次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスの混在する大変化時代に対峙し、どこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社ストライク代表取締役社長の荒井邦彦氏。世代交代の過渡期にある日本企業のM&Aを仲介する同社の事業戦略や未来構想を聞いた。

株式会社ストライク
(画像=株式会社ストライク)
荒井 邦彦(あらい・くにひこ)
株式会社ストライク代表取締役社長
1993年に太田昭和監査法人(現:EY新日本有限責任監査法人)に入社。公認会計士として勤務後、97年に株式会社ストライクを設立し、代表取締役に就任。2016年6月に東証マザーズに株式上場、2017年6月に東証1部へ市場変更した。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

1999年からM&Aマッチングサイトを運営

株式会社ストライク

冨田:いつもの対談では創業からこれまでの事業の変遷をお伺いするのですが、ストライクさんのようなM&A事業ですと、広がりという意味ではそこまでないでしょうか。

荒井:そうですね、単一事業ではあります。ただ、顧客層の幅は広がってきています。当社は、10月からイノベーション支援室という部署をつくって、スタートアップのM&Aを加速させようとしています。M&A仲介は事業承継とセットで語られることが多いのですが、スタートアップ領域にも参入することで顧客層を少しずつ広げているイメージです。

冨田:なるほど。たとえば、アプローチのされ方やサイズが変わってきた、あるいは仲介から直接的な案件が増えてきた、オンラインマッチングのウエイトが上がってきた、こういった潮流の観点でいうといかがですか。

荒井:最近はM&Aプラットフォームを標榜してオンラインマッチングに携わる会社が増えています。当社は1999年からインターネット上に匿名で譲渡案件の情報を載せて買い手を募るという方法をとっていましたので、オンラインマッチングでは一番の老舗だと考えています。

当社はコンサルティングにも力を入れています。出会いのきっかけはネットだったとしても、M&Aの過程では、コンサルタントがきちんと寄り添って決めているのです。これが当社の特徴だと思います。

冨田:ストライクさんは、M&Aのオンラインマッチングのリーディングカンパニーだと思いますが、どんどん新しい形でチャレンジするM&A仲介企業が出てきています。ストライクさんのコアコンピタンス、競争優位はどういったところになりますでしょうか。

荒井:入り口はネットでも、人が介在するところです。リアルとオンラインのどちらかに寄るのではなく、うまく融合していると思います。

株式会社ストライク

冨田:組み合わせが強みになっているのですね。先ほどのイノベーション支援室の話もそうですが、「業界に先駆けてベンチャー・スタートアップの案件に注力していく」ということを他のインタビューでもおっしゃっていました。特にベンチャー・スタートアップのM&Aはバリュエーションがよくわからなかったり、VCの調整が必要だったり、いわゆる“スタートアップ村”の中で案件がぐるぐると回っている傾向にあるなど、いろいろな難しさがあると思います。この領域のM&Aに関してはどのように捉えていますか。

荒井:冨田さんのおっしゃるとおり、“スタートアップ村”の中だけでM&A交渉が完結するケースも多いと思います。その反面、近い関係の人とは直接、M&Aの話をしにくいという人もいます。

冨田:それは大いにあるでしょうね。

荒井:近い関係であるがゆえに、直接話すと角が立ったり、交渉を途中で止められなかったり、M&Aを成約できたとしても関係がこじれたりすることがあります。事業承継の場合は会社を譲渡したら引退する方が多いですが、スタートアップの経営者は、新しい事業にトライしたり、買ってくれた会社にそのまま残ったりしますから、相手との関係が非常に大事だと思います。

むしろ当社のような第三者に仲介役として入ってもらったほうが気兼ねなく進められると言われる方も多いです。

冨田:そういうときにリアルだけでやってきた会社さんよりは、ネットも組み合わせてやられてきたストライクさんのほうが相性のいい場面があるということですね。

複雑化しやすい事業承継も分業で対応

株式会社ストライク

冨田:今後の計画としてコンサルタントの増員見通しを出されています。コンサルタントの採用と育成、もしくは社内の仕組みによる省人化推進かもしれませんが、このあたりの方針について少しお聞かせいただけますか。

荒井:これだけは最低限必要だという人数はあると思います。一方で、人数が多ければいいわけではない。優秀な人を採用するとともに、育成も必要です。社内では教育研修制度を作り、随時テストも行っています。そういう制度を利用して、結果を給与制度に結び付けることも将来的には考えています。

もう1つは分業です。売り手も買い手も、それぞれにいろいろな事情があります。売り手側だと事業承継もあれば、若手起業家の出口戦略もある。事業承継をしたいと言われる方も、自分の会社を譲渡するのは、重大な決断ですから、決断が遅れてしまうことが多いのです。社長自身の健康状態が悪くなってからやっと重い腰を上げたものの、進めている間に亡くなってしまう。そんなことも現場では起こりうるのです。

事業承継をできないまま社長が亡くなってしまった場合は、遺族への相続が発生します。遺産分割が終わらぬまま、遺族の方々がM&Aの相談に来られるケースもあります。会社経営は待ったなしです。社長の選任、相続手続きなどを迅速に進めなければなりません。複雑化した事案は、1人のコンサルタントで全部賄うのは不可能です。また、倒産案件のM&Aでは弁護士とのやりとりが必要になり、こちら側にも一定の専門知識が求められます。このような場合は分業体制で賄っていきます。

冨田:ありがとうございます。いろいろな資料を拝見している中で、中期計画として「1人当たりの効率性(成約数)を高める」ための戦略を記載しているページが印象的でした。1つの軸は「ソーシングルートの強化」でマッチング機能の強化、受託案件ソーシングの強化、拠点の拡大。もう1つの軸が「生産性(効率性)の向上」で、先ほどのお話にあったように優秀なコンサルタントの獲得・育成、専門家による業務支援、IT活用をしていくと。これに今のお話が集約されている感じがします。

荒井:おっしゃるとおり、ここまでのお話をほぼ網羅しています。

事業承継M&Aは急伸中

株式会社ストライク

冨田:荒井さんと最初にお会いしたのはストライクさんの上場直前の麹町でした。ランチをご一緒させていただいたのをよく覚えています。そのときは、公認会計士を中心とするプロフェッショナル集団であり、「SMART」によるオンラインマッチングをしているというのが非常に特徴的だなという印象でした。今は少し印象も変わってきているのでしょうか?

荒井:あのときは社員がまだ30人ほどで、その年上場した会社の中で社員数が一番少ないレベルだったと思います。確かに会計士の割合が高く、それを売りにしていました。今は銀行や証券会社など金融機関出身が半分ほどいますし、最近は少しずつ事業会社出身者も増えてきました。新卒の採用も力を入れ始めています。そういう意味では少しずつ変わってきています。

冨田:ありがとうございます。最後に未来構想をお聞きしたいと思います。事業承継は、日本においてこれからこんなに急成長するマーケットはないくらい、どでかいマーケットだと思います。50年前くらいから多数の会社が世の中に生まれてきたということは、当然、今後は大事業承継時代になるわけです。さらに、よく言われるとおり、日本の高齢化したマーケットでどういうことが起こるのか、全世界が注目していると思います。

もちろんもっと下の世代の会社もターゲットにされていると思いますが、特に事業承継というマーケットにおいて、市場感とともに未来の方向性やストライクさんの役割についてお伺いできると幸いです。

荒井:今、日本の経済界では戦後起業した人たちの世代交代期にあたっているので、事業承継関連のマーケットは伸び続けています。その中で、今我々がかかわるM&A案件数はだいたい年間100~200組ほどで、おそらくシェアは1~2%くらいだろうとみています。

多くの需要がありますので、国内のM&Aの仲介に専念するというのが私たちの基本的なスタンスです。その中で次の柱を作っていくとすれば、スタートアップ領域だと思い、展開を始めているところです。

今30歳の人も30年経てば60歳になります。そう考えていくと、今のスタートアップの人たちも30年後は事業承継を考えなければならないと捉えて、事業展開しています。

M&Aの形は今後より幅広くなる

株式会社ストライク

冨田:ものすごく長い時間をかけて、どんどん案件数がたまっていく。そんなイメージですね。

荒井:はい、その頃は私自身も経営をしていないかもしれませんね。

冨田:確かにスタートアップは、その30年の間に買い手側に回る可能性もあれば、最終的には売り手側に回る可能性もありますね。我々も今グループ会社に第一種少額電子の金融免許や第二種金融免許も保有しており近い分野でもあるのですが、未上場企業の株式流通が起こることはおそらく間違いのない流れです。

経産省や金融庁でもそういう動きがある中において、いわゆる適格機関投資家だけではなく、より裾野が広がって、株式の一部だけ売買したいといったニーズも満たせるような新しい市場になっていく。セキュリティトークンの市場もまさにそういう市場になっています。

このようにM&Aの形がより幅広くなってきていますよね。少し前まで、グループ傘下に入る際、51%だけ持ってもらって一緒に成長していくようなケースはそんなに多くなかった気がします。

荒井:そうですね。今はだいぶ増えてきています。

冨田:カーブアウト型の売却なんかもこの数年で加速しています。そういう意味では、事業を広げやすくなった一方で、経営における事業の選択と集中の選択肢も増えており、自然と買う側のマーケットも増えていく。そういう形で周辺市場と絡み合って大きくなっていくと考えると、事業承継のM&Aだけではなく、スタートアップも扱っていくというのは、私自身にとっても大きなメッセージに感じました。

プロフィール

氏名
荒井 邦彦
会社名
株式会社ストライク
役職
代表取締役社長
出身校
一橋大学商学部卒
資格
公認会計士・税理士