視することはできない。逆に言えば、消費者や投資家に受け入れられることが企業の成長発展の源泉となるといえる。時代のニーズに的確に捉え、変化を受け入れられる企業こそが生き残ることができる。
ここまで見てきたように、市場規模、消費者の意識、投資の動きから、SDGsは、世界中を巻き込む大きなトレンドであることがわかる。SDGsの潮流を踏まえ、投資やビジネスを展開することが、これからの企業の成長発展において明暗を分けることとなるだろう。