女性管理職割合は欧米、東南アジアの半分以下。女性活躍の現状から見える日本企業と社会の課題
(画像=PIXTA)

ひと昔前、「キャリアウーマン」という言葉が生まれ、男性に負けないくらい企業の第一線でバリバリ働く女性がもてはやされた。しかしこの言葉には、どこか「私生活(家庭)を犠牲にしている女性」というイメージがあった。一方、現代は「仕事か家庭か」ではなく、両者のバランスを取りながら働き続ける女性が少しずつ出てきている。

政府はこの動きを加速させるべく、女性就業、女性活躍を支援しようとする企業や団体を対象に「女性就業支援全国展開事業」を行っている。特に「ハラスメントのない職場づくり」「働く女性のストレス対処」などをテーマとした研修講師の派遣は例年120件ほどに上るという。

本記事では、この政府が実施する女性就業支援全国展開事業から、あらゆる業界・企業の取り組みの実態や今後の展望を探る。特に海外との比較では、日本の女性就業の状況がいかに未成熟かが見えてくる。話を聞いたのは、厚生労働省 雇用機会均等課長 石津克己氏だ。

石津克己(いしづ・かつみ)
お話をお聞きした人:石津克己(いしづ かつみ)
厚生労働省 雇用環境・均等局 雇用機会均等課長。愛媛県出身。1995年、労働省(当時)に入省。厚生労働省では、雇用均等・児童家庭局短時間・在宅労働課課長補佐としてパートタイム労働法の改正に、職業安定局派遣・有期労働対策部企画課課長補佐として非正規労働者対策の取りまとめに関わる。在イギリス日本大使館一等書記官、総務省人事・恩給局(現内閣人事局)調査官、内閣府子ども・子育て本部企画官など他省庁への出向を経て、厚生労働省職業安定局外国人雇用対策課長などを歴任。民間企業(電機メーカー)に出向して営業に従事した経験あり。昨年(2021年)9月から現職。

なぜヨーロッパではM字カーブが解消されているのか

―― 日本の女性活躍の現状についてお聞かせいただけますでしょうか。

日本の女性の就業率をグラフ化すると、「M字カーブ」を描いています。M字カーブとは、20代半ばから後半をピークにして、出産、育児を迎える年齢層で就業率が一旦低下し、40代前半でもう一度上昇するものです。

子育てをしている期間に仕事を中断することで、子育てが落ち着いて復帰したとしても、中断している間のキャリアアップが図れないことにより、管理職になる女性の割合は低くなり、その結果、賃金水準も男性と比べ女性の方が低くなっています。

数十年前に比べれば就業率は上昇していますが、2020年現在も、就業を希望していながらも働いていない女性(就業希望者)は198万人に上ります(総務省「労働力調査」2020年より)。

▽日本の女性の就業率に見られるM字カーブ

▽女性の就業希望者数と求職していない理由

―― 海外と比べたときの女性活躍の状況はいかがでしょうか。

女性管理職の割合14.9%(総務省統計局「平成30年労働力調査」)は、国内で見ると上昇傾向にありますが、フィリピンは52.7%、アメリカは40.7%、スウェーデン38.6%など海外に比べるとまだまだ低水準です。

また、女性の就業率を見てみると、実はM字カーブは、フランスでは2000年頃、オランダでは2008年頃にほぼ解消されているのです。一方の日本は今もM字カーブが残っている。この課題は克服しなければなりません。

▽国別に見る女性の管理職の割合

女性の管理職に占める割合
画像提供:厚生労働省

▽国別に見る女性の就業率

―― フランスやオランダでM字カーブが解消された背景には、どのような取り組みがあったのでしょうか。

働き方の改善に向けた取り組みが日本より早かったということに尽きるでしょう。おそらくどの国も近代以降の工業化による男性中心の働き方はあったと思いますが、それをいかに早く社会課題として議題に挙げ、きちんと改善していけたかの違いだと思います。

具体的な取り組み内容は、法的な子育て支援や保育サービスの整備。それに加えて文化の醸成ですね。我が身を振り返ると非常に申し上げにくいのですが、パートナーとの間で「育児や家事分担をする」という認識を当たり前の文化にしていく。これが現在の日本においてもすごく大事なことです。

女性を支援する人や団体をバックアップする事業

―― 「女性就業支援全国展開事業」の取り組みの背景についてお聞かせください。

女性の職域や就業分野は年々拡大しているものの、本当の意味で男性と女性に機会が平等に与えられ、その機会を自分のものとしているケースは多くはありません。多くの女性が、仕事を続けたり、能力を養い、それを発揮したりすることに関して、様々な困難に直面しています。

そういう世の中で、女性が働く意欲を失うことなく、職業生活を通じて健康を維持増進しながら、能力も伸ばせるような環境を整備することが必要だと考え、厚生労働省は2011(平成23)年度から「女性就業支援全国展開事業」を実施しております。

これは、直接的に働く女性を支援するというより、まずは「女性を支援する人や団体をバックアップすること」をコンセプトにしています。その取り組みの1つとしてWebサイト「女性就業支援バックアップナビ」(https://joseishugyo.mhlw.go.jp/)を運営しています。

▽女性就業支援バックアップナビ

「女性を支援する人や団体をバックアップすること」を続けてきた中で、妊娠や出産という、男性とは違う特性を持っている女性たちが「健康に働ける」ことが女性活躍推進の基盤になること、そのためにはWebサイトでの情報発信が必須であると強く感じるようになりました。そこで、働く女性自身の健康を応援する「働く女性の健康応援サイト」(https://joseishugyo.mhlw.go.jp/health/index.html)を2021年1月に立ち上げました。

▽働く女性の健康応援サイト

「男性の仕事」というイメージが強い業界でも女性の採用は進む

―― 実際に女性活躍を推進している企業の取り組み事例をお聞かせいただけますでしょうか。

情報通信事業の株式会社PHONE APPLIは、「社員みんながいきいきと働きパフォーマンスを最大限に発揮できる」よう、心身の健康維持・増進活動を戦略的に推進しサポートされています。従業員の女性比率は高くはありませんが、コミュニケーションが取りやすいよう工夫しており、相談しやすい職場づくりを推進されているようです。

【参考】働く女性の健康応援サイト>企業取り組み事例 株式会社PHONE APPLI

花王株式会社は、イントラネットを通じた女性の健康に関する情報発信、産業保健スタッフへの直接相談が難しい女性社員も相談できるよう「女性の健康相談窓口」の開設、「女性の健康セミナー」の定期的開催などを通じ、ライフステージに応じた「女性の健康」を職域から支援されています。

【参考】働く女性の相談窓口>企業の取り組み事例 花王 株式会社

取り組みについて「メンバーが病気の治療で長期休業が必要になった際に産業保健スタッフに相談し、適確なアドバイスをいただき、休業前面談や復職前面談により、医療的な見地から必要な就業配慮等の指導・相談できる環境があり心強い」という女性社員の声も挙がっています。

また、これまでは「男性の仕事」というイメージが強かった業界にも、女性採用を増やしている企業はあります。たとえば建設業では国土交通省が「けんせつ小町」というキャッチフレーズで、建設業で働く女性を応援する取り組みを進めています。取り組みの成果か、建設現場で働く女性は徐々に出てきています。やはり女性活躍を推進するためには、前例にとらわれない取り組みが非常に大事なのです。

▽けんせつ小町

女性活躍に関する取り組みは企業の存続における重要事項

―― このような取り組みを行う企業を増やしていくために、厚生労働省ではどのような支援をお考えでしょうか。

女性の活躍が進む企業や業界の共通点は、企業の経営者や人事労務担当者の中に、「偏見なく女性を採用し、能力を伸ばし、発揮していただくことが企業の存続における重要事項である」という認識を持っている企業が多いのだろうと考えています。ですから、この認識をより多くの企業に持っていただき、実際の取り組みにつながる支援をしていきたいと思います。

この度、女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)の改正法が施行されることによって、同法に基づく行動計画策定等が義務となる企業の範囲が拡大されます。これはまさに、より多くの日本企業に「女性の能力を100%引き出すような取り組みをする」という意識を持っていただくための改正です。

具体的には、これまで常用労働者数301人以上の企業に義務化されている行動計画の策定等が、常用労働者数101人以上の企業まで拡大されることになります。法律の施行は本年(2022年)4月1日からです。

【参考】厚生労働省 本年4月1日から改正女性活躍推進法が全面施行されます!―女性が輝く職場づくり―

私たちはこの行動計画策定等に係る対応へのご相談を随時受け付けていますし、本年(2022年)4月からは女性活躍に関する課題の発見、推進への取り組みについて、企業に対してコンサルティング等を行う「民間企業における女性活躍促進事業」を新たに始める予定です。これらの支援サービスを必要な方にご活用いただけるように発信活動も行っていきたいと思います。

―― ありがとうございます。最後に、企業経営者や、働く女性にメッセージをお願いできますでしょうか。

日本国内ではどの業界、どの企業でも、これからさらに目に見えて働き手が減っていきます。そのときに大事なことは、女性に働き続けていただくことや能力を磨いてそれを発揮していただくこと。あるいは今働いていない女性にも仕事の現場に戻ってきていただくことです。

無意識のうちに男性中心の採用、配置、教育、能力開発などをしてしまっていないかを1つひとつの企業で見直していただくことが必要だと思います。そしてその見直しが、すべての日本企業で行われれば、日本でも女性がもっと多く長く働き、能力を持った女性が増えてくると考えています。

そのことを経営者の方にはご認識いただき、女性自身も、日本社会において自分たちの力が必要とされているんだという気持ちで仕事を続け、能力を発揮していただければと思います。

石津克己(いしづ・かつみ)
お話をお聞きした人:石津克己(いしづ かつみ)
厚生労働省 雇用環境・均等局 雇用機会均等課長。愛媛県出身。1995年、労働省(当時)に入省。厚生労働省では、雇用均等・児童家庭局短時間・在宅労働課課長補佐としてパートタイム労働法の改正に、職業安定局派遣・有期労働対策部企画課課長補佐として非正規労働者対策の取りまとめに関わる。在イギリス日本大使館一等書記官、総務省人事・恩給局(現内閣人事局)調査官、内閣府子ども・子育て本部企画官など他省庁への出向を経て、厚生労働省職業安定局外国人雇用対策課長などを歴任。民間企業(電機メーカー)に出向して営業に従事した経験あり。昨年(2021年)9月から現職。