2022年度の税制改正で政府は株式の譲渡所得や配当所得にかかる金融所得課税を見直す方針を発表しました。2021年10月10日に岸田文雄首相は当面、金融所得課税の引き上げを考えていないと述べていたものの、将来的に税金が引き上げられる可能性は十分にあります。

株式にかかる税金は分離課税であり、本業の所得に関わらず一定の税率が課されます。しかし、株式の配当金に限り、所得と合算して申告すれば総合課税で税金を納付できるのはご存じでしょうか。本記事では金融所得課税の引き上げ時に知っておきたい株式の配当金の申告方法について解説します。

株式にかかる税金について

金融所得課税の引き上げ時に知っておきたい株式の配当金の申告方法
(画像=BrianJackson/stock.adobe.com)

2021年時点の税制において、株式にかかる金融所得課税は所得税15%+住民税5%です。2037年まで復興所得税0.315%かかるので、税率は合わせて20.315%になります。日本における所得税、相続税、贈与税は累進課税を採用しているので、所得が上昇するほど税率が上がる仕組みです。

株式の金融所得課税は所得の大きさに関わらず、一律に税を課す仕組みであるため、累進課税と比較すると所得が上昇すればするほど、税率的に有利になるのが現状です。

金融所得課税の強化の背景と現状の動き

政府が金融所得課税を強化する背景には格差の是正が挙げられます。給与所得課税の税率は所得税と住民税合わせて55%ですが、株式の金融所得課税と比較すると復興所得税を除いて35%の差が生まれます。よって、給与所得が少なく、金融所得が多い富裕層は税金の負担率が低下する構造となっています。

実際に年間所得が1億円を超えると所得税の負担が低下しています。所得税の負担が低下する所得の壁のことを「1億円の壁」と呼びます。所得が大きくなるほど税率が低下する構造は、累進課税の意義にも反するため、税率の引き上げによって格差を正す狙いがあります。

しかし、政府は10月10日に当面は金融所得課税に触れない考えを示し、賃上げ・下請け対策、看護・介護・保育の公的価格の見直しを優先する方針を明らかにしました。現状、金融所得課税の引き上げはすぐに施行されるものではないと考えられます。しかし、将来的に税率が引き上げられる可能性は十分にあるといえるでしょう。

株式の配当金の申告方法

株式の配当金は分離課税ではなく、別の方法でも申告できます。

・申告分離課税
・総合課税

それぞれ詳しく解説します。

申告分離課税

申告分離課税は金融所得課税で一律に定められている20.315%の税率で株式の所得を申告します。証券会社で源泉徴収を受けて必要な税金を支払っている場合、申告不要制度を利用できます。申告不要制度を利用するには、口座内で源泉徴収を行う特定口座を開設しましょう。

総合課税

総合課税は株式の所得を給与などの本業の所得と合算して申告する方法です。累進課税であるため合算した所得によって税率は変動します。また、すでに特定口座で源泉徴収を受けた場合でも株式の配当金を総合課税で申告可能です。総合課税で申告した結果、源泉徴収された税額のほうが大きい場合は差額が他の所得にかかる税額から控除されます。

税率の引き上げで総合課税での申告が適切になる理由

株式の配当金を申告分離課税または総合課税のどちらで申告するかは所得に依存します。

課税される所得金額税率控除額
1,000円 から 194万9,000円まで5%0円
195万0,000円 から 329万9,000円まで10%97,500円
330万0,000円 から 694万9,000円まで20%427,500円
695万0,000円 から 899万9,000円まで23%636,000円
900万0,000円 から 1,799万9,000円まで33%1,536,000円
1,800万0,000円 から 3,999万9,000円まで40%2,796,000円
4,000万0,000円 以上45%4,796,000円

参考:「国税庁『No.2260 所得税の税率』」

これまでは課税所得が株式の利益も含めて330万円未満でなければ、申告分離課税と比較して税率に差がないため総合課税で申告するメリットは薄い状況でした。しかし、金融所得課税が引き上げられ25%~30%になると仮定すれば、課税所得が695万円から900万円未満の場合は税率が23%であるため、総合課税で申告するほうがメリットは大きいです。

税率が引き上げられれば、申告分離課税で申告するほうが税率的に不利になる人が多くなるので、総合課税で申告するほうが有利になる人も増えます。

総合課税で申告する場合は配当控除が受けられる

国内株式の配当は、法人税が課された後の利益が分配されます。さらに所得税を課すと二重課税になるため、申告することで税額控除が受けられるのが配当控除です。具体的な控除の概要は下記の通りになります。

・剰余金の配当等に係る配当所得×10%
・証券投資信託の収益の分配金に係る配当所得×5%

株式の配当金だけでなく、株式投資信託の分配金に関しても配当控除は利用できます。また、申告分離課税や、申告不要制度を利用する場合は配当控除を受けられず、総合課税で申告する場合のみ受けられる制度になります。

認められる所得と認められない所得について

配当控除に認められる所得は、日本国内の法人から受け取る配当金や分配金に限ります。従って、外国法人から受ける配当金は対象になりません。ただし、外国株式の配当は現地と日本で二重課税を受けるため、外国税額控除を受けられます。配当控除は受けられませんが、別の控除が受けられるので、外国株式の配当も申告するメリットがあります。また、外国税額控除は総合課税を選択しない場合でも受けられます。

節税を考えるならNISAで投資する選択肢も

株式の配当金を節税するならNISA口座を利用して投資する選択肢もあります。NISAは個人投資家のための税制優遇制度であり、毎年120万円までの投資額に対する投資の利益が非課税になります。配当金に税金がかからないので、金融所得課税が引き上げられたとしても影響はありません。また、つみたてNISAという制度もありますが、こちらは投資信託・ETFにしか投資できません。

また、証券会社から配当金を受け取る場合は、受取の方式に株式数比例配分方式を選択していないと非課税になりません。非課税期間は最長5年間であり、期間が終了すると課税口座に移されます。ロールオーバーを利用すれば非課税期間を5年以上に延ばすこともできますが、ロールオーバーした額だけ翌年の投資枠を使用するため、非課税で投資できる金額が減少するので注意が必要です。

NISA口座内で取引を完結させない場合は、期間終了後の配当金の申告方法を考える必要があるといえるでしょう。

総合課税での申告が得になるかは所得次第

総合課税での申告で得になるかどうかは株式の配当金と合算した課税所得次第です。ただし、今後の金融課税の引き上げの結果によっては、総合課税のほうがメリットは大きくなる人が増えることは間違いありません。

株式の配当金とそれ以外の課税所得を合算した上で、適切な方法で納税することが重要になります。分離課税による税率よりも自身の所得にかかる税率のほうが安く、金融所得に多く税金を支払うことにならないように、自身の所得を把握することから始めましょう。

(提供:Incomepress



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