本記事は、田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か - 日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックス)の中から一部を抜粋・編集しています

国債と金利の関係

米5年債の金利上昇は限られ、当面1ドル=113~118円に
(画像=PIXTA)

国債の金利が上がるのは、国家の信用がないからという話を聞くと思います。これを理解するには、長期的な視点と短期的な視点が必要です。

長期的に国債がどんどん売られるのは、ギリシャ危機のときのギリシャ国債がいい例になります。これはギリシャの政府、あるいは国そのものに信用がおけない、彼らは国債償還などできないに決まっているということで、ギリシャ国債を買う人がいない。売りだけあるという状況です。こうなると需要と供給の関係でギリシャ国債は暴落します。

取引の対象は元本の部分です。要するに元本が本来100円で、100円で取引されればトントンです。それで最初に発行されたときの元本が100円で、金利が2%だとします。この国債の相場というのは変動します。要するに100円だったものが50円にもなるし、200円にもなり得るわけです。ところが支払う利子は発行価格(元本)100円に対する2%(=2円)で同じです。

繰り返しますが、取引されるのは元本の価格です。だから、先のギリシャ国債のように元本価格が暴落していく、例えば100円だったものが50円になるとします。そうしたら元本50円で2円の金利を払わねばなりません。

それで金利が高くなるというわけです。即ち、最初の金利は2%ですが、元本が50円になると、金利は4%になる。

これが信用の少ない国債の金利が上がる仕組みです。国債の利回りはこういうカタチで計算されていくわけです。

恒常的に赤字国債というか、国債を発行しないと政府財政が回らない状況になると、先ほどの例で言うと、今度は元本を10円まで下げて、最初から高い金利20%の国債を発行せざるを得なくなる。20%の金利で借金してしまうと、もう首は回らないという話です。

国債も債券のひとつです。だから、信用度が低いと、その債券を買う人がいません。いたとしても少ない。その場合には債券の値段を下げて発行します。ただ、利子は変わりませんから、金利がドーンと上がるわけです。

だから、ギリシャ危機のときに、ギリシャの発行するユーロ債は金利が数十%になりました。同じユーロ債でも、ドイツが発行するユーロ債は金利が2%くらい。ギリシャが発行したら、金利は数十%。

そんなところに投資をする人はまずいないと思いますが、もしもその債券を買って自分のお金の使用権を手放すなら、よほどの対価がないと嫌だということになります。それで金利が上がるというわけです。

資本主義は借金で回る

一般の人からすると、「借金をする」という言葉に対する抵抗感は強くあると思います。でも、資本主義は借金をすることで回っていくのです。もしも借金ができなかったら、経済は発展しません。

借金は元手です。人間は生きるうえで必要なエネルギーを得るためにモノを食べますが、資本主義経済でいうと「エネルギーを得るためのモノ」にあたるのが借金です。

現実にいま持っている資産だけで生きていこうとしたら、新しいことは何もできません。いま持っている資産は新しいことに使えませんから。

要するに資産を持っていても、将来大いにグレードアップしていこう、より大きなビジネスチャンスを手に入れよう、あるいは子供を育てたい、あるいは家を買ってよりいい暮らしのもとに何かを始めようとか考えると、これには借金が必要です。

企業にしても、いま現在生産しているものだけ、しかもその生産量を増やさなかったら、発展は望めません。だから新しい商品を開発したり、設備投資をやったり、用地を取得したりすることが必要になってきます。ただそれを実現するにもやはり資金調達が必要です。手元にある財産だけ、つまり自己資金だけでやろうとしても、それはたかが知れているわけですから。

そのために株式があり、投資をしてもらう―株式は元本の返済義務はありませんが、株主には配当というカタチで還元します。株式上場するのも、資本主義における企業の資金調達の方法のひとつです。あとは純粋に銀行から借り入れるか、社債を発行するかです。

お金(資金)というものはどこかで余っていて、貸し手はいくらでもいます。お金を持っているだけでは意味がないから、どこかに貸して、利益を還元してもらいたいわけです。

このように借り手と貸し手の利害が一致するから、資本主義ではお金が動いて、パイが大きくなる、即ち成長をしていくわけです。資本主義には、そういう意味で非常にダイナミズムがあるということです。

金融経済拡大の理由

経済には実体経済と金融経済があり、いまは金融経済が大きくなっていると記しましたが、そのきっかけはニクソンショックでした。

それが加速してどんどん膨らむようになったさらなるきっかけは、私の見立てでは、ウィンドウズの登場です。ITによってお金の移動が極めて激しく、速く、大規模になった。いわゆる国境を越えた取引、グローバリゼーションがとくに金融で進んだわけです。

それにより世界中の、実体経済で使われないような余ったお金(余剰資金)が、金融市場、とくに株式市場に行って株価がどんどん上がる。株価が上がればさらに資金が流れ込んでさらに上がっていく。

それから金融市場というのは国債などの証券、預金、株式だけではありません。先物取引(元になる金融商品について、将来売買を行なうことを約束する取引)、オプション取引(将来売買する「権利」を売買する取引)、スワップ取引(将来にわたって発生する利息を「交換」する取引)などからなるデリバティブ取引というものがあります。

デリバティブという言葉の意味は「派生的、副次的」。ですからデリバティブは「金融派生商品」などの訳がされています。

金融商品には損失のリスクがあり、それをなるべく低くしたい投資家がいれば、逆に高いリスクでも許容して、ハイリターンを求める投資家もいます。そこで、金融商品のリスクを低下させたり、リスクを覚悟して高い収益性を追及したりする手法が編み出されたのですが、それがデリバティブ取引です。

デリバティブ取引は投資家のさまざまな要望に応えるため、多様に考案・形成され、リスクヘッジや高効率な資産運用等の手段として幅広く活用されているというわけです。

「経済成長」とは何か - 日本人の給料が25年上がらない理由
田村秀男(たむら ひでお)
産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員。1946年、高知県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒後、日本経済新聞入社。ワシントン特派員、経済部次長・編集委員、米アジア財団(サンフランシスコ)上級フェロー、香港支局長、東京本社編集委員、日本経済研究センター欧米研究会座長(兼任)を経て、2006年に産経新聞社に移籍、現在に至る。主な著書に『日経新聞の真実』(光文社新書)『人民元・ドル・円』(岩波新書)『経済で読む「日・米・中」関係』(扶桑社新書)『検証 米中貿易戦争』(マガジンランド)『日本再興』(ワニブックス)がある。

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