次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社キタック代表取締役社長の中山正子氏。国土の安全に深く貢献し、総合建設コンサルタント業を古くから手がける同社のビジネスにかける思いや今後の展開について伺った。

(取材・執筆・構成=丸山夏名美)

株式会社キタック
(画像=株式会社キタック)
中山 正子(なかやま・まさこ)
株式会社キタック代表取締役社長
新潟市出身。大学卒業後、デザイン会社などを経て、2006年 株式会社キタック入社。CG ソリューションセンター長、総務部長、専務取締役等を経験し、17年 代表取締役社長に就任、新潟県の上場企業では初の女性社長。建設コンサルタント業の要は“人”であり、技術レベルの向上と魅力ある人材の育成に注力している。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

震災が増える中、国家単位でより必要とされる「総合建設コンサルタント」

冨田社長

冨田:非常に手堅い業界ですが、業界全体もしくは御社の近年の動向や変化についてお聞かせください。

中山:ここ数年は地震や豪雨等による激甚な災害が頻繁に起き、国は国土強靭化(大規模自然災害時に備えた国土の構築)の政策を立てるなど、防災減災に大きく力を入れ始めました。そのため、総合建設コンサルタントである私たちが置かれる環境が10年前とは大きく変わったと思います。

私たちは施工を請け負うわけではないので間接的ではありますが、国が取り組むi-Construction(アイ・コンストラクション、「ICT の全面的な活用(ICT 土工)」等の施策を建設現場に導入することで効率化を図ること)や3Dモデルを活用したBIM/CIM(3D CAD)にかかわる案件が増えたという意味では大きな転機に来ています。

弊社の仕事は98%が官公庁関連の仕事です。今、官公庁は必死で変わろうとしていて、例えば弊社にもDX(デジタルトランスフォーメーション)を取り入れてほしいとのご要望をいただきます。弊社が取り組めるDXは何か、どこから始めるか考えているところです。

株式会社キタック
▲橋梁等の点検。老朽化によるコンクリートのひび割れや、空洞化を打音検査と目視等で確認する。

冨田:Con-Tech(コンストラクションテック、建築(Construction)+技術(Technology))の話題も増えてきましたが、その影響はあるのでしょうか。

中山:Con-Techはもちろん、建設関連の業界全体に影響していますが、私たちはそこまで大きく影響を受けていません。この業界では、建設業とコンサルタント業に明確な線引きがあるので、あくまでコンサル業であるためです。

災害前からの予測・提案を可能にする地形や地質データとノウハウ

冨田:総合建設とは、特殊かつ国内でも数少ない事業だと思います。その事業を手がけるキタックの競争優位性やコアコンピタンスについてお聞かせください。

中山:新潟という地に根ざし、長年にわたり蓄積してきた地質や地盤のデータとそれをもとに対応してきたノウハウや実績が必須です。

「地すべりが起きた」と言われたら、現場に行く前からおおよその要因やするべき対応が分かれば、より効率的に復旧ができます。発注される前からデータとノウハウの蓄積があることが、他社にはない優位性です。

株式会社キタック
▲環境技術センターには創業期から土質試験室、さらに化学試験室が整備され、現場での試料採集から試験、分析・解析まで一連の業務が迅速に行える。

冨田:そこまでしっかりデータがあれば、先読みをしてリスクを回避したり、軽減したりするご提案もできるんですね。

中山:はい。ここはそろそろ点検したほうがいい、補修や改修が必要ではないかというご提案を行うのも私たちの仕事です。この提案も地に根ざしたデータと実績があってできることです。結果、参入障壁がとても高い超ニッチ産業です。

冨田:単に過去のデータがあるのではなく、そこから予測の仕組みが作れるのは非常に大きな強みですね。また、堅固なビジネスでありながら、さまざまな横展開が考えられそうです。

中山:近年は数値解析という手法で土砂災害のシミュレーションや、地質・地盤データを使った地中の3D可視化などに取り組んでいます。

地形や地質は地域によって大きく異なります。ですので、事業の広がりを考えるのであれば、地域特性を熟知した他社と組んだり、開発したシステムを業界の方に使ってもらうといった変革が必要です。

株式会社キタック

中山:官公庁の仕事だけに目を向けていると政策に業績が大きく左右されることがあります。「コンクリートから人へ」(民主党が2009年度マニュフェストで掲げた政策)となれば苦しい状況になりますので、行政に左右されることのない新しいサービスの展開を課題と捉えています。

社会的な課題、将来の国土を守る人材育成への取り組み

冨田:経営者としてどのような軸で事業を判断されているか、もしくは特徴的に力を入れていることがあれば教えてください。

中山:コンサルタントはその言葉通り“相談役”ですから人が命。人材育成にはとにかく力を入れています。少子高齢社会ということもありますが、さらにこの業界は若手のエンジニアを採用することが難しいです。大学では子供たちに人気のない土木系の学科が減っており、業界に必要な人材が育たない環境となっています。

日本人はどのようにこの国土を守っていくのかと、社会全体への課題を感じています。この仕事にかかわって、ITを組み込んだらもっと面白いことができるはずと考える若者たちもいますから、どんどんやらせてあげたい。変わることを否定する反対勢力もありますが、そこをなんとか変えるのが私の仕事でもあります。

社内では「社員教育の機会が増えすぎている」なんて言われることがあるほどです(笑)

冨田:今後は、官公庁以外の民間の仕事を広げていかれるのでしょうか。

中山:民間業務は官公庁の業務とは全く異なった取り組みが必要ですので、実は簡単なことではありません。意識改革と効率化を上手に行なって、広げていきたいと考えています。

私が代表になって約5年。徐々に仕事の仕方、そして根本となる社員のマインドセットを深化させようと努めてきました。これからも変革と社員教育には力を入れていくつもりです。

災害で亡くなる人がいなくなる社会へ向けて

冨田:最後に、今後の方向性や未来構想があればお聞かせください。

中山:私たちは災害で亡くなる人がいなくなる社会を作る使命を負っています。地方の1企業でありながらも、どれだけ安全な社会を作るのかを感じていれば社員が情熱を注ぐ理由になります。ここは創業からずっと変わっていない理念です。

新しい事業や民間への取り組みももちろん展開しつつ、私たちの価値の根源である災害から人々を救う使命感をこれからもずっともち続けたいです。

プロフィール

氏名
中山 正子
会社名
株式会社キタック
役職
代表取締役社長
出身校
玉川大学文学部芸術学科