次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、WASHハウス株式会社代表取締役社長の児玉康孝氏。コインランドリー業界における唯一の上場企業として、抜群の存在感を示す同社。「コインランドリーを展開しているが洗濯屋ではない」という言葉どおり、金融、FC、不動産という3つの観点から組み立てた革新的なビジネスモデルを確立している。「目指すは洗濯がタダになる時代」と語る児玉氏に、発想の原点と現在地、そして未来構想を伺った。

(取材・執筆・構成=杉野 遥)

WASHハウス株式会社
(画像=WASHハウス株式会社)
児玉 康孝(こだま・やすたか)
WASHハウス株式会社代表取締役社長
1965年宮崎県宮崎市生まれ。大学卒業後、証券会社に就職。大手外食企業勤務を経て30歳で宮崎へ帰郷し不動産会社に転職。その後、2001年11月に株式会社KDM(現WASHハウス株式会社)を創業。2002年12月からフランチャイズ展開によるコインランドリー事業を開始し、2016年11月に東証マザーズ、福証Q-Boardに上場。
「災害時用移動式ランドリー車」の開発、WASHHOUSEフィナンシャル株式会社の設立、キャッシュレス決済や広告配信機能を持った「WASHハウスアプリ」の開発、自社オリジナルの洗剤が製造できる工場の建設など、コインランドリー事業を軸とした付帯事業にも力を入れている。2019年にはタイ・中国に現地法人を設立し、海外展開を狙う。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

不透明な時代に起業。大手事業者が参入しないコインランドリーに勝機を見出す

冨田:まずは上場前から上場後にかけての事業の変遷をお聞かせください。

児玉:当社はコインランドリーというニッチな分野に取り組んでいるわけですが、どうしてこの事業を選んだのか、というところからお話します。

起業前はみずほ証券、日本マクドナルド、不動産業と携わってきて、35才で独立を決意しました。当時は「世の中が先行き不安で暗い」という印象でしたね。成熟した業界では先行事業者や抵抗勢力もいるし、時代の変化も激しい。新たに会社を興すのはリスキーだと感じる中での事業選択でした。ちなみに現在に至るまで、コインランドリー事業で上場しているのは世界的に見ても当社のみです。大手事業者が参入していない分野だというのは、関心を持ったきっかけでしたね。

起業当時はISDNやADSLがあるかないかという時代。つまりインターネットも浸透していませんし、当然システム化も進んでいませんでした。コインランドリー事業を調べてみると、アパートの一角で個人事業主が営んでいるケースが多かった。設備を買うのは個人ですし、看板は機械メーカーが用意してくれるものを使っているような状態。お店のデザインもバラバラ。まさに個人商店という趣で、駄菓子屋さんのようだなと思ったものです。

駄菓子屋さんの場合は時代の変化と共に、コンビニが役割を代替するようになりました。そこで「コインランドリー業界も変革できるのではないか」と着想を得たわけです。

FCの問題点を解決する独自制度が功を奏した

WASHハウス株式会社

児玉:私は「コインランドリーを展開しているが洗濯屋ではない」という表現をしていますが、当社の事業は最初から仕込んで作ってきたもので、一般的なコインランドリーのFC事業とは違います。

みなさんが単純な洗濯をする場合、昭和40年代の渦巻式の洗濯機で洗った物と最近の洗濯機で洗った物でどちらがきれいになるかというと、大して変わらないんですよね。つまり世の中の商売はいずれクオリティの差が無くなって、どんぐりの背比べ状態になるんです。

商売の競争は4段階のステップをたどると考えています。まずはクオリティの戦いが競争のスタート。次第に価格競争へ移り変わります。そして今度は付加価値の競争になる。最終的には認知度の戦いだと思います。こうした商売の流れを起業当初から見据え、事業を組み立てようと考えていました。今起きていること、そしてこれから起きることを予見しながら。

FCという形にしたのは、そうせざるを得ない理由もありました。コインランドリーを出店すると、投資額の6割近くは償却資産になるんですね。キャッシュが回っても、帳簿では3年ほど赤字になってしまう。今年100店、来年200店……と増やしていけば赤字が拡大するだけですから、自社で出店を続けるのは不可能に近い。そこでオフバランス化して、なおかつ運営の統制を図るにはFC化が適切だという結論に至りました。

ただ私も日本マクドナルドに勤めていた経験がありますから、FCの問題点も理解しています。2つの問題点がありまして、1つ目は加盟店を制御できなくなる問題。好業績を上げて加盟店が力をつけてくると、統制が取りづらくなる場合があります。反対に業績が芳しくなければ脱退する店舗も出てくる。2つ目は加盟店によって接客などのクオリティに差が生まれる点です。加盟店それぞれのオーナー様が人材を育成しますから、全加盟店が同じクオリティを保つのは難しいのです。FC化にあたっては、これらを解決する仕組みが必要でした。

そこで当社では、独自のFC制度を作ったのです。価格設定や店舗のメンテナンスは本部が主導する。お客さま対応も本部で対応する。オーナー様から加盟費用を出してもらいますが、運営自体は本部がまとめて行うという方法です。結果的にこの仕組みがうまく作用していると思いますね。

コインランドリーをメディア発信の場に

児玉:かつてハンバーガーも激しい価格破壊がありましたが、どの業界にも価格競争は起きると見ていました。95年にWindowsが発売されてから、サービスや情報は完全に無料化に向かっていますよね。特にメディア業界は無料化の波にさらされている。私たちも時代に対応しなければつぶれてしまう、と感じていました。

「いっそのこと、洗濯を無料で提供できれば絶対に勝てる!」そこで私は初出店時から仕込みを始めていました。洗濯機と乾燥機だけでなく、タッチパネルを設置したのです。このタッチパネルからは地域情報の閲覧や、近隣店舗のクーポンが発行できるようにしました。つまり、収益を広告費で上げようという計画だったのです。

そして最近、実現したのが携帯電話決済です。アプリを使って自動決済ができるもので、同時にアプリ内に掲載する広告費によって洗濯サービスを無料化します。もはや洗濯する場所を作ったというよりは「メディア発信の場を作った」という感覚ですね。

「金融・FC・不動産」の融合で生まれた独自モデル

WASHハウス株式会社

冨田:素晴らしい発想ですね。これまでのお話でピンと来たのは、児玉さんが20代~30代の間に金融、FC、不動産と、3つの業界をご経験されたからこそ生まれたビジネスモデルだということです。オフバランス化であったり、利回り商品としてビジネスを見る考え方であったり。ちなみに加盟店はオーナー様にとって事業継承や相続対策のための商品という面もありますよね。キャッシュフローに対する減価償却とストックの相続評価額の圧縮という形など。

児玉:そうですね。直接的な売り上げのほかに、償却に基づいた資産圧縮や先送りも可能ですからね。世の中のコインランドリー事業者は特にこうした発想が強いと思いますね。

冨田:極端に偏ると、結果として儲からない。だから他に収益の柱を作って投資を回したほうが良い。児玉さんは不動産事業のご経験があるから、物件の利回りにも着目される。メディア発信の場としたのは、単にコインランドリーの利回りが高いというだけでなく「空間」がどの程度の利回りを生み出すのかを考えられているんですね。

「マクドナルドは不動産業だ」というお話もありますよね。単なる空間としては意味がありませんが、そこにブランドがあり、オペレーションがあり、配達も行うといった組み合わせで利回りを上げていく。

御社のビジネスモデルは複数の観点が融合して生まれたものなのだなと、経緯を伺ってつながりました。

児玉:おっしゃるとおりですね。投資の発想にファストフードのFC事業、合わせてマーケティングの観点も大きく関係していると思います。出店に関しては不動産業の観点も大事です。誰も手を付けなかったコインランドリーという事業で、うまく組み合わせたのが良かったのでしょうね。

一般的なWEB広告の3倍以上の成果。実証されたコインランドリーの広告効果

冨田:ZUUもメディア運営企業の端くれですが、メディアの在り方は大きく2つあると考えています。1つは「人がたくさん通る場所で発信すること」。駅前の該当看板やTVCMなどのマスメディアですね。もう1つは「長く接触できる方法を取ること」。御社のタッチパネルやアプリは後者になりますよね。洗濯中の待ち時間を有効に活用している。

児玉:おっしゃるとおりです。常時接続できるインターネットがなかった頃は、タッチパネルで中古車情報や不動産情報を載せていました。

私がコインランドリー事業を選んだもう1つの理由として「お客さまの時間を確保できる」という点がありました。コインランドリーを利用している間、最低30分間はお客さまとかかわれるわけです。マスメディアに比べたら数は少ないですが、確実に情報が届けられる。これが最大の武器だと考えています。コンビニにもタッチパネルはありますけど、お客さまが利用する時間は短いですよね。チケット発行だったらあっという間です。

WASHハウス株式会社

当社のアプリでは、1回の利用当たり3回程度は広告を閲覧するというデータが出ています。ダウンロード数も16万を超えたところです。宮崎県のある企業が広告主になられたケースは面白い事例ですね。レストランも運営されていたのですが、コロナ禍で通信販売での出荷を強化したいというニーズをお持ちでした。

そこで、あえて宮崎県以外のエリアでアプリに広告を表示する実験をしたのです。結果、通信販売サイトへの流入者数は他の一般的なWEB広告媒体と比較して3倍以上の実績となりました。これでコインランドリーを利用している間の待ち時間で広告を見ていただけることが実証できました。

ほかの取り組みでも、広告効果が出ていますし、必ず待ち時間が発生するコインランドリーの特徴を生かした当社の広告はお客さまにリーチしやすいメディアだということが結果に表れています。

メディアと決済を握る「コインランドリープラットフォーム」で洗濯を無料化

冨田:コインランドリーのニーズについて考えると、部分使いする市場も広がっているのではないでしょうか?家に洗濯機はあるけど布団などの大きなものはコインランドリーで、という。

児玉:布団はわかりやすい例ですね。毎日6、7時間使っているのにシーツだけ変えている。布団クリーナーもありますが、根本的には洗わないと綺麗になりませんし、乾燥も必要。布団のニーズは特に立ち上がりが良かったですね。

コインランドリーのニーズは数限りなくあると思います。布団のような部分的なニーズもありますが、洗濯がタダになれば、家で洗うより安く済むわけですから。広告費用で収益を上げれば無料化が可能になります。洗濯の無料化は当初から目指していますから、メディア事業をやるためにコインランドリーを選んだ、と言ってもおかしくないですね。

冨田:すごい話ですね。「洗濯がタダになる時代」。アプリで自動決済を可能にされたということは、メディアと同時に決済も握ることになりますよね。コインランドリー周辺のモノが売れてサービスも利用される。IR資料の中で「コインランドリープラットフォーム」という言葉を使われていたかと思いますが、まさにコインランドリーを中心とした生態系を作られているんだということが理解できました。

児玉:洗濯というのは生きていく以上、生活に欠かせないものです。ちなみにニューヨークは2ブロックに1店舗、100台以上の洗濯機が並ぶコインランドリーがあり、家では洗濯しないそうです。洗濯が無料になれば、日本でも家で洗濯する必要がなくなる。無料で洗濯できるならWASHハウスに行こう、クーポンも使おう。そういう流れになれば、利用率も高められるはずです。

クーポンに関しても良い効果が出ています。大規模小売店舗様と連携した際は、発行したクーポンのうち80%以上が実際に使用されました。反対に先方の発行するレシートに当社のクーポンを付けることで相互集客もできました。今後チェーンストアの集客ツールになれば、メディアとして価値が高まっていくでしょう。

WASHハウス株式会社

次のステップは商品開発と海外展開。中国・青島進出で宮崎県の活性化にも貢献。

冨田:これまで御社の変遷からコアコンピタンスも伺ってきました。最後に未来構想をお聞かせ願えますか?

児玉:実はこの事業を始めた20年前に第5ステージまで構想を作ってあるのですが、今はまだ第3ステージに入ったばかりです。

私は起業するにあたってコインランドリーにたどり着きましたが、世界で成功している事業者を見ると、「水まわり」の分野が多いという印象です。洗剤などがそうですよね。当社も水まわり部分の強化に乗り出しています。今年2月に完成した洗剤工場は、生産を開始し、各店舗への出荷をスタートしています。

当社子会社を設立した中国の青島には宮崎市長や観光分野の関係者を含めて訪問していまして、宮崎県の活性化にも貢献したいと考えています。

宮崎県は霧島山脈があって新幹線が通せない立地ですから、地の果てのような存在なんです。特殊な条件下ということもあり、人がなかなか来られない。2021年の3月から4月にかけて、県内の人口が約3,500人も減ったそうです。こうした問題を解決するには空路しかないのではないか。青島を擁する中国をはじめとする海外との交流で、楽しいことができるようになるんじゃないか、と想像しています。

冨田:メディアとしての成長や自社で洗剤を作るという構想など、提供できる価値の広がりで、新たな収益源がどんどん立ち上がっていきそうですね。まさに御社が掲げるコインランドリープラットフォームカンパニーに近づくのではないでしょうか。本日は貴重なお話をありがとうございました。

プロフィール

氏名
児玉 康孝(こだま・やすたか)
会社名
WASHハウス株式会社
役職
代表取締役社長
出身校
国士舘大学