次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスの混在する大変化時代に対峙し、どこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回のゲストは、株式会社ラクーンホールディングス代表取締役社長の小方功氏。1998年という早期からBtoBのECサイトをスタートさせてきた同社の事業の変遷や、小方氏の経営者としての考え方を聞いた。
(取材・執筆・構成=落合真彩)
1963年、北海道札幌市生まれ。ラクーンホールディングスの創業者で現代表取締役社長。北海道大学工学部を卒業後、大手設計コンサルタント会社に入社。30歳を前に脱サラし1年間北京に留学。帰国後は食品・雑貨の輸入販売業を開始。仕入れた商品の過剰在庫がもとで倒産の危機に直面するが、これを契機に在庫と流通に興味を持ち新しいビジネスモデルを作り上げる。1998年、日本初のBtoBマーケットプレイスを提供開始。2006年東証マザーズ上場、2016年東証一部上場。著書に『華僑大資産家の成功法則』(実業之日本社)。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
「中間流通業こそライフワークである」7年かけて得た気づき
冨田:ZUU onlineでは、どう事業を変遷してきたか、選択と集中の仕方や軸のずらし方に企業ごとの特徴が表れると考えています。ここの部分をぜひ語っていただけると幸いです。
小方:私はそもそも商売っ気があって、29歳で脱サラしました。その後1年間、中国に留学したのですが、ビジネスで自分の力を試してみたいという強い思いがあり、日本に帰国後30歳で起業しました。
当初から「誰に何を売るのか」、つまり「ビジネスモデル」が重要だと思い、考え続けていました。ここさえ間違えなければ、人よりも少ない努力で結果を得られる可能性がある。けれども、間違うと100倍苦労することになる。だからこれについて悩むことは非常に重要であると思っています。
答えが見つからないまま悩み続けていたのですが、とにかく食べていくために、貿易をしながら片手間でビジネスモデルの勉強を1人でしていました。貿易は国内においてはメーカーと同じ位置づけである一方、流通過程においては中間流通業に該当する、問屋のような仕事です。私は通販に卸したり、小売店に卸したり、散々試行錯誤していくうちに、今やっているこの中間流通業こそが、自分のライフワークだということに気づきました。
何でもそうだと思いますが、どんなに地味な仕事でも馬鹿がつくほど一生懸命やれば、立派なベンチャービジネスになるのです。例えば「喫茶店は儲からない」と嘆いている人がいますが、世界一の喫茶店になろうと思って一生懸命やっていけばスターバックスになるし、古本屋で日本一わかりやすく楽しそうにやればブックオフになる。それに7年かけて気がついて、自分がやってきた中間流通業をインターネット化しました。これが「スーパーデリバリー」です。
冨田:そういう経緯で中間流通業、スーパーデリバリーを始められたのですね。直近の決算資料を見ると、国内流通量も流通額も非常に伸びていらっしゃいますが、海外受注額も、コロナ禍をものともしない伸びを見せていています。小方さんの別のインタビューでは、中国のある実業家に人生哲学を学んだというようなお話がありました。そういった原体験に加えて、グローバルに貿易をされていたからこそ、国内だけではない、グローバル流通市場を取られているのだなと納得しました。
小方:eコマースは、「以前は人が手でやっていた仕事を、ITを使って効率化すること」と表現することができます。スーパーデリバリーの場合は、昔はメーカーの人がサンプルを持って全国に営業して注文を取っていましたが、インターネットを使えばWebサイトに写真を載せるだけで、全国数万店舗からすぐにオーダーを受けることが可能になります。買い手側も、今までなら展示会に足を運んで、1日数社しか見られなかったのが、パソコンがあれば20社、30社と見ることができる。これは大きな効率化です。
私はもともと貿易商ですし、留学経験がありましたから、海外輸出は当初から意識していたのですが、満を持して2015年に「SD export(エスディ―エクスポート)」をリリースしました。
海外にない「問屋」という業態をテクノロジーで効率化
冨田:ありがとうございます。EC事業だけでなく、決済や保証というフィナンシャル事業も展開されています。EC事業者さんが決済を請け負うことは珍しくないと思いますが、それに加えて家賃保証も展開されている会社はあまり見ません。フィナンシャル事業を始められたことにはどんな背景があるでしょうか?
小方:先ほどあえて「問屋」という言葉を使いました。問屋というのは、実は海外にはない業態なのです。アメリカには「ホールセール」という言葉はありますが、日本の問屋と同じ業態は存在しません。基本的に海外の中間流通業は、メーカーの商品を紹介して、販売数を割り振って終わりです。日本の問屋の場合、その後に決済と物流もやります。問屋の発祥は800年前の近江商人だと言われています。近江商人は、世界で初めて、商品紹介に加えて決済も物流もセットで行ったのです。これは面白いなと目をつけました。
ただ、いま国内の物流には佐川急便やヤマト運輸があります。一方で決済は、未だに中小企業同士が勘と経験と度胸でやっているわけです。これはやる価値がある。そう考えて当時のお客さまを200人ほどピックアップして、掛売りをしてみたところ、ものの見事に誰も払わない(笑)。日本の小売店はよほど催促しないと払わないというのが一般的でして。そこでリース会社を買収して、我々なりのアルゴリズムをつくっていったのが決済事業の始まりです。
事業用物件の家賃も企業が払うお金の一種なので、家賃保証は実は売掛保証と同じです。我々としては、売掛保証のノウハウを丸ごと転用できるので1つの事業として始めたということです。その後、居住用家賃保証の会社をM&Aしたことで、不動産会社のお客さまに対して、個人の家賃でも、企業の家賃でも保証できる体制ができました。
「Fast」ではなく「Early」なビジネスをする
冨田:なるほど。ITへの変化にかなり早くから目をつけて着手されてきたことも競争優位、コアコンピタンスと言えるかもしれませんが、小方社長は自社のコアコンピタンスについてどうお考えでしょうか?
小方:中小企業との信頼関係ですね。スーパーデリバリーを利用する事業者だけでも24万社になりますけれども、彼らの商習慣に精通していることによる信頼関係です。また、アパレル・雑貨業界を中心に始まっていますので、その業界の受発注に関するノウハウ、商習慣に詳しいということも強みと言えます。
当社のビジネスは、時代を先取っていて、「早い」と言われることがあります。それは「いち早くアメリカの情報を仕入れてビジネスを始めた」ということではありません。「Fast」ではなく「Early」だということです。前例のないことをやろうと決めているからこそEarlyなビジネスができるのだと思います。
冨田:ありがとうございます。経営判断において重視されているポイントはありますか。
小方:私は事業においてストーリー性を重視しています。数字だけを目標にすると無機質になり、従業員はやりがいを持ちにくくなりますから。よい経営者はいつだってよい脚本家のように、好奇心でけん引します。ドラマの視聴率が下がったら、第3話、第4話のストーリー展開でみんなを引っ張っていく。それがリーダーの仕事だと思っています。
その中で私が重視するのは、従業員のみんなが、自分がやっている仕事を家族や友人に自慢できるかどうかです。前例がないということは、問題だけがあり、解決策がまだないことを意味します。それを我々がやることによって感謝してもらえる。だからこそやりがいを感じられるのです。
冨田:だからこそ、Earlyなことをやるのだと。そして自分たちしかできない領域にフォーカスして、馬鹿がつくぐらい頑張る。だからこその圧倒的強さなのだなと感じます。
メーカーが商品開発に集中するためにも「仕組み」を構築する
冨田:ここから先、どういった未来に向かっていくのかについて、最後にお伺いできればと思います。
小方:そもそも「SD export」を始めるきっかけとなったのは、安倍政権がクールジャパン戦略を打ち出したことです。日本の人口は減っていくので、日本企業は世界に出ていくべきだという方針自体は間違っていないと思います。ただ安倍政権は、中小企業にもSPA(製造小売業)を促しました。工場経営者たちに店舗を持つことを奨励して補助金を出した。その結果、何十社ものメーカーが店舗をつくり、その後倒産に追い込まれました。
世界進出をしたいと思ったとしても、物理的に出て行く必要はないと私は思います。例えば社員10人のメーカーが世界を相手に売ろうと思っても、どの展示会に出ればいいのかわからないし、通訳を連れて英語のパンフレットを刷って、配布用のサンプルを用意する必要がある。さらに書類を交わして銀行口座を開いてお金をもらうという手続きも煩雑で面倒な仕事です。
だからメーカーは、世界の人が欲しがるものをつくることに集中して、eコマースを活用したほうがいいと思うのです。これらの手続きをワンクリックで全自動化しようとつくったのが「SD export」です。
国境をまたぐeコマースを「越境EC」と言いますが、皆さんが知る越境ECは主にBtoCです。ところがBtoCの手法でメーカーが輸出しようとすると、税関で止められてしまいます。「SD export」は、BtoBの貿易に必要な手続きが自動化され、メーカーにとっては国内の取引先に販売するのと同じくらい簡単に海外に売れる日本で唯一のサービスです。
我々の1つ目の夢は、日本のすべての中小企業が材料も部品も製品もすべてを世界に売っていく、その販売を仕組みを通してお手伝いすることです。
2つ目の夢は、フィンテックです。企業間決済の多くは信用取引で、掛売りが多いのが現状だと思います。昔であれば、社長同士がしょっちゅうゴルフをしたり、飲んだりしながら、お互いの顔を見ながら商売をしていたので、掛売りでもよかったのです。でもいまは、ホームページを見ただけの会ったこともない遠方の人から注文が来る時代です。そうなると信用取引が成り立ちにくいです。
でもここからさらに日本の中小企業同士の取引や経済を活性化させるためには、新しい決済方法が必要です。これが「Paid(ペイド)」です。私たちは日本のすべての中小企業がこの仕組みを使って決済する景色を見ています。
冨田:ありがとうございます。先ほど、よい経営者はよい脚本家であるというお話がありました。今日は小方社長から、よいストーリーを1話から数十話までお聞かせいただいたような時間でした。きっとまだまだお聞きしきれていない話数がたくさんあるのだろうなと思いますので、また次の機会にお聞きできますと幸いです。
プロフィール
- 氏名
- 小方 功(おがた・いさお)
- 会社名
- 株式会社ラクーンホールディングス
- 役職
- 代表取締役社長
- 受賞歴
- 日本経済新聞社主催 「日経インターネット・アワード2000」ビジネス部門/日本経済新聞社賞受賞。第16回ニュービジネス大賞「特別賞」受賞。EY Entrepreneur Of The Year 2006 Japan/グロース部門受賞。第一回日本サービス大賞「地方創生大臣賞」受賞。
- 学歴
- 北海道大学