次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスの混在する大変化時代に対峙し、どこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社サーバーワークス代表取締役社長の大石良氏。AWSの導入支援にいち早く取り組み、クラウドの時代に先行してきた同社が考える事業戦略と展望を聞いた。

株式会社サーバーワークス
(画像=株式会社サーバーワークス)
大石 良(おおいし・りょう)
株式会社サーバーワークス代表取締役社長
1996年 東北大学経済学部卒。 同年 丸紅株式会社入社 マルチメディア事業部でISP事業の企画営業に従事後、2000年にASPサービス立ち上げを企図し当社を起業。2008年には自社サービスのAWS移行を開始し2009年からAWS専業のクラウドインテグレーターへ事業を転換。 全国都道府県の情報産業サービス協会、AWSユーザー会、経済産業省セミナー、ITコーディーネーター総会等講演多数。 AWSの黎明期から全国でクラウドの認知を拡げるために行っている「切腹プレゼン」は必見。 2019年にマザーズ上場、2021年に東証一部へ市場変更を果たす。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

クラウドサーバーの黎明期に参入

株式会社サーバーワークス

冨田:はじめに、事業の変遷や歴史をお話しいただきたいと思います。2019年に上場されてからも絶好調だと思いますが、上場前後の変化という視点でも、創業からのお話でも結構ですので、まずそこからお聞かせいただけると幸いです。

大石:2つ大きな変化がありました。私たちは現在、AWSに特化して事業を行っていますが、AmazonさんがAWSを始めたのが2006年でした。私たちが創業したのは2000年なのでまだクラウドなんてなく、当初はeコマースの事業をしており、その後モバイルコマースに転換しました。

ちょうど2003年頃から大学がオープンキャンパスを始めまして、高校生に大学の魅力を伝えなければならない中、当時高校生がよく情報収集で使う媒体が携帯電話だったので、モバイルコマースのサービスがよく使われたのです。さらにその後オープンキャンパスだけじゃなく、入試の合格発表をモバイルで見せるというニーズがあることを聞き、2004年に大学の合格発表の案内サービスを始めました。これが最初の大きな転換です。

ところがお察しのとおり、大学の合格発表は2月の特定の日の午前10時から10時15分に集中します。我々はこの15分間のためだけにサーバーを200台くらい用意しないといけないのですが、他の時間は全然使わないので効率が良くない。この課題を解決できないかと考えていた2006年に、あるエンジニアがAWS(当時の名称はAmazon Simple Storage Service:通称S3)というサービスを見つけてきました。

冨田:そういう経緯でクラウドサーバーを導入されたんですね。だとすると、めちゃくちゃ初期ですよね。

大石:そうなんです。使ってみたら、「なんだこれ、すごいぞ」と。ITの世界がまるっきり変わってしまうと直感しました。ただ、いきなり売り物にするのではなく、まず自分たちで1年間AWSを使って課題解決できるかやってみました。その結果が非常に良かったので、2009年にAWS専業に舵を切ったという背景です。この2回が非常に大きなターニングポイントでしたね。

冨田:ありがとうございます。海外の新しいものをいち早く取り入れて、各社ごと異なるニーズにアジャストさせてきた。それを本当に早い段階から積み上げられてきたからこその今の形であると理解しました。近年は自社サービスも立ち上げられていますが、ここ数年の変化にも触れていただけるといいかなと思います。

株式会社サーバーワークス

大石:自社でつくっているSaaSツールはあくまでAWSの使い勝手を良くするサービスになっています。AWSの料金は使ったら使った分だけかかる形なので、使わないときにサーバーをオフにしておくと料金が下がります。ただ、そのオンオフのオペレーションを手でやろうとすると人的コストがかかります。

そこを自動的にやるようなサービスをつくって提供しています。お客さまからすれば、AWSの構築とコストをセーブする仕組みをセットでサーバーワークスに任せることで、直接自分たちでAWSを導入するよりも費用対効果が高まるということです。

冨田:それは絶対ニーズがありますよね。弊社で言うと、ユーザーさんはほとんどビジネスパーソンや投資家の方たちなので、出勤時やランチタイム、業務時間中の調べものなどで弊社サイトを訪れています。なので、デイタイムから帰りの電車の時間までの21時頃まではトラフィックが高く、深夜はほとんど動かない。この動かない時間帯に不必要なサーバーコストは払いたくないですから、おっしゃるとおりだなと思います。

Amazonから経営ノウハウも吸収し顧客中心の意思決定を徹底

冨田:今のSaaSのお話も含めて、サーバーワークス社のコアコンピタンスや競争優位はどういった部分にあると自己分析されますか。

大石:日本で一番はじめにAWS導入支援事業を始めたからこそのノウハウと知見の蓄積、それに尽きるかなと思います。AWS経験10年以上のエンジニアが複数人いる会社っておそらくほとんどありませんから。それに加えて、私たちはエンタープライズに特化しているという特徴があります。「AWS×大企業」という掛け算がうまくハマって、成長を維持できているのではないかと理解しています。

株式会社サーバーワークス

冨田:ここ数年の日本でのクラウドの動きを振り返ると、大手銀行さんがAWSに転換し始めたのが3~4年前でしょうか。その辺りから各社さんが大挙してクラウドに移行してきたと思います。いまでも毎年加速し続けている、この右肩上がりのマーケットで先行者優位を取ってきて、さらにエンタープライズに対する圧倒的な経験があるところが強みであると。

その中において、今度はもう少し周辺領域を攻めていくという考え方もできるのかなと思います。経営の意思決定において、サーバーワークスさんの特徴的な部分、重視するポイントがあればぜひお伺いしたいと思います。

大石:2つあります。1つは、私たち結構、Amazonさんに経営ノウハウのようなものをいろいろと教わっていて、彼らが一番重視しているのが、「Customer Obsession(カスタマーオブセッション)」、顧客中心主義です。普段、経営していると競合のことが目に入ったり、たくさんの雑音にさらされたりすると思いますが、「きちんとお客さんに価値を提供する意思決定になっているかどうか」についてはすごく意識するようにしています。

もう1つは一貫性です。私たちのビジョンである「クラウドで、世界を、もっと、はたらきやすく」。ここを外さないことを重視しています。そのために「KnowWhy」の共有を大切にしています。「どうやるのか」とやり方を教えるのが「KnowHow」だとすると、「なぜこれをやるのか」と理由を説明するのが「KnowWhy」。ここに重きを置いています。経営会議で決まったことを毎週、私が直接マネージャーたちに背景から説明するようにしています。そうやって、決めたことの一貫性が担保されるように気を遣っています。

冨田:Googleは社内透明性が高い会社といわれていますが、在籍時ラリー・ペイジさんが、毎週会社の思想やこのWhyの部分について様々な角度から語り続けられることで、みんなが信頼して心理的安全性にもつながっているという有名な話があります。昔から「Whyから始めよ」という言葉もありますが、そのWhyを徹底されているんだなと感じました。Whyが明確であれば、それが働くモチベーションや、壁にぶつかったときに立ち戻る基準になるのだろうと思います。

AWS専業インテグレーターがGoogle Cloud事業に参入した理由

株式会社サーバーワークス

冨田:サーバーワークスさんはAWSの専業でやられてきた中で、2021年8月に株式会社G-gen(ジージェン)」というGoogle Cloudを扱う子会社を設立されています。マーケットを広げにいったサインにも見えますが、どのような背景があったのでしょうか。

大石:おっしゃるとおり、G-genはGoogle Cloudを専門で扱うインテグレーターです。投資家目線で見られるとわかると思いますが、市場としてはAWSだけでもまだ20倍、30倍のアップサイドがあります。今回Google Cloudに参入しようという判断になったのは、先ほど申し上げたCustomer Obsessionの思想に基づくものです。

AWSとGCPではマーケットシェアに差はあるものの、特定の領域、例えばビッグデータの解析やゼロトラストネットワークの領域では、Google Cloudがものすごく強いです。ここ数年、既存のお客さまからAWSとGoogle Cloudを組み合わせて使いたいという声が高まってきて、それに背中を押される形で別会社を立ち上げたという経緯です。

冨田:我々も日ごろ、BigQueryでデータをさばいているのでよくわかります。すべてCustomer Obsessionの観点から判断されてきたことがよく伝わりました。ここまでAWSに絞られてきた中での立ち上げですから、本当に大きな一歩なのだろうと感じます。

どの年代でも輝けるための環境をつくりたい

冨田社長

冨田:では最後に未来に向けての構想をお話しいただけますか。

大石:サーバーワークスとしての方向性の話と、私個人的にやりたいことの2つの観点でお話させていただきたいと思います。

まず1つ目、先ほども申し上げたとおり、AWSのマーケットでもまだまだ20倍30倍あると言われていて、さらにいま、いくつかのクラウドシステムを組み合わせていきたいというニーズが広がっています。企業のDX実現のためにはクラウドを使わざるを得ない状況で、やはり現状、AWSが最初の選択肢になります。そのAWSに日本で一番詳しい会社はどこかというと、サーバーワークスであると。そう自負しているので、お客さまのDXに寄与していきたいというのが大きな方向性です。

2つ目、私個人で構想していることがあります。「クラウドで、世界を、もっと、はたらきやすく」というビジョンの中には、「どの年代の人でも輝ける」という意味合いも込めています。サーバーワークスは若くて成長途上にある会社ですから、多くの若手に活躍してもらえるように、人口ピラミッドがきれいな三角形になるよう意識しています。でも、そうするとご年配の方々の活躍の場が制限されてしまう。

そこで、サーバーワークスとは別に60歳を超えた人だけが入れる「シルバーワークス」という会社をつくろうと思っていて、実はもうドメインを取ってあるんです。

冨田:おおー!面白いですね。

大石:加えて、こちらは完全な成果報酬にしようと思っています。若いときは失敗をしながら学んで成長していきますよね。でも、「成長」と「成果報酬」って実は折り合いが悪いのです。失敗したら成果として見なされないなら、チャレンジしないでやれることの範囲でやったほうがいいと思ってしまいますから。そういう意味で、若い会社に成果報酬を取り入れるリスクは高いのです。

一方でシルバーワークスに入るような方々は、もう出来上がった人ばかりなので、完全な成果報酬でいいだろうと。これは私の仮説ですが、65歳以上がゴロゴロいる中に60歳の方が入ると、その人はたぶん若返るんですよ。例えば我々も、中3のときにはめちゃめちゃ調子に乗っていたけど、高1になったら急に「先輩、すみません」みたいになったというような経験がありますよね。それと同じで、人の振る舞いは属する組織の相対的な年齢で決まるのではないかと考えています。

自分が若手である環境に行くことで、一般的な会社で上の年齢になってしまった方でも輝けるんじゃないかと。こうやってどの年代の方にも居場所やチャンスがあって輝ける世界を実現していきたいと考えています。

冨田:なるほど、これは社会的価値が高いですね。

大石:もちろんこれはサーバーワークスに限った話ではありませんし、冨田さんの会社でもチャンスがあるかもしれません。いまいろいろな人にこの話をしていて、賛同してくださる方が増えていけば、よりその世界観の実現に近づけるのではないかと思っています。

冨田:我々で言えば、金融業界の経験や実績がある方たちはたくさんいらっしゃるので、そういう方たちがより広く知見を提供できたら、社会課題の解決につながるとともに、ご本人たちも生き生きされるといいなとすごく思っていることです。大石さんはITサーバーの世界で、我々は金融の世界からそれをやっていくということで今日の対談の結論は1つ出たと思います(笑)。さまざまな観点からお話しいただき、ありがとうございました。

プロフィール

氏名
大石 良(おおいし・りょう)
会社名
株式会社サーバーワークス
役職
代表取締役社長
受賞歴
Developers Summit 2013 ベストバリュー賞(個人として)
学歴
東北大学 経済学部