スーパーシティとは、AIやビッグデータなど最先端の技術を活用し、未来の暮らしを実現する「まるごと未来都市」を指す。このスーパーシティを国家戦略特区として実現するよう可決されたのが「スーパーシティ法」だ。これにより、われわれはどんな未来を実現することができるのだろうか。また、スーパーシティの実現により、われわれの暮らしに利便性が高まる半面、リスクもあるという。スーパーシティ法により、日本社会にどの程度の影響や危険性があるのか解説する。間

目次

  1. 1. スーパーシティ法案とは
  2. 2. スーパーシティ構想で実現可能な未来
  3. 3. スマートシティ構想実現への取り組みと課題
  4. 4. スーパーシティ法可決によるリスク
  5. まとめ:法案可決により具体的に動き出すスーパーシティ。インフラ整備の内容に要注目

1. スーパーシティ法案とは

スーパーシティ法とは?日本社会への影響と危険性をわかりやすく解説
(画像=PIXTA)

スーパーシティ法は2020年5月27日に参議院本会議で可決された。スーパーシティ法案は、AI(人工知能)やビッグデータを活用した「スーパーシティ」を実現するために、政府が定めた国家戦略特別区域(以下、国家戦略特区)の法律を改正するものである。スーパーシティの概要とスーパーシティ法可決の背景を確認しておこう。

1-1. スーパーシティとは

スーパーシティとは、AIやビッグデータなど最先端の技術を活用し、暮らしの様々なシーンで先進的なサービスを享受できる、いわば「まるごと未来都市」をイメージするといいだろう。似たようなプロジェクトにスマートシティがあり、大枠では同じように捉えることが多い。住民の暮らしを意識した目的ベースがスーパーシティ、情報通信技術の目線に立った手段ベースがスマートシティという違いがある。

規制緩和については、スマートシティが国土交通省の定めるモデル事業にとどまるのに対し、スーパーシティはスーパーシティ法案のなかで法律によって規制緩和が行われる。

▽スーパーシティの構成イメージ

スーパーシティの全体的な構成は上の図のとおりである。先端的サービスは地域住民を中心に、政府・自治体・NPOから大学・企業・観光客に至るまで幅広い範囲を対象にしている。

サービスのカテゴリーも、行政手続き・物流・交通・観光・防災・社会福祉・教育・金融・環境保全と幅広くカバーしており、そのサービスを実現するために、「国家戦略特区データ連携基盤整備事業」を行う計画である。その事業名に記されているように、この法案により、各種データの連携が可能になることで、先端的なサービスを提供することが可能となる、というわけだ。まさにまるごと未来都市を創る、スケール感の大きな事業といえるだろう。

1-2. スーパーシティ構想と法案可決の背景

内閣府によれば、スーパーシティ構想を策定するに至ったことには次のような背景がある。

まず、AIやビッグデータを活用し、社会のあり方を根本から変えるような都市設計の動きが、国際的には進展している点だ。ただし、先行している部分はあるものの、世界各国でも「エネルギー、交通などの個別分野にとどまらず生活全般にわたり、最先端技術の実証を一時的に行うのではなく、暮らしに実装し、技術開発側・供給側の目線ではなく住民目線で未来社会を前倒しで実現」するような「まるごと未来都市」はまだ実現していない。またわが国にも、必要な要素技術はほぼ揃っているが、実践する場がない。

そこで国家戦略特区制度を活用して、住民と競争力のある事業者が協力し、世界最先端の日本型スーパーシティを実現しようとする「スーパーシティ」構想が提唱されたのが法案可決の背景にある。

▽政府が掲げるスーパーシティのロゴマーク

スーパーシティのロゴマークには「J-Tech challenges SDGs」という言葉が添えられている。J-Techとは、日本で展開されている技術「Japan Technology」の略である。そして、左のカラフルな円のイメージから、SDGs(持続可能な開発目標)に貢献することも目指していることがうかがえる。

1-3. スーパーシティ法案の内容

スーパーシティの構成に含まれるサービスのなかで、たとえば遠隔医療や遠隔教育、電子通貨システムなどを実現するには、さまざま存在する法規制の障壁がある。そのため、実現のために各分野の規制改革も同時に行う必要がある。スーパーシティ法案はこれらの構想を実現可能にするために規制改革を行う法案である。

▽スーパーシティ法案の構造イメージ

スーパーシティ法案は「基本方針の改正」と「特区法の改正」の2部構成からなっている。まず、基本方針の改正により、スーパーシティの意義の定義、指定基準の追加や、指定区域への政令指定と方針の追加が行われる。

続いて、特区法の改正により、指定された区域は、データ連携基盤整備事業の区域計画案を総理に提出できるようになる。総理大臣は、この提案に基づき、所管大臣へ認定の討議を要請できる。所管大臣はこの提案について、特区諮問会議にはかり、討議結果を「遅滞なく通知・公表する」とされた。

このように、スーパーシティ法は、規制に関する特例措置を実施するためのプロセスを明確化した、といえるだろう。「複数の特例措置を一括かつ迅速に実現」といった内容も明記されており、地方と国でそれぞれに規制の特例措置を追加できることなどが盛り込まれている。

参考:e-GOV 国家戦略特別区域法(平成二十五年法律第百七号)(令和三年法律第三十三号による改正)

2. スーパーシティ構想で実現可能な未来

多くの人にとって気になるのは、スーパーシティ構想が実現するとどのような未来になるのか、ということだろう。政府は以下6つの具体的なサービスイメージを掲げている。とくに注目すべき3つのサービス例について、解説しよう。

▽スーパーシティにより実現する具体的なサービスイメージ

2-1. スーパーシティのサービス例1:自動走行・自動配送でスマートな買い物が可能に

電気自動車の普及とともに、車社会を劇的に変化させる可能性があるのが自動走行(自動運転)と自動配送である。スーパーシティでは誰でも乗れる自動走行車(コミュニティバスのようなもの)が走り、空中では購入した商品を自宅に届けるために、自動配送のドローンが飛び交う。実現すればSF映画のような光景が、日常の暮らしのなかで見られるようになるかもしれない。

2-2. スーパーシティのサービス例2:キャッシュレス化の推進や行政手続きIT化で利便性高まる

ニッセイ基礎研究所の推計によると、2020年時点の日本のキャッシュレス化比率は29%である。スーパーシティ構想でもキャッシュレス化が計画のなかに入っている。顔認証による支払いも可能になる予定だ。

行政手続きもIT化をさらに進め、ワンスオンリー(一度提出した情報は、二度提出することを不要とすること)のサービスを目指しており、一度本人確認のための登録をすれば、以降はスマートフォンでも行政手続きができるようになる。

2-3. スーパーシティのサービス例3:遠隔医療や遠隔教育が普及する

IT化の推進で遠隔医療と遠隔教育がさらに普及する可能性がある。スーパーシティでITネットワークが構築されれば病院へ行くのが困難な高齢者が、自宅でパソコンやスマートフォンを利用してオンライン診療を受けることができる。

2020年4月の新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発出されたのをきっかけに、オンライン診療が急速に普及したといわれている。地域全体で取り組めば、さらに制度を充実させることができるだろう。遠隔教育も同様で、タブレットを使っていつでも自由に勉強できるようになり、学習効率もアップする。

<参考>海外のスマートシティ事例

海外ではスマートシティにどのように取り組んでいるのか、主な4ヵ国の事例を紹介する。

・IoTフルスコープ型スマートシティ(スペイン・バルセロナ)
スペインのバルセロナでは、車や人の動きをセンサーで検知し、Wi-Fiを経由して空き駐車スペース情報を提供する「スマートパーキング」によって都市の渋滞緩和を実現。街路灯と連動した見守りサービス、ゴミの自動収集サービスなど、さまざまな関連サービスを実現している。

・官民共同3セク型スマートシティ(韓国・ソンド)
韓国においては、埋立地におけるグリーンフィールドにおいて、計画的にスマートシティを創り上げている。たとえば、高層住宅ではゴミをダクトから吸引して収集センターまで自動集積することで、街にゴミ収集車が不要になっている。また、最新のビデオ技術を活用し、家にいながら教育や医療を受けられる遠隔教育、遠隔医療が実践されている。

・セントラルシステム交通監視型スマートシティ(中国・杭州)
アリババ集団と杭州による「City Brain」構想の一環としてスマートシティプロジェクトを実施。道路ライブカメラの映像をAIで分析することにより、杭州内の交通円滑化に大きく寄与している。たとえば、交通状況に応じて信号機の点滅を自動で切り替えることなどを実施している。その結果、救急車の到着時間が半減し、一部の地域では自動車の走行速度が15%上昇したという。

・世界一の省エネ都市を目指す「ASCプログラム」(オランダ・アムステルダム)
アムステルダムでは、世界一の省エネ都市を目指し、市民のエネルギー消費行動を変化させる「ASCプログラム」というプロジェクトを行っている。ASCとはアムステルダム・スマートシティの略である。主な取り組み内容は、「スマートメーターの導入による消費電力の見える化」「ゴミ収集にEV車を利用」「スマートビルディングへの転換によるエネルギー使用量の抑制」などである。

3. スマートシティ構想実現への取り組みと課題

スマートシティ構想を実現するための、取り組みと課題についてまとめておこう。

3-1. 具体的な取り組み例

スマートシティへの具体的な取り組み例として、高齢者の通院対策に悩むA市の事例を紹介する。人口6万人程度のA市は車の免許を返納する高齢者が急増し、1日に使えるお金が1,000~2,000円のため、タクシーで病院へ通うことが困難であった。そこで、タクシー事業者3社がボランティアドライバーを活用した市民タクシー事業を提案した。料金の決済は地域共通ボランティアポイントによって行われる。

▽政府が示したスマートシティの具体的な取り組み例のイメージ図

健康データや病院予約データに関しては、病院・介護施設から地域包括ケアにデータ連携基盤を使って提供される。地域包括ケアは遠隔医療や介護情報をIT化する。実現には配車システム・通院システム・遠隔医療システムと連携させるため、規制改革が必要であった。

必要な規制改革は、「ボランティアドライバー活用に係る道路運送法等での取扱い」「遠隔医療(遠隔診療・服薬指導)に係る法令等の特例」「ボランティアポイントの資金決済法、金商法等での取扱い」などである。後期高齢者の通院問題を解決する取り組みとして注目される。

3-2. スマートシティ構想の課題:マネタイズ

スマートシティ構想の課題としてマネタイズ(事業の収益化)が挙げられる。スマートシティを創るには巨額の資金がかかるため、スマートシティ事業に取り組む企業が投資額を回収できるかが問題になる。どのような点が難しいのだろうか。

一例を挙げると、スマートシティのテクノロジーは、センサーやネットワーク通信が土台となっているが、センサーの種類は非常に多い。価格は安価なものが多く、LEDセンサーライトは100円ショップでも購入することができる。メーカーから見れば、1個100円のセンサーを1万個受注しても100万円の売り上げにしかならない。したがって、スマートシティ地域内によほど多くのセンサーを設置しない限り大きなビジネスにはならないケースも考えられるのだ。

既存の地域をスマートシティ化するよりも、何もない場所を開発するほうがマネタイズしやすいという見方もある。世界的実業家ビル・ゲイツが「スマートシティ・ベルモント」を創るために、アリゾナ州に2万4,800エーカー(約1万ヘクタール)の土地を購入した。砂漠のような土地である。電気・ガス・水道など何もない場所だが、なければ新しく敷設すればよいという考え方だ。

この地にスマートシティが完成した時には、8万戸の住居、20万人の人口を受け入れることを想定しているという。一からの建設になるので、8万戸の住居の建設費、20万人が住んだときの経済効果などを考えると、かなり高いマネタイズが期待できるだろう。

日本でも工場跡地ではあるが、トヨタ自動車が開発を進めている実験都市「ウーブン・シティ」が一から街を創る巨大プロジェクトとして注目されている。NTT、パナソニックなどの大企業や公募で集まった企業まで多くの企業が参画しており、今後開発が進められるスマートシティの先駆けとして実証結果の検証が待たれる。

▽トヨタの「ウーブン・シティ」イメージ

4. スーパーシティ法可決によるリスク

未来の暮らしを実現するスーパーシティ。この規制緩和のための法案「スーパーシティ法」が可決されたことは、一方で、いくつかのリスクがあることも指摘されている。とくに不安視されているのが、監視社会になることによるプライバシーリスクと、セキュリティリスクである。

4-1. スーパーシティ法によるリスク1:監視社会によるプライバシーリスク

現代は監視社会と呼ばれている。あらゆる場所に防犯カメラが設置され、プライバシーの問題が常に議論されている。スーパーシティでも顔認証などを利用した個人の特定が行われる可能性はあるだろう。

医療カルテなどもデータが一元化されると医療関係者以外に閲覧されるリスクには注意しなければならない。利便性の高さと引き換えにプライバシーリスクも高くなることを心得る必要がある。

4-2. スーパーシティ法によるリスク2:セキュリティリスク

セキュリティリスクの解決も大きな課題だ。スーパーシティもITで区域をネットワーク化するとなると、そのシステムに対するサイバー攻撃や個人情報の流出という心配が出てくる。スーパーシティ内でのデータは、各サービスと連携されるわけだから、より強固なセキュリティが求められる。また、自動運転については、事故が起きた場合の責任の所在にも問題もある。

まとめ:法案可決により具体的に動き出すスーパーシティ。インフラ整備の内容に要注目

スーパーシティは未来都市として期待が持てる半面、データ連携による課題やリスクも浮き彫りになっている。投資家やビジネスパーソンはスーパーシティ法案によって、来るべき社会でどのようなインフラ整備が行われるのかを理解する必要がある。主要インフラを理解できれば、有望な投資先について興味を持つことができるだろう。また、ビジネスチャンスを見出すことも可能になる。

そのためには法案の内容をチェックし、投資やビジネスに活かせることがないか、常にアンテナを張っておく努力が求められる。

丸山

丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している。