次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスの混在する大変化時代に対峙し、どこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社WACUL(ワカル)代表取締役社長の大淵亮平氏。Webマーケティングのコンサルティング事業でナレッジを積み上げることからはじめた同社が、AI技術、データ、ナレッジを武器にどのようにマーケティングDX企業へと変遷を遂げてきたのかを聞いた。

(取材・執筆・構成=落合真彩)

株式会社WACUL
(画像=株式会社WACUL)
大淵 亮平(おおぶち・りょうへい)
株式会社WACUL代表取締役
1987年生まれ。京都大学経済学部を卒業後、ボストン・コンサルティング・グループ株式会社に入社。テクノロジー・メディア・テレコムセクターで新規事業の開発や経営戦略の策定に従事。株式会社WACULを共同創業者として設立し、2011年9月に取締役COOに就任。営業・開発など事業面から財務・人事など管理面まで幅広く管掌。その後、2017年12月に代表取締役に就任。企業のデータドリブン経営、デジタルトランスフォーメーション推進に取り組む。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

成果コミット型コンサルで得た知見をデータ化

冨田:2021年の2月に上場されて、これまでの変化はいかがですか。

大淵:あまり変わらない気がしています。まずは事業を粛々と積み上げていくことだと思うので、自分の気持ち的にも社内の雰囲気もあまり変化なくきていますね。

冨田:2010年に設立され、今のAIアナリストによるDX事業にいたるまで、11年の間でどのような事業の変遷があったのでしょうか。

大淵:この10年間で大きく3つのフェーズがあったと捉えています。今の主力サービスは「AIアナリスト」というSaaSのマーケティングのデータ分析・改善提案ツールですが、実は祖業はコンサルティング事業です。最初の5年間は「研究開発期」という位置づけで、マーケティング領域でいかに成果を出すか。ここをとにかく突き詰めた5年間でした。

その後、5年間のコンサルティングで培った知見やノウハウを詰め込んで2015年にリリースしたのがAIアナリストです。ただ、AIアナリストでいきなりマネタイズを狙ったわけではなく、まずAIアナリストをフックにデータを大量に集め、AIアナリスト主導で数字を伸ばすことが本当にできるのか?ということを検証しました。

この「データ総集期」を通して、AIアナリストの活用がある程度形になりそうだと判断できたところで、周辺サービスをいくつか準備し、「DX期」として、変革していくフェーズに入りました。今はデジタルに関することを総合的にご支援しています。

株式会社WACUL

冨田:当初のコンサルティングは領域を絞って提供されていたのですか?

大淵:はい。Webマーケティングだけに絞って、かつ徹底的に成果にコミットしてきました。問い合わせ率や購入率といったコンバージョンレートを「1.5倍に改善します」とか「2倍に改善します」と契約書に書いてしまって、実行していくということを5年間続けて。本当に日々、数字に向き合ってきました。

冨田:契約書に記載ですか! 本気度を示すのと同時に、リスクと隣り合わせでもありますね。

大淵:そうですね。このスタイルだと、目標値を高く言いすぎればリスクが高まりますし、逆に目標値が低すぎると受注できない。「問い合わせ率を1%上げます」と言われてもあまり契約する気にならないじゃないですか。でも、そのバランスを取りながらキワキワを突くようにしていくのが肝になるので、分析の精度が高まるのです。

実際に5年で200~300社に対して本気で成果にコミットするコンサルティングをご提供していくと、見えてくるものがありました。その後、「このタイプのサイトは、この手法で分析するとこのくらいの伸びしろがある」というふうにパターン化し、エクセルに落とし込んでいきました。

当時、本郷三丁目にオフィスを構えていたので、アルバイトの東大生にエクセル化と分析をしてもらって、サイトの伸びしろを明らかにしていきました。その業務そのものをSaaSツール化したのがAIアナリストの始まりです。

大量のデータとナレッジ、それを生み出せる仕組みがコアコンピタンス

株式会社WACUL

冨田:最初は手動でアナログ的にまとめていって解析しながら精度を上げていったんですね。その後データがたまってきて、AIアナリストがある程度のソリューションを返してくれるところまで磨きあがってきた。このような変遷でしょうか。

大淵:おっしゃるとおりです。AIアナリストの最大の特徴は、数字を上げるためのアクションを自動的に提示できることです。「このページをこういう方針に沿って直すと、100件問い合わせが増えます」といった数字も具体的に示すことができるようになりました。

また、サイトの分析には途方もない変数があるので、いきなりAIエンジニアがデータだけ渡されてもうまくいくことは少ないと思います。我々は豊富な経験値に基づいてある程度パターン化できているので、エンジニアが精度の高いアルゴリズムを作ることができ、それを自信を持ってご提案できるのです。今は大きく18パターンありまして、精度高く当たりをつけていくことができています。

冨田:ありがとうございます。今のお話にも含まれていた部分だと思いますが、大淵社長自身が考える、WACUL社としてのコアコンピタンスとはどのあたりになりますでしょうか。

大淵:大きく3つあります。1つ目は、シンプルに「ナレッジ」です。18の基本パターンに裏付けされているように、サイトに応じて何をしたらいいか、回答に近いものをすぐに出せるナレッジがあること。

2つ目は、「新しいナレッジを生み出す仕組みがあること」です。これはAIアナリストにも、コンサルティングにも言えます。特にコンサルティングの現場では、ただデータを見ているだけでは思いつかないような非連続な発想が出やすい傾向があります。そういう仕組みを機械と人の両面で持っているところは強みです。

3つ目は、先の2つを下支えする「データをたくさん持っていること」です。基礎となる アクセスログのデータは3万5000サイト以上ですが、3万5000サイトの中で行動している月次ユーザー数は約50億にもなります。また、この基礎データは“今の状況”というスナップショットのデータですが、それに加えて、改善施策とその成果という“変化”をAIアナリストでは独自データとして蓄積しています。このデータを我々は「PDCAデータ」と呼び、 高速で数多くまとめています。すると、「AIアナリストにこんな機能を追加すべき」「こういう提案を出すべき」といった形でどんどんアップデートしていくことができます。

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本当に全部やらなければいけないのか?を常に問い直す

冨田:今AIアナリスト事業とインキュベーション事業の2つを軸に展開されていますが、今後数年間ではどのような方向に進んでいかれるのでしょうか。

大淵:成長の方向性はシンプルに2つです。1つは、ご支援させていただける会社の数、サイトの数を増やしていくこと。マーケットの伸びや、DX機運の高まりにも合わせて拡大していきます。

もう1つは、当社のケイパビリティをもっと高め、言えることを増やし、できることを増やすこと。これは全部自社でできるとは思わないので、他社さまとのアライアンスも戦略として考えているところです。

今、現場では、どんどんクロスセルが発生しています。なぜなら、AIアナリストが成果を出して、お客さまに信頼していただけているからです。お客さまのほうから「AIアナリストでこういう提案が出ているから、次はこれをやりたいです」というご相談をいただくことが増えています。

クロスセルによって、我々としては単価が上がる。お客さまとしても、すべてのプロセスを我々に発注いただくことで、管理コストが減りますし成果も出やすい。そういった意味でも、今のサービスの磨き込みは今後もやっていきたいと思います。

冨田:ありがとうございます。少し時間軸を伸ばしたときの、大きな未来構想という意味ではいかがでしょうか。

大淵:これはデジタルやマーケティングの世界に限った話ではありませんが、私は「みんな忙しすぎるな」と思っているんです。デジタルの世界はデータが比較的とりやすい分、定量データの少ないリアルの世界に比べて効率化されているといっても、やっぱり現場レベルでは例に漏れなく、みな業務に忙殺されていて。考えなきゃいけないことは大量にありますし、しかも全部数字で即時にフィードバックされる世界。だから時間軸も短いです。息継ぎのない遠泳をひたすらやらされているような感覚があります。

でも少し引いて見て、「本当に全部やらなければいけないのか?」と考えてみると、そうでもないことも多いです。無駄なことがまだまだある。だから我々は、もっと仕事をシンプルにして、「ここだけやっていれば十分だ」と言える存在になりたいのです。逆に言うと、我々の強みは「これはやらなくていいよ」と言えること。

たとえば、広告会社はお客さまに対して「広告を打つな」とは言えません。それを我々はナレッジの提供がビジネスの主だからこそ、もっと俯瞰した目線で「今は広告を打つのではなく、営業担当の採用に予算をかけたほうがいい」とか、逆に「今は営業担当の採用を減らして広告に回したほうがいい」と、フレキシブルに言える立場にあります。

だからこそ、我々はその主軸であるナレッジの部分の強化が大切です。データや成功事例、失敗事例をどんどん集めていって、エッセンスを抽出して一般化しながら、別の会社さまにシェアしていくことで社会の役に立っていきたいと思います。

経営全体の生産性向上へ、幅を広げていく

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冨田:これまではデジタルやマーケティングという領域の効率化を担ってこられたわけですが、今のお話ですと、「企業経営の生産性」という観点でも生きてくるのではないかと思います。マーケター以外のあらゆる方にも価値を提供できるとなれば、今後の拡大領域は無限に広がりますね。

大淵:すごくいいパスをありがとうございます。おっしゃるとおり、マーケティングの領域だけを掘っていっても、本当の意味での効率化、最適化はなされません。マーケティング前後の工程を含めて一気通貫で考えていかないと、打ち手を見間違いますから。

例えば、後工程ならセールス、カスタマーサクセス、物流などのオペレーション。前工程ならマス広告やブランディングなど、いろいろなプロセスがあります。今後はデジタル、マーケティングという軸足を大事にしつつ、前後の領域にも幅を広げていくことが重要だと思っています。

我々は、SaaSを開発して、SEOや広告などの実行サービスを抱えている一方で、知見を溜める意味でコンサルティングも行っています。これを突き詰めて、SaaS型のBPOのような新しい組織をつくれると面白いなと思っています。その意味でもマーケティングだけではなくて他の領域にもどんどん切り込んでいきたいですね。

冨田:ありがとうございます。我々も「鬼速PDCA」というブランドを持っていますが、PDCAはあらゆる領域で回すことができます。それと同様に、「AIアナリスト」の中に今はマーケティングデータが入っていますが、労働生産性に関するデータ、システム開発に関するデータ、プロジェクトマネジメントに関するデータ、サプライチェーンマネジメントに関するデータなど、あらゆるデータを入れて回していくことができますよね。

どこから仕入れることで獲得コストが下がって、販管費を最適化できて、それによってどれだけ売上が上がるのかといった経営全体の生産性向上や効率化につながる可能性が見えてくるようにも思います。

大淵:そこまで想像していただけるとうれしいです。マーケティングのご支援をしていく中で、コストや生産性の話になることも多いですが、我々は全体を俯瞰して最適化していく会社であれるように突き詰めていきたいと思います。

プロフィール

氏名
大淵 亮平(おおぶち・りょうへい)
会社名
株式会社WACUL
役職
代表取締役
ブランド名
AIアナリスト 等
受賞歴
2017年度グッドデザイン賞、米国スティービー賞2016受賞、デロイト トウシュ トーマツ リミテッド2020年日本テクノロジー Fast50 第33位受賞
出身校
京都大学