次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回のゲストは、アイビーシー株式会社代表取締役社長の加藤裕之氏。ITシステムの性能監視などの領域で事業を成長させ、近年はブロックチェーン技術を活用したセキュリティ電子証明基盤もリリースするなど、その躍進は留まることを知らない。ここでは加藤氏に、今日までの軌跡や近年の取り組み、将来に対する考えをお聞きした。(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
1967年生まれ。アイビーシー株式会社代表取締役社長。大学を卒業後、大手化学素材メーカーを経て1992年にネットワーク機器メーカーのアライドテレシスに入社。営業部門で業績を上げ、2000年の同社上場にも貢献、営業部長に就任した。その後、ベンチャー企業(ネットワークインテグレーター)で取締役を務め、2002年に独立しアイビーシーを設立。ITシステムの性能監視ツールをコア事業としながら成長、2015年にはマザーズ上場(翌2016年、東証一部へ市場変更)を果たす。現在は、グループ会社である株式会社サンデーアーツ代表取締役会長も務めている。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
インターネットの黎明期から事業にかかわり、市場になかった製品・サービスを開発
冨田:御社はネットワーク監視やシステム性能監視の領域で成長し、2015年には東証マザーズ、翌年には東証1部に上場しています。創業から一貫してインターネットの世界にかかわっていますが、今日までの経緯や事業の変遷からお聞かせください。
加藤:当社を設立したのは2002年で、今年で20年目に入りました。私はもともとインターネット機器ベンダーに勤めていて、Windows95以降のインターネットの黎明期から業界にかかわってきました。インターネットの普及に従い、ネットワークの裏側を可視化なり、監視しないといけない世の中になると考えたのが起業のきっかけです。インターネットの黎明期からこの世界にいて、ネットワークの変遷を見てきたからこそ、そういったビジネスが必要になると考えました。
当時はソフトバンクの「Yahoo! BB」がモデムを無料配布していて、今後ブロードバンドという言葉が一般化するのと、何を意識せずともオンライン上で映像が観られるようになるからこそ、ネットワークの稼働状況などを可視化するビジネスが求められると思ったのです。ちなみに「アイビーシー」は「Internetworking & Broadband Consulting」を略したものです。
冨田:2003年にネットワーク監視アプライアンス「BTmonitor」をリリースし、その後も改良を重ね、11年には御社の主力製品である「System Answer G2」をリリースしています。
加藤:最初はフリーのツールを使って、安価なサーバに可視化するためのデータを蓄積することから始め、誰でも簡単にマルチベンダーを可視化するようなプロダクトに仕上げました。「System Answer G2」は100社以上のネットワーク関連機器に対応するのが最大の特徴です。こういったことができるのは、性能監視に必要な製品を自社で開発しているからです。
かつて監視というと、大手メーカーが提供する監視ツールが主流でした。そこに「性能監視ツール」というカテゴリーを作り、マルチベンダーが混在するITシステムの稼働状況を的確かつ詳細に把握できるようにし、データを蓄積できる仕組みにしました。これによりサーバネットワークやセキュリティ、アプリケーションのレスポンスなど、ITシステム全体を包括して一元管理することができます。
これが起業時に実現したかったコンセプトであり、その後は性能分析サービスやセキュリティ診断サービスなど、周辺のビジネスも徐々に立ち上げていきました。
冨田:2015年のマザーズ上場は、どういった経緯があったのでしょうか。
加藤:私たちは、お客さまはに製品やサービスをお届けしています。ご採用いただいた以上、私たちの製品やサービスを途切れさすわけにはいきません。そのような点を踏まえると、ゴーイング・コンサーンとしての意思をパブリックカンパニーになることで示すのが適切であり、当時は今でいうSaaSのモデルやクラウドサービスが普及し始めたタイミングで、今後の成長を考えたときに上場しておきたいと考えました。
自社開発だからこそチャレンジしやすい、新たなプロダクト・サービスを市場に投入
冨田:御社の製品は自社開発だからこそ、特定のメーカーに限定されずに幅広いメーカー機器の性能情報を可視化することができ、それが結果的に強みになったということですね。そういったチャレンジングな姿勢は上場後も変わらなかったのでしょうか。
加藤:Amazonが作ったAWS(Amazon Web Services:アマゾンによるクラウドサービス)のソリューションを提供したり、Microsoftのソリューションを提供したりする会社は必要不可欠の存在です。しかし、私は「System Answer」を0から作りマルチベンダーを可視化するなど、人がやらないことを見つけてマーケットを作りにいくので、うまくいくこともあれば、そうでないこともあります。
上場後に具体的に取り組んだことと言えば、IoTとブロックチェーンの領域です。2016年には株式会社Skeedとの合弁会社、iBeed株式会社を設立し、IoTをソリューションで見守りサービスを立ち上げようと北九州で実証実験を始めましたが、企業文化の違いなどがあり3ヵ月後に合弁を解消しました。その後も、ブロックチェーンを活用して保険に特化した契約管理システムを作り、スマートフォンで管理できるアプリと組み合わせたビジネスモデルを提案しましたが、残念ながらうまくいきませんでした。
同時並行で取り組み2017年10月に実証実験を行い、同12月に開催された日経コンピュータ主催の「第3回 情報セキュリティマネジメントsummit」で発表し、18年にパートナーライセンスの販売を始めたのが、セキュリティ電子証明基盤の「kusabi」です。ブロックチェーン技術を電子証明サービスに応用し、IoT機器のセキュリティなどに活用できます。
日本国内の特許を当社が持っており、21年9月には米国でも特許を取得しました。もともと総務省がうたっていた20年4月から始まるIoTデバイスのセキュリティの義務化などに向けて開発しましたが、新型コロナウイルスの影響で現状はうやむやになっている印象です。マーケットが出来上がっていないIoTの領域なので黒字になっていませんが、ソフトウェアによりIotセキュリティが実現できる画期的なシステムなので、今後に期待しています。
さらに、昨今はランサムウェアなど不正プログラムの問題があり、お客様のセキュリティレベルを高めるために、他社ベンダーを含めてソリューションサービスを広めたいと考えていて、セキュリティ分析サービスにも力を入れ始めてノウハウも貯まっています。
今はテレワークが普及したからこそ、ネットワークインフラの重要性が認知され始めていて、我々としては追い風になっている状況です。ほかにも、24時間365日の有人監視体制で、システムの安定稼働・障害対応・原因究明・分析をサポートする次世代MSPサービス「SAMS(サムズ)」を4年前から始め、月極のストックサービスとして実績は積み上がり始めています。ブロックチェーンのテクノロジーを持つ株式会社サンデーアーツの完全子会社化も実施しました。
冨田:上場時はIoTの時代であり、そこから世の中にブロックチェーンが広がりました。御社は時代に合った取り組みを展開していると言えます。どんどん参入できるのは、新たなことを実現する開発力があるからでしょう。最後に、今後の未来構想をお聞かせください。
加藤:今はDXといわれている一方、IT障害が頻発していますから、我々は「IT障害をゼロにする」をビジョンに、ネットの利用者、ひいては社会全体が永続的に成長できる基盤を創りたいと考えています。
冨田:今後はあらゆるものがネットワークでつながりますが、セキュリティ的にはリスクになり得ます。自社開発のシステムやサービスを通じてソリューションを提供できるのは、圧倒的な強さです。
加藤:インフラ側のさまざまなデータを持っているので、これから世の中がどう変わっていくかによって、多様な展開の方法があるでしょう。
冨田:セキュリティのために蓄積されたデータを活用すると、生産性の向上やリスク検知などにも影響を与えるような気がします。
加藤:おっしゃるとおりで、今年9月にはシステムの未来を予測する「System Answer G3 将来予測オプション」の提供を始めました。
監視ツールでも検知できないサイレント障害が増えていますが、性能情報を活用して未然防止につなげるというものです。こういった領域でもポジションを確立したいと考えています。
冨田:監視というと情報漏洩やセキュリティを思い浮かべますが、御社は性能監視をパーツとして持っているので、リスク検知までカバーできるわけですね。今後も、データを武器にさまざまなビジネスを展開できることがわかりました。本日はありがとうございました。
プロフィール
- 氏名
- 加藤 裕之(かとう・ひろゆき)
- 会社名
- アイビーシー株式会社
- 役職
- 代表取締役社長(CEO)