「早期退職して、自分の好きなように生きたい」と考えたことはないだろうか。お金のために働く生活に早めに区切りをつけたいと望む人は以前から存在したが、近年は「経済的自立と早期退職」を意味するFIRE(ファイア)の概念が広まったことで、より多くの人が関心を寄せている。

FIREで早期退職するには、一定の資産を構築しておく必要がある。資産構築と聞くと難しい印象を受けるかもしれないが、その本質は非常にシンプルな方程式で表され、資産を大幅に増やす必要があるFIREにおいて外せない考え方だ。

本稿では、資産構築の方程式や、FIREで早期退職するための4つの大原則について解説する。また、意外と見落とされがちな早期退職後の注意点にも触れたい。

目次

  1. 1. FIRE(ファイア)とは何か
  2. 2. FIREで早期退職するために知っておきたい方程式
  3. 3. FIREで早期退職するための4つの大原則
  4. 4. FIREで早期退職するための重要キーワード
  5. 5. FIREで早期退職したあとの注意点とは
  6. まとめ:FIREで早期退職するには「資産を構築するための方程式」を活用しよう

1. FIRE(ファイア)とは何か

FIREで早期退職するための4つの大原則と、早期退職後の注意点
(画像=PIXTA)

「FIRE(ファイア)」とは、「Financial Independence, Retire Early」の頭文字を取った言葉だ。それぞれの単語の意味をつなげると、FIREとは「経済的な自立を達成して早期退職すること」と言えるだろう。

▽「FIRE」を構成する単語
・Financial=経済的な
・Independence=独立
・Retire=退職
・Early=早期

1.1. FIREは資産の運用益で経済的自立を目指す

経済的自立とは、ひと言で言えば「お金のために働く必要がない状態」だ。FIREにおいては、自分の価値観に合った生活を送るための生活費を、早期退職までに築いた資産の運用益で賄うことが前提になっている。

たとえば、生活費(年間支出額)が500万円の場合、年利5%で運用し続けることができるなら、1億円の資産があればFIREできる。もし年利10%で運用し続けることができるなら、5,000万円の資産があればいい。

1.2. 資産の運用益は年利4%が目安

「年利何%の運用をし続けることができるか」は、金融市場の動向や投資家のスキルなどによっても異なるが、一般的に年利10%を継続することは難しい。より現実的な数値として、FIREにおいては年利4%を目安とすることが多い。

たとえば、年間支出額が500万円の場合で考えよう。年利4%の運用で500万円の運用益を出すには、500万円÷4%=1億2,500万円の資産を用意できればFIREできる。この年利4%の運用を毎年継続していけば、投資元本を減らさずに生活費を確保できるのだ。

2. FIREで早期退職するために知っておきたい方程式

FIREで早期退職するためには、一定の資産を構築しておく必要がある。実は、資産を構築するための方法、言い換えればお金持ちになる方法は、ある簡単な方程式で表現できることを知っているだろうか。FIREを実現するには、この方程式をよく理解して資産運用を進めることが重要だ。

2.1. 資産を構築するための方程式

資産を構築するための方程式は、以下のとおりだ。

資産=(収入−支出)+(運用金額×利回り)

方程式の変数は、収入、支出、運用金額、利回りの4つだ。このうち運用金額は、資産と言い換えることができる。つまり、貯蓄などである程度の運用金額を用意できるまでは、実質的な変数は収入、支出、利回りの3つとなる。

2.2. 資産を構築するための3つの手段

では、資産を構築するために、具体的にどんな手段があるのだろうか。この方程式をもとに考えると、以下の3つに集約される。

(1)収入を上げる
(2)支出を下げる
(3)利回りを上げる

世の中には資産構築に関するコンテンツが溢れている。書店に行けばノウハウ本が並び、ネットで検索すれば関連記事がずらりと表示される。資産に関するセミナーも、毎日のようにどこかで開催されている。しかし、それらはすべて、上記3つのいずれかに分類されるのだ。

たとえば、ビジネス系のコンテンツであれば、スキルアップによって労働収入が増えることが期待できるため、(1)に分類される。節約や節税に関するコンテンツであれば(2)、有望な株式の見つけ方に関するコンテンツであれば(3)、といった具合だ。

3. FIREで早期退職するための4つの大原則

それでは、資産を構築するための3つの手段を念頭に置いて、FIREで早期退職するための4つの大原則を考えてみよう。なお、これらは同時進行で取り組むべきものだ。便宜上、番号を振ってあるものの、できるものから着手したい。

3.1. FIREで早期退職するための大原則1:労働収入を上げる努力をする

大原則の1つめは、労働収入を上げる努力をすることだ。資産構築の3つの手段のうち、「(1)収入を上げる」に相当する。

収入が支出を上回れば、純利益(収入から税金などすべての費用を引いて、最後に残る純粋な利益)が発生し、それを運用に回すことができる。つまり、収入を上げるとより多くの純利益を確保しやすくなる。

多くの人にとって、収入の柱は労働収入だろう。労働収入を増やすのは簡単なことではないが、日々のスキルアップを続け、タイミングを見て転職をしたりすることで、収入を上げる努力を続けることが重要だ。

3.2. FIREで早期退職するための大原則2:支出(特に非消費支出)を下げる

大原則の2つめは、家計を見直して支出を下げることだ。資産構築の3つの手段のうち、「(2)支出を下げる」に相当する。支出を収入より少なくすることで純利益が発生するため、支出を下げることは純利益の拡大に寄与する。

支出を下げるときに理解しておきたいのは、「消費支出」と「非消費支出」の違いだ。

消費支出とは、個人や家族が生活するために行う支出のことで、一般的に生活費や家計費と呼ばれるものだ。さらに細かく分類すると、食料費、住居費、光熱費、被服費、教育費などに分けることができる。非消費支出とは、所得税などの直接税や、社会保険料など、消費を目的としない支出を指す。

「支出を下げる」と聞くと、まずイメージするのは消費支出を下げることではないだろうか。外食中心から自炊中心に切り替えて食費を抑えたり、スマートフォンの料金プランを見直して通信費を節約したりすることだ。

もちろん、このような消費支出の削減は重要であり、積極的に行いたい。一方、おろそかになりがちなのが、非消費支出の削減だ。

あなたは、年間でいくらの税金や社会保険料を支払っているか、把握しているだろうか。おそらく、この質問に正確に回答できる人はほとんどいないだろう。所得にもよるが、計算してみるとかなり高額の非消費支出を支払っていることに気づくはずだ。

この非消費支出を完全にゼロにすることは難しいが、法律や制度の知識と少しの工夫によって、非消費支出を圧縮できる可能性は十分にある。いわゆる節税と呼ばれるものだ。違法な節税や社会保険料の回避にならないように気をつけながら、非消費支出を圧縮するようにしたい。

3.3. FIREで早期退職するための大原則3:資産運用を始める

大原則の3つめは、資産運用を始めることだ。資産構築の3つの手段のうち、「(3)利回りを上げる」に相当する。

資産運用を行えば、資産を築くスピードが上がる。低金利の普通預金に預けっぱなしのお金も、資産運用に回せば、あなたが寝ているときも遊んでいるときも休まず働き続けてくれる。さらに、どうせ働いてもらうなら、なるべく利回りが高い方法を選びたい。

経済や金融市場の動向を正確に予測することはできないので、確実に利回りを上げる方法はない。しかし、知識やスキルを身につけることによって、利回りが上がる確率を高めることはできる。投資初心者の場合は、まずは少額から運用を始め、慣れたら運用金額を増やしていくといいだろう。

3.4. FIREで早期退職するための大原則4:資産運用に他人資本を活用する

大原則の4つめは、資産運用における他人資本(他人のお金)の活用だ。資産構築の3つの手段のうち、「(3)利回りを上げる」に相当する。

資産を構築するための方程式は、「資産=(収入−支出)+(運用金額×利回り)」であり、運用金額と利回りを掛け算している。これは、運用金額が大きくなればなるほど、利回りを上げる意味合いも大きくなることを意味する。

たとえば運用金額が100万円の場合は、運用利回りが1%変動しても、運用益は1万円変動するだけなので、相対的にはインパクトが小さい。しかし、運用金額が1億円の場合は、運用利回りが1%変動するだけで、運用益は100万円も変動する。

上記の試算から、利回りという変数は、ある程度の運用金額がないと大きな意味をもたないとも言える。そこで活用したいのが、他人資本だ。

他人資本を活用するとは、他人のお金を借りてきて、レバレッジをかけて運用することだ。具体的には、融資を活用した不動産投資、株式の信用取引、FX取引(外国為替証拠金取引)などだ。

たとえば、1,000万円の不動産を購入し、利回り5%で賃貸経営するとしよう。全額を自己資本で投資した場合は、利益は50万円なので、当然ながら利回りは5%だ。

しかし、この不動産投資を自己資本100万円、他人資本(融資)900万円で行った場合、借り入れ返済後の利益が仮に10万円だとしたら、投資元本100万円に対する利回りは10%に跳ね上がる。同じ投資対象であるにもかかわらず、利回りは2倍になるわけだ。

このように、他人資本を活用すると、全額を自己資本で賄うよりも利回りを上げることが可能だ。もちろん、運用が必ず成功するという保証はないが、早期にFIREを実現したい人にとっては資産が増えるスピードが大幅に上がる有効な手段だ。ひとつの選択肢として検討したい。

4. FIREで早期退職するための重要キーワード

ここからは、FIREで早期退職するための2つの重要キーワードを紹介していこう。

4.1. 複利効果

まずは「複利効果」だ。複利効果とは、投資で得た運用益を再び投資することで、利息が利息を生み、資産が雪だるま式に増えていく効果のことだ。たとえば投資信託なら、分配金を受け取らず再投資に回すことで複利効果を得られる。

FIREで早期退職するためには、資産増加のスピードも重要だ。運用益はなるべく消費せず、そのまま運用に再投資したい。

4.2. クロスオーバーポイント

もうひとつのキーワードが「クロスオーバーポイント」だ。FIREにおけるクロスオーバーポイントとは、毎月の運用益が毎月の支出を上回るポイントのことだ。クロスオーバーポイントを通過すると、毎月の支出を毎月の運用益で賄えるようになるため、FIREにかなり近づくことができる。

ただし毎月の支出額は、FIREを目指す段階とFIRE後に理想とする生活とで、必ずしも一致しない。クロスオーバーポイントを上回ったからといって、すぐにFIREできるとは限らないことには注意したい。

しかし、日々の支出を下げて、運用益を再投資して複利効果を高めることで、確実にクロスオーバーポイントに近づいていくだろう。FIREで早期退職を目指す人は、自分がクロスオーバーポイントに到達するのはいつなのか、大体の把握をしておくようにしたい。

5. FIREで早期退職したあとの注意点とは

ここからは、FIREで早期退職したあとの6つの注意点について解説していこう。

5.1. 投資元本が大きく減る可能性がゼロではない

FIRE後は資産の運用益が生活費となる。したがって、投資元本である資産が短期間に大きく減る事態は避けたい。元本が保障されていない投資商品で運用する以上、資産が大きく減る可能性をゼロにすることはできないものの、分散投資を行うことで、一定のリスクヘッジをすることはできる。

分散投資にはさまざまな方法がある。代表的なものは、資産(銘柄)の分散、地域の分散、時間(時期)の分散だ。分散させることで利回りが下がる可能性もあるが、リスクヘッジとして分散投資をどのように取り入れるか、ぜひ検討しておきたい。

5.2. 支出が増えると資産を取り崩すことになる

運用による資産減のリスクには分散投資などで備える一方、FIREによる早期退職後は、支出の増加による資産の取り崩しにも注意したい。保有資産額にもよるが、多くの場合あまり豪遊はできないだろう。

FIRE後は、運用益以上の支出は基本的に想定されていない。このため経済的自立を果たせたとしても、その生活自体は質素になりやすい。支出を運用益以下に抑えた生活になるよう、家計管理に注意が必要だ。

5.3. 生きがいがないと時間を持て余す

FIREで早期退職した場合、それまで仕事に充てていた時間をすべて自由に使えるようになる。最初のうちは、自由を謳歌できるかもしれないが、しばらくすれば、暇で退屈に感じてしまうようになるかもしれない。

FIREは、単に早期退職することではなく、自分らしい生き方の実現を目指すものだ。せっかく手に入った時間を持て余さないよう、現役時代のうちに、FIRE後の生きがいや有意義な時間の使い方について考えておく必要があるだろう。

5.4. インフレになれば生活コストが上がる

FIREで早期退職したあとの人生において、インフレはひとつの危機だ。インフレが起こると生活コストが上昇するため、当初の想定よりもより質素な生活を余儀なくされる可能性がある。

株式や不動産はインフレ局面で値段が上がりやすいため、インフレに強い。このような資産を保有していれば、一定のインフレヘッジにはなるだろう。しかし株や不動産も、必ずしもインフレに連動した値動きをするわけではない。インフレによる生活コストが上昇した場合どう対応するのか、事前に検討しておきたい。

5.5. 病気・事故などで思わぬ出費が必要になることがある

生きている限り、病気や事故などで思わぬ出費を余儀なくされる可能性は常にある。

しかし、FIREに向けて「自分の価値観に合った生活を送るための生活費」を計算するとき、このような突発的な支出を計上していないことが多い。急な出費の発生頻度や金額次第では、FIRE後の生活が破綻してしまう可能性がある。

人生、何が起こるかは誰にもわからない。生活費を計算するときは、突発的な支出に備えた一定の「予備費」を計上しておこう。

5.6. 再就職に不利になる可能性がある

FIREで早期退職すると、その時点でビジネスマンとしてのキャリアの積み重ねが止まってしまう。もし、何かしらの事情で再就職したい場合は、キャリアが止まっていることが不利になるケースがある。

本稿の冒頭で、FIREは「お金のために働く必要がない状態」だと述べた。FIRE後、再就職を有利にするために、キャリアの中断に対する何らかの備えに時間を割くのは本末転倒だが、FIREがキャリアの再開に影響することは事前に認識し、自分なりの対策や見通しを考えておきたい。

まとめ:FIREで早期退職するには「資産を構築するための方程式」を活用しよう

FIREで早期退職するためには、資産を構築するための方程式を理解し、数式に逆らわないように資産運用を進めることが重要だ。その方程式とは、「資産=(収入−支出)+(運用金額×利回り)」であり、ある程度の運用金額を用意できるまでは、実質的な変数は、収入、支出、利回りの3つとなる。

つまり、資産を構築するための具体的な手段は「収入を上げる」「支出を下げる」「利回りを上げる」の3つに集約される。FIREで早期退職するには、これらを同時進行で高めていきたい。

3つの手段を念頭に置くと、労働収入を上げる努力をすること、支出(特に非消費支出)を下げること、資産運用を始めること、そして資産運用に他人資本を活用することが、FIREで早期退職するための大原則と言える。

また、FIREで早期退職したあとは、資産の運用状況、社会の経済状況の変化、自身の健康問題など、思わぬ事態も待っている。FIREを目指す途中には、資産構築だけでなく、これらの注意点にどのように備え、向き合うかも考えておきたい。

著者:菅野陽平