次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

英語はもちろん、日本語にも長けたフィリピン人エンジニアを多数育成し、グローバルにITソリューションサービスを展開するUbicomホールディングス。近年はメディカル分野に強く、全国各地の病院やクリニックに経営改善、医療安全、働き方改革などを支援する医療ITソリューションを幅広く提供している。2021年10月には、革新的な婦人科内視鏡や婦人科遠隔ソリューションを開発したイスラエルの医療スタートアップ「illumigyn」への出資を発表したことで、話題となった。

Ubicomホールディングスは、今後何に注視し、ビジネスをさらにグローバルに展開していくのか。代表取締役社長の青木正之氏に話を聞いた。

(執筆・構成=横山由希路)

株式会社Ubicomホールディングス
(画像=株式会社Ubicomホールディングス)
青木 正之(あおき・まさゆき)
株式会社Ubicomホールディングス代表取締役社長
1958年生まれ。大阪府出身。85年、株式会社ルモンデグルメ(株式会社ワールド子会社)入社。同社取締役を経て95年、親会社ワールドに転籍、創業メンバーより直接指導を受ける。98年、子会社の株式会社ワールドクリエイティブラボ転籍により、IT業界に進出。2005年、株式会社WCL代表取締役社長就任。同年、株式会社AWS(現 当社)設立、代表取締役会長(現 代表取締役社長)就任。16年6月、東京証券取引所マザーズ市場上場。17年12月、東証第一部へ最短での市場変更を果たす。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

リカーリングモデルの「メディカル事業」で大きな成長。グローバル目線で進化を続けるニッチNo.1ホールディングスカンパニー

冨田:御社はフィリピンでのオフショア拠点を活用したITソリューション事業のほかに、医療機関向けの経営支援ソリューションを手がけるメディカル事業で知られています。創業から2016年6月のマザーズ上場までの御社の変遷をお伺いできますでしょうか。

青木:前身の創業は1993年ですね。フィリピンのラグナで創業された日本IBMと東芝テックの合弁会社であったAPTi-Philippines,Inc.が当社のルーツです。当時はIBMと東芝のプリンターなどの制御ソフトウェアの研究開発を行っていました。1997年にはフィリピン・アルカンタラ財閥との合弁で、Alsons/AWS Information Systems, Inc.を設立。POS端末のミドルウェア開発、業務用ソフトウェア開発などへ業務範囲を拡大し、2003年には現在の事業の中核でもあるフィリピン人エンジニアの人材育成センター「ACTION」を立ち上げました。

その後、株式会社AWSとして日本に本社を設立し、現在の組織体制となったのが2005年12月です。2012年12月には、医療業界初のレセプト点検パッケージソフトウェアメーカーとして知られる株式会社エーアイエスを100%子会社化し、ホールディングスとしての事業基盤が確立しました。株式会社Ubicomホールディングスに社名変更したのが、2017年7月で、現在はグループ内にフィリピンに2社、アメリカ1社、中国1社、日本1社の連結子会社がございます。

冨田:ありがとうございます。それでは2016年6月のマザーズ上場以降となる、ここ5年間の事業の広がりや変化を教えていただけますでしょうか。

青木:まずマザーズ上場には、2つの柱がありました。

1つ目は、「グローバル事業」です。日本は少子高齢化が進み、国民の平均年齢は45.65 歳で、まもなく約78万人のITエンジニアが不足するといわれています。これはもともと創業当時からイメージをしておりました。

一方で、フィリピン国民の平均年齢は25歳前後です。このリソースリッチなフィリピンの理系院卒、大卒生がエンジニアとなります。独自の研修プログラム「ACTION」により、まず日本語検定4級とフィリピン国家情報技術者試験(PhilNITS)の合格を目標に、約5ヵ月間にわたる教育を行ってから、プロジェクトに配属します。弊社ではチャレンジングで最先端のプロジェクトが常に多数稼動しており、若く希望に満ち溢れた人材の活躍を最大限に支援しています。そのIT人材戦略が、アメリカや中国、日本、フィリピンと、各国企業の課題解決に特化したトップノッチエンジニアとなる。当社はグローバルにソリューションを提供しているのです。

弊社のエンジニアが果たす領域は、主にソフトウェアとソリューションの2つがあります。組込みソフトウェア、アプリケーション開発などは20年以上の実績があり、近年は3A技術(AI 人工知能、Analytics 分析、Automation/RPA 自動化)を搭載した独自の先進ソリューション開発に力を入れています。

2つ目は、「メディカル事業」です。少子高齢化の日本では今後、高齢者の方々が今以上に病院を利用されることになるはずです。そうなると、医療関係者は業務効率化をしない限りさらに忙殺されます。そう危惧しておりました。

そこで当社は全国各地の病院・クリニックに、レセプト点検、医療安全支援、データ分析、クラウドサービス、コンサルティングなどの医療ITソリューションを提供しており、国立大学病院を含む高いシェアを獲得しています。

2016年頃から「メディカル事業」の事業の再構築とサブスクモデルに注力したところ、「メディカル事業」の営業利益率は2016年度の13.5%から、現在(2021年度上期)の53.9%にまで躍進しました。「メディカル事業」のリカーリング率(継続売上比率)は既に85%を超え、高収益基盤が確立しております。

冨田:御社の医療ソリューションを使用される病院、クリニックの規模は、かなりのものです。なぜそれほどまでに、全国の病院やクリニックに広がったのでしょうか。マーケティングでしょうか、それともアライアンスでしょうか。またM&Aで吸収されたからでしょうか。

青木:確かにかなりの規模ですね。医療現場の課題解決をする我々の「Mightyシリーズ」が広がった理由は、多数の大手の電子カルテメーカーさんに代理店をしていただき、各社の電子カルテに載せられて販売されているからです。かつてのCMで流れた「インテル入ってる」の形ですね。

病院やクリニックが電子カルテを使われることで、我々はサブスクモデルの使用料をいただきます。また、医療機関の経営支援に特化した複数のパッケージソリューションをクロスセールスで積み上げていくビジネスモデルになっております。

さらに今後は、既存の知財やデータベースを活用した「新たな医療プラットフォーム」の構想があります。全国の病院やクリニックに多数のダイレクトアカウントを持っているため、医療に係るニーズを直接吸い上げることができます。その強みを活かして、多方面の問題解決が図れるプラットフォームを目指します。

今後の戦略のキーワードは「ニッチNo.1プラットフォーマー」

株式会社Ubicomホールディングス

冨田:ありがとうございます。今後の構想として「新たな医療プラットフォーム」の話がありましたが、具体的にはどのような取り組みがございますか?

青木:メディカルの知財とクラウド技術を活用して、新規マーケットへの参入を始めております。保険業界向けのDX展開である「保険ナレッジプラットフォーム」です。

煩雑な保険金支払い審査業務の効率化を支援するサブスク型の収益モデルで、本格的には来期以降の売り上げに載せていきたいと考えています。

そのほかですと、直近でイスラエルの医療スタートアップ「illumigyn」にも出資いたしました。婦人科疾病の遠隔ソリューションですね。社内には英語の得意なエンジニアが多数おりますので、グローバル目線で伸びていくマーケットに当社の布石を置いていこう。そのように考えて投資を行いました。

M&Aに関しては、現在プライオリティを上げて国内外で検討中です。ただしM&Aを行う企業は、事業シナジーがある会社に限ります。当社のグループになっていただき、企業価値をさらに高めていくために行っております。

冨田:自社で成長領域に狙いを定めて事業を展開され、新しい保険や医療のプラットフォームの構想があることもわかりました。御社は中長期ビジョンの実現を最優先にした戦略的投資を行い、今後は「ニッチNo.1プラットフォーマー戦略」をキーワードに事業推進をされるそうですね。

青木:はい、1つ1つのニッチな事業でNo.1になることを繰り返し行っていくということです。No.1を獲得できる開発が常にできるのは、フィリピンにグローバルなエンジニアが数多く在籍しているからです。優秀なエンジニアがいてこそ、リカーリングが高くて人を介さないサードモデルのビジネスが生まれ、新しいテクノロジーが開発できますからね。

実は、コロナ禍で「メディカル事業」だけでなく、半導体や通信、ブロックチェーン、エッジAI、ゲームなどの大手を含むテック系のクライアントも増えました。メディカル領域は特に用語が難しいうえに、エンジニアの絶対数が足りません。さらにDXに長けたエンジニアも足りません。ですので、エンジニアの育成に現在最優先で投資をしております。

冨田:以前は開発の仕組みを提供する企業だった御社が、「メディカル事業」を自社で成功させたことで、社内で製作したシステムを提供する側に回られた。企業としてのフェーズが完全に変わられたことがよくわかりました。

今までのお話を伺っていると、御社のコアコンピタンスの1つ目は、ニッチNo.1の開発を支える優秀なエンジニア陣、2つ目は、「メディカル事業」のアカウントの多さだと思います。そのほかで、御社が競争優位と感じていらっしゃるところは、どんなところでしょうか。

株式会社Ubicomホールディングス

青木:我々のコアコンピタンスは3つございます。1つ目は、冨田さんがおっしゃるとおりグローバル人材の教育です。エンジニアとはいえ、いざビジネスになったときに技術力と同様にビジネス能力もないと困るわけです。そのために日本語でのビジネスモデルの発表を各個人にしていただく。そこで合格した人が晴れて当社のエンジニアとなる。これは長年行っていることで、当社のコアコンピタンスになります。

2つ目は、「メディカル事業」のもので、なかでも競争優位が2つあります。1つはメディカルに関するデータベースを自社で構築していること。もう1つは、プロダクトアウトでない商品を世に出し続けること。要は、エキスパートである各ドクターの皆さんと意見交換をしながら、ユーザーが欲しい新商品を作っています。

3つ目は、今の話と重なりますが、グローバルなR&Dセンターを持っているところです。当社はフィリピンに拠点があるため、他の日本企業さんに比べて開発費用なども抑えることができます。フィリピンからアメリカなどの最先端テクノロジーにアクセスして高付加価値のプロトタイプを作るのです。

AI領域に関しても、エンジニアの教育は随分前から始めておりましたので、最先端のプロジェクトが順調に拡大しています。時代の波に飲まれることなく、当社の戦略がマーケットにしっかり付いていっている。これが3つのコアコンピタンスになります。

社員に求めるのは仕事を「やった」と感じられる達成感と「三方よし」の心意気

冨田:最後にUbicomホールディングスの経営者として、どういった軸で意思決定をされているのか。青木社長が大切にしている点を教えてください。

株式会社Ubicomホールディングス

青木:まず我々の仲間である社員の方たちには、失敗をしてもいいから仕事を通じて「やった」感を感じてもらいたいというのがあります。経営マインドを理解しながらも、どんどんチャレンジする。社員には夢を持って挑戦してほしいと思います。

しかし社員として、外してはいけないことがあります。「武士の志」です。Ubicomは、その場しのぎのイベント・ドリブンで儲けることをよしとしません。近江商人ではありませんが、やはり「三方よし」なんですね。売り手と買い手が満足するのは当然のことです。社会に貢献できる事業をしてこそ、よい商売と言えると思います。

社員の方々は、仕事の「やった」感と「三方よし」の精神を絶対に外さずに事を進めてくれると信じています。そしてそれがUbicomの一番大事な部分だと、私は思っています。

プロフィール

氏名
青木 正之(あおき・まさゆき)
会社名
株式会社Ubicomホールディングス
役職
代表取締役社長