埋まらぬワクチン格差が22年の景気下振れリスクに
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埋まらぬワクチン格差が22年の景気下振れリスクに

第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト / 西濵 徹
週刊金融財政事情 2021年12月21日号

2021年の世界経済は、20年に引き続き、新型コロナウイルスに揺さぶられた。もっとも、足元では欧米や中国など主要国でワクチン接種が進み、経済活動の正常化に向けた動きが進んでいる。感染拡大の中心地となったアジア新興国でも、感染が一服して行動制限が緩和された。新興国は財輸出に対する依存度が相対的に高い国が多く、主要国経済の回復によって、景気回復が促される傾向がある。

また、外国人観光客を対象とする観光関連産業の比率が高い新興国では昨年、各国の都市封鎖など移動制限が経済活動に深刻な悪影響を与えた。しかし、ワクチン接種の進展を受けた人の移動の活発化は、こうした国々の景気回復を促す。その意味では、新興国経済を取り巻く状況も改善に向かっている。

しかし、11月末に南アフリカで確認された新たな変異株(オミクロン株)を巡っては、その後に世界的に感染が急拡大するなど、世界経済にとって新たなリスク要因となることが懸念される。同国をはじめ、アフリカ諸国はワクチン接種が大きく遅れている。アフリカ全体における完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は10%を下回っており、「ワクチン格差」とも呼べる状況が浮き彫りとなっている(図表)。アフリカでワクチン接種が遅れている背景には、ワクチン供給量の不足や医療インフラの脆弱さのほか、長年にわたる植民地支配の影響で西洋医学に対する忌避感が根強いといった特殊事情もある。

ワクチン接種率が極端に低ければ、感染拡大の土壌を温存することにつながり、今後も新たな変異株が出現する可能性も考えられる。主要国で追加接種(ブースター接種)の取り組みが進む一方、アフリカへのワクチン供給が後ろ倒しとなることも予想される。世界経済は22年も新型コロナの動向に左右される展開が続くことになろう。

国際通貨基金(IMF)は、10月に公表した最新の世界経済見通しにおいて、足元の景気回復を反映して21年の新興国の経済成長率を6.4%増と7月時点(6.3%増)から上方修正した。一方、22年については5.1%増と7月時点(5.2%増)から下方修正している。オミクロン株の性質いかんでは再び各国で移動制限の動きが広がるとともに、サプライチェーンを通じて世界貿易が下振れし、多くの新興国経済にとって厳しい状況が再来する可能性もある。

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(提供:きんざいOnlineより)