HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)は、東京五輪・パラリンピックの選手村のマンション転用を中心とする巨大な再開発プロジェクトだ。分譲住宅の販売は、五輪延期を経て2021年秋から再開されており、抽選の平均倍率が8.7倍まで高まるなど人気を集めている。しかし、HARUMI FLAGには特有のウィークポイントもあり、物件の価値をどのように評価するかは、購入検討者にとって悩ましい問題だ。この記事では、HARUMI FLAGの概要や物件のメリット・注意点、そして購入の目安となる年収などについて解説する。

目次

  1. 1. 選手村マンション「HARUMI FLAG」とは?
  2. 2. 選手村マンション「HARUMI FLAG」物件購入の流れ・購入価格は?
  3. 3. 選手村マンション「HARUMI FLAG」物件のメリット
  4. 4. 選手村マンション「HARUMI FLAG」物件購入の注意点
  5. 5. 選手村マンション「HARUMI FLAG」購入の年収の目安は?
  6. まとめ:選手村マンション「HARUMI FLAG」の購入は希望や条件をよく整理し、慎重に

1. 選手村マンション「HARUMI FLAG」とは?

選手村マンション「HARUMI FLAG」検討時の注意点。年収の目安はいくら?
(画像=PIXTA)

はじめに、選手村マンション「HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)」の基本情報を確認したい。

1.1. HARUMI FLAGの概要

HARUMI FLAGとは、2021年に開催された東京五輪・パラリンピックの選手村をマンションとして販売するプロジェクトだ。

▽HARUMI FLAG完成予想図

HARUMI FLAGの場所は東京都中央区の晴海地区で、最寄り駅は都営地下鉄・大江戸線の勝どき駅だ。豊洲新市場とは運河を挟んで向かい合い、眼前にレインボーブリッジが迫る。三方向を海に囲まれた眺望はこのエリアならではで、HARUMI FLAGの大きな魅力だ。

▽HARUMI FLAGのプロジェクト対象エリアと周辺の地図

HARUMI FLAGは、4つのビレッジ(街区)に公共施設(公園・保育施設・小中学校など)や商業施設を有する。官民一体となった巨大再開発プロジェクトで、敷地面積は約18万haにも及ぶ。エリア内の住宅は5,632戸で、約1万2,000人が暮らす街づくりを目指している。

▽HARUMI FLAGの敷地配置完成予想図

HARUMI FLAGの住宅には、分譲住宅と賃貸住宅がある。SEA VILLAGE、SUN VILLAGE、PARK VILLAGEという3つの街区のマンションは分譲住宅で、戸数はHARUMI FLAGの住宅全体の4分の3程度を占める。PORT VILLAGEのマンションのみ賃貸住宅だ。街区ごとの戸数や概要は下表のとおり。

▽HARUMI FLAGの各街区の戸数と概要

街区住宅住戸数概要
SEA VILLAGE分譲686戸・板状棟:地上14~18階、地下1階
SUN VILLAGE分譲1,822戸・板状棟:地上14~18階、地下1階
・タワー棟:地上50階、地下1階
・店舗あり
PARK VILLAGE分譲1,637戸・板状棟:地上14~18階、地下1階
・タワー棟:地上50階、地下1階
・店舗あり
PORT VILLAGE賃貸1,487戸・板状棟:地上15~17階、地下1階
・賃貸住宅にはシニア住宅、シェアハウスを含む
・店舗、保育施設、介護住宅あり
参考:HARUMI FLAG公式サイト

1.2. 選手村マンション「HARUMI FLAG」の住宅販売をめぐる経緯と現状

周知のとおり、東京五輪・パラリンピックは新型コロナの感染拡大の影響で延期され、HARUMI FLAGの住宅販売も影響を受けた。2019年以降の販売開始以降の経緯をふりかえっておこう。

2019年7〜8月に行われた第1期販売は、SEA VILLAGEおよびPARK VILLAGEが対象で、供給された600戸に対し、申し込みは1,543組だった。平均倍率は2.57倍で、なかでも眺望のよい物件が人気を集めたとみられ、最高倍率が70倍を上回った。

だが、東京五輪・パラリンピックが1年延期されることになり、販売は一時休止となる。再開したのは大会終了後の2021年11月で、SEA VILLAGE第2期、SUN VILLAGE第1期(A棟・B棟・C棟・D棟・F棟)の販売が行われた。供給された631戸に対し、申し込みは5,546組だった。平均倍率は約8.7倍、最高倍率は111倍まで高まり、2年前を超える人気ぶりだった。

大会延期の影響は販売の遅れ以外にも出ている。2019年販売分の購入者の一部が、2022年2月現在、売り主を相手取って係争中だ。当初は、選手村から住宅に転用する内装工事を行ったうえで、2023年3月に物件が引き渡される予定だったが、大会延期に伴い引き渡しも1年延びることになったからだ。入居の遅れが見込まれる一部の購入者は、当初の期限どおりの引き渡しや、それがかなわない場合の補償などを求めている。

2. 選手村マンション「HARUMI FLAG」物件購入の流れ・購入価格は?

HARUMI FLAGの販売は、2021年秋から再開された。購入検討者に向けて、購入までの流れをまとめておく。また、HARUMI FLAGの価格・坪単価をもとに、物件価格が割安なのか割高なのかを考えたい。

2.1. HARUMI FLAGの物件購入の流れは?

HARUMI FLAGは、購入までの手続きが一般のマンションとは違うため、流れを把握しておくことが大事だ。

購入検討者がまずやるべきことは、公式サイト上でのエントリー(会員登録)である。エントリーすると、会員限定の情報提供を受けることができたり、モデルルームなどを備えた「HARUMI FLAGパビリオン」の見学予約が可能になったりする。

2022年2月現在、物件に申し込みたい場合はパビリオンの見学が必須だ。パビリオンの見学は完全予約制となっており、初回予約は会員限定サイトから行うことになっている。

【参考】HARUMI FLAG 物件エントリーページ

2.2. HARUMI FLAGはいつ申し込める?

2022年2月現在、次回の販売は2022年3月中旬に予定されている。販売されるのは、SUN VILLAGE第1期2次と、PARK VILLAGE第2期だ。さらに、2022年5月以降、SEA VILLAGE第2期2次の販売も予定されている。

2.3. HARUMI FLAG分譲マンションの購入価格・坪単価は?

HARUMI FLAGの分譲マンションの購入価格は、階数や間取りなどで大きく異なる。2022年3月以降の発売分について、下表にまとめた。

▽2022年3月以降の販売分の間取りや価格帯(2022年2月現在)

区画間取り予定販売価格予定最多販売価格帯
SUN VILLAGE
第1期2次
1LDK~4LDK4,900~10,700万円台6,400万円台
PARK VILLAGE
第2期
1LDK~3LDK6,000万円台~10,400万円台7,900万円台
SEA VILLAGE
第2期2次
2LDK~4LDK未定未定
参考:三井のすまい「物件概要 HARUMI FLAG」

次に、HARUMI FLAGの坪単価について考えてみたい。2021年11月販売分のうち、高級志向のSEA VILLAGE (第2期)でもっとも多く売れた価格帯の物件のひとつ(販売価格8,750万円、専有面積96.21平米)について計算すると、坪単価は約300万円となる。

問題はこの坪単価が安いか高いかだが、これは何と比較するかによる。日本経済新聞では識者のコメントを引用し、(HARUMI FLAGの坪単価は)「白金高輪など一等地に立つ物件と比べお手ごろ」としている。

また、野村不動産ソリューションズが提供する「マンションデータPLUS」によると、HARUMI FLAGからほど近い月島駅周辺のマンション売出相場価格(2021年12月現在)は坪単価400万円程度である。これと比べても約100万円割安になっている。

一方で、駅近の物件と駅から遠いHARUMI FLAGとでは、そもそも比較対象にならないという論点もあるだろう。さらにいうと、東京都全体のマンション売出相場価格は坪単価287万円(2021年12月現在)であり、これと比べると割高感が出てくる。

以上を踏まえると、一等地の相場よりも割安だが、東京全体の相場よりもやや割高というのがHARUMI FLAGの相場感ではないだろうか。

3. 選手村マンション「HARUMI FLAG」物件のメリット

次に、HARUMI FLAGの物件のメリットを見てみよう。ほかのマンションにない、この物件特有の魅力は次のとおりだ。

3.1. HARUMI FLAG物件のメリット1:開放的な眺望が味わえる

三方向を海に囲まれたHARUMI FLAGを選べば、東京に住んでいることを忘れるような開放的な眺望が味わえる。街区や階数によっては、レインボーブリッジを見渡すことも可能だ。

3.2. HARUMI FLAG物件のメリット2:居住空間にゆとりがある

HARUMI FLAGは、東京都心のマンションよりも居住空間にゆとりがあるという魅力もある。さまざまな広さの住戸があるなかで、最多の住戸専有面積帯は85平方メートル台で、東京6区のマンションの平均専有面積より20平方メートル以上広い。

3.3. HARUMI FLAG物件のメリット3:生活に必要な施設がそろう

HARUMI FLAGには、子どもの保育園や小中学校、商業施設、公園など、生活に必要な機能がそろっている。HARUMI FLAGの分譲物件は、これまでの販売における最多価格帯がもっとも安いものでも6,400万円台であり、近隣の教育施設には一定の所得以上の家庭の子が通うというのも、親にとっては安心材料だろう。商業施設は、スーパーマーケットなど生活に身近な店舗が入る延床面積約19,000平米の大型施設のほか、メインストリート沿いの住宅棟1階にも店舗が入る予定だ。

▽商業施設完成予想図

4. 選手村マンション「HARUMI FLAG」物件購入の注意点

HARUMI FLAGには前項のような魅力がある一方、次に挙げるような注意点もある。検討時には注意したい。

4.1. HARUMI FLAG物件の注意点1:最寄り駅まで遠い

これがHARUMI FLAGの一番のウィークポイントだ。最寄り駅の「勝どき駅」まで徒歩約17分もかかる。公式サイトでは、アクセス改善のために新橋や虎ノ門へ直接アクセスできる東京BRT(バス高速輸送システム)を2022年度から本格運用し、街の各所に東京BRTや都営バスの停留所を設けるとしているが、アクセス面で駅近マンションに対して分が悪いことは否めない。

4.2. HARUMI FLAG物件の注意点2:資産価値が下落するリスクがある

HARUMI FLAGはアクセスが悪いため、将来の資産価値が下落するリスクがある。最寄り駅から遠いという理由で、都心マンションや周辺マンションと比べて価格推移で差がついてしまう、あるいは、売買の流動性が悪いといった懸念がある。

4.3. HARUMI FLAG物件の注意点3:購入から引き渡しまでの期間が長い

選手村をマンションに転用するHARUMI FLAGは内装工事が必要なので、購入から引き渡しまでの期間が一般的なマンションよりも長い。たとえば、直近に販売された物件の場合、抽選は2021年11月下旬、入居予定時期は2024年3月下旬となっており、2年4カ月も空いてしまう。

このため、転勤・離婚・子どもの進学などの事情で住めなくなるリスクも考えられる。加えて、引き渡し時点のローン金利が適用されるため、金利上昇の局面では負担が重くなる可能性もある。

5. 選手村マンション「HARUMI FLAG」購入の年収の目安は?

HARUMI FLAGの購入を検討するとき、気になるのは「どのくらいの年収であれば購入(住宅ローン利用)が可能か」という点だろう。年収の目安は、どの物件を選ぶかによって変わる。

2021年11月販売分で、もっとも多く売れた下記2つの価格帯の物件を例に考えてみよう。

・8,700万円台(SEA VILLAGE 第2期)
・5,900万円台(SUN VILLAGE 第1期)

上記をもとに、年収の目安を考えてみよう。無理なく返済できる住宅ローンの目安は、年収の5倍程度といわれる。

仮に、頭金を物件価格の1割入れてローンを組んだ場合、年収の目安(上限)は以下のようになる。

▽購入の年収の目安

物件価格年収の目安
(上限)
計算式
8,700万円1,566万円借入額:8,700万円−870万円=7,830万円
年収目安:7,830万円÷5=1,566万円
5,900万円1,062万円借入額:5,900万円−590万円=5,310万円
年収目安:5310万円÷5=1,062万円
※物件価格とは別に諸費用(物件価格の5%程度)が必要

ただし、以下のような条件にあてはまる人は、年収の目安を厳しめに設定するのが無難だ。

・老後資金が思うように貯まっていない
・これから先、多額の教育資金が必要だ
・勤務先で早期退職などの可能性がある
・マイカーローンの残債がある など

まとめ:選手村マンション「HARUMI FLAG」の購入は希望や条件をよく整理し、慎重に

HARUMI FLAGは、東京五輪・パラリンピックの選手村を活用した巨大再開発プロジェクトだ。分譲住宅の販売は大会延期の影響で一時休止されたが、2021年11月の再開時には購入希望者の抽選が平均倍率8.7倍となるなど人気物件となっている。

HARUMI FRAGのメリットは、開放的な眺望が手に入る、居住空間にゆとりがある、生活に必要な機能が近隣に揃っているといった点だ。しかし、最寄り駅が遠く、その影響で資産価値が下落するリスクがある、購入から引き渡しまでの期間が長いといったデメリットもあるため、物件としての評価が分かれる。

特に、資産価値が下落するリスクについては購入前にじっくり検討しておきたい。わかりやすく言えば、「この眺望が手に入るなら、想定以上に価格が下落しても許容できる」という人には向いているし、「値上がり期待で買いたい」「価格が大幅に下がったら困る」という人には不向きだ。物件購入に関する自身の希望や条件をよく整理したうえで、慎重に判断したい。

著者:本間貴志