(メインシナリオとリスク)
以上、来年の主な注目材料を取り上げてきたが、最も重要な材料は明らかに世界経済の行方を大きく左右する「コロナ禍の行方」だ。
特に直近で感染拡大が発覚したオミクロン株はまだ不明な点が多く予断を許さないが、現時点において既存のワクチンや実用化の迫る経口薬が無効化されると見なすだけの強い理由はない。また、無防備だったコロナ感染拡大初期とは異なり、各国のコロナへの対応力は上がっていると考えられる。従って、現段階のメインシナリオとしては、米国や国内においてコロナの感染は制御され、強い行動制限の導入は回避される(もしくは短期的に導入されることはあっても長期化はしない)と想定している。
この場合、米国では雇用の回復基調が継続することで、FRBは来年前半にテーパリングを終了した後、数カ月様子を見たうえで9月に利上げに踏み切ると見ている。一方、米中間選挙では民主党が上院・下院のいずれか若しくは両方で過半数を維持できず、ねじれが発生する可能性が高い。
日本株については、内外の景気回復が追い風になる。日本株の割高感はPERが示すように既に解消しているため、景気の回復と企業業績改善が株価の上昇に繋がると見ている。ただし、来年後半は、FRBによる利上げへの警戒や米中間選挙でのねじれ発生が上値の抑制要因になる。現時点では、来年末時点の日経平均は30000円強と予想している。
ドル円については、今月のFOMCで発せられるメッセージがタカ派的な内容になると見込まれることから、年内はまだドル高の余地がある。
しかし、FF金利先物市場の織り込む来年の利上げ回数は既に3回弱に達しており、インフレ加速に伴う利上げを織り込みすぎているとみられる(筆者の予想では米国の来年の利上げ回数は1回で多くても2回)。従って、来年前半には利上げ観測がやや後退して一旦ドル安へ振れる可能性が高い。その後、米利上げ開始にカウントダウンに入ってくることで、米金利の上昇と連動する形で再び円安ドル高基調に入ると見ている。この結果、来年末時点の水準は現在より若干ドル高の1ドル114円台と予想している(具体的な値はP11の表を参照)。
なお、来年は米利上げに伴って日本の長期金利にも上昇圧力がかかると考えられるが、日銀の物価目標達成は見通せないことから、緩和の長期化観測は揺るがないだろう。来年末時点の水準は現状よりやや高めの0.1%台前半と予想している(具体的な値はP11の表を参照)。
以上がメインシナリオだが、日本株もドル円も下振れリスクが高い点は否めない。
その理由はコロナ情勢、特にオミクロン株など新しい変異株の影響に関して不透明感が強いためだ。変異株によって日米などで強い行動規制が導入されれば、株価は下落する可能性が高い。また、来年、米国の金融緩和が終了して引き締めに転じるにあたって、株式市場が想定していたよりも大きく悲観に傾く可能性も否定できない。株価が下落する場合には、質への逃避で米国債が買われて米金利が低下するうえ、リスク回避的な円買いも入ることで、円高ドル安が進むことになるだろう。
日銀金融政策(11月)
(日銀)現状維持(開催なし)
11月はもともと金融政策決定会合が予定されていない月であったため会合は開催されず、必然的に金融政策は現状維持となった。次回会合は今月16~17日に開催される予定。
(今後の予想)
今後の金融政策に関しては、日銀は大枠として、長期にわたって現行の金融緩和を続けると予想している。10月公表の展望レポートで示しているように、日本において原材料コストが販売価格に幅広く転嫁されて2%に向けて物価上昇率が大きく上昇する可能性は低い。またそうしたコストプッシュ型のインフレは日銀の目指す姿ではないため、出口戦略の開始はほど遠い。
一方でマイナス金利の深掘りは副作用の増大が避けられないため、物価上昇率を押し上げるべく追加緩和を実施するという手も取りづらい。従って、日銀は「強力な金融緩和を粘り強く続けていく」という建前を掲げながら、現状維持を続けざるを得ない。金利の膠着が長期化するなど副作用の緩和が十分に見られない場合や、円安が急速に進んで世論の悪化や悪影響が目立ってくるような場合には、政策を微調整する可能性が出てくるが、緩和の大枠に影響はない。
ちなみに、次回の会合では来年3月に期限が迫っている資金繰り支援策の延長の是非が検討される見込みだ。大企業向けの資金支援策であるCP・社債買入れ(上限20兆円)については、資金繰りが改善しているうえ、もともと昨年夏以降は日銀の保有残高も増えていないことを鑑み、縮小される可能性が高い。一方、中小企業向け銀行貸出のバックファイナンスであるコロナ特別オペについては、対面サービス業などで資金繰りが厳しい企業も多いことから、延長されるだろう。
金融市場(11月)の振り返りと予測表
(10年国債利回り)
11月の動き 月初0.0%台後半でスタートし、月末は0.0%台半ばに。
月初、イングランド銀行の利上げ見送りを受けて、5日に0.0%台半ばへ低下。その後は予想を上回る米CPI発表で金利が上振れる場面があったものの、政府経済対策に伴う国債増発の行方を巡り一進一退の展開が続いた。16日以降は良好な米経済指標や国債増発懸念の高まりによって0.0%台後半へとやや水準を切り上げ、下旬もパウエルFRB議長の再任方針発表による米利上げ観測によって高止まりが続いた。しかし、月終盤にはコロナ変異種「オミクロン」への警戒感が俄かに高まり、質への逃避で金利が低下、月末は0.0%台半ばで終了した。
(ドル円レート)
11月の動き 月初114円台前半でスタートし、月末は113円台後半に。
月初、イングランド銀行の利上げ見送りを受けた米金利低下によって、5日に114円を割り込んだ。さらに、米雇用統計での労働参加率低迷やFRB高官発言を受けて米利上げ観測が後退し、10日には112円台後半まで下落した。その後は予想を上回る米CPIのほか良好な米経済指標が続いたことでドルが買われ、17日には115円に肉薄。一旦調整を挟んだ後、米政権によるパウエルFRB議長の再任方針発表やタカ派的なFOMC要旨を受けて上昇し、25日には115円台半ばに到達した。しかし、月終盤にはコロナ変異種「オミクロン」への警戒感からリスクオフの円買いが入り、月末は113円台後半で終了した。
(ユーロドルレート)
11月の動き 月初1.15ドル台後半でスタートし、月末は1.13ドル台半ばに。
月の上旬は1.15ドル台後半を中心とする一進一退が続いたが、予想を上回る米CPIを受けて米利上げ観測が高まり、11日に1.14ドル台半ばへと下落。さらに米経済指標の改善を受けて、16日には1.13ドル台を付けた。その後は欧州でのコロナ感染拡大がユーロの売り材料となり、ユーロ安基調が継続。19日には1.13ドルを割り込み、24日には1.12ドル台前半まで下落した。月終盤にはこれまでのユーロ安を受けた持ち高調整的なユーロ買いが入り、月末は1.13ドル台半ばで終了した。
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上野 剛志 (うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席エコノミスト
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