次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回のゲストは、株式会社エニグモ代表取締役社長の須田 将啓氏。世界各国に点在するパーソナルショッパーと呼ばれる出品者達から商品を購入するECサイトとして独自のポジションを築く「BUYMA」を運営。創業以来「”Specialty” Marketplace戦略」にこだわり、価値創造を続けてきた須田氏。上場来、約10年にわたって苦労もありつつ、積み重ねてきた市場創造の世界をうかがった。
(取材・執筆・構成=白石悠(回遊舎))
慶応義塾大学院 コンピュータサイエンス修了後、博報堂の戦略プランナーを経て、2004年にエニグモを創業。 2005年に「BUYMA(バイマ)」を開始。 東証一部に上場。
その後、英語版BUYMAを開始、グローバル事業展開。
世界経済フォーラム(ダボス会議) Young Global Leaders選出。
プライベートでは、水戸市活性化のため起業家支援事業・M-Work設立 。
アマゾンジャングルマラソン、南極トライアスロン、サハラマラソンを完走。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
2012年に上場。上場以降の10年でレディースファッション領域以外が大きく伸長
冨田 まず最初に2012年に上場してから10年弱が経っていますが、上場してからの変化についてお伺いできますか。
須田 一言でいうと、よりBUYMAの拡大にフォーカスしていったというのがあります。以前のBUYMAでは、取り扱う商品の中心がレディースファッションでしたが、上場後に他の領域や市場を開拓していく中で、次第に他の分野も育ってきたのが大きかったと思います。メンズファッションはレディースファッションの半分くらいの規模まで成長しました。家具・インテリアなどを扱うライフスタイルのカテゴリーも急激に伸びています。また、Global BUYMA (英語版のBUYMA)も、当初は苦労していたのですが、昨年ぐらいからようやく軌道に乗った感がありまして、今後の大きな柱の1つにしていきたいなと考えています。さらにモノだけでなく、旅行や体験といった領域にも事業が広がってきています。
Shopify(ショッピファイ)やeBay(イーベイ)の世界的パーソナルショッパーの波にのる
冨田 須田さんとは付き合い長いですが、この10年でめちゃくちゃ広がってらっしゃいますね。特にGlobal BUYMAの伸び率は目を惹きます。対談の前に直近の決算を拝見したのですが、単価は下期で前年比3.6倍、上期で前年比4.1倍、セッション数(特定の期間内にWebサイトに訪問したユーザーの訪問回数)は前年比164%、コンバージョン率(Webサイト訪問者のうち、購入や問い合わせなどそのWebサイトの最終成果に至った件数の割合)は前年比138%と、ものすごいですね。しかも伸びているのは、アメリカ、イタリア、イギリス・・・と消費の大きい地域。いいこと尽くめですね。
須田 Global BUYMAに関しては、まだまだ規模が小さいのですが「やっと当たってきた」という手ごたえを強く感じています。これまでも、少し伸びたりした時期はあったのですが、偶然一つの商品が当たって大きく売上を伸ばすといったファクターもありました。でも、今は戦略がはまって、組織も最適化され、商品ラインナップがニーズにマッチしているという実感があります。やっと狙った通りに色々なことがかみ合った状態になってきており、一番進化を実感できる領域となってきています。
冨田 なるほど。なんか、気持ちいいくらいに戦略がはまった伸び率を示されていますね。市場については、米国の場合Global BUYMAが参入する以前から、ソーシャルショッピングの市場があったのでしょうか。
須田 様々なファッションサイトから良い商品がセレクトされた状態で売られている、キュレーションに近い形のソーシャルショッピングは既にたくさんありました。しかし、BUYMAは独自路線でして、仕入れから買付まで全てを担うようなものは他にはありませんでした。
冨田 そうなると、独自の路線で火がついたら半端ないことが起こる可能性がありますね。
須田 いわゆるパーソナルショッパーが、海外では一般的になっています。ヨーロッパでは、インスタでパーソナルショッパーをやっている人が多くて、彼らにヨーロッパの買い付けを頼むというケースも増えています。彼らがBUYMAに登録してくれることで、アメリカでは世界的のパーソナルショッピングを仲介するプラットフォームになりつつあります。
冨田 そこに、shopify(ショッピファイ)やeBay(イーベイ)などを利用している海外のパーソナルショッパーが登録してくる流れもあるのですか?
須田 はい。そのあたりも取り込む独自のポジションが取れそうです。
BUYMAがラグジュアリ―に強いという認知がグローバルに拡がってきた影響で、ShopifyやeBayで活躍されている優秀なパーソナルショッパーや法人の出品者がどんどんGlobal BUYMAに参入してきているんです。その結果、世界中のラグジュアリーに強いマーケットプレイスとして、今後、独自のポジションがとれていき、市場自体は大きいので面白い展開になるかな、と思っています。
冨田 日本でポジションが取れ、アメリカでもポジションが取れると、その時点で、世界何十カ国ものバイヤーが登録しているわけで、そのビジネスモデル上のネットワーク効果も働きますよね。さらに先ほどのヨーロッパのバイヤーも登録してくるわけで、すごい掛け算が成立しますね。日本、アメリカの次の三カ国目、四カ国目でポジションをとっていくのは、どんどん楽になっていくと考えられます。末恐ろしいモデルが誕生する可能性を秘めていますね。
須田 仰る通りネットワーク効果がすべての力の源泉です。パーソナルショッパーのネットワークが拡がれば拡がるほど、サービスの強度は上がっていきます。過去はバイヤーが日本人中心だったのが、海外のラグジュアリーを仕入れることができる人たちのネットワークができてくると、その商品を日本で売ることもできますし、販売エリアが増えれば増えるほど、好循環を生むことが考えられます。
Amazonや楽天にないラグジュアリーの提供がBUYMAの強み
冨田 Amazonをはじめとする大手E Cサイト離れが進み、パーソナルショッパーの普及が進むグローバルな流れが追い風になったということですね。海外の話をうかがってきましたが、日本の横展開についても一気に増やされていますね。あらためて、現在のBUYMAのコア・コンピタンスはどのようなものだと考えますか?
須田 日常品を早く安く便利に提供するという面では、Amazonや楽天といった大手ECサイトには到底太刀打ちできません。明確な違いとして私が強く認識しているのは、扱うものを「非日常」のものに特化するということです。それを最大限価値化することで、強みを発揮でき、差別化ポイントになると思っています。世界中に散らばった特別ラグジュアリーなものや、そこでしか手に入らない商材を現地の人を介して買うことができるのは、海外のネットワークを持つBUYMAならではの強みです。現地の人に買い付けをしてもらう手間をかけて、海外からわざわざ配達されるのを待つくらい手に入れたいもの、という所有意欲を掻き立てるところにうちの勝ち筋があるのではないでしょうか。家具についても、日本だとなかなか家具をたくさん仕入れられません。海外にはかわいくておしゃれな家具がいっぱいあります。それらの商品を海外在住のパーソナルショッパーが出品することで、BUYMAで買えるところが、アマゾンや楽天にはない強さです。その勝ちパターンを一つでも多く積み重ねたいですね。
冨田 お話を聞いていると、世界のオプショナルツアーを手掛ける事業をしたり、お土産購入代行を手がける会社に出資しているのはBUYMAのコンセプトとどう関係があるのだろうと思っていたのですが、わかりました!一人一人が個性豊かに細分化されていく。つまり、均質化よりも細分化されていくトレンドにのるサービスの提供を目指される一環という理解でよろしいですか?
須田 おっしゃるとおり。非日常なもの、特別なものによりお金と時間をかけていく流れがある。弊社はそこを押さえていきたいということです。
冨田 御社の未来の話についてもお聞きしたいです。「こんな世の中にしていきたい」という具体的なイメージや構想はありますか?
須田 BUYMAに関しては、世界中の特別なモノや体験を安心して購入できる、BUYMAに来れば世界中のそういったものにリーチできる選択肢の自由を提供するのがビジョンです。
購入する人の選択肢を広げるだけでなく、出品する人の選択肢も提供したいです。自分はロサンジェルスに住みたいと思っていたけれど、仕事がなくて実現できなかった人が、パーソナルショッパーになって、それで生活していけて夢も実現できるというのが素敵な世界だと思うのです。購入者・出品者双方からより信頼を得られるようなサービスづくりを心掛けていきます。
須田 BUYMAの他には、エニグモとして、ひっそりとチューニングしながら立ち上げているサービスもあります。地方の飲食店とユーザーをつなぐサービスを考えています。というのも、コロナ禍になって、あらためて馴染みの店のありがたさを再確認したんです。仕事終わりに気心を許せる馴染みの店に行くだけで、日々の生活に潤いが出ますよね。こういう小さな幸せをサポートするようなサービスはぜひ実現させたいです。日常については、近場を楽しむようなサービスを、非日常についてはBUYMAを通じてワールドワイドなラグジュアリ―なモノや体験を提供していく。グローバルとローカルを両方彩っていくような事業展開をしていきたいです。
10年後の社会を見据えて経営戦略を練る
冨田 そうするとなおさら、今回、モノだけでなく、体験・コトといったことに事業を拡張されたという意図も説得力のあるお話でした。
最後に、須田さんが経営者としてどんな意思決定をされているか、経営者として大切にしているものは何か、ぜひお聞きしたいです。
須田 自分にはリアリストとロマンチストの両面があるのですが、そのどちらも経営者としては欠かせないものだと思うので大切にしています。リアリストな側面がもっとも反映されるのは、やはり企業としてのお金の使い方の部分です。業務の効率化や費用対効果については厳密にコントロールするようにしており、それが現在の営業利益率40%超という数字にもつながっていると思います。一方で、企業の経営方針を考える際にはロマンチストな側面が強く出ていると思います。儲けることができれば手段はなんでも良いということではなく、「弊社にしかできないことで社会にインパクトを与えたい」というロマンは変わらず追い続けています。
もうひとつ付け加えるとすると、短期のトレンドに飛びつくのではなく、長期的な視野を持つことも強く心掛けています。サービスについて考える際には、10年後の社会はこうなっているであろうという予測から逆算し、その時に通用するサービスに先行投資しようという意識は常に持っていますね。
冨田 お話を聞いて、須田さんの経営者としての信念をあらためて感じることができました。BUYMAなどのサービスを通じて、人間のウェルビーイングを追求していく姿勢には、頭が下がります。今回はより深くエニグモという会社を知ることができて良かったです。ありがとうございました。
プロフィール
- 氏名
- 須田 将啓(すだ・しょうけい)
- 会社名
- 株式会社エニグモ
- 役職
- 代表取締役CEO