次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社サイバーセキュリティクラウド代表取締役社長兼CEO小池敏弘氏。稀少なセキュリティ国内メーカーとして満足度の高いサービスを提供しつつ、確実かつ安定的にマクロ環境を捉えてマーケットを取りにいく戦略は他社にはない。そんな同社のコアコンピタンスや今後の展開について伺った。

(取材・執筆・構成=丸山夏名美)

株式会社サイバーセキュリティクラウド
(画像=株式会社サイバーセキュリティクラウド)
小池 敏弘(こいけ・としひろ)
株式会社サイバーセキュリティクラウド代表取締役社長兼CEO
1983年生まれ。甲南大学法学部卒業後、2006年に、リクルートHRマーケティング関西(現リクルート)に入社。 営業組織のDX推進や事業企画、新規サービス開発などに従事。2016年にコミュニケーションツールのSaaS開発をおこなう米国AppSocially Inc.のCOOおよび日本子会社の取締役に就任。日米マーケットにてプロダクトの開発やグロース、および経営全般を管掌。2018年、株式会社ALIVAL(現M&Aナビ)を創業し、M&Aプラットフォームを開発し日本全国に展開。同社を譲渡したのち2021年、当社の代表取締役社長 兼 CEOに就任。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

プラットフォームビジネスのプロとしてCEOに抜擢され、トップラインを確実に伸ばす

株式会社サイバーセキュリティクラウド

冨田:はじめに、近年の戦略や体制の変化についてお聞かせください。

小池:弊社は昨年2020年に上場しました。ご存知のとおり50人弱の人数での上場は一般的に難しいとされています。そのためトップライン(損益計算書の一番上に表記される項目、売上高)を高くするための営業戦略に力を入れています。

以前よりお客さまの顧客満足度は非常に高かったのですが、お客さまが私たちを選んだ理由や、どのような属性なのか分析しきれていませんでした。ターゲットを明確にして、的確にアプローチする営業戦略にリソースを集中させることで、しっかりと売り上げを伸ばす体制を固めています。

株式会社サイバーセキュリティクラウド

冨田:小池さんはリクルートグループ、AppSociallyのCOOからALIVALの創業と連続起業家のような経歴をお持ちで、そこから上場したばかりのサイバーセキュリティクラウドの代表に就任されました。このようなケースは珍しいので、バックグラウンドについてお聞かせください。

小池:リクルートは起業家が育ったり、営業に強かったりするイメージが強いですが、私はどちらかというと企画系業務を着実に行うタイプで、携わる仕事もHR事業開発や会社のIT戦略などでした。

2014年にリクルートが上場するころ、約10年リクルートにいたのでやり切った感もあり、次はどうしようかな、と考えていました。同時期に、HRテックを日本に持ち込むためにサンフランシスコやシリコンバレーに行く機会がありました。

当時の日本ではあまりない、給与や経歴、会社名にとらわれずに自由に何でもチャレンジする文化に感銘を受け、2社目は全く違うフィールドに挑戦したいと思うようになりました。そこで出会ったのがチャットボットを開発するAppSocially 株式会社で、取締役COOを勤めました。

その後、2018年にM&Aの仲介サービスを手がける株式会社ALIVALを創業しました。ベースがプラットフォームビジネスなので、リクルート時代の経験やノウハウを生かすことができ、業績を伸ばすことができたのですが、プラットフォームビジネスはその性質上、とても不安定なビジネスです。時間とお金がかかるので、より資本力があるところに育ててもらおうと売却を決意しました。

ちょうどその頃、現在のサイバーセキュリティクラウドの経営陣に代表をやらないかとお声がけいただきました。一からビジネスを立ち上げて軌道に乗せた経験があり、かつ営業戦略までしっかりと実行できるような人物を探していたそうです。

本当に奇跡的なタイミングであり、チャンスでしたので、会社の売却がうまくできればという条件でお受けすることにしました。

稀少な国内セキュリティメーカーだからできる、ずっとお客さまに寄り添うサービス

冨田社長

冨田:近年は情報漏洩問題などの事件も日々起きており、セキュリティ関連事業者も増えていますが、その中で御社の競争優位性やコアコンピタンスはどこにあるのでしょうか。

小池:セキュリティの事業と言うと、最先端テクノロジーに強みがあると思うかもしれません。私たちの強みは逆で、そんな業界でありながら泥くさいことを丁寧に行っている点にあります。

セキュリティサービスは、導入時に評価されることは確かですが、導入後の運用が非常に面倒です。常に細かなチューニングを行ったり、脆弱性が出た都度対応するなど、継続的な運用が必要になっています。

弊社は品質を担保しながら高すぎず、安すぎず、手に届きやすい価格帯でサービスを提供しつつ、その後の運用にお節介だと思われるほど丁寧に対応しています。

そもそも国産のセキュリティサービスのメーカーは非常に少なく、多くは海外サービスを利用しています。私たちのように国産で行っているからこそ、細かく素早い対応ができます。お客さまに向かい合うことができるから、満足度が高いと考えています。

冨田:情報システムの強化を課題に感じている企業は少なくありません。ただ自社内で高い知識を持ち、業務を遂行することは簡単ではありません。その面で御社が業務の一部を担うようなイメージでしょうか。

小池:お客さまに寄り添って、いつでも頼っていただける相談役としての役割は現在も行っています。一方で弊社が提供しているサービスは、お客様にとってはまだまだセキュリティ対策の一部にすぎません。今後は、相談を受けるだけではなく、実際に課題を解決できる体制づくりやサービス開発をおこなっていきたいと考えています。

マクロ環境を捉え確実にマーケットを取り、お客さまから指示を得る

冨田:今後、どのようなマーケットを狙うか、どのように社会に価値を提供するかなど未来構想をお聞かせください。

小池:大きく2つのマーケットを狙う戦略を立てています。1つ目は、日本の中堅中小企業のマーケットです。今まではターゲティングを明確にしてこなかったため、取り逃がしが多かったので、そこに焦点を当てます。ECやオンラインサービスがどんどん増える中、セキュリティ関連の対応が間に合っていない企業が増えています。私たちがセキュリティの重要性を啓発することで、将来起こる企業の被害を1つでも多く防いでいきたいと思います。つまり、攻めのDXだけでなく守りのDXも必要だということを広めたいです。

株式会社サイバーセキュリティクラウド

2つ目は、グローバルマーケットです。WafCharmという製品を軸にグローバル展開を予定しており、年内中にアメリカ市場に本格的に着手し、来年より収益化を図ります。

株式会社サイバーセキュリティクラウド

小池:WafCharmはAWS、Microsoft Azure、Google Cloudという世界の巨大なクラウドプラットフォームを使っている人を対象としたサービスです。これらプラットフォームユーザーの一定割合は、間違いなくセキュリティ対策を実施するわけで、そうした人に弊社のサービスを使っていただけると確信しています。

彼らはプラットフォームを提供していても、細かな運用のためのチューニングツールは提供していないので、その部分を私たちが補う形になります。クラウドプラットフォーマーが伸びたら、私たちも伸びるという、堅実なマーケットを狙いにいきます。

就任当初は、世の中を変えるようなビジョナリーなことも考えていましたが、私たちの仕事は市場環境に順応しながら、幅広いお客様にサービスを提供することです。まずは、お客さまにとってなくてはならない存在としてのポジションを取り続けることが、私たちの任務だと考えています。

冨田:マーケットサイズが確実に伸びるところを着実に捉えられるというのは、非常に気持ちが良く、投資家の視点でも安定した戦略ですね。今後の展開も楽しみにしています。

プロフィール

氏名
小池 敏弘(こいけ・としひろ)
会社名
株式会社サイバーセキュリティクラウド
役職
代表取締役社長兼CEO
受賞歴
2021年:「High-Growth Companies Asia-Pacific 2021(アジア太平洋地域の急成長企業ランキング 2021)」で上位500社中85位にランクイン
2020年:ASPIC IoT・AI・クラウドアワード2020「先進技術賞」を受賞
2020年:Mizuho Innovation Awardを受賞
2020年:「2020年 日本テクノロジー Fast 50」で9位を受賞
2020年:「デロイト 2020年アジア太平洋地域テクノロジーFast 500」で232位を受賞
2019年:「2019年 日本テクノロジー Fast 50」で10位を受賞
2019年:「デロイト 2019年 アジア太平洋地域テクノロジー Fast 500」 で 229位を受賞
2018年:「2018年 日本テクノロジー Fast 50」で10位を受賞
出身校
甲南大学