次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社アンビションDXホールディングス代表取締役社長清水剛氏。不動産業界の労働集約型なビジネスモデルを変革し、国境を超えてリアルタイムに不動産取引ができる世界の実現を目指す同社の競争優位生やビジョンを伺った。

(取材・執筆・構成=丸山夏名美)

株式会社アンビションDXホールディングス
(画像=株式会社アンビションDXホールディングス)
清水 剛(しみず・たけし)
株式会社アンビションDXホールディングス代表取締役社長
大学卒業後、大手賃貸不動産会社に勤務。不動産業界の労働集約型なビジネスモデルに違和感を抱き、不動産のあらゆる領域に新風を巻き起こそうと決意する。2007年9月株式会社AMBITIONを設立、代表取締役に就任。21年10月1日に株式会社アンビションDXホールディングスへ社名を変更。現場の声から生まれるDXプロダクトを開発。住まいの未来を想像し、出会った人すべてに夢を提供するという“AMBITION(大志)”を掲げ、現場から不動産業界を支えるべく進化を続けている。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

労働集約型モデルから業界を脱却させるため、テクノロジーを活用しDXの基盤を整える

冨田:順調に規模も事業の幅も広げられていますね。創業当初から現在に至るまでの変遷や上場してからの変化などをお聞かせください。

清水:弊社は不動産の売買、管理、仲介さらに近年では保険やDX事業を手がけるなど総合的に事業を展開しています。すべての軸となっているのは、不動産業界の労働集約型のビジネスモデルからの脱却です。

株式会社アンビションDXホールディングス

清水:この業界に携わる人は時間的にもハードで煩雑な仕事をこなしているけれど、それは必要なのか、テクノロジーで解決できないかという課題がずっと見直されませんでした。私自身、上場してからは一層強く改善すべきだと考えていますし、そうでないと私たちも、業界も将来がないと思うのです。

冨田:労働集約型が続いてきた業界全体を変えるという高い使命感を持って、事業を展開されているんですね。その中で、御社の競争優位性やコアコンピタンスはどこにあるとお考えでしょうか。

清水:一言でお伝えすると、「現場を知っている」ことです。事業を展開する中で、現場を知っているからこそ確実にお客さまのニーズをとらえて、サービスの提案ができるということを実感します。

システムを作るだけならどこでもできるかもしれません。ただ、不要な機能があったり、必要なものがなかったり、さらには現場の負担になったりするケースが多々あります。私たちは、現場が求めるものだけを作って世に出すようにしています。

冨田:だからこそ現在のような事業展開ができ、お客さまからも評価をいただけるんですね。また2021年6月期の決算説明資料を拝見したところ、経済産業省が定める「DX認定取得事業者」に選定されたことや、DXの基盤作りについて描かれています。

弁護士ドットコム社さんやマーケットエンタープライズ社さんと業務提携をするなど、他社さんとの連携にも力を入れていらっしゃいますね。

株式会社アンビションDXホールディングス

清水:テクノロジーの分野で強みを持つ企業と組むことで、これから開発・提供するツールの可能性を追求できると考えています。私たちが現場とコミュニケーションを取り、その課題解決する機能をテクノロジーで補完していただく。非常にポテンシャルのあるサービスがこれからも生み出せるはずです。

不動産業の労力と時間を大幅に削減した、革命的な管理システム「CPMA」

冨田社長

冨田:他社さんとの連携でテクノロジー化を加速化し、新サービスの開発に取り組んでいるんですね。既存のサービスで代表的なものに、契約進捗管理システム「CPMA」(Contract Process Management Automation=契約進捗管理システムの略)があります。このサービスについて、もう少し詳しくお聞かせください。

株式会社アンビションDXホールディングス

清水:「CPMA」は、不動産業の無駄な仕事をなくし効率化するシステムで、2018年より提供しています。以前は、案件があるごとに不動産会社と管理会社が何度も電話をかけあい、図面をFAXで送り、内見のための鍵を確認する……、とにかく時間と労力を要していました。

それらがすべてインターネット上で対応でき、審査状況など必要とされる情報がリアルタイムで確認できるようにしました。

実はこのサービスを始めたとき、当然求められるサービスだと思って不動産業者にご通知を差し上げたのですが、そこから弊社への問い合わせがパタリと止まりました。ネットやシステムに慣れていない業者さんにとって、アレルギー反応が出てしまったんです。

このままではまずいと思い、旧来のやり方を残しながら「CPMA」も使えるハイブリッドにいたしました。すると自然とこのサービスが受け入れられていき、今では多くの不動産業者さんが便利だと評価していただけるようになりました。

冨田:「CPMA」を浸透させることで、不動産業者さんたちの労働集約型の仕事が変わったとは、非常に革命的ですね。

また御社は、国土交通省の「賃貸取引における書面の電子化の社会実験」と「個人を含む売買取引についてのITを活用した重要事項説明(IT重説)の社会実験」にも参加されていらっしゃいますね。

清水:はい。無駄をなくしオンラインですべてが完結する仕組みづくりは長年の夢でもあります。国をあげてIT化を進める動きが追い風となっている今こそ、本格的に業界を変えていきたいです。

国境を超え、リアルタイムで不動産が取引できる世界をつくる

冨田:今までも業界の慣習や文化を変革されてきたと思いますが、思い描く未来像についてお聞かせください。

清水:テクノロジー化が進む自動車業界では、テスラなどの企業がスマートフォンで決済ができるなど社会の構造が変わってきています。不動産も、歩いていてたまたま見つけた物件に関心を持ったら、その場で価格や条件が分かれば素晴らしいですよね。

まだ解決していく課題は多いですが、将来的には国境を超えてリアルタイムに物件の情報が把握でき、数分で契約ができる世界を思い描いています。実現すれば、エンドユーザーが便利なだけでなく、サービスのサイクルが循環して活性化するので、業界や経済社会への貢献にもつながるはずです。

私たちの力だけではなく、国や制度、業界の他社様の存在も大切ですが、そんな世界に向けて今後も事業を生み出し、展開していきます。

プロフィール

氏名
清水 剛(しみず・たけし)
会社名
株式会社アンビションDXホールディングス
役職
代表取締役社長
受賞歴
アジア太平洋地域の急成長企業ランキング『High-Growth Companies Asia-Pacific 2021』に選出
アジア太平洋地域 13 ヵ国、100 万以上の調査対象企業中 361 位、日本企業で 94 位