「ウッドショック」とは、2021年に起きた深刻な木材不足による木材価格の高騰のことだ。ウッドショックは何が原因で起きたのか? 影響はいつまで続くのか? 住宅購入を検討中の人はもとより、日本経済の動向に注目する投資家のため、最新の動向をまとめたい。海外では落ち着きも見せつつある木材需要動向にもかかわらず、なぜ日本ではいまだ供給減が続いているのか、国内の林業の状況と合わせて解説する。
目次
1. ウッドショックとは何か
ウッドショックは、われわれ住宅購入者はもちろんのこと、住宅関連メーカーなどの建設業界にも深刻な打撃を与えた。まず、ウッドショックの概要とウッドショックが起きた日本特有の理由を解説する。
1.1. ウッドショックとは木材価格の高騰
ウッドショックとは、2021年に起きた世界的な木材不足による木材価格の高騰のことだ。住宅需要の増加によってウッドショックが起き、市場に、そして経済全体に混乱が生じた。ウッドショックという名前は、1970年代に起きたオイルショック(石油危機)にちなんで付けられたものだ。
1.2. ウッドショックの背景に木材を輸入に頼る日本の事情
日本におけるウッドショックの背景には、木材自給率の低さがある。日本の木材自給率は4割程度で、6割を輸入木材に頼っている。このような状況下で、世界的に住宅用木材の需要が急増して価格が高騰したため、輸入に頼っていた日本は特に深刻な木材不足と木材価格の高騰にあえぐこととなった。
▽木材供給量及び木材自給率の推移
2002年以降、林野庁を中心に各自治体の取り組みによって、国内の木材自給率は上昇傾向にあるものの、全体としては4割程度であり、需要の大半は輸入材に頼っている現状だとわかる。林業では植林から伐採まで数十年かかることに加え、人手不足にも陥っており、日本の林業は構造的な問題を抱えている。そのため、木材自給率の急激な回復は望めず、前途多難といえるだろう。
2. ウッドショックの原因は?
そもそも、なぜ世界的に住宅用木材の需要が急増したのだろうか。ウッドショックが起きた原因をより詳しく見ていこう。
2.1. ウッドショックの原因1:米国で住宅購入やリフォームが増加
ウッドショックの発端となったのは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大だ。2020年、リモートワークの増加や、ロックダウンとその解除による反動需要などの影響で、アメリカや中国では住宅需要が急増した。政府が金融緩和を実施し、住宅ローン金利が大幅に下がったことも、住宅購入やリフォームの需要増に拍車をかけた。
経済産業省のレポートによると、米国の住宅建築許可件数は、2015年を基準とした場合、2020年7月には約1.3倍となり、2021年1月には約1.6倍となった。その後やや減少したものの、2021年2月から5月にかけても1.4〜1.5倍の間を推移している。
▽米国における住宅建築許可件数
住宅需要の増加によって、木材価格の高騰が起きた。日本の木材価格の高騰は特に深刻で、住宅建築などで使用される製材の輸入価格は、2021年に入ってから値上がりが顕著になり、5月には2015年を基準とした場合の約1.4倍まで急上昇している。
▽日本 製材価格の推移(2015年=100としての推移比較)
2.2. ウッドショックの原因2:中国での需要増など複合的な要因
米国の住宅需要の増加以外にも、ウッドショックは複合的な要因によって引き起こされた。
ウッドショックが起こる素地のもう一端となったのが、世界一の人口を誇る中国の木材需要の増加だ。中国では経済成長にともない、産業用丸太の消費量が増加傾向にある。しかし、中国国内での生産量は横ばいであり、輸入木材の需要が急増した。産業用丸太の輸入量は、2010年から2019年にかけて約1.7倍に増加している。中国は世界の針葉樹丸太輸入量の44%を占めることからも、世界的な木材需要を押し上げたと考えられる。
▽中国における産業用丸太の消費量と輸入量・国内生産量の推移
また、製材の消費量は産業用丸太以上のスピードで増加している。2010年から2019にかけて、製材の消費量は約2.5倍になり、消費量のうち輸入量は2.4倍になっている。
▽中国における製材の消費量
中国経済はコロナショックからいち早く回復したこともあり、中国の木材需要の伸びがウッドショックに影響を及ぼした可能性がある。
さらに、巣ごもり需要によって世界的にインターネット通販が急増し、コンテナ不足問題が生じた。米国航路(横浜→ロサンゼルス)のコンテナ運賃を見ると、2020年7月頃から急騰していることがわかる。
加えて、荷積み・荷揚げの混雑なども影響し、木材の輸入が困難となり、日本におけるウッドショックが加速することとなった。
▽米国航路(横浜→ロサンゼルス)のコンテナ運賃動向
2.3. 新築戸建の販売・購入に影響
米国に端を発し、複合的な要因で世界に波紋が広がっている、ウッドショック。木材を輸入に頼る日本では新築戸建の販売・購入に影響を与えた。
日本国内の新築戸建住宅売買業は、緊急事態宣言が出された2020年4月に一度大きく落ち込んだものの、2020年8月には大きく回復し、順調に推移していた。2020年全体でみると、前年を上回る水準だった。
しかし、2020年8月以降は、輸入材の価格上昇に足を引っ張られる形で、新築戸建住宅売買業の指数は大きく低下し、2021年に入っても回復に至っていない。
▽新築戸建住宅売買業指数の推移
また、住宅購入者も深刻な影響を受けた。
輸入木材は、木造住宅の柱や梁に多く用いられている。国産の木材は、アメリカ産の木材やヨーロッパ産の木材と比べて強度が弱く、柱や梁には適さない。国産の木材を使うとなると、柱や梁を太くする必要があり、設計自体を見直さなければならなくなる。輸入木材が不足したからといって、すぐに国産の木材に切り替える訳にはいかないのだ。
このような理由から、多くの住宅購入者が工事の遅延やコストの上乗せといったトラブルに見舞われることとなった。
ウッドショックの影響は住宅にとどまらない。ある家具店では、2021年7月から北米産ウォールナットなどの高級木材を使った家具の値上げに踏み切っている。
2.4. 価格高騰が収まりつつある米国、依然として高い水準の日本
ウッドショックの発端となったのは、アメリカにおける住宅需要の増加だ。木材自給率が低く輸入材に頼り切っていた日本は、あおりを受けることとなった。しかし、アメリカでは木材価格の高騰は徐々に収まりを見せつつある。
米業界紙のランダム・レングスが公表した針葉樹製材総合価格の推移を見ると、北米の針葉樹製材総合価格は、2020年4月以降に上昇し、2021年5月第3週には最高値1,514ドルを記録した。その後は下落に転じ、2021年7月末にはウッドショック前の2020年5月と同程度の水準に落ち着いている。
しかし、林野庁の「輸入木材の状況について(2021年12月)」によると、製材・構造用集成材・合板の輸入平均単価は、2021年10月時点でも高い水準で推移している。業界では今後も高止まりの状況が続くことを懸念する声が多い。
▽製材輸入平均単価の推移
3. ウッドショックの国内への影響
続いては、ウッドショックが日本国内に与えた影響と、日本の林業が抱える潜在的な問題について解説していく。
3.1. 木材の供給が遅れ工事に遅延が発生
国土交通省は、中小工務店を対象としてウッドショックの影響を調査した。2021年9月末調査によると、9月時点で過去・現在に工事の遅れが生じたという回答は46%にのぼった。多くの中小工務店で工事の遅れが生じ、住宅購入者にも影響があったことがわかる。
▽中小工務店を対象とした「工事の遅れ」調査
一方、「木材の供給遅延が生じている」という報告は、2021年7月には95%だったが、9月には76%となり、少しずつ供給不足が解消されつつある様子もうかがえる。
3.2. 木材を輸入に頼る日本の課題があらためて浮き彫りに
ウッドショックの直接の原因は、アメリカの住宅需要の急増であることは再三述べた。しかし問題の背景として、中国を中心とした世界的な製材の需要増に加えて、国内の林業が衰退し、輸入材に頼る状況が続いていたことがある。ウッドショックによって、日本の木材自給率の低さが問題としてあらためて顕在化することとなった格好だ。
日本の木材自給率は1960年頃から下がり始め、2002年には18.8%となった。国内で使われる木材の8割超を輸入に頼る形だ。この結果を受け、政府は木材自給率を引き上げる目標を掲げた。政府の後押しもあって、ここ10年にわたって木材自給率は上昇を続けている。
▽木材供給量及び木材自給率の推移
とはいえ、林野庁が公表した2020年の木材自給率は41.8%であり、いまだに6割を輸入に頼る状況が続いている。
また、2019年と2020年を比較すると、燃料材などの非建築用材の国内生産が増加していることがわかる。これは、バイオマス発電が注目され、燃料材としての木材の需要が高まったからだ。木材自給率が上がっているとはいえ、建築用材の国内生産が増えているわけではないことに注意したい。
3.3. 国産木材の増産が難しい理由
ウッドショックによって、国産の木材へのシフトを求める声もある。しかし、国内林業は構造的な問題を抱えており、増産には消極的だ。
日本国内の森林は、戦時中と戦後に回復が追い付かない速度で伐採された。植林に始まり木材を出荷するまでには、数十年単位の時間を要する。伐採された森林はすぐには再生せず、結果として、日本国内の林業は衰退の一途をたどることになった。
森林を再生するためには再造林が必要だが、再造林には多額のコストがかかり、伐採した木材の売却収入では到底コストをまかなうことはできない。
このような現状を踏まえ、国や自治体は、森林や林業に関連するさまざまな補助事業を実施している。補助事業は、税金等を財源として、条件の合う団体や個人に補助金を交付して進めていく。植え付け、下刈り、間伐、木材流通、基盤整備など幅広い補助事業があり、国や自治体が単独で補助するケースもあれば、共同で補助するケースもある。
▽林業における補助事業のイメージ
補助率は事業内容によって変わるが、最大で実際にかかった経費の7割程度が補助されることもある。
しかし、7割程度が補助されたとしても、伐採した木材の売却収入から森林所有者の負担額を差し引いた利益は微々たるものだ。作業システムを導入するなど、効率化によってコストを削減できれば利益が増える可能性もあるが、設備投資への不安もあるだろう。
需要が増したからといって、リスクを背負ってまで増産に転じる旨味はほとんどない。森林所有者が増産に消極的なのも、無理からぬ話といえる。
そもそも国産の木材は、強度の面でアメリカ産やヨーロッパ産に劣るという課題を抱えている。増産したとしても、ウッドショックが収まり輸入木材が再び市場に出回れば、今度は供給過多になるかもしれない。このような懸念もあり、国内事業者は増産を踏みとどまっているのが現状だ。
3.4. ローコスト住宅・建売住宅への影響
住宅メーカーの中でも、特にウッドショックの影響が大きかったのは、ローコスト住宅や建売住宅を販売する会社だ。ローコスト住宅や建売住宅では、販売価格を抑えることが重要視されており、これまで安い輸入木材に頼ってきた。輸入木材への依存度の高さが、ウッドショックの影響を顕著なものにした。
仕入価格が上昇したからといって、価格競争にさらされている以上、すぐに販売価格を上げられるとは限らない。厳しい経営判断を迫られた会社も多かったはずだ。
輸入木材の価格が下がらなければ、今後、ローコスト住宅や建売住宅の価格が上昇する可能性もある。住宅購入希望者は、買い時を慎重に見極めなければならない。
4. ウッドショック後に注文住宅を購入したい人が注意すべき3つのポイント
日本国内におけるウッドショックは、ローコスト住宅や建売住宅の市場に大きなインパクトを与えたが、注文住宅においても例外ではない。これから注文住宅の購入を検討している人は、まだ収束しないウッドショックの影響下での家づくりがどうなるのか、不安もあるだろう。続いては、注文住宅でマイホームを建てたい人が注意したい3つのポイントを説明する。
4.1. 資材調達の遅延による着工の遅延
ウッドショックによって資材の確保が難しい状況が続き、着工の遅れが生じている。子どもの入学時期などにあわせてマイホームを建てたいと考えているなら、早めに動いて着工時期や竣工時期、工事の遅延状況などを確認しておくようにしたい。
注文住宅は間取り、外装設備、内装設備など、決め事も多く、打ち合わせが長引いて着工が遅れるケースもある。せめて資材調達以外のコントロール可能な要素では、着工を遅らせる原因を作らないことも大切だ。
4.2. 木材価格の高騰による予算オーバー
注文住宅では、間取りや仕様などを決めてから見積もりを出す。そのため、木材価格の高騰がダイレクトに住宅購入価格に影響する。ウッドショックの影響で、当初想定していた予算をオーバーしてしまう可能性がある。予算オーバーになれば、広さや設備仕様などをあきらめざるを得なくなるかもしれない。
木材の価格高騰による負担増は住宅価格の数%ほどといわれているが、価格への影響度は木材をどのくらい使用するかによっても変わる。希望する間取りや内装を住宅メーカーに伝え、見積もりをあらためて出してもらったり、木材を別の材料に変更する提案をしてもらったりして、住宅価格への影響を相談してみるのも1つだろう。
木材を別の材料に変更する場合、着工時期や竣工時期にも変更が生じる可能性があるので注意したい。また、木材だけでなく鋼材や合板も値上げが相次いでおり、木材以外の資材価格の値上がりにも注意が必要だ。
4.3. ハウスメーカーによっても状況は異なる
ウッドショックの影響の程度は、輸入木材への依存度によっても変わるため、住宅メーカーごとに状況は異なる。希望する住宅メーカーがある場合、個別に相談して、資材調達状況や工事の遅延状況、コスト増加額の目安などをヒアリングするようにしたい。
5. ウッドショックはいつ終わる?今後の見通し
住宅購入希望者や住宅メーカーで働く人にとって、ウッドショックがいつ終わるかは死活問題だ。続いては、ウッドショックの今後の見通しについて解説する。
5.1. 不透明性が高く2022年も続く公算が高い
アメリカでは針葉樹製材総合価格の高騰が落ち着きを見せ始めてはいるものの、日本国内ではウッドショックがいつ収まるかという目処はたっていない。
ウッドショックの要因の1つとして、コンテナ不足による運賃の高騰があると解説した。2021年12月現在も、世界的なコンテナ不足は一向に収まる気配を見せず、物流網に混乱が生じている。2021年11月には、国連がコンテナ運賃の高騰が2023年までに世界の輸入価格を10.6%押し上げる可能性があるという報告書を公表した。
ウッドショックの今後について断定することはできないが、2022年以降も木材価格の高騰が続く可能性は高い。それどころか、鋼材や合板も値上げが相次ぎ、建築資材全体の価格が高止まりする可能性も指摘されている。住宅購入を検討する人は、鋼材など他の建築資材の値上がりにも影響を受けそうだ。
5.2. 住宅購入希望者は最新情報を入手して行動しよう
いまのところウッドショックが収まる見通しは立っていない。木材価格の高騰によって、住宅購入価格が数百万円単位で上がる可能性もある。先行き不透明な今、慎重に住宅購入を検討したい。ウッドショックが落ち着いてから家づくりをスタートするなど、住宅購入時期そのものを再検討するのも1つの選択肢だ。
住宅購入希望者は、本記事で紹介した情報を参考にしたり、実際に住宅メーカーに問い合わせてみたりして、最新情報の入手に努めてほしい。
まとめ:米国・中国の需要回復が発端のウッドショック。国内経済は引き続き影響を受ける見通し
ウッドショックとは、2021年に起きた世界的な木材不足による木材価格の高騰のことだ。原因の1つは、米国でリモートワークが増えたり住宅ローン金利が大幅に下がったりした影響で、住宅購入やリフォームが増加し木材需要が高まったことだ。また、中国での木材需要の増加や世界的なコンテナ不足など複合的な要素もある。
アメリカの木材価格は正常化しつつあるが、コンテナ不足によるコンテナ運賃の高騰は続いており、日本では2022年も引き続き木材価格が高止まりすると予想されている。注文住宅の購入を検討している人は、着工の遅延、予算オーバー、ハウスメーカーごとの状況の違いなどに留意する必要がありそうだ。
また、住宅市場はさまざまな市場と関連しており、日本経済全体に与える影響も大きい。住宅購入にともない、家具・家電など付随的な消費も発生する。住宅建築では木材や金属製品など多くの材料・製品を使うことから、関連産業は多岐にわたり、経済効果も大きい。
このように、ウッドショックの影響は、住宅市場だけにとどまらない。日本経済全体に与える影響にも、注目しておきたい。