本記事は、吉田洋一郎氏の著書『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』(実務教育出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
良い指導の条件
人を指導するには、期待する結果に対して、なぜその結果に至ることができるのかを説明できなければ、教わる側はその指導法に納得してくれません。
名プレーヤーだったから教えるのが上手い、ということには何の根拠もありません。仮に名プレーヤーに教わった選手が伸びたとしても、なぜ伸びたのか理由がはっきりしないと指導者の教えが良かったのか、選手本人の才能だったのかがわかりません。
プロ野球で名将と言われた故野村克也さんはヤクルト・スワローズの監督時代に日本一となりましたが、なぜ優勝できたのかといえば「ID野球を導入したからだ」という理由があります。
結果が出たのはこうした理由からだという「原因と結果」を合理的に示すこと、これができてはじめてその説明が信用できると思います。
そして「原因と結果」に再現性があれば、誰に対してもその指導法は結果を出せる可能性があるわけです。なお、IDとはImportant Data の略で、ID野球とは「データに基づいた考える野球」のことです。
基本的に良い指導とは再現性があることです。指導する上で再現性があることは当たり前のことですが、指導法に軸がないとこの当たり前のことができません。
一流と呼ばれる人の考え方を知る
私が好運だったのは、先述したとおりレッドベターに師事できたことでした。はじめにゴルフティーチングの頂点を知ったことで、それを基準としてティーチングの指導法の良し悪しを比較することができました。
レッドベターは、「名コーチというのはプレーしている選手の眼(カメラ)で、プレーしている状況を見られる能力をもっている。さらに俯瞰して見ることができる能力をもっている」と語っています。
一流のティーチング理論、人格、考え方を基準にして他のコーチと比較することで違いが鮮明にわかりました。
これが下から少しずつ積み上げていく修行の場合、一流との差に気づくまでに相当な時間を要したと思います。最初に一流を知ることは、無駄な時間を費やさないことでもあるのです。
最初に高級ワインを知れば、そのワインを基準にして他のワインの比較がしやすくなります。これが安いワインしか飲んでいないと、本当に良いものとそうでないものの違いがわからず、何を飲んでもそれほど味は変わらないということになります。
本物の価値とその基準がわからないと、物事の優劣の判断が曖昧(あいまい)になるでしょう。
一流には一流の理由があるものです。いままで私が一流だと思ったコーチは、指導哲学を持ち、教育者として物事に取り組む姿勢が一貫していました。そして、自分に厳しく、高い理想をかかげ、常に進化していました。何よりもゴルフに対する姿勢がどこまでもストイックでプロフェッショナリズムを感じました。
一流のコーチは、知識の追求に妥協がありません。60代半ばのレッドベターのように、欧米のコーチはいくつになっても勉強し続けています。何歳になっても、現役でいるかぎり、最新の理論や練習機器を使って自分の孫のような年代の選手を指導しているのです。
彼らはいくら実績があっても、そこにあぐらをかくことをしません。新しい知識を仕入れては咀嚼(そしゃく)して自分の指導法に取り入れたり、新しく出てきた選手と組んだりして、常に自分をアップデートさせています。だから時代遅れになることはありません。
一流として生き残っていくには、このようにいくつになっても向上心を持ち続けること、そして自分の仕事を好きになることが必須だと思います。
私は、ゴルフのティーチングスキルとは別に、一流のプロッフェショナルとしての心構えをレッドベターから教わりました。
レッドベターが一流であったからこそ、私はコストを惜しまず彼の指導を受けました。相手の一番高いサービスを受ければ、相手も本気になって指導してくれます。
お金や時間を惜しまず、相手から学びたいという姿勢をはっきり示し、リスペクトしていることをわかってもらうことが一流の人物と接するうえでとても大事です。
一流を探し当て、教わることに惜しみなくお金と時間を使い、貪欲に学ぶことで、いずれ道がひらけていきます。