次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスの混在する大変化時代に対峙し、どこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回のゲストは、ピクスタ株式会社代表取締役社長の古俣大介氏。海外展開やクリエイティブ領域の拡大を進めている同社のこれまでの経緯と学び、今後の機会と戦略を聞いた。
(取材・執筆・構成=落合真彩)
1976年9月生まれ。大学在学中に、コーヒー豆のEC販売等の事業を開始、大学4年次に株式会社ガイアックスにインターン入社。正社員入社後、営業マネージャーとして2つの新規事業部を立ち上げ、2000年9月に子会社の立ち上げに参画、取締役に就任。
2002年1月 有限会社万来設立、飲食店舗向け販促デザイン事業やEC事業を手掛け、2年後に年商1億円となる。
2005年8月 株式会社オンボード(現 ピクスタ株式会社)を設立、代表取締役社長に就任。クリエイティブプラットフォームの創造を通じて、「才能をつなぎ世界をポジティブにする」ことを目指し、事業を展開している。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
「写真は世界共通」は半分正解、半分不正解
冨田:ZUU onlineでは、企業ごとの過去を遡って、事業が広がったり、選択集中したりという部分の判断や変遷に企業の特徴が表れると考えております。ピクスタさんの事業の変遷についてお伺いできればと思います。
古俣:2005年に設立して、最初はデジタル素材マーケットプレイス「PIXTA」の運営という単一事業を10年ほど育て続けて、ちょうど10年後の2015年にピクスタ事業1本でマザーズに上場しました。
冨田:我々もよく利用させていただいています。
古俣:ありがとうございます。上場翌年の2016年からは新規事業と海外展開を本格化させました。新規プラットフォームを2つ立ち上げたのと、ピクスタ事業のアジア進出ですね。海外展開は、台湾、韓国、タイに拠点をつくりましたが、昨年、拠点自体はすべて撤退し、オンライン運営に切り替えました。
新規プラットフォームのほうは、「fotowa」と「Snapmart」というクリエイティブプラットフォーム事業を2つ展開し、順調に成長してきております。PIXTAと合わせて3つの主力プラットフォームを軸に、現在は2つほど新しい事業を仕込んでいる状況です。
冨田:ありがとうございます。海外展開は言語の壁でよく苦戦するケースがありますが、写真やイラストなど、ビジュアル表現のものは非常に身軽に展開できるという印象があります。日本でマーケットをつくれれば、そのままグローバルになる、と。フォト業界ですと、iStock(Getty Imagesが運営するイメージのサブスクリプションサービス)さんやShutterstock(シャッターストック)さんもグローバル展開されていると思いますが、ピクスタさんも同じようなイメージなのでしょうか。
古俣:「写真は世界共通」というのは、半分はその通りで、食材写真や空の写真などは、世界共通で必要とされているのですが、実は残り半分はローカルのイメージなんです。観光地やローカルフード、ファッション、メイク、髪型などは国ごとに結構違っていて、そこをある程度そろえていないと、現地の顧客ニーズを満たすことはなかなかできない。ここが苦労したところですね。
冨田:なるほど。メディア側の集客はオンラインでできても、現地でフォトを上げてくれる方たちの頭数の開拓の難易度が高いということでしょうか。
古俣:おっしゃるとおりですね。当初の戦略では各拠点でしっかりと現地のクリエイターを集めてローカル素材を充実させようとしてきたのですが、各国さまざまな事情があり、国によっては英語のほうが受け入れられやすく、その場合に競合他社のほうが欧米へのプレゼンスが高かったりして、なかなか突破口が開けなかったというところです。
やってみないとわからなかったことでもありますが、思ったよりも市場が小さかったり、伸びが弱かったり、まだまだ時間かかりそうだったりという判断もあり、少しでも長く展開できるようなコスト構造にしていこうと、拠点は撤退してオンライン上で徐々に成長を目指す路線に変更しました。
クリエイターファーストのプラットフォームづくりが強み
冨田:コストのかけ方を考えたときに、拠点で人を使ってクリエイターさんを集めるよりも、例えば、「手厚いインセンティブを返すことに資金を充てたほうが集まりやすい可能性がある」とか、「オンライン上でクリエイターさんを囲い込むブランディングやマーケティングに資金投下したほうがリターンが高いかもしれない」。
そういったことは、実際に海外に出られたことによって解像度高く理解されたからこそ今の戦略につながっているのかなと思います。今はオンラインからアプローチして、これまで拠点にかけられていたコストをよりリターンが高いところに投資し直すと考えられたのではないかと解釈させていただきました。
冨田:出張撮影プラットフォームの「fotowa」、スマホ写真のマーケットプレイス「Snapmart」。今はスマートフォンの画素数も相当高くなってきて、誰でもフォトが撮れる時代ですので、まさにマーケットが広がってくると思いますが、こういった横展開も含めて、ピクスタ社のコアコンピタンスはどこにあると考えると、全体の理解がしやすくなるでしょうか?
古俣:そもそもこの会社の存在意義、理念と呼んでいるのが「才能をつなぎ世界をポジティブにする」というものです。得意なことや好きなことを持っている人はたくさんいらっしゃるんですが、彼らが全員、それで生計を立てられているわけではありません。
そういう人たちが副業などのちょっとした時間であっても、才能を発揮できるような機会を提供するプラットフォームづくりをやり続けていて、それをベースにPIXTAがあり、fotowaがあり、Snapmartがあります。
このプラットフォームをつくるうえで重視していることが3つあります。
1つ目は、クリエイター基盤を手厚く、お互い信頼感を持ちながら作り出していくこと。2つ目は、マッチングしていくためのオンラインマーケティングとサイトのUI・UXの部分。3つ目は多くのトラフィックを集めることです。
この3つの軸を大切にし、それぞれのプラットフォームを最適な形で高めています。その掛け算で取引高がどんどん増えていく。プラットフォームづくりの知見やノウハウ、人材も含めて一番のコアコンピタンスだと思っております。それを支える考え方が、「才能をつなぎ世界をポジティブにする」という理念です。
クリエイター→企業「Creator to Business」のビジネスモデルができあがってきた
冨田:PIXTAは昔から存じ上げていますが、横展開されていることは今回いろいろな資料を拝見して初めて知ったことでした。fotowaは個人を対象としていますが、Snapmartは主に法人向けなのでしょうか。
古俣:個人も法人もあります。ただSnapmartは、この数年ビジネスモデルが進化してきています。最初はスマホ写真をメインにマッチングさせていくものだったのですが、マーケティングの場としてのインスタグラムの成長にうまく乗ることができました。
活躍しているインスタグラマーさんがSnapmartに参加してくれており、彼らに企業が商品を送って撮影してもらい、その写真を企業のインスタグラムマーケティングやその他のSNSマーケティングに活用していくというビジネスモデルです。スナップマートクリエイターに商品を送ると、クリエイターの自宅や、セッティングされた場所を背景に撮影してもらった素材写真が数百枚手に入るということです。他にあまりないサービスで、実は今、これが取引高として最も多くなっています。
冨田:それは面白いですね。素材写真といわれるこれまでメディアやブログで使われてきたような写真ではなく、Snapmartのほうは、ユーザー目線の写真といいますか、これからメディア側としてもものすごく重要になってくるだろうと感じますし、ぜひ使わせていただきたいと今お話しながら思いました。写真ひとつで記事の見え方もクリック率もブランドイメージも変わりますし、何よりも共感されやすく、内容が伝わりやすくなると思います。
古俣:そうですね。一般的なイメージ写真に加えて、いろいろなパターンの写真を撮影してくれるようなサービスになってきています。
冨田:BtoCやBtoBのプラットフォームづくりが得意な会社さんは多いですが、このピクスタさんの場合は逆で、CtoB、あるいは“スモールB”toBとも言えるかもしれませんが、このつくりが特徴的ですね。
古俣:まさにクリエイターtoBビジネスかもしれないですね。
冨田:なるほど、CはCreator のCでもあると(笑)。こういったプラットフォームをつくれる会社さんは限られているように思います。
古俣:そう思います。クリエイターさんはこだわりもあるし、十把一絡げにされるのを嫌がる方も多いですが、僕らはクリエイターファーストの考え方でプラットフォームをつくってきているので、そこを信頼してくれるクリエイターさんが徐々に集まって、それが出発点となってネットワーク効果を生んで、どんどんスケールさせていける構造につながっていると思います。
写真にとどまらず、各コンテンツの可能性を広げていく
冨田:これをずらしていくと、もしかしたらクリエイターさん向けの管理ツールみたいなものにも可能性がありそうですね。個人の収入管理やクライアント管理、工程管理みたいな。
お話を聞きながらもう1つ、近くに巨大な市場があるんじゃないかと思ったのがYouTubeをはじめとする動画マーケットです。Snapmartはフォトの市場ではありますが、これはムービーでも同じだなと思います。
先ほど、仕込んでいる事業があるとお話しいただきましたが、こういった市場も含めて爆発的な何かが生まれてきそうだなと感じました。そういった観点も含まれるかもしれませんが、今後の未来構想についてお伺いできれば幸いです。
古俣:私たちは一貫して企業理念「才能をつなぎ世界をポジティブにする」を世の中に広めていくことを考えています。1人でも多くのクリエイターや才能を持つ方に機会を提供し、やりがいや自己実現の場を形にしていくことが使命です。
それに直結している数字が取扱高なのです。完全に比例していて、取扱高を増やせば増やすほど、クリエイターさんの活躍機会も増えていくという構造になっています。これを今はまだ取り扱っていないジャンルも含めて増大させていこうと考えています。おっしゃっていただいた動画の展開ですとか、あるいは活字の展開ですとか、IP関連、芸能、演劇などの分野も可能性があると思います。
冨田:確かにそういった分野も可能性がありますね。
古俣:そういった分野に、それぞれ時代に合った最適なプラットフォームを提供していきます。私自身が経営者として目指している定量的なところは取扱高で1000億円です。1000億円が実現できると、世界で数千万人のクリエイターさんの才能が発揮できている状態だと考えています。今は30億円ほどですのでまだ3%くらいなので、これをいかに伸ばしていくかだと思っています。
冨田:1000億あれば、世の中でまだ芽が出ていない多くのクリエイターさんたちが日の目を見ることができますね。
古俣:はい、あらゆるジャンルでいろいろな立場の人が経験とか年齢とか関係なく取り組める場がオンライン上にあるような世界を実現していきたいなと思います。
冨田:今回のお話は我々もピクスタさんのユーザー側の立場にいるからこそ、わくわくするお話でした。今後もメディアとしていろいろ利用させていただきたいと思います。
プロフィール
- 氏名
- 古俣 大介(こまた・だいすけ)
- 会社名
- ピクスタ株式会社
- 役職
- 代表取締役社長
- ブランド名
- PIXTA、fotowa、Snapmart
- 出身校
- 多摩大学