次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社モバイルファクトリー代表取締役の宮嶌裕二氏。モバイル事業やコンテンツ事業で成長し、近年はブロックチェーン事業にも参入するなど、時代の変化を捉えたビジネス展開や今後の戦略について話を伺った。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

株式会社モバイルファクトリー
(画像=株式会社モバイルファクトリー)
宮嶌 裕二(みやじま・ゆうじ)
株式会社モバイルファクトリー代表取締役
1971年、東京都生まれ。1995年に中央大学法学部卒業後、株式会社ソフトバンクに入社。1999年7月には株式会社サイバーエージェントへ転職。オプトインメール事業「メールイン」を立ち上げる。2001年10月、有限会社モバイルファクトリーを起業。2003年4月に株式会社モバイルファクトリーに組織変更、代表取締役となる。位置情報連動型ゲーム『ステーションメモリーズ!』をはじめとしたアプリ事業やモバイルコンテンツ事業を展開中。2018年よりブロックチェーン事業に参入し、2021年6月にNFTマーケットプレイス「ユニマ」を提供開始。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

コンテンツプロバイダを背骨として事業を拡大

株式会社モバイルファクトリー

冨田:御社と言えば携帯電話向けに着メロや占いなどのコンテンツを提供し、近年はブロックチェーン事業にも参入したと聞いています。まずは、近年におけるビジネスの変遷をお聞かせください。

宮嶌:当社の事業は「モバイルゲーム事業」「コンテンツ事業」「ブロックチェーン事業」の大きく3つです。コンテンツ事業では2004年に着信メロディ公式サイトをリリースして以降、デコレーションメールや占いなどを提供し、これらは今も業績に貢献しています。また、09年から始まったモバイルゲーム事業では、「ステーションメモリーズ! (略称:駅メモ!)」などモバイルファクトリーを代表する位置ゲームを見出し、このおかげで15年には東証マザーズ、17年には東証1部に上場することができました。ブロックチェーン事業には18年に参入しました。コンテンツやゲームといった従来の事業に新たなセグメントが加わり、当社としても大きな変化を迎えているところです。

株式会社モバイルファクトリー

冨田:ブロックチェーン事業への参入は3年前ですから、非常に早いですね。

宮嶌:当初はウォレットの開発などから始まり、今年6月にはNFTマーケットプレイスの「ユニマ(Uniqys マーケットプレイス)」をリリースしました。

冨田:携帯コンテンツという市場があり、スマートフォン向けのゲームが主流な市場となり、そこからさらにNFTというわけですが、モバイルファクトリー社自体は何を背骨に事業を広げてきたのでしょうか。

宮嶌:基本的にはコンテンツプロバイダです。当初はドコモのiモードなどの大きなプラットフォームに着メロや占いで乗り、次はmixiやGREE、Mobageといったプラットフォームにも参入し、コンテンツ事業の延長と考えゲームを作りました。大きなマーケットがオープン化した時点でその流れに乗ったわけですが、モバイルゲームは一気にスマートフォンの時代に変わったので転換点では苦しんだことを覚えています。その過程で位置ゲームにたどり着いたわけです。

冨田:なるほど。さらにその先にコンテンツ自体のライセンスや、その売買や授受がブロックチェーン上に載るということで、デジタルデータをブロックチェーン上で個人の資産として保有するNFTに参入しているということですね。コンテンツプロバイダが背骨であれば、今日までの流れを理解することができます。

宮嶌:2017年に3ヵ月の育児休暇を取ったときに、はじめて中長期のことを考えて思ったのが、このままでいいのかということです。生まれた子どもが成人したときに同じビジネスをしているイメージが湧きませんでした。

では、20年後にしていたい事業は何かというと、もともとインターネットやBtoCが好きで、ブロックチェーンは突き詰めるとデジタル所有権を与えることができる技術です。今、インターネットはアプリがトラフィックを集めていて、Webは自由ですがトラフィック自体は減っています。ですが、ブロックチェーンを統合することで「Web3.0」の時代が到来して、ユーザーにとってもっと便利になると言われていて、今後進むべき方向はこれだと感じたのです。

当社としてはメガプラットフォーマーのもとでビジネスをさせてもらっていますが、そのままでは未来を感じることはできません。より明るいほうへ投資をしようと思ったのが、ブロックチェーン事業に参入するきっかけになりました。

冨田:振り返ると、ガラケー時代はWebを中心としたケータイコンテンツがあり、スマートフォンが台頭してからはアプリマーケットが急速に成長しました。そう考えると、御社はその時々で多くのトラフィック、すなわち多くのユーザーを集めているプラットフォームを取捨選択しているのは素晴らしいことだと思います。

宮嶌:ビジネス上、適用せざるを得なかった部分は大きいのですが。

冨田:今後、メインプラットフォームがWebやアプリに分散する中、コンテンツプロバイダとしてプラットフォームごとに最適化し、ユーザーにとってニーズのあるものを提供するというようにも聞こえます。ならば、新しいプラットフォームであるブロックチェーンやNFTのマーケットに事業が広がるというのも、大きくなる市場に先陣を切り抑えに行こうという姿勢に映ります。

宮嶌:そういう意味では、これまでの乗り換えは事業に効果的に効いています。ブロックチェーン事業はこれからですが。

冨田:先ほどおっしゃったように、今まではどちらかというとシフトせざるを得なくて順応しましたが、今回早めに準備に取りかかったのは、先行者としてより多くの果実を狙いに行ったのかなと私は思っています。

宮嶌:そうですね。会社としても体力がついたので、先回りができた面はあります。

「ユニマ」を使いNFTのオークションを開催

宮嶌:当初はプラットフォームを目指し、イーサリアムなどレイヤー1より高速処理が可能なレイヤー2のブロックチェーンを「Uniqys(ユニキス)」のブランド名で開発していました。うまくいくと世界を席巻できる可能性があると踏んでいましたが、海外との言語の壁などさまざまな問題や、上場していることもありハードルが高く、プロジェクトは一旦停止しています。

そうしたこともあり新たに舵を切ったのが、NFTのマーケットです。「ユニマ」自体はNFTの生成・販売プラットフォームで、ここでは暗号資産取引所の口座開設や暗号資産の購入をしなくてもNFTの販売・購入などすべての決済を日本円で行うことができます。

株式会社モバイルファクトリー

ここで何をしたかというと、位置ゲームの「駅メモ! Our Rails(略称:アワメモ!)」内にある全国約9300駅を「ステーションNFT」として、オークションを開催したのです。これ自体はゲーム上のデジタルデータとブロックチェーン上のトークンを紐づけたNFTで、保有することでユーザーは世界で唯一無二の「ステーションオーナー(駅の保有者)」だと証明されることもあり、これまでに永田町駅や麻布十番駅などが平均33万6600円で落札されました。

株式会社モバイルファクトリー

冨田:御社の場合、コンテンツプロバイダとしていくつも資産があり、「ユニマ」を通じてNFT化すると収益機会が生まれます。今後も新たな投資をした場合も回収できるマネタイズポイントが広がりますね。

宮嶌:それもありますが、目指すところはNFT発行企業から生成のご依頼をいただき、「ユニマ」で生成・販売を行い、利用料やユーザーの決済手数料でマネタイズするというビジネスモデルです。ただし、国内ではNFTマーケットの盛り上がりにまだ欠け、懸念点がないわけではありません。

冨田:暗号資産は儲かるとなると爆発的に投資家が増えましたが、NFTも次第にそうなるのではないでしょうか。そうすると流動性が高まり適正価格になると、さらに投資家を呼び込みます。

宮嶌:現状は国内も英語圏も投資家のユニークユーザー数は少なく、一部の人が高額で入札しているようです。

冨田:どの市場でも最初は玄人が入ってきて、だんだんマスマーケットになり、盛り上がりますから、海外も含めてまだその手前ということでしょうか。

宮嶌:海外ではそういった展開が期待できますが、日本は暗号資産の税制が雑所得扱いなので、NFTの販売という意味では、それほどうま味がありません。また、暗号資産のまま持っていたほうが、よっぽど流動性も担保できるでしょう。いずれにしても、日本人だけを対象にしても厳しいと思うので、英語圏で売れるようにしないといけないと考えています。

優秀な開発陣がいるので果敢にチャレンジできる

株式会社モバイルファクトリー

冨田:コンテンツやモバイルゲーム、さらにはブロックチェーンと、それぞれ開発するものが違いますが、こういった多様性を支える御社の競争優位はどこにありますか。

宮嶌:2点あり、1つ目はライフタイムバリューが大きいユーザーを獲得していること。2点目は優秀な自社開発陣がいるので、躊躇なく新規事業に飛び込めることです。

冨田:だからこそ、プラットフォームの変化にも順応できるのですね。最後に、思い描く未来構想をお教えください。

宮嶌:直近5年ではNFTに期待しています。Webをバージョンアップさせる技術であり、インターネットをより便利にしたいという我々の考えとも合致しているからです。また、上場当時は主力事業がゲームだというと、年配の経営者から冷たい反応を示されることが少なくありませんでした。ところが、ゲームも映画やテレビと同じで、生活を豊かにするツールの1つです。大切な文化であることも示したいと思います。

冨田:いまでは、オンラインが自分らしさを出せる場所にもなっています。ブロックチェーンを含め、新しいプラットフォームを作り、インターネットをアップデートさせるのが御社の役割だと今日のお話で感じました。

宮嶌:「Web3.0」を迎えたときに、モバイルファクトリーが重要な会社になっているはずです。

冨田:そうなることを期待しています。本日はありがとうございました。

プロフィール

氏名
宮嶌 裕二
会社名
株式会社モバイルファクトリー
役職
代表取締役
出身校
中央大学