次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、フォースタートアップス株式会社代表取締役社長の志水雄一郎氏。社名が示すように、起業支援や人材紹介、優良企業への資金支援などスタートアップを育成する事業を展開することで知られ、同社のサポートを経てブレークスルーした会社は数知れない。ここでは、起業のきっかけやスタートアップ支援に対する思いをお聞きした。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

フォースタートアップス株式会社
(画像=フォースタートアップス株式会社)
志水 雄一郎(しみず・ゆういちろう)
フォースタートアップス株式会社代表取締役社長
株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)にて『DODA』立ち上げなどを経て、2016年に成長産業支援事業を推進する株式会社ネットジンザイバンク(現フォースタートアップス株式会社)を創業、代表取締役社長に就任。2016年『Japan Headhunter Awards』にて 国内初『殿堂』入りHeadhunter認定。2019年より日本ベンチャーキャピタル協会ベンチャーエコシステム委員会委員に、2020年より経団連スタートアップ委員会企画部会/スタートアップ政策タスクフォース委員に就任。2021年、経済同友会に入会。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

40歳になり人生を振り返ったことが起業のきっかけ

フォースタートアップス株式会社

冨田:御社には、当社の幹部を採用する際もお世話になりました。いまでは、スタートアップを支援するさまざまな事業を展開していますが、どういった道をたどってきたのでしょうか。

フォースタートアップス株式会社

志水:私は株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア)出身者で、転職サイト『doda』の立ち上げなどを経て、2016年に当社の前身となる株式会社ネットジンザイバンク(2018年にフォースタートアップス株式会社に社名変更)を創業し、代表取締役社長に就任しました。人材サービスからキャリアが始まったことが、現在の起業、人材紹介をはじめとするタレントエージェンシー(人材支援)事業につながっていることは確かです。

転機となったのは、インテリジェンスにいた40歳のころ。自分のこれまでの人生やキャリアを振り返っていたところ、日本の現在や未来を取り巻く環境が決してよくないことがわかったのです。例えば、過去アメリカに次いで2位だったGDPはいつの間にか中国に抜かれて3位になり、1人当たり名目GPDも過去2位から過去最低の26位にまで順位を下げました。賃金水準も過去3位から24位になり、国の競争力は”ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代から、過去最低の34位にまで落ち込んでいます。日本はそれほど豊かでなく、将来も明るくなかったのです。

さらに問題なのは、そうした事実について私を含め誰もが知っている状態ではなく、課題解決にも取り組んでいないことでした。これらの事実を正しく理解していれば、次世代により良い状態を残すために生きていて、誇りある未来を創るために努力していたはず。ところが、私は正しく課題を理解していませんでした。これが私の源泉になっていて、よりよい未来を作りたいのであれば、、新しい産業を作るべきで、次世代のためにより良い時代を残すために、自分が行動をするべきだと考えました。これが事業を始める動機になりました。

冨田:だからこそ、スタートアップの支援にこだわったのですね。

志水:具体的には2013年4月から、ウィルグループ子会社のセントメディア(現ウィルオブ・ワーク)のネットジンザイバンク事業部として、スタートアップ向けの転職支援から始めました。ここでは、以前から交流のあった株式会社美人時計(現BIJIN&Co.)代表の田中慎也さんから、ベンチャーキャピタリストで株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの今野穣さんをご紹介いただくなど、貴重な出会いがありました。恥ずかしながら当時は今野さんがどのような方なのかわからず、グロービスについても詳しく知らない中で、「次のソニーやホンダを作るのが目的なら、私と一緒にできることはないか」と申し出たところ、お互いにスタートアップやHRのことを教え合って、支援先をご紹介いただきました。

最初に向かったのは株式会社ゴクロ(現スマートニュース)で、メンバーは共同代表の鈴木健さん(現代表取締役会長兼社長 CEO)と浜本階生さん(現取締役 COO兼チーフエンジニア)をはじめとする面々。皆さんの要望や要求に対して人材を紹介することからすべてが始まりました。その過程で、私自身はビズリーチ主催の「Headhunter of The Year」で2014年と2015年の2年連続受賞、2016年には国内初の殿堂入りを果たし、同年に会社分割により事業部門を法人化しました。

冨田:御社が支援した有望なスタートアップは数知れず、株式会社メルカリなど上場を果たした企業もたくさんあります。

志水:ベンチャーキャピタル(VC)と連携しながら強いチームを作ることから始まり、VCにとっては我々がHRのハブになることで連携の輪が広がり、支援策も拡大していきました。

冨田:「Headhunter of The Year」を受賞したのは、何か狙いがあったからですよね。

志水:VCの皆さんから声をかけていただくには、数あるHRのヘッドハンターの中で誰が良いのか、市場の尺度で自分自身を可視化する必要がありました。そう思っていたときに、ビズリーチさんのプラットフォームを使わせていただき、結果を出して表彰される形で自身をブランディングしたのです。私自身が活躍することでスタートアップ支援にビジネスチャンスがあると、スタートアップHRに対する他社の姿勢を、前向きに変化させたい気持ちもありました。自分たちだけが稼ぐのではなく、全員が乗り込んで多くのスタートアップを成功させ日本を盛り上げるのが目的ですから、そのうえで、自分たちは市場の中で切磋琢磨して成長していけば良いのです。

IPOを経てハイブリッドキャピタルへ成長

フォースタートアップス株式会社

冨田:2020年3月にはマザーズに上場しました。そして現在は、テクノロジーを活用して公開情報を網羅的に把握し、スタートアップやVCとの連携による内面的情報も得たうえで1万3000社以上のスタートアップ情報を集約した『STARTUP DB』を構築。この情報を活用し、タレントエージェンシー(起業支援、人材紹介)とフォースタートアップスキャピタル(スタートアップ投資)を組み合わせた御社独自の「ハイブリッドキャピタル」を展開しています。加えて『STARTUP DB』のデータをメディアや金融機関や大学研究機関、政府自治体など公共機関に提供したり、スタートアップと大手企業の連携を支援したり、官公庁・自治体からスタートアップ関連事業を受託したりする「スタートアップエコシステム」構築に関わる、オープンイノベーション事業も行っています。

志水:私がリスペクトしているのは資金的な投資だけではなく、人や戦略も支援するベンチャーキャピタリストたちです。我々のIPOは、社会や未来をアップデートするために必要なことであると同時に成長産業支援事業が当たり前の産業に成長し、この分野で我々がトップを目指すためには必要だと、設立当初より目標にしていました。何よりも、我々が上場経験もないのに、支援先にIPOを勧めるのは説得力が伴いません。そのために2年半という短い期間で上場を目指し、実際には3年半で実現しました。

冨田:ヒューマンキャピタルから全方位的なキャピタルになることを目指したわけですね。ならば今後は、成長産業に必要なあらゆるキャピタルを提供するところまで向かうということでしょうか。

志水:順番があり、まずは人材と資金を組み合わせたソリューションであるハイブリッドキャピタルを磨きたいと思います。というのも投資には順序があり、我々は有力なベンチャーキャピタリストがポートフォリオの優先順位の上位に挙げる案件に対して、集中的に組閣を行っています。

スタートアップのバリューアップができると何が起きるかというと、次の調達ラウンドに進んだときに、我々にポートフォリオの一角に入らないかと声を掛けてくれるようになるのです。フォースタートアップスが投資家に加わり、IPOの確率やバリュエーションが上がると主要VCから思っていただけることで、当社としても他のスタートアップ投資につながり、人材紹介との連携も可能になります。

冨田:バリュエーションが上がるなら、VCからするとぜひ投資家に加わってほしいと考えるはずです。

志水:バリューアップしたチームをさらにバリューアップさせていくと、我々が投資したものが素晴らしい確率で返ってきます。優秀な人材を入れることでスタートアップの課題解決ができるからこそできるプロセスです。先ほど申し上げたとおり、当社はIPOをした経験があるので、適切なアドバイスが可能です。これらを価値として提供することでハイブリッドキャピタルを伸ばしたいと考えています。

起業を促すという点では、スタートアップ支援に特化したVCのインキュベイトファンド株式会社と連携し、起業希望者の発掘・起業サポートも行っています。我々はCXOから組閣する国内最大級のチームですから、起業家向きの人材を探すことが得意です。そういった人に対して「社会の公器になりませんか」と起業を提案し、インキュベイトファンドには事業案のリサーチや資金面をサポートいただいた結果、ユアマイスター株式会社や株式会社グラファー、株式会社TERASSなどの起業をプロデュースすることができました。今後も年間3~4社を支援する方針です。

冨田:スタートアップを軸に多岐にわたる事業を展開するまでに至りましたが、普段から大事にしていることはありますか。

志水:経営判断のうえでは、「日本の未来はアップデートされるのか?再成長できるのか?」を重視しています。

冨田:最後に、志水社長が思い描く未来構想をお聞かせください。

志水:長期的には、起業やスタートアップへのキャリア選択が当たり前の世の中にするということです。そのための足掛かりとして、ハイブリッドキャピタルのビジネスモデルを極め、可能性のあるスタートアップを日本だけでなく、世界に向けて発信していきたいと考えています。この日本から、世界に羽ばたくスタートアップや、新産業が次々とあらわれる世界の実現に向け、成長産業のエコシステム構築を強化し、日本の再成長に尽力します。

冨田:とても熱のこもったお話をしていただき、本日はありがとうございました。

プロフィール

氏名
志水 雄一郎(しみず・ゆういちろう)
会社名
フォースタートアップス株式会社
役職
代表取締役社長
受賞歴
2014年、2015年連続して『Japan Headhunter Awards』にて『Headhunter of The Year』受賞。2016年、国内初『殿堂』入りHeadhunter認定。
出身校
慶應義塾大学 環境情報学部 卒業