次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社PR TIMES代表取締役社長山口拓己氏。メイン事業の「PR TIMES」をはじめ、プロダクト開発やメディア運営まで幅広く手がけ、世界の情報プラットフォーマーを目指す同社の強みや未来構想について伺った。

(取材・執筆・構成=丸山夏名美)

株式会社PR TIMES
(画像=株式会社PR TIMES)
山口 拓己(やまぐち・たくみ)
株式会社PR TIMES代表取締役社長
愛知県豊橋市出身。大学卒業後、山一證券、アビームコンサルティングなどを経て2006年にベクトルに入社し、同社取締役CFOに就任。07年にプレスリリースサービス「PR TIMES」を立ち上げ、PR TIMESの代表取締役社長に就任(現任)。16年3月に東証マザーズに上場、18年9月に東証一部へ。20年1月にグッドパッチの社外取締役に就任(現任)、同年6月に東証マザーズに上場。同年11月に地元豊橋市未来創生アドバイザー就任(現任)。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

マーケティングツールだけでなく、社会にとって重要な情報発信の場となった「PR TIMES」

株式会社PR TIMES

冨田:プレスリリース配信サービスで確固たる地位を確立されていらっしゃいますが、現在に至るまでの事業の変遷についてお聞かせください。

山口:「PR TIMES(http://prtimes.jp)」は2007年4月にサービスをスタートさせました。当初はなかなかサービスが伸びず、2年3ヵ月ほどかかってようやく利用社数1,000社という成長スピードでした。今では毎月1,000社以上のペースで新規のお客さまにご利用いただいていることを考えると、非常に苦戦していたと分かると思います。

そこから2回の転機があったと考えています。1つ目は、2010年前後から始まったスマートフォンの普及と、それにともなうSNSの利用者数の増加です。TwitterやFacebook経由の閲覧数がぐんとあがり、それに合わせて利用社数も増えるようになりました。

もう1つは2011年の東日本大震災です。震災の影響を受けた企業にはそれぞれの事情があるので、営業時間変更やイベントの延期や中止、被害救済や復興支援など、震災関連のプレスリリースは無料でメディアに配信できるようにしました。すると寄付や寄贈、支援、誰がどのような復興活動をしているかというリリースが非常に増えたんです。

それまでは、企業の閲覧数やお問い合わせを増やすマーケテイングツールとして使われていましたが、実は社会にとって大事な情報発信の場になることが分かり、サービスそのものを見直すきっかけとなりました。

現在の社会的な価値を考えたミッションや、事業戦略が形作られたのはこの期間です。

多角的な事業展開で「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」を実現する

冨田社長

冨田:PRプラットフォーム以外にも、管理・コミュニケーションツールのプロダクトや、買収したスタートアップニュースメディア「BRIDGE(https://thebridge.jp/)」、生活やテック系の情報メディアを展開されていますね。

山口:以前より「PR TIMES」で単にリリースを配信するだけだと、お客さまの情報が届きにくいと課題を感じていました。

世の中のメディアで流れる情報を改めて見ると、主役は事件事故とスキャンダル。大衆に人気があるのはそれらのネガティブなコンテンツなんです。もっと価値がある情報が社会にはたくさんあります。私たちのお客さまの成果・成功、社会的意義のある取り組みをもっと多くの人に届ける必要がある。

そこで、業務提携、買収、自己資本で投資してのメディア事業、スタートアップ企業が2年間無償でプレスリリースを配信できる「スタートアップチャレンジ(https://prtimes.jp/startup_free/)」などを行ってきました。

冨田:クラウド情報整理ツール「Tayori(https://tayori.com/)」、タスク・プロジェクト管理ツール「Jooto(ジョートー)https://www.jooto.com/」などのプロダクトについて、手がけられた経緯などをお聞かせください。

山口:2013年ごろ、「PR TIMES」のサービスサイトで、すべてのページでサポートデスクの電話番号を大きく表示して、問い合わせの量や内容がどう変化するかテストをしてみました。すると弊社ではなくプレスリリース配信元の企業にコンタクトを取りたいという問い合わせがすごく増えたんです。連絡先が分からない、どうやってもつながらないという最後の頼みとして弊社に問い合わせているんですね。

お問い合わせを直接受けられず、大きな機会損失をされているお客さまが多くいることを痛感しました。そのようなお客さまの損失をなくすサービスをしたいと思い開発したのが、フォーム・FAQ・チャット・アンケートなどのコミュニケーションが簡単に管理できる「Tayori」です。

株式会社PR TIMES

タスク・プロジェクト管理ツール「Jooto」は、「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」というミッションを立てるときに事業買収してはじめたサービスです。企業の活動やサービスがどんなに価値のあるものでも、その後の活動が継続しないともったいない。そこで、行動までをサポートするサービスができないか模索していました。そのタイミングでご縁をいただき、シンガポールを拠点として開発を行っていたスキップフォワードさんから事業を譲渡していただいたんです。

株式会社PR TIMES

利用されるほどにプラットフォームの価値が高まる好循環は唯一無二の強み

冨田:事業の幅を広げられる中で、御社のコアコンピタンスはどんなところにあるのでしょうか。

山口:弊社は事業ごとに責任者を置いてすべてを任せていますから、コアコンピタンスもそれぞれです。その中でも、顧客やユーザーを広げる原動力になる、その顧客やユーザーの成功に寄与する、他社がまねしにくいという3点は共通認識として持っています。

メイン事業はお客さまに恵まれ、この3つがそろっています。よりお客さまが「PR TIMES」で情報を発信すると、プラットフォームにデータが蓄積されて価値が高まり、結果として継続的に利用していただいたり、新規のお客さまが増えたりと好循環が生まれています。

このような循環は、機能だけ競合他社がまねしたところで、一朝一夕ではできません。その意味では、お客さまこそが弊社のコアコンピタンスと言えるかもしれません。

冨田: 2021年度第2四半期決算説明資料の35ページに描かれた「ネットワーク効果による事業成長」という弾み車のような絵に、まさにその好循環が表現されているようですね。

株式会社PR TIMES

冨田:近年、本格始動されたPRパートナー事業についてもお聞かせください。

山口:リリースプラットフォーム事業を展開する中で、お客さまから有償でよいのでリリースの企画や効果検証まで手厚くやってほしいというニーズを受けることがあります。ただ、そのまま受けると私たちのお客さまでもあるPR会社と同じサービスを提供することになってしまう。

そこで「PR TIMES」が保有する100万件以上のプレスリリース、月間5,800万件を超えるアクセスデータなどを活用し、テクノロジーと組み合わせて企画提案からレポーティングまでができる、弊社独自のサービスとして展開しています。

株式会社PR TIMES

世界で「PRの民主化」を実現し、社会のインフラとなる情報プラットフォーマーへ

冨田: 最後に、これからの取り組みや未来構想についてお聞かせください。

山口:プレスリリースを通じて思い描く世界像については、先ほどお話したミッションに向けて、ニュースの主役がスキャンダルのようなネガティブなものではなく、ポジティブなものに変わること。そして、誰もが自身の価値ある情報を発信し、次につなげていける世界です。

株式会社PR TIMES

私たちのマイルストーンとしては大きく3つあります。1つ目は「PR TIMES」を「社会的なインフラ」と呼ばれるにふさわしい、認知と信頼を獲得することです。今はまだ限られた商圏の方にしか知られていません。インフラとして、その国のすべての人の仕事を前進してくれる支えとなる存在になりたいです。

2つ目は、「誰でも自由に価値のある行動を伝える」、つまりPRの民主化を世界に広げることです。「PR TIMES」は、今は「日本で」有数のアクセス数を誇るプラットフォームですが、これを世界で知られるインターネットサービスに成長させます。

最後は、それぞれの新規事業が大きくなって、「PR TIMES」を超える存在感を放っていけるようになることです。「Tayori」、「Jooto」、「BRIDGE」などポテンシャルのある事業を任せているメンバーをはじめ、多くの人が育っていく組織でありたいです。また、手がける事業として「PR TIMES」を超えてもらうことが目的ではないですが、社会的なインパクトがないと上場企業として事業をやる意義が薄いです。

今ある根幹事業と合わせて、他事業を社会的なインパクトがある存在にする。そして、海外展開するときには、それぞれの国で価値があるものを残す。それに向けて、事業に取り組み展開を続けていきます。

プロフィール

氏名
山口 拓己(やまぐち・たくみ)
会社名
株式会社PR TIMES
役職
代表取締役社長
ブランド名
PR TIMES
受賞歴
・IPRA(国際PR協会)「ゴールデン・ワールド・アワーズ・フォー・エクセレンス(GWA)」環境(エンバイロメンタル/エージェンシー)部門 最優秀賞
・第42回「2021日本BtoB広告賞」雑誌広告の部 銀賞
・「デロイト トウシュ トーマツ リミテッド 2021年 日本テクノロジー Fast 50」45位
出身校
東京理科大学