従来、非上場株式への投資(以後、非上場株投資)は、機関投資家やプライベートバンクの超富裕層、投資先と特別なコネクションを持っているエンジェル投資家にしか門戸が開かれていなかった。しかし、最近では非上場株の小口化や流動性向上が進んでおり、一般的な個人投資家でも手軽に投資できるようになっている。
そこで検討したいのが、個人投資家がベンチャーキャピタル(VC)ファンドのように複数の非上場株に分散投資をして、ポートフォリオ全体の運用リターンを高める「ひとりVCファンド戦略」だ。今回は、特集【「ひとりVCファンド戦略」のススメ】と銘打ち、非上場株投資について、さまざまな情報をお届けしていこう。
「ハイリスク・ハイリターン」の運用方法
「株式投資」というと、トヨタ自動車やソフトバンクといった上場株式の売買をイメージすることだろう。近年は日本の個人投資家の間でも米国株投資が浸透しつつあり、アップルやマイクロソフトへの投資を思い浮かべる人もいるかもしれない。
しかし、投資家が売買できる株式は、証券取引所に上場している上場株式だけではない。非上場会社の株式であっても、買い手と売り手の合意があれば、原則として売買することが可能だ。もちろん、非上場会社が増資(新たに株式を発行すること)して、その非上場株を投資家が買い取っても問題はない。
基本的に、非上場株投資といえば非上場のベンチャー企業に投資することであり、「ハイリスク・ハイリターン」の運用方法だ。投資先が順調に成長して、新規株式公開(IPO)をしたり、M&Aで企業を売却したりすれば、投資元本10倍はおろか、100倍になる可能性すらある。
とはいえ、非上場株は証券取引所で売買されるわけではないため、価格の決定プロセスが不透明になりやすい。すべてのベンチャー企業が順調に成長するわけではなく、最悪の場合、倒産に追い込まれて投資元本が1円も返ってこないこともある。
また、非上場企業は監査法人の監査を受けていないことが多いため、事業内容や財務状況のデューデリジェンスの担保も投資家側が行う必要があった。多くの個人投資家にはリスクが大きすぎるため、証券業界の自主規制団体である日本証券業協会では、証券会社が一般的な個人投資家に非上場株を勧誘する行為を原則禁止している。
個人投資家が非上場株に投資する主な方法
したがって、これまで非上場株投資の主なプレイヤーは、大手金融機関や年金基金、政府系基金といった機関投資家が主役だった。プライベートバンクに口座を開設できるような超富裕層であれば、個人であってもVCファンドやPEファンドを通じて投資することが可能だが、「最低ロットは1億円から」という世界だ。エンジェル投資家になれば、もう少し小さなロットで投資することできるが、独自の人的ネットワークと投資先の真贋を見極める目がなければ難しい。
しかし、2015年5月に「株主コミュニティ」と「株式投資型クラウドファンディング」が創設されて以降、段々と非上場株の小口化や流動性向上が進み、一般的な個人投資家もアクセスがしやすくなってきた。
株主コミュニティとは、地域に根差した企業の資金調達を支援する観点から、非上場株の取引・換金ニーズに応えることを目的として創設された制度だ。証券会社が非上場株の銘柄ごとに株主コミュニティを組成し、これに参加する投資者に対してのみ投資勧誘を認める仕組みとなっている。しかし、取り扱っている銘柄は2021年9月10日時点で32銘柄しかなく、売買金額もそこまでは大きくない。「実質的には形骸化している」(ある株式投資型クラウドファンディング会社社長)という指摘も根強い。
株式投資型クラウドファンディングとは、インターネットを通じて、多くの人が少額の資金を出資し、非上場会社の株式に投資することのできる仕組みだ。それに加えて、足元では非上場株に「株式投資型クラウドファンディング以上・プライベートバンク未満」の金額で投資できるファンドも生まれている。その詳細は第2回で紹介しよう。改めて、個人投資家が非上場株に投資する主な方法をまとめてみた。