株式投資などで投資タイミングを図るため、チャートを利用しテクニカル分析を行うことがありますが、その際の重要な指標として「移動平均線」があります。
5日移動平均線や13週移動平均線などの「単純移動平均」がポピュラーですが、これ以外にも移動平均線には数多くの種類があり、使いこなすことでテクニカル分析の精度を高めることが期待できます。
本記事では投資パフォーマンスの向上に役立つ移動平均線の基本や種類・見方をわかりやすく解説していきます。
目次
移動平均線を活用した投資手法の強み、弱み
株式などの金融商品を購入する場合、できるだけ安い金額で購入することでリターンを追求することができます。現在の価格が割安か否かを判断するには、移動平均線などを活用したテクニカル分析が効果的です。
テクニカル分析とは?
株式投資では購入する個別銘柄を評価するための分析手法として、財務状況やビジネスモデルの強み・弱みを分析する「ファンダメンタルズ分析」と、移動平均線などのチャート情報をベースに今後の株価動向を予想する「テクニカル分析」の2つがあります。
テクニカル分析は株価を視覚的に把握することができますが、実際のトレードは他の投資家の思惑などが絡むため分析どおりに株価が動かない場合もあります。
テクニカル分析のメリット、デメリット
ファンダメンタルズ分析は、投資先の財務情報に加え、ビジネスモデルを評価するため景気動向やニュースといった周辺情報も解析する必要がありトレードをはじめるまでに時間と労力がかかります。
一方、テクニカル分析は、過去の値動きをチャートで表し、それを解析して売買シグナルを把握します。個別銘柄の情報やビジネスモデルへの知識、景気動向などの評価がなくても分析からある程度の判断材料を見出すことができ、迅速にトレードをはじめることができるメリットがあります。
しかし、あくまでも過去の値動きから将来の動向を予想しているため、事件・事故などの不祥事の発生や、金利変動やビジネスモデルに影響を与える法規制の施行など、ファンダメンタルズの変化に対応することができないデメリットもあります。想定外の値動きとなった場合は変動要因を確認し、必要であれば損切りなど臨機応変に対策を行うようにしましょう。
移動平均線とは?
移動平均線はテクニカル分析で用いられるメジャーな指標のひとつで、過去一定期間の株価の平均値から算出されます。算出する期間を自由に設定することができ、その期間の投資先の株価が値上がりしているのか否かといったトレンドを把握することができます。
▽ローソク足チャートと移動平均線(イメージ)
しかし、多くの投資家が参照する指標のため、時価総額の低い銘柄などは資金力のある投資家などによって意図的に操作され、株価が短期間で乱高下してしまうこともあります。
移動平均線の基本的な知識
移動平均線はテクニカル分析の基本的な指標で、一定期間の株価をベースにチャートとして表示されます。株価の上昇・下降といったトレンドや相場の過熱感などを知ることができます。
移動平均線はこの「一定期間の株価」をどのように計算に用いるかで表されるチャートの性質が変わってきます。
移動平均線の種類
移動平均線には「単純移動平均線」(SMA)のほかに、「加重移動平均線」(WMA)、「指数平滑移動平均線」(EMA)の3種類があり、それぞれ以下のような特徴を持っています。
・単純移動平均線
一定期間の株価を単純に平均した値をつないだ線です。3種類の移動平均線のなかでも最も容易に計算することができる基本的な指標のひとつになります。
・加重移動平均線
単純移動平均線は設定した計算期間のうち最も古い株価と最新の株価を同様に扱って平均を求めますが、実際は直近の株価ほどファンダメンタルズの変化を反映していると考えられます。
そこで計算期間の最新の株価に比重を置いて平均を求めるのが、この加重移動平均線です。単純移動平均線よりも、最新の株価の変動に敏感に反応しやすい移動平均線と捉えるとよいでしょう。
・指数平滑移動平均線 加重移動平均は株価が新しくなるにつれ、線形的に比重が大きくなるように計算されます。一方、この指数平滑移動平均線は、この株価の比重を“指数関数的”に変化させるため、3つの移動平均線のなかで最も直近の株価に影響を受けやすい指標となっており、トレンドの変化をより迅速に把握することができます。
移動平均線の算出方法
移動平均線は株価の終値と計算期間によって求めることができます。例として下表の7日分の株価を用いて単純・加重・指数平滑移動平均線の3種類を求めてみます。
計算期間 | 株価終値 | 単純移動平均 (5日) | 加重移動平均 (5日) | 平滑指数移動平均 (5日) |
---|---|---|---|---|
1日目 | 500円 | ― | ― | ― |
2日目 | 520円 | ― | ― | ― |
3日目 | 550円 | ― | ― | ― |
4日目 | 520円 | ― | ― | ― |
5日目 | 540円 | 526円 | 531円 | 526円 |
6日目 | 580円 | 542円 | 549円 | 544円 |
7日目 | 600円 | 558円 | 569円 | 562円 |
【単純移動平均線】
・5日目の5日単純移動平均
(500円+520円+550円+520円+540円)÷5=526円
・6日目の5日単純移動平均
(520円+550円+520円+540円+580円)÷5=542円
・7日目の5日単純移動平均
(550円+520円+540円+580円+600円)÷5=558円
【加重移動平均線】
加重移動平均では新しい株価ほど、平均値への影響が大きくなるように比重を置いて平均を求めます。以下の例では、最新の株価を5倍、古くなるにつれ4倍、3倍、2倍、1倍に処理してから合計し、最後に1日あたりの平均値を求めるために15で割っています。
・5日目の5日加重移動平均
(500円×1+520円×2+550円×3+520円×4+540円×5)÷15=531円
・6日目の5日加重移動平均
(520円×1+550円×2+520円×3+540円×4+580円×5)÷15=549円
・7日目の5日加重移動平均
(550円×1+520円×2+540円×3+580円×4+600円×5)÷15=569円
【指数平滑移動平均線】
指数平滑移動平均線は、以下の計算式により指数関数的に比重が変化します。この比重の度合いは「平滑定数」によって変化するため、まずこの定数を求める必要があります。
▽n日指数平滑移動平均線の計算式
・1日目の計算
(c1+c2+c3+c4+……+cn)÷n
・2日目以降の計算
前日の指数平滑移動平均+α×(当日終値-前日の指数平滑移動平均)
※c1=当日終値、cn=n-1日前の終値、平滑化定数α=2/(n+1)
・5日目の5日指数平滑移動平均
(500円+520円+550円+520円+540円)÷5=526円
・6日目の5日指数平滑移動平均
526円+(2/5+1)×(580円−526円)=544円
・7日目の5日指数平滑移動平均
544円+(2/5+1)×(600円−544円)=563円
例示した株価の値動きを各移動平均線で表すと、単純移動平均線よりも加重移動平均線と指数平滑移動平均線は値動きが増幅されよりトレンドが把握しやすくなっています。移動平均線をより深く活用するために、その算出方法を把握しておくとよいでしょう。
株式投資における移動平均線の使い方
移動平均線はシンプルながら計算期間の長短や解析方法によってさまざまなトレードに関する情報を知ることができます。移動平均線の種類・仕組みを把握したら、実際の株式投資の売買判断に使用してみることをおすすめします。
「短期」「中期」「長期」を見て判断する
チャート図には株価の計算期間が1日ごとの日足、1週間ごとの週足、1ヵ月ごとの月足などがありますが、移動平均線はチャートの計算期間をどのように設定するかによって使用される移動平均線の期間や、得られる情報の性質が変化します。
たとえば、日足チャートなら5日・25日・75日移動平均線、週足チャートなら13週・26週・52週移動平均線、月足チャートなら12ヵ月・24ヵ月・60ヵ月移動平均線がよく使用されます。
日足の5日移動平均線、週足の13週移動平均線、月足の12ヵ月分移動平均線を「短期線」。日足の25日移動平均線、週足の26週移動平均線、月足の24ヵ月移動平均線を「中期線」。日足の75日移動平均線、週足の52週移動平均線、月足の60ヵ月移動平均線を「長期線」として分類されることもあります。
日足でみると最近の株価は下落傾向だが週足・月足でみると上昇傾向を維持しているというように、チャート図では対象期間が長い足ほど長期的な株価のトレンドを知ることができます。基本的には短期線から長期線までチェックしておき、トレードがスイングトレードやデイトレードでは短期線を用い、中長期の保有を想定しているのであれば中期線・長期線を参照するなどし、自身のスタイルに合わせて活用するとよいでしょう。
支持線(サポートライン)と抵抗線(レジスタンスライン)の使い方
移動平均線は多くの投資家がトレードの参考として利用しています。株価が移動平均線の上にある場合、下落して移動平均線に近づくと底値と判断する投資家が現われはじめ、株価を下支えする支持線としての役割が期待できます。
その反面、株価が移動平均線の下にある場合に、株価が反転・上昇し移動平均線に近づくと、今度は高値と見なされ売却されはじめるため、株価が思うように上がらなくなる抵抗線として機能することになります。
せっかく株価が値上がりしても抵抗線によって上値が抑えられている状態ではトレードによるリターンの期待値が低下しますので、直近数日間の株価が移動平均線に対しどの位置にあるのかを把握してからトレードを行うことが重要です。
ゴールデンクロスとデッドクロスの見方
ゴールデンクロスとデッドクロスは、異なる計算期間の移動平均線を用いた代表的な解析手法で株価に上昇トレンドや下降トレンドが発生しているかを見極めるために使用されています。
ゴールデンクロスは短期線の移動平均線が長期線の移動平均線を下から突き抜けた状態であり、株価に上昇トレンドが生じ、買いのシグナルとして利用されています。
逆にデッドクロスは短期移動平均線が長期移動平均線を上から突き抜けた状態を指し、株価に下降トレンドが生じ、売りのシグナルと見なされています。
相場の流れに沿ったトレードが行えるためリスクが軽減できるメリットがありますが、シグナルの発生までに時間がかかるといったデメリットもあります。
別指標と合わせて移動平均線を使う投資手法
移動平均線は別の指標と組み合わせることでより確度の高い判断を行えるようになります。移動平均線を活用した投資手法でテクニカル分析の精度を高めていきましょう。
移動平均線カイ離率を見て過熱感を判断する
移動平均カイ離率は、設定した移動平均線に対し現在の株価がどれくらい離れているかを示した指標となります。投資先の銘柄が、移動平均線に対しどれくらいのレンジでカイ離するかを知ることで、株価が下限・上限のいずれかに近いかを把握することができます。また、株価は一定以上のカイ離が生じた場合トレンドの転換を示唆することが相場の経験則として知られています。
ローソク足とあわせて判断する売りサイン、買いサイン
ローソク足は取引開始時の株価である始値と終了時株価の終値、取引時間中の最高値と最安値および株価が上昇・下落のいずれで取引が終了したかといった情報で構成されています。
このローソク足の形状と移動平均線のどこで出たかを、売買サインとして用いることができます。例えば、移動平均線に対して、大きく値上がりしたローソク足で上に抜けた場合は株価が上昇する力が強いとされ買いのサインとして判断されます。
また移動平均線を抜けた高値圏で、始値と終値の差が小さい短いローソク足は「コマ」と呼ばれ、投資家に迷いが生じている状態と見なされ株価の下落に注意する必要があります。
このように移動平均線とローソク足のパターンは、売買サインとして用いることができます。
移動平均線はどこから見られるの?
移動平均線の計算は複雑なものではありませんが投資判断に利用するためには膨大なデータ処理量となってしまい負担が大きくなります。投資タイミングを逸しないためにもタイムリーに移動平均線を把握する方法はないでしょうか。
詳細チャートは証券会社で口座開設をすれば見られる
現在は証券会社各社が自社の顧客に対して無料でトレーディングソフトやアプリを提供しており、この中にはチャート解析機能も含まれています。実際にトレードを行わなくとも口座を開設するだけで詳細チャートを確認することができるようになっています。
移動平均線カイ離率、ゴールデンクロス・デッドクロス
詳細チャートで移動平均線を利用することにより「移動平均線カイ離率」や「ゴールデンクロス」、「デッドクロス」などにも派生することができるため、売買サインを見逃さずテクニカル分析の精度を上げることが期待できます。
まとめ:代表的な指標で使い勝手がよい移動平均線を使いこなそう
過去の株価の値動きから算出される移動平均線には単純・加重・指数平滑の3種類と計算期間によって短期・中期・長期に分かれています。
移動平均線の種類と計算期間を使いこなすことによって、長期からごく短期の株価のトレンドを把握することができます。移動平均線は証券会社などが提供しているトレーディングソフトでは簡単に参照することもできるため、使い勝手のよい代表的な指標といえます。
基本的な見方は簡単
最も基本的な移動平均線の見方として、直近の株価が移動平均線に対し上側にあると支持線。反対に下側にあると抵抗線となり、株価の値上がり・値下がりの限度を知ることができ、そのトレードでどの程度の利益を上げることができるかを判断することに役立てることができます。
移動平均線のパターンを覚えることでトレンドが判断できる
移動平均線にはさまざまなパターンがあり、有名なものはゴールデンクロス・デッドクロスで短期移動平均線が長期移動平均線を上から下に抜くか下から上に抜くかで株価に上昇・下降トレンドが生じているかを判断することができます。
移動平均カイ離率やローソク足等、他指標とも合わせて投資判断をすることが重要
直近の株価が移動平均線からどの程度離れているかを示す移動平均カイ離率は、経験則上5~10%程度のカイ離でトレンドの転換点になり、ローソク足はその形状と移動平均線のどの位置で発生したかによって売り買いのシグナルとすることができます。
移動平均線は単独で用いるのではなく、複数の指標と組み合わせて用いることでより高度なテクニカル分析が行えます。移動平均線を使いこなし投資判断の精度を高めていくことが重要です。
文・菊原浩司
(提供:SmallCap ONLINE)