要旨
- 12月短観における今期の収益計画によれば、売上高計画が若干上方修正となった一方で、経常利益については上期大幅上方修正も下期は小幅上方修正。原材料価格高騰に加え、オミクロン株の出現で海外経済の減速懸念が強まっていることが下期の弱気な計画の一因となっていることが推察される。
- 売上高が最大の上方修正となったのが「鉄鋼」であり、それに続くのが「石油・石炭」と素材が目立つ。世界的な需要拡大をきっかけとした価格転嫁の恩恵を受ける「非鉄金属」や「化学」の上方修正も期待される。
- 経常利益計画から業績の大幅上方修正が期待される業種を見ると、製品価格値上げの恩恵を受ける「鉄鋼」「石油石炭」「非鉄金属」、世界的な部品不足の恩恵を受けやすい「電気機械」「業務用機械」に注目。価格高騰に伴い資源関連が好調な商社などの「卸売」でも計画が大幅上方修正されていることに注目。
- 大企業の想定為替レートは、2021年度下期にドル円で108.4円/㌦、ユーロ円で123.8円/ユーロだが、足元のドル円レートは113円台前後。中でも円高気味に今期の為替レートを想定している円安が恩恵になりやすい製造業に注目。
- 今後はオミクロン株の感染状況やコロナワクチン・治療薬の動向、更には各国の政治動向等に伴うリスクオフを通じて為替レートの水準が想定レートを上回る円高方向に進みさえしなければ、こうした今期の為替レートを円高方向に想定している業種に属する企業を中心に、今期業績が修正される可能性があることにも注目。
下期は大企業製造業で減益計画
12月13~14日にかけて公表された12月短観の大企業調査は、11~12月上旬にかけて資本金10億円以上の大企業に対して行った調査であり、先週公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。
そこで本稿では、同調査を用いて、1月下旬から本格化する四半期決算発表で今年度計画の修正が見込まれる業種を予想してみたい。
資料1は、12月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、小幅上方修正になっていることがわかる。
一方、経常利益は21年度上期で大幅上方修正となっている一方で、下期が小幅上方修正にとどまっている。背景には、原材料価格の高騰やオミクロン株に伴う海外経済の減速懸念が影響していることが推察される。特に大企業製造業については、下期の経常利益計画が減益計画のままになっており、今年度下期は製造業を中心に減益に転じる可能性があることには注意が必要だろう。
なお、景気循環を見るうえで重要となる鉱工業と電子部品デバイスの出荷在庫バランス(出荷前年比―在庫前年比)を確認しても、今年9月以降は電子部品デバイスのみならず、鉱工業全体の出荷在庫バランスもマイナスに転じており、景気循環的に回復のモメンタムが勢いを弱めていることがわかる。こうしたことも、大企業製造業で下期の経常利益が減益計画の一因になっている可能性がある。
大幅上方修正の「鉄鋼」「石油石炭」「物品賃貸」「化学」「非鉄金属」
続いて、12月短観の売上高計画を基に、大幅上方修正が見込まれる業種を選定してみたい。資料3は21年度の大企業業種別売上高計画の前年比をまとめたものである。
結果を見ると、21年度は「卸売」「電気・ガス」「鉱・採石・砂利採取」「食料品」を除く全ての業種で増収計画となる中で、最大の上方修正となっているのが製造業の「鉄鋼」で修正率+22.5ptである。それに続くのが「石油・石炭製品」の同+15.3pt、「物品賃貸」の同+5.4pt、「化学」の同+4.6pt、「非鉄金属」の同+3.5ptとなっている。
「鉄鋼」「化学」「非鉄金属」については、世界的な需要の回復を受けて製品の価格転嫁が進んだことが推察される。また「石油・石炭製品」では、海外経済の回復の一方で脱炭素化に伴い化石燃料の増産がしにくくなっていること等により、原油価格が上昇してきたことが上方修正に寄与しているものと推察される。「物品賃貸」については、自動車や建設向けなど産業用機械器具賃貸業の需要が拡大していることが推察される。従って、次の四半期決算においては、こうした業種に関連する企業について売上高計画が注目されよう。
また「生産用機械」では、海外経済の回復やコロナに伴うデジタル化加速などによる世界的な半導体不足等により、半導体製造装置などの生産用機械の需要が拡大していることが推察される。さらに「非鉄金属」や「鉄鋼」は世界的な需要の回復を受けた価格転嫁、「電気機械」も世界的な需要の回復を反映したことが予想される。
利益計画では「鉄鋼」「石油石炭」「非鉄金属」に注目
続いて、12月短観の経常利益計画から大幅上方修正が期待される業種を見通してみよう(資料4)。結果を見ると、新型コロナに対するワクチン普及による経済正常化を期待する「運輸・郵便」「対個人サービス」「飲食サービス」や、世界の鋼材需要の回復を反映した「鉄鋼」や「鉱業」が引き続き黒字転換となっている。こうした中で上方修正が目立つのは、製品価格値上げに伴うマージン改善や在庫評価益の拡大が予想される「鉄鋼」や「石油・石炭製品」「非鉄金属」といった素材産業となる。また「電気機械」や「業務用機械」についても大幅に上方修正されており、世界的な部品不足等が貢献していることが推察される。
このように、今期の経常利益見通しでは、大幅増益が期待される業種として、新型コロナに対するワクチン普及による経済正常化期待の恩恵を受けた原材料価格の高騰に伴う価格転嫁に加え、良好な需給環境が続く製造業、特に素材や機械関連業種の上方修正が期待される。
なお、需給ひっ迫に伴う資源価格の高騰等を反映して、商社などを含む「卸売」の計画が大幅上方修正になっていることにも注目だろう。
為替レートの変動で業績が修正される可能性も
12月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。
資料5にて実際に今年度下期の想定為替レートを確認すると、大企業製造業における事業計画の前提となる想定為替レートはドル円で108.4円/㌦、ユーロ円で123.8円/ユーロとなっている。しかし、足元のドル円レートは113円台である。
中でも、製造業で足元のドル円レートよりも特に円高で今年度下期の為替レートを想定しているのが「生産用機械」の107.5円/㌦、「はん用機械」「造船・重機」の108.0円/㌦となっている。ただ、一部の内需関連や輸入依存度の高い産業では円安でむしろ負担増を強いられる業種もあることに注目すべきだろう。
以上の結果を踏まえれば、今後はオミクロン株の感染状況やコロナワクチン・治療薬の動向、更には各国の政治動向等に伴うリスクオフを通じて為替レートの水準が想定レートを上回る円高方向に進みさえしなければ、こうした今期の為替レートを円高気味に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が修正される可能性があることにも注目すべきだろう。
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣