所得控除を受けた場合、節税になることは知っていても、その仕組みはよくわからないのではないでしょうか。所得控除の種類や特徴を知っておけば、節税によって手取り額を増やせます。今回は所得控除の種類や計算方法、目安となる節税額について解説します。
所得控除とは
税金を計算する時、各納税者の個人的事情を加味するための制度のことを所得控除といいます。例えば「扶養親族がいる」「まとまった医療費を支払った」など、一定の要件に当てはまる場合に適用されます。
所得税や住民税を計算する際、収入から必要経費を差し引いた所得金額に税率を掛けて税額を算出します。所得控除が適用されると、所得金額から一定額を差し引いて税金を計算できるため、所得税や住民税にかかる金額が軽減されます。
税額控除との違い
一方、所得金額に税率を掛けて算出した税額から一定の金額を控除できる制度を「税額控除」といいます。代表的なものに「住宅ローン減税(住宅借入金等特別控除)」がありますが、所得税額から住宅ローン年末残高の一定割合が控除されるため、所得税が軽減されます。
所得控除と税額控除はどちらも税負担の軽減が期待できますが、計算方法が異なる点を理解しておきましょう。
所得控除による節税額の目安
所得控除による節税額は、「所得控除額×(所得税率+住民税率)」が目安となります。
所得税率は、課税する所得金額に応じて5~45%の7段階に区分されています。所得税の速算表は以下の通りです。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円~194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円~329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円~694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円~899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
たとえば、課税所得金額が500万円の場合、所得税額は57万2,500円(500万円×20%-42万7,500円)となります。
一方、住民税率(所得割)は一律10%です。
税率合計が33%(所得税率23%+住民税10%)で100万円の所得控除を受けられれば、概算で33万円(100万円×33%)の節税になります。
所得控除の種類
年末調整や確定申告で適用される所得控除は以下の15種類です。ここでは、それぞれの概要や控除額について確認していきましょう。
雑損控除
雑損控除とは、災害や盗難などで資産に損害を受けた場合に受けられる所得控除のことをいいます。以下のうち、所得からいずれか大きい金額を控除できます。
- (災害に関連する支出金額+損害した金額-保険金等の額)-総所得金額等×10%
- (災害に関連する出金額-保険金等の額)-5万円
詐欺や恐喝の場合は、雑損控除の対象にならないので注意しましょう。
医療費控除・セルフメディケーション税制
1月1日~12月31日の1年間に自分自身または配偶者などの親族のために支払った医療費が一定額を超える場合に受けられる所得控除の制度を「医療費控除」といいます。控除額は以下の通りです(最高200万円)。
(実際に支払った医療費-保険金等の額)-10万円
※その年の総所得金額等が200万円未満の場合は総所得金額等の5%
2017年からは医療費控除の特例としてセルフメディケーション税制も始まりました。対象となる一般用医薬品等購入費の合計額は、8万8,000円を限度に1万2,000円を超える部分の金額が控除されます。
通常の医療費控除とセルフメディケーション税制を併せて利用することができないため、どの制度を選ぶか考える必要があります。
社会保険料控除
自分自身または配偶者などの親族の社会保険料を支払った場合に受けられる所得控除の制度を「社会保険料控除」といいます。控除できる金額は、1月1日〜12月31日の1年間に支払った健康保険をはじめ、国民年金や国民健康保険などの保険料が対象となります。
小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済やiDeCo(イデコ)といった掛金を支払った場合に受けられる所得控除を「小規模企業共済等掛金控除」といいます。その年に支払った掛金の全額を所得から控除できます。
生命保険料控除
生命保険料控除は、生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合に受けられる所得控除です。新契約(2012年1月1日以降契約分)と旧契約(2011年12月31日以前契約分)で取扱いが異なります。
新契約の項目に該当する生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料の控除額は以下の計算式に当てはめて計算します。
年間支払保険料 | 控除額 |
---|---|
2万円以下 | 支払保険料の全額 |
2万円超 4万円以下 | 支払保険料×1/2+1万円 |
4万円超 8万円以下 | 支払保険料×1/4+2万円 |
8万円超 | 一律4万円 |
また旧契約の項目に該当する生命保険料や個人年金保険料は、以下の算式で計算します。
年間支払保険料 | 控除額 |
---|---|
2万5,000円以下 | 支払保険料の全額 |
2万5,000円超 5万円以下 | 支払保険料×1/2+1万2,500円 |
5万円超 10万円以下 | 支払保険料×1/4+2万5,000円 |
10万円超 | 一律5万円 |
新契約と旧契約を組み合わせて、最高12万円まで所得から控除できます。
地震保険料控除
地震保険料控除は、地震保険料や一定の損害保険料を支払った場合に受けられる所得控除です。最高5万円まで控除されますが、それ以下の場合は支払金額の全額が控除されます。
旧長期損害保険料については、以下の計算式で計算した金額が控除額となります。
年間で支払う保険料 | 控除される金額 |
---|---|
1万円以下 | 支払金額の全額 |
1万円超 2万円以下 | 支払金額×1/2+5,000円 |
2万円超 | 1万5,000円 |
地震保険料と旧長期損害保険料の両方がある場合、合計で最高5万円まで控除できます。
寄附金控除
寄附金控除は、国や地方自治体などに「特定の寄附金」を支出した場合に受けられる所得控除です。控除額は、下記のいずれか低い金額から2,000円を控除した金額となります。
・その年に支出した特定寄附金の合計額
・その年の総所得金額等の40%相当額
寄附をする際は、寄附先が寄附金控除の対象となるかを確認しておきましょう。
寡婦控除
納税者が寡婦に該当する場合に受けられる所得控除の制度が「寡婦控除」です。寡婦とは、合計の所得金額が500万円以下でひとり親に該当しない以下のいずれかの項目に当てはまる人のことをいいます。
・夫と離婚した後に婚姻をしておらず、扶養親族がいる人
・夫と死別した後に婚姻をしていない人、または夫の生死が明らかでない人
なお、寡婦控除の控除額は27万円です。
ひとり親控除
ひとり親控除は、納税者がひとり親であるときに受けられる所得控除です。「ひとり親」の条件としてその年の12月31日現在、婚姻をしていないまたは配偶者の生死が明らかでない人のうち、次の3つの要件にすべて当てはまる人が対象です。
・事実婚の関係にあると認められる人がいない
・生計を一にする子がいる
・合計所得金額が500万円以下
なお、ひとり親控除の控除額は35万円です。
勤労学生控除
勤労学生控除は、アルバイトで働いている学生が税金を納めるときに受けられる所得控除です。合計の所得金額が75万円以下などの要件を満たすと適用されます。控除額は75万円です。
障害者控除
障害者控除は、納税者自身または配偶者などの親族が所得税法上の障害者に当てはまる場合に受けられる所得控除です。控除額は以下の通りです。
区分 | 控除額 |
---|---|
障害者 | 27万円 |
特別障害者 | 40万円 |
同居特別障害者 | 75万円 |
配偶者控除
配偶者控除は、所得税法上の控除対象配偶者(合計所得金額48万円以下)がいる場合に受けられる所得控除です。控除額は以下の通りです。
納税者本人の合計所得金額 | 控除額(一般の控除対象配偶者) | 控除額(老人控除対象配偶者) |
---|---|---|
900万円以下 | 38万円 | 48万円 |
900万円超 950万円以下 | 26万円 | 32万円 |
950万円超 1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 |
老人控除対象配偶者とは、控除対象配偶者のうち、その年の12月31日現在で70歳以上の人です。納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合、配偶者控除は受けられません。
配偶者特別控除
配偶者の所得が48万円超えて配偶者控除を受けられない場合に、配偶者の所得金額に応じて受けられる所得控除の制度を「配偶者特別控除」といいます。納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下などの要件を満たすと、最高38万円の控除を受けられます。控除額は納税者本人と配偶者の合計所得金額に応じて決まります。
扶養控除
扶養控除は、所得税法上の控除対象扶養親族がいる場合に受けられる所得控除です。控除対象扶養親族は、扶養親族のうち、その年の12月31日現在で16歳以上の人になります。控除額は以下の通りです。
区分 | 控除額 |
---|---|
一般の控除対象扶養親族(16歳以上) | 38万円 |
特定扶養親族(19歳以上23歳未満) | 63万円 |
老人扶養親族(70歳以上、同居以外) | 48万円 |
老人扶養親族(70歳以上、同居) | 58万円 |
基礎控除
基礎控除は、納税者本人の合計所得金額に応じて受けられる所得控除です。控除額は以下の通りです。
合計所得金額 | 控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超 2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超 2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
以前は所得金額に関わらず一定額の控除を受けられましたが、2020年分から変更になりました。
所得控除の適用を受ける方法
所得控除の適用を受けるには、勤務先で年末調整をするか、自分で確定申告を行います。
会社員の場合は、年末調整をすれば確定申告は必要ありません。ただし、雑損控除と医療費控除、寄附金控除は年末調整の対象外であるため、所得控除を受けるには確定申告が必要です。
自営業者など年末調整を受けられない人は、確定申告ですべての所得控除を受けることになります。
所得控除についての注意点
所得控除を受ける場合は、必要書類を保管しておくことが大切です。各種所得控除証明書や医療費の領収書などは、年末調整や確定申告の際に提出できるように準備しておきましょう。
会社員で年末調整を受け忘れた場合は、確定申告をすれば所得控除が適用され、納めすぎた税金の還付を受けられます。
まとめ
年末調整や確定申告で所得控除を受ければ、所得税や住民税の節税になります。所得控除を受けられる場合は漏れなく申告をして、納めすぎた税金を取り戻しましょう。
(提供:Incomepress )
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