次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回お招きしたのは、CRGホールディングス株式会社代表取締役社長の古澤孝氏。現在は同社および連結子会社7社でCRGグループを形成し、「人」に特化した事業を幅広く展開している。ここでは古澤氏に事業の変遷や現在の強み、さらには思い描く未来構想をお伺いした。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
1973年1月生まれ。茨城県出身。1995年にCRG入社。警備保障サービスを主とした事業を展開し、2001年に取締役就任。2004年よりコールセンター向け人材派遣業を開始。事業成長に大きく貢献したのちに、倉庫内作業・物流向け、IT向けなど派遣先業界を次々に拡大しCRGグループの経営基盤を確立。2016年10月に代表取締役社長へ就任し現職。近年では潜在労働力として期待されているシニア、女性、グローバル人材の活用や、障がいをお持ちの方の雇用機会の創出や処遇の確保を目的としたサービスを展開。コロナ禍での環境の変化を見据えた様々な新規事業の立ち上げにも注力。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
ニーズを事前に察知して事業を変遷
マーケットにアジャストし続けている
冨田:本日はよろしくお願いいたします。御社はコールセンターやオフィスサポート、物流(配送)業務、IT系など、幅広い領域に向けて人材を提供しています。加えて採用支援やBPO、製造請負、障がい者福祉サービスといった、労働市場を舞台にビジネスを展開していますが、今日までの道のりは平坦ではなかったと推測します。まずは、事業の変遷をお聞かせください。
古澤:当社は1993年に現会長の井上(弘氏)が創業した前身となる会社があり、その後に私が合流してから設立した会社が現在は事業を受け継いでいます。当初は茨城県で警備業をしていましたが大きな成長を期待することができず、各人材派遣企業が伸びていた1997年に軽作業を対象に人材事業を始めたことを機に、大きく舵を切りました。警備業とまったく異なるビジネスだと思っていましたが、手配という考え方は同じで、うまく成長の波に乗ることができたと思います。
次に大きく変わったのは、偽装請負などの問題が起きたタイミングです。これにより請負から派遣に業界全体がシフトし始め、我々もこのままだと事業が成り立たないので長期派遣に切り替え、本社も東京都内に移動してホワイトカラーの派遣事業を始めました。当時はコールセンターが注目され全国的に拠点が広がっており、アウトソーサーと呼ばれる業務を請け負う企業も登場するほどで、当社はその人材需要をいち早くキャッチして、ホワイトカラーのコールセンターの派遣に特化して事業を進めたのです。これが躍進を遂げたポイントです。
その後もリハビリ職・介護職・看護職といったメディカル系や接客・販売系や製造派遣など、あらゆる人材派遣に取り組んでいます。最近は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、売り上げが落ち込みましたが、人材事業と別の切り口で新規事業を立ち上げ、新しいCRGホールディングスを作っていこうとしているところです。
冨田:世の中の環境変化に応じて、柔軟に事業の幅を広げてきたことがわかりました。直近の決算資料の事業戦略では「①ヒューマンリソース」「②アウトソーシング」「③テクノロジー」の3つのキーワードが強調されていました。①と②はこれまでの過程から想像できますが、テクノロジーにはどういった可能性があるのでしょうか。
古澤:人材派遣と人材紹介を手掛けるヒューマンリソースは今まで当社が取り組み続け、主軸となる事業に成長し、IPOを実現しました。IPO準備の過程では、大きく成長するためにミドル層以上の優秀な人材を確保するのに苦労したことがあり、近年はCXO・役員、部長・課長など企業で重要なポストを担うミドル・エグゼクティブを紹介する「ハイキャリアエージェントサービス」も提供しています。製造や物流の請負強化に加え、コールセンター従事希望者の教育センターも立ち上げを予定しています。リモート・テレワーク型が可能となるシステムも導入していますので、昨今の働き方改革にも対応した格好です。
また、近年は新型コロナウイルス感染症の影響により、DX促進のため、省人化や効率化に取り組むお客さまが増えました。これに対して当社ではRPA(Robotic Process Automation:仮想知的労働者)やAI OCR(AIを活用したOCR処理)を活用したソリューションを提供し、サブスクリプション型のシステム開発でも支援しています。採用支援サービスでも、さまざまな採用システムと連携し、採用活動に特化したレポートを自動的に作成する「採用見える化クラウド」といった、SaaS(Software as a Service)のサービスの提供も始めるなど、HRテック分野の強化にも努めています。
冨田:人手不足が叫ばれる中、人材を送り続けてサポートする一方で、省人化・効率化は企業にとって重要な課題です。HRテックを通じたソリューションは刺さることだと思います。さらに、優秀な人材を獲得するには採用にも注力する必要があり、その過程を可視化して管理できるツールがあると、心強いでしょう。御社の取り組みは、変化し続ける市場環境にアジャストし続けていると確信することができました。こういった多岐にわたる施策の中、御社全体としてのコアコンピタンスはどこにありますか。
古澤:ヒューマンリソースの領域ではコールセンターなどに専門特化している点でしょう。ただし、新型コロナの影響でアパレルや販売、飲食、旅行関係は人手が浮いた結果、競合他社もコールセンター領域に参入し始めています。我々としては、専門特化したノウハウを活かし、サービス品質を向上させた「ユニット型」の派遣を強化しているところです。これは、管理者1人に対して10~20人のオペレーターや作業スタッフを配置するというもので、管理者が日ごろからスタッフと顔を合わせ、相談に乗ったりできるので離職率の低下につながります。
いずれにしても、本当にニーズに合った事業を創出したい思いで今まで歩んできて、人を軸にして事業を作ることで、より良いサービスができると信じてやってきました。さらに、今まではどちらかというとお客さま目線でしたが、最近は労働者側の目線を持つようにも心がけています。その1つが先に挙げた働き方改革で、具体的には自宅で仕事をすることができるリモートBPO(Business Process Outsourcing:自社業務の外部委託)サービスです。
障がい者福祉とテクノロジーを掛け合わせた「福祉テック」にも着手していて、IT技術を教えることで働き手が増え、企業としても障がい者雇用のルールを満たすことができます。お客さまと働き手の双方が求めるものをマッチングするビジネスをどのように作るかを考えていて、それが他社との違いになっているのです。
スピード感のある経営判断を通じて
次なるステージを目指していく
冨田:SES(System Engineering Service)の領域ではユニット型が主流になっています。これにより経験の浅いエンジニアも開発現場に入ることができ、事業者としてもマネジャーがフォローしながら管理できれば、多くの人材を採用してクライアント先に送り込むことが可能です。単純労働の領域ではある程度のトレーニングをしたまま、戦力にもなるでしょう。
ところが、一定以上のホワイトカラーになるとマネジメントコストが高くなることもあり、IT業界など訓練や知識が必要な業務との相性は良くないようです。ですが御社の場合、管理者を据えてユニット型派遣をすることで現場が回りやすく、一定以上の領域に人材を送ることができるとわかりました。福祉テックにしてもディレクタータイプの人がいることで、通常なら下ろしにくい仕事を任せることもできそうです。裏側でRPAなどHRテックとの組み合わせがあれば、なおさらでしょう。
古澤:ただし、育成は課題でコストがかかり、管理者の採用は難しいのが現状です。そこで当社では教育センターを独自で作り、同所で育てた人材を輩出する試みを始めました。ここでは、一般的な業務請負で受けた仕事を実際に体験しながら管理者を育成しています。
冨田:なるほど。これはユニークなアイデアです。
古澤:ポイントは技術力ではなく、人の管理や育成に軸足を置いて管理者を育てていることです。そうであればコールセンターだけではなく倉庫や工場など、幅広い労働現場にユニット型の派遣ができます。
冨田:経営判断についても、御社の特徴をお聞かせください。
古澤:組織運営には「人・物・金」が必要不可欠と言いますが、私はスピード感がもっとも大切だと痛感しています。上場時はコンプライアンスやガバナンスを重視するあまり経営判断のスピードが上がらず、ここ2~3年それで苦労しました。次のステージに向けて取り組むには、人と時間についてもっと考えないといけません。何か問題が起きてもスピード感があれば解決するのが速く、全員がそれを意識した経営判断を下すことができれば、我々はもっと成長できるはずです。
冨田:コロナ禍で大きく考えが変わったのでしょうか。
古澤:新型コロナウイルスが深刻化したときも、スピード感のある会社は勝ち残っていて、それが当社との違いだったと反省しています。今は時代の変化も早く、ついていかないと生き残る会社になることができないと改めて感じました。
冨田:今日のお話を聞く限りでは、今はそういった時期を乗り越え、新しいチャレンジが始まっていると感じました。事業ラインナップの拡充や顧客ニーズに沿った戦略を打ち出しています。それでは最後に、未来に向けたビジョンや戦略をお聞かせください。
古澤:人材サービス業界で真の勝ち組になるのが、大きな目標です。なかでも、これまで手掛けてきた特化型の派遣は、このまま突き進んでいきたいと思います。私どもが会社を作る中で何がコンセプトかというと、それは「人を大切に」ということです。今は少子高齢化で人手が足りない企業が大半とされる中、主婦やシニア、外国人、障がい者など、なかなかご利用していただけない人材が豊富にいます。これらの方たちの社会進出の支援ができれば、当社の成長や社会貢献にもつながるでしょう。働き方改革を実現して多くの人が働くことできる事業体を目指せば、多くの人に認めていただける企業になると信じています。
冨田:近年は障がい者雇用への取り組みが加速していますが、農園型が目立ちます。御社のようにITを訓練して就労を支援するのは画期的で、働く側も会社に貢献していると思うことができるのは、素晴らしいことです。出産などで一時的に労働から遠ざかった女性が、社会とつながっている感覚が薄れたという不安の言葉を漏らすことがあります。社会に貢献できる、繋がっている感覚を持ちやすいのが会社組織であり、「マズローの欲求5段階説」で示す社会的欲求が満たされやすい場所は、会社組織であることは多いと思います。ところが育児中は家を空けるのが難しく、自宅で仕事ができる仕組みがあると、労働への復帰を後押しする流れに繋がると思います。企業が利用しにくかった人材を力にする取り組みは、生き生きと働くことができる人を増やすと確信しました。御社は今後の日本にとって、なくてはならない会社です。本日はありがとうございました。
プロフィール
- 氏名
- 古澤 孝(ふるさわ・たかし)
- 会社名
- CRGホールディングス株式会社
- 役職
- 代表取締役社長