本記事は、田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か - 日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックス)の中から一部を抜粋・編集しています
アメリカの構造から得られる〝ヒント〟
いまの日本でベンチャーを起こしても、国内マーケットが伸びないのであれば、投資家は見向きもしないでしょう。加えて既存のメーカーが大きなシェアを持っていますから、これを崩すのも容易ではありません。よほどの素晴らしい発明をしないと難しいでしょう。
例えばどこかの大学のベンチャーが画期的な発明をして、成功しそうだという話は出てくる。こういう例は大学のブランドである程度の信用を得て、技術開発にお金が入ります。こういうパターンがあることはありますが、次々と出ているわけではありません。
先に話したアメリカの、ベンチャーに対する投資ファンドが出資する体制は理に適っていると思います。日本のような銀行中心の金融制度ですと、「担保はどのぐらいありますか」など審査がややこしいのと、土地の値段が上がらないと貸し出しも難しいということになりますから。
それに対してアメリカの場合、ベンチャー投資の専門家が見定めて、「これはいける」と即時判断ができる環境があります。こういうカタチでお金が金融経済から実体経済へと活発に循環している。先ほどから何度も言ってますが、アメリカはそういう部分ではすごく健全な構造を持っています。投資家がリスクを取ってお金が回って、需要を生んで好循環になる。投資先が成功すれば、当然リスクを取った投資家は儲ける。
日本も資本主義である以上、同じ構造であるはずです。しかし経済というものは、とくに国内の需要が萎縮している、つまり経済のパイが大きくなる可能性が望めない場合は、誰もリスクを取ろうとしません。だから、雇用を増やそうともしませんし、イノベーションの推進 ── それに向けての人材確保、機械設備やシステムの導入 ── についても、気後れしてしまいます。そのため、新しく育ってきた人材が新しいことにチャレンジする機会が小さくなってしまいます。
こうなってしまうと民間ではどうしようもない。結局、政府が戦略的に出動していくしか方法はないのです。
会社は〝商品〟だけれども例外がある
アメリカの投資ファンドの儲け方はこんな感じです。
まず上場企業の株をTOBで買い取って非上場にします。そのうえで「物言う株主」など経営に口出しする人たちを排除して、その会社を部門別に切り売りするわけです。買い上げた株の支出はありますが、その何倍かで売れれば倍返しで儲かります。これが投資ファンドの手口です。
先日の東芝ガバナンス問題では、これをやろうとしたのでしょう。「東芝ほどの名門企業でそこまでやるか、冗談じゃない。日本を代表する会社だ」と騒ぎになった。しかも東芝には原子力事業があります。日本の原子力発電は福島第一原子力発電所の事故で大変困難な状況になっていて、東芝はウエスティングハウスを買収して大失敗をしたとはいえ、やはり日本を代表する原子力技術を持っています。航空宇宙技術も持っていますし、防衛産業にも関連があります。このような日本の国家安全保障の根幹に関わる企業を切り売りするとは何事だという話が出ています。『日経新聞』などは、盛んにアメリカの投資ファンドの手口を褒め称えますが、「何を考えてるんだ、会社は商品じゃないぞ」と。
アメリカ的な発想では、会社もいわゆる商品だとは言いますが、そのアメリカでも国家安全保障に関わる話になると、じつは全然違ってくるのです。例えばボーイングやロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマンなどを切り売りするはずはありません。そもそも外資に売るなんてことはあり得ない。そこを『日経新聞』などは取り違えています。彼らはアメリカ型と礼賛しますが、アメリカには国家安全保障という重要な尺度があり、ここに抵触したら一切認めないのです。
それを認めない法律をすぐに作ってしまいます。もしくは昔の法律を引っ張り出してくることもある。さらに大統領令を出すという方法もあります。覇権国ゆえに安全保障に対する意識が強いということもあるでしょう。法律制度が不充分だったら、議会で与野党問わず、すぐ法律を作ってしまうのです。
国家安全保障上、企業を守るという法律がないせいもありますが、ああでもない、こうでもないと時間ばかりかかって、法律が成立しない日本とは対照的です。日本では結局、実質的に外資に「どうぞ、おやりください」みたいなことになってしまう。
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