この記事は2022年1月28日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「NISAとネット取引が後押しする資産形成層の投資拡大」を一部編集し、転載したものです。
投資信託や株式を保有する個人投資家が拡大しているが、その背景には証券投資を行うインフラの改善がある。まず挙げられるのがNISAだ。日本証券業協会「証券投資に関する全国調査」では、金融商品で重視する点として「税金面で有利になる」という回答の比率が2012年の3.7%から2021年に5.9%に上昇した。水準は低いものの着実に増加しており、税制面の魅力があるNISAへの期待は大きい。
NISAの総口座数(一般NISA、つみたてNISAの合計)は、2017年末の1,099万口座から、2021年9月には1,713万口座まで増加した(図表)。牽引役は18年に導入された「つみたてNISA」である。21年9月時点におけるつみたてNISAの口座数は473万口座に達し、その内訳を見ると20歳代と30歳代でそれぞれ95万口座、134万口座である。20歳代と30歳代が全体に占める割合は、それぞれ15.1%、24.5%(いずれも18年12月)から、20.1%、28.4%(同21年9月)まで上昇した。
日証協によれば、証券会社のつみたてNISA口座では、投資未経験者(2017年10月以降に総合口座を開設した個人)の割合が86.2%に達している。投資金額こそ少ないが、資産形成層がつみたてNISAを利用して証券投資を始めている。
つみたてNISAの口座数の増加ペースは、2020年に入って加速した。証券投資に関する全国調査を見ると、投資信託や株式を購入しない理由として「興味がない」という回答が過半数を占めるが、これに次いで「十分な知識をまだ持っていない」という回答が多く、22.2%を占めている。そうしたなか、コロナ禍で在宅勤務が増えて自分の将来設計を見直す機会が増えたことをきっかけに、知識面のハードルを乗り越えてつみたてNISAの利用が広がったと考える。
証券投資のインフラ面で重要なもう1つの動きが、インターネットの普及である。証券投資に関する全国調査では、株式購入のきっかけについて「インターネットで株式投資に関する記事を見て」という回答の比率が、2021年調査で11.5%と、3年前の6.6%から上昇した。特に44歳以下の男性では同比率が28~40%に達している。スマートフォンの定着とさまざまなサービス拡大を受け、ネットを通じて簡単に証券投資に関する情報を収集できるようになった。証券会社も、ネット取引での投信や外国株式の取扱商品を拡大させる、ポイントを投資に結び付けるなど、工夫を凝らしている。
それに伴って重視されるようになったのが、取引手数料の水準である。ネット証券大手のSBI証券と楽天証券は、手数料を積極的に引き下げて口座数を増加させ、大手総合証券の口座数を明確に上回ってきた。今後もこの流れは継続するだろう。
三菱UFJ信託銀行 受託運用部 チーフストラテジスト / 芳賀沼 千里
週刊金融財政事情 2022年2月1日号
(提供:きんざいOnline)