次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回のゲストは、バルテス株式会社代表取締役社長 田中真史氏。ソフトウェアテストや検証サービスなどの事業を幅広く展開し、技術を組み合わせて新規サービスにも尽力する同社の強みの源泉や、企業理念、今後の展開について伺った。
(取材・執筆・構成=丸山夏名美)
1962年3月、大阪府生まれ。高校卒業後、ソフトウェアエンジニアとして中小ソフトハウスに就職し、4年間、SE/PGとして従事。その後、フリーのエンジニアとして活動し、1990年にソフト開発会社を設立し、代表取締役に就任する。約15年間の経営の後、後身に事業譲渡。そこでの経験からソフトウェアテストの重要性を実感し、安心・安全なICT社会の実現を目指してプロ集団を育成するために、2004年にバルテス株式会社を設立、代表取締役社長に就任。2012年にはバルテス・モバイルテクノロジー株式会社を設立し、代表取締役会長に就任。2019年5月にバルテス株式会社が東京証券取引所マザーズ市場に上場を達成。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
時代のニーズに合わせ、品質向上をトータルサポートする企業へ転換
冨田:まず、創業からの事業の変遷についてお聞かせください。
田中:弊社は組み込みシステムをメインとしたテスト会社として2004年に設立しました。テレビ、カメラ、複合機など世の中の家電がアナログからデジタルへシフトする時代だったので、その流れを追い風に成長してまいりました。現在では製造業はもとより、金融、流通・小売、サービス、インフラといった様々な業界のソフトウェアテストや品質コンサルティングサービス、セキュリティ・脆弱性診断サービスなどを軸にした事業を通じて成長しています。
転換期は2008年のリーマンショックです。日本の製造業がどんどん凋落していくなかで、弊社として、改めて多くの企業のために価値を提供できるサービスは何なのか、ビジネスを見直しました。
そこで「私たちは品質にコミットし、安心・安全なICT社会の実現に貢献します。」という企業理念の根幹は変えず、組み込みシステムへのテストで培ったノウハウを生かして、Webサービス領域へのソフトウェアテスト・品質向上支援へ転換を図ったのです。
さらには基幹システムをはじめとする大規模システムを対象としたエンタープライズ領域に向けたサービス展開も行うなど、品質向上のトータルサポート企業へと転換できたことが成長要因だと思います。今後は、様々な業界への支援で培った知見をもとにし、複数のシステムが連携することで成り立つ、IoTやDXといったテーマのシステムにおいて、サービスを提供していきたいと考えております。
属人化しない組織作りのため、人材育成と教育を徹底
冨田:時代の流れやニーズをしっかりと汲み取って、事業を拡大されてきたんですね。その強みの源泉や御社のコアコンピタンスについてお聞かせください。
田中:コアコンピタンスは社会に貢献できる人材育成の仕組みです。新卒、未経験、中途入社にかかわらず、入社時の研修を充実させ、誰もが学習できる環境づくりを整えています。
具体的には新卒、未経験者で2か月間、中途入社者でも1か月間もの間、弊社の研修を受け、弊社が持つメソッドを徹底的に学んでいただきます。
組織は属人化してしまうと品質がバラつき、一部の優秀な人材まかせになる弊害が起きやすいです。もちろんプロジェクトリーダーやマネジメントは大事ですが、属人化しすぎず、すべてのメンバーにメソッドを行き渡らせるようにしています。
また、お客さまをサポートするソフトウェアテストや改善の技術は進化していきますので、教育も常に更新をしています。「バルゼミ」という名で学習コースを組み、内容は現在56コースほどあり、随時増やしています。
自身のスキルやレイヤーによって、学びたいカテゴリーを選択し、自主勉強できるので、仕事で実践しながら成長とともに学習できる。この人が育つ環境こそ、私たちのコアコンピタンスだと考えます。
お客さまの品質にコミットするための、新規技術開発への積極投資
冨田:2021年3月期決算説明資料の30ページにもありましたが、新規技術の開発にも積極的に投資をされています。ソフトウェアテスト、その管理ツール、さらに先をいく新技術を開発することで効率化や生産性の向上につながることが描かれています。数多くの事業展開や組織を築くなかで大切にしている経営判断の軸は何でしょうか。
田中:「私たちは品質にコミットし、安心・安全なICT社会の実現に貢献する」という企業理念と「お客さまの品質に対する自信を揺るぎないものにしたい」というグループスローガンにそぐうかどうかに尽きます。新規事業やサービスだけでなく、M&Aなどで提携する先についても、この理念に対してシナジーがなくては意味がありません。
今、注力しているのはセキュリティ関連です。バグが出ない機能要件をテストする、外部からの攻撃やデータの搾取から守るなどセキュリティに強い企業とのM&Aを検討しています。
脆弱性チェックの分野は地道に伸びている分野で、グループで一番の成長率です。時代の流れとしても、情報漏洩やWebシステムの攻撃の被害が増える一方、対策が間に合っていない企業が多いのでマーケットが急速に伸びています。一方で、「儲かるからやる」のではなく、理念に合っているかを守り事業展開を決定しています。
品質にコミットし、安心・安全なICT社会を実現する300年企業に向けて
冨田:今後の事業展開や未来に向けて描く世界についてお聞かせください。
田中:この会社を作ったときに思ったのは、社会に価値を提供し続ける100年企業、ひいては200年、300年企業になることです。そう考えると、自分の代だけで終わらせられないですから、次世代にきちんとバトンを渡していかなくてはなりません。事業だけでなく人材育成を含めて、いつまでも存続させるための土台づくりをしています。
直近ではICTを活用したサービス開発とその品質向上を課題ととらえています。ソフトウェアテストや検証を現在は人手を介して行っていますが、少子化や人材不足の社会課題が広がる中、それを担保する仕組みが必要です。
私たちは品質向上のソリューションベンダーとして、既存のノウハウとテクノロジーを組み合わせて、テストを自動化する※、セキュリティ診断で顕在化したリスクヘ対応するなどのサービスを開発しています。社会の流れに沿い、お客さまに寄り添ったサービスであれば、自然と多くのユーザーに「バルテスさんのものを使いたい」と言っていただけるはずです。
(※2021年12月現在、テスト自動化ツール「T-DASH OPENβ版(https://www.t-dash.io/)」を無料提供中)
また、自社で培ってきたナレッジをオープンにし、エンジニアがテスト・品質に関して知見を深めることにも注力をしており、「Qbook(https://www.qbook.jp/)」というソフトウェアの品質改善手法やマネジメント手法、業界のトレンド情報、無料で使えるeラーニングなど、エンジニアが必要とする情報を届けるWebサイトも運営しています。
今後も、「品質にコミットし、安心・安全なICT社会の実現に貢献」する企業理念の実現に向け、社内外問わず社会に貢献する人材育成と、お客さまへの価値提供に取り組み続けます。
プロフィール
- 氏名
- 田中 真史(たなか・しんじ)
- 会社名
- バルテス株式会社
- 役職
- 代表取締役社長