神奈川県川崎市に本社を置き、化粧品の研究開発・製造およびフェイシャリストサロン(会員制/直営98店舗以上)を中心に、化粧品販売やアフターサービスを提供している化粧品メーカー「シーボン.」。

「美しくなることに最後まで責任を持つ」という発想から、「ホームケア+サロンケア」という独自のビューティ・システムにこだわり続けてきた同社が、新型コロナウイルスの影響を受け、顧客の肌に触れる行為を自粛せざるを得なくなった。同社代表取締役社長の崎山一弘氏はこの難局に、どう向き合ってきたのか? 現在の事業とアフターコロナを見据えたビジョンを伺った。

(取材・執筆・構成=酒井富士子)

株式会社シーボン
(画像=株式会社シーボン)
崎山 一弘(さきやま・かずひろ)
株式会社シーボン代表取締役社長 執行役員
1963年生まれ。神奈川県出身。85年高千穂商科大学(現高千穂大学)卒、シーボン入社。2003年に執行役員営業本部直販営業部長に就任し、05年取締役就任。創業当初の販売代理店による訪問販売から、現在の会員制サロンの事業形態に至るまで、国内外を含め同社の現場営業を長く担当。20年に専務、21年4月に代表取締役社長に就任し、現職。

コロナ禍で再認識した、お客さまとの信頼関係

―― まずは現在の事業内容について教えてください。

製販一体の化粧品販売に、「シーボン.フェイシャリストサロン」でのスキンケアアドバイスとフェイシャルトリートメントを取り入れた独自のサービスケアを提供しています。また、「ヘアケア・ボディケア」「健康食品」「メイクアップ」「オーダーメイドウィッグ」「結婚相談所事業」といった事業も展開しています。

―― 今年の4月に社長に就任されましたが、この半年を振り返ってみていかがですか。

情勢が激しく変化するなかでの就任となりました。なかでも苦しかったのは、緊急事態宣言を受けてのサロンの臨時休業ですね。対面接客という当社のサービスの特性により、直営店舗の臨時休業や営業時間短縮という措置をとらざるを得ない状況になりました。当社は今年の1月で創業55年を迎えたのですが、会社の歴史でもここまでの休業は初めての経験でした。

しかしながら、この状況だからこその気づきもありました。サロンをご利用のお客さまに、臨時休業のお知らせをメールでお知らせした際、スタッフへのねぎらいや、休業に踏み切ったことを評価するといった温かい励ましのお言葉をたくさんいただけたのです。ありがたかったですし、何よりスタッフの励みになりました。現場で働くスタッフがお客さま1人1人と信頼関係を築いてきたことの結果であり、当社の強みを改めて実感した出来事でした。

―― コロナ禍で実施された対策を教えてください

臨時休業の間は、外出自粛によって生じた巣ごもり需要に対応するため、公式YouTubeで「おこもり美容」というセルフケア動画の配信を立ち上げました。

5月に緊急事態宣言が解除された後は、カッサプレートや美顔器を使った、非接触型のフェイシャルケアサービスを新たに店舗メニューに導入。もちろん通常どおりのお手入れを要望される方には、感染予防対策をしっかり確保したうえで提供していました。

さらに、Zoomを介した「オンラインカウンセリング」も開始しました。事前予約制で、当社のフェイシャリストがお客さまの肌状態を確認し、スキンケア方法のアドバイスやお肌にあったアイテムをご紹介するといった内容です。最初は本部で立ち上げたのですが、今は店舗主導に切り替え、各スタッフが直接お客さまとオンライン上でやりとりをしています。

株式会社シーボン

―― 迅速に対策に取り組まれたのですね。お客さまの反応はどうでしたか?

正直なところ、当社はこれまで対面でのサービスを重視してきたため、デジタル技術を活用した環境の変化には遅れをとっておりました。ただ、実際に始めてみると、オンラインとはいえ顔が見えるコミュニケーションはお客さまに好評で、「お互いの顔を見ながら、たわいもない話ができることが楽しい」と喜んでくださる方が多かったと聞いています。

財務面では、全社のコスト管理の徹底・強化を図りました。経費の無駄を厳しくチェックし、以前よりも筋肉質な体質になったと自負しています。ただし、将来への投資まで削ってしまうとポテンシャルが下がりますから、費用対効果を十分に検討したうえでの有効投資は行っています。

ECチャネルを強化し、リアルとネットでニーズに応える

―― コロナ以降、お客さまのニーズに変化はありましたか?

コロナ禍のマスク着用がもたらす肌への刺激により、「ニキビ」や「肌荒れ」などはっきりした目的を持って化粧品を選ばれる方が多くなっているように感じています。

当社では、皮膚科学研究に基づいた独自原料の開発やその有効性などに取り組み、ストレスによる肌トラブルの新たなメカニズムを発見するなどしています。今年の10月に発売したシーボン最高峰エイジングケアシリーズの「シーボン AC」シリーズは、従来の「シーボン AC4」シリーズの機能性と使用感をアップし、リブランディングしたものですが、コロナ禍の肌荒れに悩むお客さまの需要にマッチし、大変ご好評をいただいております。

今後コロナが長期化した場合でも、お客さま1人1人のお悩みに寄り添い、解決のお手伝いをするフェイシャリストへのニーズはむしろ高まっていくように感じています。当社としては、「1人1人のお客さまとつながること」を大きなテーマとし、オンライン、オフライン問わず、さまざまなチャネルの環境を整えていきたいです。特に購入に関しては、無料カウンセリングを活用した通販事業の強化とともに、お客さまが自由に商品を入手できるECでの販売チャネルをより強化していく必要があると考えています。

株式会社シーボン

―― 中国のライブコマースにもチャレンジされた?

昨年、中国最大級の小売企業・蘇寧易購グループが運営するECモール「蘇寧易購」内のラオックス店舗に商品を出品し、ライブコマースを実施しました。1回目は中国のスタジオと当社の六本木のサロンをつないだライブ、2回目はKOLによるライブ形式で、約13万人の視聴者数を獲得しました。

当社は、これまでも中国で代理店経由の販売を行っていたのですが、正直ブランドとしての認知度はイマイチでした。ライブコマースは、スマートフォンを通して、リアルタイムでお客さまの反応がわかるのが面白く、さらに「メイドインジャパン」ではなく、「サロンも運営する会社が作った高品質な化粧品」という点に魅力を感じてくださった方が多かったことも新たな発見となりました。

今後、中国の戦略展開としては「サロンメイド」を強く打ち出し差別化を図り、シーボン.の知名度を上げていくと同時に、将来的には中国やベトナムを視野に、「実体験」につながるグローバルなサロン展開にも力を入れていきたいと考えています。

株式会社シーボン

お手入れの先にある、さまざまなゴールに着目

―― ご興味をお持ちの業界や、新規事業はありますか?

やはり美容業界にはこだわっていきたいですね。新規事業としては、今年の9月に結婚相談所事業「シーボン マリアージュサロン」を立ち上げました。登録された方は、通常の婚活サポートに加え、シーボン.フェイシャリストサロンでの特別フェイシャルケアのサービスや、お化粧品のサポートでキレイになっていただき、その先にある幸せな出会いへのお手伝いをするという内容です。

「フェイシャルケア」「フェイシャリストとのコミュニケーション」「五感に訴求するサロンの空間演出」「お客さまのお悩みに応えるカウンセリングシステム」といった、サロンにおける「コト」の価値を総合し、感動体験につながる付加価値を提供したいという思いからスタートした取り組みです。

コロナ禍でお客さまからたくさんのお言葉をいただき、改めてシーボン.というブランドに、感情面での付加価値を感じてくださっていることを体感しました。ただ、美容のアドバイスを受け、シーボン製品を使う、それだけでは当社をご利用し続けてはくださらないでしょう。サロンにいらして、担当者と交わす会話、カウンセリングを受けることで感じる肌ケアの科学的な考え方、サロンに来て五感いっぱいに感じるリラックス感、フェイシャルケアを実際に受けることで感じる美容欲求への充足感……。そうした「気持ち」への訴求をより多くの方々に提供していくのがわれわれのミッションです。

今後も、当社の企業理念である「美を創造し、演出する」という本質的な考え方は変えずに、お客さまに対して、シーボンの価値を高めていくために、自分たちに何ができるかを追求し続けていきます。

株式会社シーボン

―― ここからは崎山社長のパーソナブルな部分についてお聞きします。日々のインプットの仕方やリラックス方法がありましたら、教えてください

インプットは読書からが多いですね。ビジネス書というよりももっと単純なものを好んで読んでいます。例えば、江戸時代中期の武士の心得を筆録した「葉隠」(講談社学術文庫)などは、私が最も苦手とする処世術が多く書かれていて参考になります。本は常に持ち歩き、出張などの移動時に読むようにしています。あと、新聞は大手と業界紙を毎朝何社か目を通すようにしています。

リラックス法は特にないのですが、最近少し太ってきたので、ジムに行って走ったりしています。体を動かすのが好きですね。大学生くらいから45才くらいまではサーフィンもしていました。

――コロナ禍を生き抜くための経営のヒントがありましたら、教えてください

「社内の課題の答えは現場にある」というのが私の考えです。私自身、今年の3月まで営業本部長を兼任していたこともあり、営業的な視点で見ることが多いのですが、今も毎朝、前日のPOSに目を通すようにしています。顧客の来店数や、利用継続数といった現場からの数値から、全体の状況や課題を把握しています。現場に足を運びにくい今は特に、現場からのデータが役立ちます。

また、今の時期は、社員のエンゲージメントを高めることが一番の課題だと思っています。社内のコミュニケーションを深めるというのもありますが、個々の努力や成果に対する正当な評価とフィードバック、組織の意思決定を明確にして、決裁のスピードを迅速にすることも、社員の行動意欲を高めるために必要な要素ではないでしょうか。

プロフィール

氏名
崎山 一弘(さきやま・かずひろ)
会社名
株式会社シーボン
役職
代表取締役社長 執行役員
受賞歴 
・えるぼし 最高ランク (2017年2月)
・「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2018」“企業部門1,000名以上の部” 第2位
・2019年度ウーマンエンパワー賛同企業アワード表彰 “従業員500名以上の部” 大賞
・ウーマンエンパワー 働きやすい環境づくり認定(2020年1月)
出身校
高千穂商科大学(現高千穂大学)