この記事は2022年2月24日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「在宅勤務の利用状況から見る郊外や地方移住の可能性」を一部編集し、転載したものです。
要旨
コロナ禍で、東京から郊外や地方への移住が進むのかどうかが注目されてきた。2021年、東京23区から他の都道府県への転出は、初めて転入を上回ったが、実際の転出先は関東の隣接県が多く、地方移住は進んでいない。今後、移住が増えるかどうかを左右する要素の1つが、テレワークの浸透である。
ニッセイ基礎研究所が2021年末に行った調査によると、東京圏では在宅勤務の利用率が半数に上ったが、今後、希望する出社や登校頻度尋ねると、「週0日」の完全リモートを希望する人は1割未満だった。週1日以上は計8割だった。このような結果からは、実際に移住できる人は限定的だと予測される。ただし、企業が在宅勤務をしやすい環境や設備を整備することで、在宅へのニーズはより大きくなる可能性はある。
目次
1 ―― はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大後、働き方やライフスタイルの変化によって、東京都心から郊外や地方への移住が増えるかどうかが注目されてきた。在宅勤務の広がりによって、通勤距離に縛られない人が増えれば、人口密集を避けて、郊外や地方部で、ゆとりのある住まいを選択する人が増えるのではないか、というものである。実際に、住宅購入を検討する人を対象としたアンケートでは、「収納量」や「広いリビング」「部屋数」など、住まいにゆとりや快適さを求める傾向が強まっている(*1)。
コロナ禍以降の人口動態について、総務省の住民基本台帳移動報告を見ると、2021年の1年間で、東京23区への他の道府県からの転入(外国人を含む)は36万5,174人、転出(同)は38万2人で、1万4,828人の転出超過となった(*2)。NHKニュースによると、東京23区が転出超過となったのは、現在の方法で統計を取り始めた2014年以降、初めてだという(*3)。同報告によると、転出先の上位3位は神奈川県7万2,632人、埼玉県63,317人、千葉県5万525人となっており、実際には隣接県への転出が半数を占めている。コロナ禍によって、地方移住が進んだとはいえないが、今後の動向には注目が集まっている。
大企業や大学が東京に集中する状況が変わらなければ、今後、郊外や地方への転出が増えるかどうかの鍵を握る重要な要素の1つは、テレワークがどれぐらい人々の間に浸透、拡大していくかだろう。そこで本稿では、ニッセイ基礎研究所が2021年12月に実施した「第7回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」結果から、在宅勤務や働き方に関する部分を抜粋し、今後の見通しについて検討したい(*4)。
(*1) 株式会社リクルート『住宅購入・建築検討者』調査(2021年)。
(*2) e-Stat (https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00200523&tstat=000000070001)
(*3) NHK「NEWS WEB」2022年1月28日より。
(*4) 第7回調査は2021年12月22~28日、全国の20~74歳の男女を対象にインターネットで実施。有効回答は2,543人。調査時点における消費行動などについて、新型コロナウイルス感染拡大前の2020年1月頃に比べた状況を尋ねた。
2 ―― エリア別にみた在宅勤務の利用率
まず、在宅勤務の利用状況からみていきたい。
調査を行った2021年12月末時点で、就業者(n=1,697)の在宅勤務利用率(全体から「利用していない・該当しない」の比率を引いた値)の全国平均は、38.8%だった(図表 - 1)。エリア別に見ると、東京圏(*5)では48.6%であり、全国平均より約10ポイント高かった。京阪神は37.5%だった。その他の地域では全国平均よりも6ポイント以上低い32.5%となり、エリアごとの差が大きかった。
エリアごとに回答者の属性を見ると、東京圏は、従業員1,000人以上の企業で働く人の割合が31.8%となり、全国の23.6%を約8ポイント上回っていた(図表略)。業務のデジタル化など、在宅勤務の環境整備に投資しやすい大企業の勤務割合が高いことが、利用率に影響したとみられる。
また、業種別で見ると、東京圏は情報通信業が11.1%となり、全国平均の5.3%を約6ポイント上回っていた。情報通信業は、在宅勤務しやすい業務が多いと考えられるため、利用率にも影響したとみられる。
次に、新型コロナウイルスの感染拡大前に比べた在宅勤務の増減についてみると、「増加」「やや増加」の合計は、全国平均は18.5%だった(図表 - 1)。エリア別にみると、東京圏では28.1%、京阪神では16.5%、その他の地域では12.4%だった。東京圏では増加幅が顕著に大きく、コロナ禍以降、企業の間で在宅勤務制度の導入が広がったことを示しているといえる。
因みに、調査を行った2021年12月末時点はオミクロン株の流行前で、コロナの感染状況が比較的落ち着いた時期であり、アフターコロナの利用状況を検討する上でも、参考になると考えられる。
(*5) 東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県。
3 ―― エリア別にみた出社頻度と登校頻度
3 ― 1:出社・登校頻度の実績と希望
職場で在宅勤務制度が導入されていたとしても、実際に郊外や地方へ移住できるかどうかは、在宅勤務の利用頻度によって異なる。たとえば、「在宅勤務に変えても自分の業務遂行には支障がなく、ほぼ毎日在宅勤務を実施している」という人であれば、就業規則に定めが無い限り、自分の好きな土地、好きな物件を選んで住むことができる。しかし、「在宅勤務制度はあるものの、実際には出社しないと作業が困難であり、毎日のように出社している」という人の場合には、職場から遠くに引っ越すことは難しい。
また、単身でなければ移住のハードルは上がる。夫婦共働きの世帯なら、夫婦ともに出社頻度が低くなければ、郊外や地方への移住は難しい。また、子どもが地域の学校や大学へ通学し、対面で授業を受けている場合も、移住はさらに難しくなる。
そこで、上記のニッセイ基礎研究所の調査から、就業者と学生を対象とした、出社と登校頻度に関する回答結果をまとめた(n=1,735)。なお、この調査は20歳代以上を対象としているため、回答者本人の学校の種別は大学や専門学校であり、小中学校や高校等は含まれない。
まず、これまで緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令されていた期間について、実際に出社や登校していた頻度をまとめた結果が図表 - 2である。
全国平均をみると、出社や登校が「週0日」、つまり、ほぼ完全テレワークや完全オンライン受講の割合は10%だった。「週に1~2日」は10.5%、「週に3~4日」は17.3%、「週に5日以上」は半数近い46.5%だった。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令されている期間でさえ、在宅勤務やオンライン授業の制度があっても、ほぼ毎日、出社や登校をしている人が半数近いという結果が分かった。
エリア別にみると、東京圏では「週0日」が16.6%となり、完全テレワークや完全オンライン受講の人が全国平均より約7ポイント高かった。逆に、フル出社・フル登校である「週に5日以上」は38.0%で、全国平均よりも約9ポイント低かった。
京阪神は、全国平均と類似した結果になった。その他の地域では、「週0日」が5.4%、「週に1~2日」は7.7%、「週に3~4日」16.4%で、いずれも全国平均をやや下回った。フル出社・フル登校の「週に5日以上」は53.2%と過半数を占め、全国平均よりも約7ポイント高かった。
次に、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除されている期間について尋ねた結果が図表 - 3である。全国平均をみると、出社や登校が「週0日」の完全テレワーク・完全オンライン受講の割合は4.6%で、発令期間よりも低下していた。「週に1~2日」は9%、「週に3~4日」は17.9%だった。「週に5日以上」は過半数の53.4%となり、発令期間から大きく上昇した。感染状況が落ち着いた途端、出社、登校する人が増えていた。この要因については後で述べる。
エリア別にみると、東京圏の方が、全国平均に比べて出社・登校頻度が低く、その他の地域は高い傾向にあった。
最後に、新型コロナが収束した後の、本人の希望を尋ねた結果が図表4である。全国平均では、出社や登校が「週0日」の完全テレワーク・完全オンライン受講を希望する人は5.3%だった。「週に1~2日」は9.7%、「週に3~4日」は21.3%、「週に5日以上」は48.9%となった。つまり、通勤通学や、職場・大学等の密集による感染リスクが下がれば、完全テレワークや完全オンライン授業を希望する人は1割にも満たず、約半数がフル出社、フル登校を希望していた。
宣言解除期間と同様に、東京圏の方が、全国平均に比べて、希望する出社・登校頻度が低く、その他の地域は高い傾向にあった。
以上のように、コロナ禍収束後においても、週に1日以上の出社・登校を希望する人は、東京圏でも9割以上に上っていた。東京圏での週3日以上出社・登校の希望割合は、合わせて4分の3となった。このような状況であれば、東京から容易に郊外や地方へ移住できる人は一部に留まるだろう(*6)。
もちろん、この設問は、就業者や学生本人に希望を尋ねたものであり、実際に、感染収束後に企業や大学等がどのような判断をするかはまだ予測できない。しかし、在宅勤務制度やオンライン授業を導入するかどうかは企業や学校が決定するとしても、それをどれぐらいの頻度で利用するかは、労働者や学生本人に任されているケースも多いと考えられる。本人の希望の頻度を整理しておくことは、今後の移住の見通しを考える上で、意味があるだろう。
(*6) 株式会社リクルートが2021年8月にインターネット上で実施した地方移住および多拠点居住の考え方についてのアンケート調査によると、東京在住者のうち地方・郊外移住に対して「とても興味がある」と「興味がある」と回答した人は46.6%だった。そのうち「すでに移住先・居住地が確定しており、手続きを進めている」が3.2%、「居住候補の地域を訪れたり、一定期間過ごしてたりしている」が11.8%、「情報収集を進めている」が26.6%だった。
3 ― 2:出社を選択する理由~在宅勤務のデメリット~
それでは、緊急事態宣言中やまん延防止等重点措置の発令中よりも、解除後や、収束後の本人希望では、なぜ出社・登校の頻度が上がるのだろうか。
ニッセイ基礎研究所の上記の調査では、就業者(n=1,697)に仕事に関する不安を尋ねている。それによると、コロナの感染拡大前に比べて「在宅勤務による業務遂行上のストレス(コミュニケーションの取りにくさなど)」が「増加」「やや増加」と回答した人は計11%だった。職場における上司や同僚と仕事の相談や雑談をしたり、出張や営業活動の自粛によって、取引先などとコミュニケ―ションしたりする時間が減ったことで、仕事のしづらさを感じていると考えられる。
また、「在宅勤務環境によるストレス(スペースの狭さやPCのスペックの低さなど)」が「増加」「やや増加」と回答した割合も計10.5%に上った。自宅で落ち着いて仕事をするスペースを確保できない、PCや周辺機器等がそろっていない等の理由で、仕事がスムーズに進まないことなどが考えられる。
ただし、これらのストレス要因に対しては、例えば企業側がサテライトオフィスやシェアオフィスを活用したり、ビジネスチャット等の整備を進めることによって、環境を改善させられる可能性はあるだろう。例えば同調査では、サテライトオフィスやシェアオフィスについて、コロナ禍前に比べて利用が「増加」「やや増加」と回答した割合は、全国平均で4.1%(東京圏4%、京阪神4.5%、その他の地域3.9%)にとどまっており、コロナ禍後の伸びが小さい。企業側が今後、これらの整備を進める余地はあると考えられる。
4 ―― おわりに
本稿で紹介した在宅勤務の利用率や出社・登校頻度は、上述したように、働く人や学生本人に対して、これまでの実績や今後の希望等を尋ねたものであり、企業や大学等が在宅勤務やオンライン授業の制度を継続するかどうかによっても変化し得る。しかし、コロナ収束後における完全在宅勤務や完全オンライン受講を希望する割合が、東京圏ですら1割にも届かないという結果からは、郊外や地方への移住ができる人が、限定的であることを示している。
ただし、3 ― 2で述べたように、企業側が今後、在宅勤務がよりしやすくなるような措置を取るのであれば、在宅勤務に対するニーズが増える可能性があり、住まいの条件が、通勤通学による地理的制約から解放される人が増えるかもしれない。特に年度末は、子どもが学校や保育園・幼稚園を卒業・卒園したり、学年が変わったりする時期でもあり、転居を検討していた家族が実行に移す可能性もある。年度をまたいだ転出入の動向にも、注目する必要がある。
冒頭で述べたように、コロナ禍によって人々のライフスタイルは変化し、住まいに「安心」や「快適さ」といった要素を求める傾向は強まっている。今後は「暮らしやすさ」と「働きやすさ」を両立できる住環境が求められており、郊外や地方移住に対する関心の高さは維持されるだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
坊美生子 (ぼう みおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任
【関連記事 ニッセイ基礎研究所より】
・消費者の考える1年後の行動や働き方の予測
・12月末での3回目のワクチン接種意向 ~2回目まで接種した人でも、副反応の不安やブースター接種の不安は大きい
・コロナ禍における高齢者の活動の変化と健康不安への影響
・年代別に見たコロナ禍の行動・意識の特徴 ~不安・心理編~偏見への不安は高年齢で強い傾向。従来の消費行動への欲求は全年代に広がる~
・年代別に見たコロナ禍の行動・意識の特徴 ~移動手段編(続編)~高齢層はワクチン接種を済ませても公共交通利用に戻らず、20歳代はマイカー利用が大幅増~