「GRIT(グリット)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。GRITとは「やり抜く力」のことで、人生の成功確率を高めることができる能力として注目を集めている。GRITの強化はビジネスマンの自己研鑽に役立つほか、子供の教育においても非常に効果的だ。また、GRITはシンプルな質問に答えるだけで簡単にスコア化できるため、自分の能力を客観的に把握することもできる。本稿では、GRITとは何か、GRITの測り方、家族でGRITを強くする方法などを解説する。

目次

  1. 1. GRIT(グリット)とは「やり抜く力」
  2. 2. GRITを見える化する「グリット・スケール」
  3. 3. GRITは後天的に強くすることができる
  4. 4. GRITが強い人の4つの特徴
  5. 5. 家族でGRITを強くする方法
  6. まとめ:GRITとは人生における「究極の能力」。成功は才能や知性だけでは決まらない

1. GRIT(グリット)とは「やり抜く力」

成功者の共通点「GRIT(グリット)」とは?スコアの調べ方や強化方法を解説
(画像=PIXTA)

「GRIT(グリット)」とは「やり抜く力」のことだ。GRITという言葉は、以下の4つの英単語の頭文字でできている。

▽GRITを構成する4つの単語
・Guts(度胸):困難なことに立ち向かう
・Resilience(復元力):失敗してもあきらめず粘り強く続ける
・Initiative(自発性):自分で目標を設定する
・Tenacity(執念):最後までやり遂げる

GRIT研究の第一人者は、ペンシルバニア大学の心理学教授であるアンジェラ・ダックワース氏だ。同氏が著した『やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』は、日本をはじめ世界中で翻訳出版されている。

【参考】ダイヤモンド社『やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』

同書では、ビジネスやスポーツ、その他のあらゆることにおいて、GRITが強い人ほど成功確率が高いとされており、GRITは「人生のあらゆる成功を決める究極の能力」と位置付けられている。

1.1. GRITは「情熱」と「粘り強さ」

では、GRITにおける「やり抜く力」とは、具体的にどのような力を指すのだろうか。GRITは「情熱」と「粘り強さ」で構成されている。GRITが強い人は、自分が求めるものをよく理解して情熱を高いレベルで保ち、困難に遭遇しても粘り強く努力できる人だ。

ダックワース氏は、かつて数学教師を務めていたとき、数学的才能がある生徒は必ずしも高い成績を収めているわけではない一方、理解に時間がかかっても努力を惜しまない生徒は成績が伸びていることに気づいた。

その後、成功の心理学について研究を始め、ビジネスやスポーツなどさまざまな業界のトップレベルの人々にインタビュー調査を行ったところ、顕著な功績を出した人には情熱と粘り強さが共通していることを発見したという。

1.2. 成功は才能や知性だけでは決まらない

GRITという概念の大きな特徴は、成功における最大の要因は才能や知性ではないとしていることだ。もちろん、成功にはある程度の才能や知性が必要かもしれないが、GRITという言葉を構成する4つの英単語を見てもわかるように、成功を呼ぶ大きな鍵は精神的な要素や継続性とされている。

ダックワース氏は、米国陸軍士官学校の士官候補生を対象とした調査で、カリキュラムの中でも特に厳しく、脱落者が多い訓練を耐え抜いた人は、GRITが高かったと述べている。また、英単語スペルの正確さを競う大会に出場した少年少女への調査でも、大会を勝ち進んだのはGRITが強い人だという結果が出た。

そしてこれらの調査では、GRITが強い人ほど成功確率が高い一方で、GRITの強さと才能や知性(士官学校の成績や言語知能指数)には相関関係がないということが明らかになっている。つまり、才能や知性があってもGRITが弱ければ成功を勝ち取ることはできないのだ。

ビジネスマンやスポーツ選手の成功を目の当たりにしたとき、多くの人は「あの人は天才だから」といった言葉で片付けてしまいがちだ。しかし、成功は才能など生まれ持った要素だけでは決まらず、成功する者と失敗する者を分けるのは、やり抜く力の有無だということだ。

1.3. GRITは幸福感や健康状態にも影響する

ここまで、成功を勝ち取るためのGRITの重要性について述べてきたが、「人生でもっとも大切なのは成功ではない。幸福こそが人生の価値だ」と考える人もいるだろう。たしかに、成功と幸せは常に一致するとは言い切れない。

しかし、GRITは幸せな人生を送りたい人にとっても注目に値する力だ。ダックワース氏は調査を通じて、GRITの強さは幸福感の高さや健康状態の良さと比例関係にあることを明らかにしている。このことからも、多くの人において、GRITを強めることがいかに有用なことであるかがわかる。

2. GRITを見える化する「グリット・スケール」

しかし、「やり抜く力」という表現は極めて抽象的で、何をもってやり抜く力があるといえるのかは、人によって答えが異なるだろう。GRITが強いか弱いかを定量的に測る方法が欲しいところだ。

そこで活用したいのが、ダックワース氏が開発したグリット・スケールだ。GRITの強さ(グリット・スコア)を簡単に計測することができる。

2.1. グリット・スケール

下記の表がグリット・スケールだ。1番から10番までの文章を読んで、自分に当てはまると思った数字にマルを付けてみよう。当然ながら、自分に嘘をついて回答しては、自分の本当のグリット・スコアを測ることはできない。正直に回答するようにしよう。

▽グリット・スケール

まったく当てはまらないあまり当てはまらないいくらか当てはまるかなり当てはまる非常に当てはまる
1.新しいアイディアやプロジェクトが出てくると、ついそちらに気を取られてしまう。54321
2.私は挫折してもめげない。簡単にはあきらめない。12345
3.目標を設定しても、すぐにべつの目標に乗り換えることが多い。54321
4.私は努力家だ。12345
5.達成まで何ヵ月もかかることに、ずっと集中して取り組むことがなかなかできない。54321
6.いちど始めたことは、必ずやり遂げる。12345
7.興味の対象が毎年のように変わる。54321
8.私は勤勉だ。絶対にあきらめない。12345
9.アイディアやプロジェクトに夢中になっても、すぐに興味を失ってしまったことがある。54321
10.重要な課題を克服するために、挫折を乗り越えた経験がある。12345
引用:アンジェラ・ダックワース『やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』ダイヤモンド社、2016年

各項目について当てはまる数字にマルを付けていき、全10項目の数字を合計して10で割った数字がグリット・スコアとなる。どの質問も5点満点なので、グリット・スコアは最高で5、最低1だ。

2.2. グリット・スコア

自分のグリット・スコアがわかると、全体の中でどれくらいの位置にいるのかを知りたくなるだろう。集団における位置を知るためには、パーセンタイル値(データを値が小さいものから順に並べたとき、最小値から数えて全体の何パーセントに位置するかを表す)を参考にする。

ダックワース氏の調査によると、米国人(成人)のグリット・スコアは、パーセンタイル値が50%で3.8、パーセンタイル値が70%で4.1、パーセンタイル値が90%で4.7だ。たとえば、あなたのグリット・スコアが4.1の場合、米国人の70%よりもGRITが強いことになる。

なお前述のように、GRITは情熱と粘り強さで構成されている。グリット・スケールの10個の質問の奇数質問は情熱に関する質問、偶数質問は粘り強さに関する質問となっている。このため情熱のスコアは奇数質問、粘り強さのスコアは偶数質問の回答数字を合計して5で割ると、求めることができる。

同書では、グリット・スケールを開発した著者自身のスコアも公表されており、全体のスコアは4.6、情熱スコアは4.2、粘り強さスコアは満点の5.0だったという。同氏のスコアのバランスと同様に、研究事例ではほとんどのケースで粘り強さスコアが情熱スコアを上回ったとのことだ。

3. GRITは後天的に強くすることができる

グリット・スケールを試してグリット・スコアが低かった場合、ショックを受けるかもしれない。だが、悲観する必要はない。なぜなら、GRITは後天的に強くすることができるからだ。

3.1. GRITは環境・文化に影響を受ける

GRITの強さは、環境や文化から大きな影響を受けるという特徴がある。簡単に言えば、GRITが強い集団に属していれば、個人のGRITも自然と強くなるということだ。反対に、GRITが弱い集団に属していれば、個人のGRITも弱くなる。人間は環境に強く依存する生き物であり、良くも悪くも環境に適応しているというわけだ。

したがって、手っ取り早くGRITを強くする方法は、GRITが強い集団に身を投じることだ。そこで揉まれるうちに、個人のGRITも強くなる。ダックワース氏も書籍の中で、「『偉大な選手』になるためには、『偉大なチーム』に入るしかない」「まわりの価値観が『自分の信念』に変わる」と述べている。傾聴に値する言葉だろう。

3.2. GRITは年齢とともに強くなる

また同氏は、GRITには「成熟の原則」があると述べている。多くの人において、GRITは年齢とともに強くなるということだ。一生を通じて人格の成長が止まってしまう時期はなく、ほとんどの人は人生経験を重ねるにつれて誠実さ、自信、思いやりなどが増すという。

4. GRITが強い人の4つの特徴

それでは、GRITが強い人にはどのような特徴があるのだろうか。同書によると以下の4つが挙げられる。

(1)興味
(2)練習
(3)目的
(4)希望

これらは、年月とともに(1)から(4)の順に強くなっていくという。

最初の特徴は「興味」だ。自分のやっていることに興味を持って、心から楽しんでこそ情熱が生まれる。次に「練習」だ。ひとつの分野に興味を持ったら、自分の現在のスキルでは達成が難しい目標を達成したくなり、脇目をふらずに練習に打ち込むようになる。

3つめは「目的」だ。人は、目的意識を感じないものに興味を一生持ち続けることは忙しい。興味や情熱を継続的なものにするためにも、目的意識をはっきりもつ必要がある。

最後は「希望」だ。希望は困難に立ち向かうための粘り強さの源だ。希望があるからこそ、挫折や困難にぶつかっても再び立ち上がることができる。

5. 家族でGRITを強くする方法

ここまで、GRITは人生の成功や幸福感を手に入れるために重要な要素であり、さらに後天的に強くすることができる力であることを述べた。GRITの概念を、自己研鑽だけでなく子供の教育にも取り入れたいと考える人もいるだろう。ここからは家族におけるGRIT強化の方法を紹介したい。

5.1. 家族でGRITを強くするための4つのルール

ダックワース氏は、子供を含めて家族全員のGRITを強くする方法を著書で紹介している。同氏が実際に家族で実践したもので、4つのルールが設けられている。

(1)家族全員(子供だけでなく親も)、必ず1つは 「ハードなこと」に挑戦する
(2)条件を満たせば「ハードなこと」をやめてもいい
(3)「ハードなこと」は自分で選ぶ
(4)「ハードなこと」は、最低2年間続けなければならない

GRITを強くするために取り組む「ハードなこと」とは、日常的に練習を要することである。たとえばランニングや筋力トレーニングといったエクササイズでもいいし、バレエやピアノといった習いごとでもいい。もちろん、資格の勉強や読書などビジネスに関することでもいいだろう。

5.2. 家族でGRITを強くするためのポイント

上記の方法を実践するにあたって、いくつかのポイントがある。

まず、「4. GRITが強い人の4つの特徴」において、GRITを強くする最初のきっかけは興味であると述べた。したがって、ハードなことに何を選ぶかを他人任せにしてはいけない。家族で取り組む場合は、親が子供に押し付けないように気をつけたい。本人が興味を持ったものに挑戦することが重要だ。

次に、ハードなことをやめるには、条件がある。「授業料を支払った期間が終わる」「ちょうど◯年が経過する」など、区切りのいい時期まで続けることだ。やる気が出ない、忙しいといった理由で挑戦をやめてはならない。

(4)は、著者の家庭で子供が高校生になったら加えるルールだという。やめていい条件に「最低2年間」という定量的な縛りが加わるのだ。

また、(4)は子供の年齢によるが、基本的に親も子供と同じルールの下でハードなことに挑戦するということもポイントだ。前述のように、個人のGRITは環境や文化から強い影響を受けるものだ。家庭が子供に強い影響を与える環境であることは間違いない。親子がそれぞれに挑戦し、家族という組織のGRITが強くなる中で、子供のGRITもつられて強くなるというわけだ。

まとめ:GRITとは人生における「究極の能力」。成功は才能や知性だけでは決まらない

GRITとは「やり抜く力」のことで、情熱と粘り強さで構成されている。人生において、才能など生まれ持った要素よりも、GRITの強さこそが成功できるかどうかを分けるとされ、「究極の能力」とも表現される。

多くの人は、成功を掴むためには情熱と粘り強さが物をいうということを、自身の経験や世の成功者のエピソードなどを通して、すでに知っているのではないだろうか。GRITは、その暗黙知を心理学や統計学で明らかにしたものだと言えよう。

GRITは、後天的に強くすることができる。手っ取り早い方法としては、GRITが強い集団に身を投じ、そこで揉まれることが望ましい。なぜなら、個人のGRITは環境や文化から強い影響を受けるからだ。

子供のGRITを強くしたいときは、4つのルールに従って家族全員で「ハードなこと」に挑戦し、家族という集団のGRITを強化すると効果的だ。ビジネスなどで成功して素晴らしい人生を歩みたい人、子供の将来のために一生ものの能力を育ててあげたいという人は、GRITに注目したい。

著者:菅野陽平